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いずれもセリカさん視点です。


アセル・エレメエヴナ・クシェシンスカヤ

通称セリカ

身長167cm

体重55kg

有名女子士官学校在学中にその才能を買われてコレン(白木の前身)にスカウトされた。白木の研究科の最高責任者で、ヤニーニャの主治医でもある。セリカの研究により白い神を量産することに成功し、黒きものに有効な弾薬の製造も可能になった。

性格はせっかちでおしゃべり。場を盛り上げるムードメーカーで、自身の才能をひけらかすことはしない。遠慮がなく、ぐいぐいと相手のパーソナルスペースに入り込んでくる。明るく気丈にふるまう一方で、時折陰のある表情を見せることもある。


研究科の通常職員の制服


*************


「ヤニーニャちゃん、ゾーヤとの暮らしはどう?」

「楽しいです、とても。毎日充実しています。体調もどこも悪いところはないです」

私に問いかけられた少女はややほおを紅潮させると、弾むような声でそう答えた。彼女の名前はヤニーニャ。ピンク色の髪を持つ、やや内向的な雰囲気を漂わせる女の子だ。彼女はこの「白木」で保護、運用されている対「黒きもの」用の生体兵器。そして私はそんな彼女の健康管理を務める「白木」の研究部門の責任者だ。今日は定期的に行われるヤニーニャちゃんとのカウンセリングの日だ。私はカウンセリングでの第一声はいつも、戦術部門の大尉であり、ヤニーニャちゃんの監視役を務め、彼女と同居しているゾーヤの名前を出す。そうすることで、ヤニーニャちゃんは自分のことを少しずつだけれど、自分のことを話すことができるからだ。ヤニーニャちゃんはゾーヤのことをとても慕っているようで、彼女のゾーヤに対してとる態度から、それは一目瞭然だった。

「そうだね、この間の健康診断の結果を見ても良好そのものだし、最近本当に調子良さそうで安心した~」

私はモニターに表示されたヤニーニャちゃんの健康診断書に目を通した後、向かいの椅子に腰かけるヤニーニャちゃんに目を向けた。「白木」にゾーヤが入隊し、そしてヤニーニャちゃんがゾーヤと暮らすようになってから、ヤニーニャちゃんのメンタルはかなり安定するようになった。以前のヤニーニャちゃんのメンタルは非常に不安定で、今でこそあまり見られないが、自傷行為がかなり目立っていた。

「そういえば、ゾーヤと一緒に昼食を食堂で食べていたよね、あの時のゾーヤのあんな楽しそうな顔、正直初めて見たと思う。本当、貴方たち仲いいね、ゾーヤは監視役だし仲が悪いよりはずっといいけど……なんていうか、家族みたい」

ヤニーニャちゃんは少し足をもぞもぞと動かした。

「そ、そうでしょうか……ゾーヤさんはよく笑いかけてくださいます……ゾーヤさんは本当に、とても優しいです」



「……そう」

以前のゾーヤは笑わなかった。怒ることも、悲しむこともなかった。

しかし、ヤニーニャちゃんに出会い、全てが変わった。

ヤニーニャちゃんが、ゾーヤを変えてしまったのだ。



*************



ゾーヤは士官学校時代の私の同級生だった。そして、有名女子士官学校に入学できたは良いものの、それに燃え尽きて目標を見失い、ぼんやりと生きていた私に目的を与えてくれたのもゾーヤだった。


ゾーヤは入学当初は特に成績も普通で際立っていたわけではなかったけれど、徐々に頭角を現し、あっという間に座学のテストではトップだった私をいとも簡単に抜いてしまった。私は焦った。今まで誰よりも努力をして首席でこの学校に入学し、才女と謳われていた私が、やや最近は不勉強だった面もあったが一番得意としていた座学でぱっと現れた人間に圧倒的な差を付けられて負けてしまったのだ。なによりゾーヤは座学でのみならず、実技においても圧倒的な力を見せ、ついには学校生徒代表の地位にまで昇りつめた。一方で私の成績は徐々に降下し、中堅レベルにまで落ちてしまった。

初めての敗北感、焦燥感に打樋しがられる一方で、私は不思議とゾーヤに強く惹かれた。それは、どんな栄光を手にしようとも、一切喜ぶこともなければ笑うことも、泣くこともないゾーヤのあの横顔が頭から離れなかったからだ。できることならその横顔をずっと見ていたいと、気づけばそう思っていた。ゾーヤの隣に立って、ゾーヤのあの横顔を見るために私は再び猛勉強を始めた。その結果努力は実り、私は校内テストで常に2位を維持することができた。それでも2位であることは悔しかったけれど、こうすることでようやくゾーヤの隣に立てる、そう思うと何もかもどうでもよいと思えたのだ。


