商業漫画のノベライズを書いてみよう① (Pixiv Fanbox)
Content
お世話になっております。
表題の通りです。SSを書いてみる練習です。
この練習には以下3点の目的があります。
【建前目標】橘ロミ先生の苦労を知るため
【本音目標】確定申告からの現実逃避(延長されたので4/15までにはやります)
【最終目標】10P短編のネタを考える
このために参考文献を2冊買いましたが、練習前の比較をするため今回は何も情報を入れずに、自分の考え方で既に公開してる本編のノベライズをしてみようと思います。
開始から13P(小説のネタ提供をする約束)までです。
本編の漫画はこちら:https://sai-zen-sen.jp/comics/twi4/oshiyuri/
見返してみると、1~4Pで出会いとお互いと立場の説明、5P~8Pがキャラの深堀、9・10Pが設定の説明、11~13Pはジュリのダメさがあらわになって、二人の関係が確立した感じですね。
自分で分析するの恥ずかしいですが、これも現実逃避とネタの為です。
ではさっそく書いてみよう!まずやってみよう!
作業時間は5時間ぐらい。
【同級生の推し作家に百合妄想がバレた結果】_初稿
これまでの人生で一番言葉につっかえたかもしれない。
「私は百合だとか、そういう、目で、先生の作品を見ているわけではありませんよ」
「それは嘘だね。君は間違いなく、私の作品をそういう目で見てくれているよ、自信を持ってほしいな」
何をもってして自信にしろというのだろう。気が遠くなった。
世界で一番嫌われたくないひとに、誰にも知られたくない恥部を露見してしまった。
胸の痛みに追い打ちをかけるように鼓動が早くなっていく。神さま、私はそんなに悪いことをしたでしょうか?わざわざ目前に顕現して悪事を暴かれるほどに?
西園寺ジュリは4月にこの女子校に編入してきたごく一般的な学生である。趣味はお菓子作りと読書だし、少し周りと違うところと言えば、先日までイギリスにいたのでバイリンガルであることぐらい。全くもってどこにでもいる高校二年生である。
日本の春の気候が気に入ったので、その日は静かな中庭のベンチでお気に入りの本を開いていた。
幼稚舎からエスカレーター式の学校だが、途中編入した私にも皆優しく接してくれる。とはいえ外部から来た異物である私とは違い、周りは全員幼馴染なので、びっくりするほど距離が近い。大変喜ばしい。級友同士の関係が良いことを微笑ましく思うことに、やましい気持ちなどあるはずがない。そんな感情の沸き起こるはずもない。発想すら起きないはずだ。そもそも昨今のメディアはちょっと同性同士の距離が近いと…
やめよう。一般的な女学生として必要のない所へ思考が飛躍している。時間の無駄だ。この時間は、大好きな本を読むために…この世界だけに集中する。
橘ロミの学園探偵シリーズはいわゆるイヤミスだ。後味が悪くて読んだ後に気持ちが重くなり、心臓に引っかき傷をつけられるような嫌な気持ちになる。しかしその成熟した文体と美しく重なるように構築された心理描写、知性が溢れる展開とは裏腹に専門用語を使わない丁寧で癖のない言葉選びに惚れ惚れする。この作品に傷つけられるのが好きで好きで、何度も読み返してしまう。
素人が作品に優劣をつけるべきではないのは重々承知しているが、個人的な好みとして、今現在の私の世界でいちばん好きな作品だ。読み返すたびにいろんな発見があって楽しいし、何よりも出てくる女の子たちの掛け合いが魅力的だ。
少し離れたところから女学生たちの声がした。そろそろ昼休みが終わる予鈴が鳴る頃合いだと気づき、制服の内ポケットに本をしまい、教室に戻るために踏み出した足が、盛大に滑った。
「大丈夫?」
転んだ相手を心配して手を差し伸べる。春先の中庭で風が演出的に吹いて、ふわふわした黒髪がなびいた。無表情ながら行動も声のニュアンスも間違いなく心優しい女の子だ。状況がそう見せているのだろう、必要以上に美形に見えた。シチュエーションとして申し分ない。
王道の百合が始まってしまう。逃げよう。
脳内がパニックだった。ありがとうとも言えない。親のしつけはよかったはずなのに、私としたことが不測の事態に「失礼します!」と叫ぶことが精一杯だった。
「何か落としたよ」
彼女が何か言ったような気がしたけれど、そこで振り向いてはいけない。なぜなら風が吹いている場所で女の子同士が見つめ合ったが最後、百合が始まる決まりになっているからだ。世界はそうやってできている。私は詳しいんだ。
よし、大丈夫だ。ときめいていない。それにしても綺麗な女の子だった。ただでさえ「百合」が咲きやすい土壌である女子校であんなシチュエーション、私でなければたちまちめくるめく恋に落ちてしまうところである。
私、西園寺ジュリは女の子同士の恋を描いた百合作品が大好きなのだ。あんなシチュエーションは幾度も見てきた。もちろんこの嗜好は友人どころか家族にも秘密にしている。あらぬ誤解を与えてしまうから。
そんな私の心のオアシスこそが幼馴染同士のクラスメイトがあ~んをしている光景と橘ロミの小説である。彼女たちが仲良くしているだけで心が満たされるし、この秘める気持ちのもやもやを言語化してくれたような文章に癒されている。とくに物語中盤、書籍で言うところのこのページあたり…!