「ねえ、ゾーヤ」

「なんだ」

ゾーヤは本のページをめくりながら返事をした。どうやら兵法書を読んでいるようだ。学校最後の授業も終わり、この2人部屋の寮で過ごせる時間も残りわずかだというのにゾーヤは相変わらず戦うことについて考えているようである。ゾーヤは二段ベッドの下段のベッドに足を組んで腰かけたまま微動だにしない。そして視線は相変わらず本に落としたままだ。

「ちょっと失礼なんじゃないー!人と話すときは顔を見て話すべきでしょ!」

「読書している人に話しかける人間もどうかと思うが」

眉一つ動かすことなく、ゾーヤはそう言うと再度本のページをめくった。

「それもそうですねーー……あのさ、ゾーヤは卒業したら陸軍にいくんでしょ?」

ゾーヤはベッドから立ち上がるとようやく私の顔を見てくれた。

「そうだ。お前はコレンにスカウトされたんだそうだな。元気でやれよ」

ゾーヤはそうとだけ言うと、私に背を向け髪を縛り始めた。

「な……卒業式は明日でしょ!?な、なに今からサヨナラするみたいになっているの!?ひどい!」

ゾーヤは髪を縛り終えると、こちらに振り向き、意味が分からないといったような顔をして顔を傾げた。私はゾーヤに見せつけるようにため息をつく。

「相変わらずそういうのわからないままなんだね。この学校にいる間にすこーーーしは人の心っていうものが分かるかと思ったんだけどな」

私は椅子の背もたれに顎を乗せ、ベッドの中に入るゾーヤを見ていた。

「私は別にこれで不便していないから、このままでいい。おやすみ」

「ええーー!?もう寝るの!?この部屋で過ごす最後の夜だよ!?なんで寝ちゃうの!!」

ゾーヤは目をこすりながらベットから起き上がると、ベッドの上で胡坐をかいた。

「むしろなぜ起きている必要がある?セリカの質問はいつも本当に意味が分からない。遅くまで起きていては明日の卒業式に支障をきたす虞があるだろう。なぜリスクを冒す選択肢を選ぶんだ。あと、うるさくしていると隣に迷惑をかけるから大声を出すのはやめろ」

「うるさいルームメイトで悪かったですね…………」

私はすっかり気分を悪くし、そっぽを向いた。本当はこんなことを言いたかったんじゃない。ゾーヤと初めて出会い、話すようになってから私は何度後悔したことだろう。明日はきっと言える、伝えられると信じて朝を迎えた日は幾度あったのだろうか。でも、もうそんな日々は終わってしまう。賭ける明日はもうないのだ……

「ね……ねえ。ゾーヤにとっては学校生活は楽しかった……?私は……さ、楽しかったよ、ゾーヤといられて」

私は椅子をくるりと回し、ゾーヤに背を向けた。胸のあたりが苦しい。ゾーヤは黙っている。こういう、本当に聞きたい回答のときだけゾーヤはあえてすぐには答えずもったいぶるのだから、本当に嫌気がさす。わざとなのかどうかはわからないけれど……でもそんなところも好きだった。

「良かったな」

ゾーヤのたった一言にびくりとしてしまう。ゾーヤはそんな私を気にかけることもなく言葉を続けた。

「そうだな。私の学校生活も充実していたと言える。よい教師に会えて良かった。授業も為になるものが多かった。以上だ」

どうしてわかりきっていた答えに私は期待していたのだろうか?

「そっか!ああもう私も寝ようかな!おやすみゾーヤ!」

「ああ、おやすみ」

私は勢いに任せて椅子から立ち上がると、ゾーヤの顔を見ずに二段ベッドの階段を上り、ベッドの中にもぐりこんだ。泣きそうになるのを私は必死でこらえる。不毛な恋だった。



*************


なんでこう、昔のことを思い出してしまうのかな。



「何この数値……」

再度、身体検査の結果に目を通す。どの結果も普通の人間とは思えない高いレベルの数値を出している。私は焦る気持ちを抑えてゾーヤの血液検査の結果の資料を手に取った。そしてその結果を見て背筋が凍った。反射的にヤニーニャちゃんの血液検査の結果の資料をファイルから取り出す。手は震えていた為、ファイルから資料を取り出すことに難儀した。ゾーヤの血液検査の資料、そしてヤニーニャちゃんの血液検査の資料を何度も見比べた。わかっている。頭では分かっている。ゾーヤの血液検査の数値を見た時から気付いてしまっていた。けれどそれを認めたくはなかった。

誰もいないしんとした研究室で私の資料を漁る慌ただしいタイピング音だけが響き渡っている。夢なら覚めて欲しい。お願い神様、私の好きな人を取らないで。置いていかないで。また一人にしないで……



……



「ヤニーニちゃんとゾーヤってさ、なんか家族みたいだよね」

ゾーヤはキョトンとした顔をして手洗い台に手を差し出した。センサーがゾーヤの手を感知し、蛇口から水が流れ落ちる。

「家族?」

「そう、家族!だってヤニーニャちゃん、あんなに貴女に懐いて、すごいかわいい。いつも一緒にいるし、微笑ましいっていうか」

「そうだな、家族と言ってもおかしくはないかもな」

ゾーヤは手を洗い終えると、ドライタオルに手を当てた。温風の出る音がけたたましく鳴る。私はそんなゾーヤを背に、鏡に顔を近づけるとファンデーションとリップクリームを塗り直した。温風の出る音が消えると同時にゾーヤに話しかけようとして、ゾーヤの方に振り向いた。そのとき目に映ったゾーヤの顔は今まで見たことがない表情をしていた。柔らかくて、優しい、そんな横顔。

私がいつも見ていた横顔と違う表情だった。その違和感が苦しくて私はゾーヤに、言おうと思っていたことを言えなかった。

私たちはそのあと何も話すことなく、化粧室を出た。



……



「どうした、急に呼び出して」

そう言いながらゾーヤは私の個人研究室に入ってきた。私はゾーヤに背を向けたまま。ゾーヤの顔を見る勇気がなかった。

「私……ゾーヤとヤニーニャちゃんが家族みたいだねって言ったじゃん」

「藪から棒になんだ」

ゾーヤの声は落ち着いていた。

「検査の結果なんだけどさ」

私の声は震えていた。

「やはり、そういう結果が出たか」

ゾーヤは至って冷静でそれが至極腹立だしかった。

「大丈夫、まだ私しかこの検査結果を知らない。上に提出するときは偽装したデータを送っておくよ」

「何がしたいんだ?お前は」

ゾーヤの歩み寄る音がする。カツン、カツン、ゾーヤのヒールが床を叩く無機質な音がリズムを刻む。気づけば私はゾーヤに掴みかかっていた。

「ゾーヤとヤニーニャちゃん、家族みたいだねって言ったけどさ!恋人になれなんて……言ってないよ……」

最初こそは威勢がよかった声も最後になるにつれてしぼんでいった。ゾーヤは黙っていた。その沈黙が、私の質問に対して肯定の意味を表しているのは明白だった。

「そうだ。ヤナは私の恋人だ」

「自分のしていることわかっているの!?」

私は再度ゾーヤの胸に掴みかかった。手が震えてあまり力が入らない。それにゾーヤと私は身長差が大きい。身長が180cm近いゾーヤの胸元を掴むだけで腕が辛い。でもゾーヤの高い身長も好きなところだった。こういう余計なことを考えないと、冷静になれなかった。

「ゾーヤのしていることは犯罪だよ。しかも重罪。未成年の子供と性交渉、あまつさえその相手は「白い神」なんて……下手したら「白木」に居られなくなるよ。それにこんなこと前例がないから、人体にどんな影響が出るかわからない……ゾーヤは死んじゃうかもしれない……」

私はずるずるとゾーヤの足元にしゃがみ込んだ。

「どうしてゾーヤはさ、普通を選ばないの?どうしてゾーヤはいつもいつも!そうやって私の遠くへ行くの?!……どうして私を選んでくれないの……」

ゾーヤもしゃがみ込んだ。私は気づけば泣いていた。

「士官学校のダンスパーティーのパートナー探しの時もそう、「白木」じゃなくて陸軍へ戻った時もそう、なんで、私でいいじゃん。なんでヤニーニャちゃんなの」

「セリカ……」

伸ばしてきたゾーヤの手を私は払い退けた。

「ごめん……違うの……もういい……ごめん……ごめんね……こんなの八つ当たりだよね……」



私はずっとその場で泣きじゃくっていた。ゾーヤはそんな私のことを見つめていた。優しい瞳で。昔はしなかった眼差しで。

ヤニーニャちゃんと出会ってゾーヤは変わった。心を手に入れてしまった。もうあの頃には戻らない。私がずっと何年もしたかったことを、ヤニーニャちゃんは成し遂げてしまった。私がしたかったのに。

私がゾーヤに恋を教えたかったのに。

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