「ない」
内ポケットにしまったはずの本の小口を撫でようとしたら、私の世界で一番好きな小説が跡形もなく消えていた。
「何か落としたよ」
この学園ではそう言って本を拾えば笑顔でありがとう、と言って受け取る、気持ちのいい生徒が大半だ。
たまに多感な時期ならではの自意識が芽生えて不良っぽい子もいるにはいるが、ほとんどは育ちが良く互いを尊重し合う生徒が多い。幼稚舎や初等部からの在学生は特にそうで、捻くれた見方をすれば、一貫校特有の摩擦を嫌う事なかれ主義が根強い。
だからこそ皆孤独にならぬよう、処世術として互いに親切にしあう、学生同士に独特な距離感のある学校であった。
(彼女にはそれを感じなかったな…)
立花ひろみは初等部からの在学生である。
親元を離れて暮らしている女子寮に戻り、拾い物の本を何の気なしに開くと、なんだかとても親しみ深い文章だ。そういえば1年前にこの場面を書いたが、今ならもっと面白くできる気がする。ぱらぱらと読み進め、奥付を見ると初版本だった。デビュー作の初版などそんなに部数を刷ってくれなかったはずだ。
「熱心なんだな」
そう思ったのはそれだけが原因ではないが、来週発売の新刊の献本が入った段ボールを開きながら続けて独りごちた。
「この続き、サイン入れてプレゼントしようかな…」
学園内で読者を見かけたのは初めてだったので、無表情ながら少しだけ浮かれていた。ファンは大事にしなくてはいけない。新進気鋭の現役高校生作家・橘ロミは、編集から言われた言葉を律儀に守っている。
立花ひろみは西園寺ジュリの世界で一番好きな作家、橘ロミである。
クラスメイトのお友達に特徴を伝えたところ、隣のクラスの立花ひろみさんという人ではないかと教えてもらった。いてもたってもいられず、同じ女子寮に住む彼女の部屋のドアをノックすると、すぐに対応してくれた。愛嬌ある癖毛が特徴的な黒髪の優しい目をした美しい人だ。間違いない。わざわざ取りに来てくれて…などと甲斐甲斐しいことを言ってくれている。絶対にいい人だ。しかし、パニック状態がぶり返している私の口をついて出た言葉は、「例のブツ、あなたがお持ちですか?」だったので、初手を完全に失敗した。
立花さんは無表情ながら柔らかい雰囲気の人で、快く部屋に招き入れて見覚えのあるブックカバーがかけられた本を手渡してくれた。ありがとうございます、と謝意を表しながらも、本の中身を見たのかどうか気が気でないので、乾く喉を唾で潤してから、落ち着いて、聞いてみよう、いいんだ、きっと普通の人は興味がないだろうし…
「あとこれもしよかったら来週発売の新刊」
何でもなさそうに取り出してきたのは、つい先週で公開された書影の本だった。
「あと書店別特典の小冊子、サインとかいる?」
気が付いたとき、同級生の立花ひろみさんは、目を開けたまま気絶したのは3秒ぐらいだったよ、と親切に教えてくれた。
私の愛してやまない、何度も何度も読み返しては気持ちをかき乱され、胸を心を目頭を熱くさせられた文章を書いた神様は同じ学校の同級生で、偶然にも私の落とした著書を拾ってくださって、来週発売の新刊と書店特典をくれた。
なんだびっくりした、夢ですね、わかりました。
そういえば最近編入手続きや各教科のカリキュラムを参照して教科書を読みこんだりして寝不足だったかもしれない。湯船にもあまり浸かっていなかったし、こんな欲望まみれの夢をリアルに見るなんて確実に病んでいる。健康な精神は健康な習慣がつくるものだ、食堂で美味しいものを食べて早めに寝よう。
「こういう環境で昔からいるからさ、女子同士の普通の距離感がわからなくて」
今日の夢はかなり長編だ。寝坊していないだろうかと心配になってきた。
「なるほど、それで先生の作品の女子は距離が近いんですね」
けれど、たとえ夢であろうと私にとっては神さまだ。コミュニケーションをとらないなんて不作法はできない。
「そのせいでファンには百合作品に見えるみたいでね」
出されたコーヒーを吹き出してしまった。そんな私の不作法には気にも留めずに「そこで読者の君に質問なんだけど」と橘先生は続けた。
「百合…って何だろう?」
「哲学の話…ですか?」
百合とは何か。
私の神さまはSNS学級会で炎上でもするつもりなんだろうか。
「女性同士の深い友情や恋愛の話という用語の意味は知っているんだ、でも作者の意図しない所でその読者が凄く深く読み取ってくれているのを見てね」
オタクの世界ではいわゆる「稀によくある」光景である。カップリングに萌えを見出す輩など大半はそれだ。
「私の意図してない設定がファンの間で共有されていたりするんだ、興味深いよね」
ファンとしては絶対に「こちら側」の影響を受けないで欲しい。しかし橘先生の好奇心をそそるらしく、是非読んでくれる人が喜ぶツボを知りたいらしい。
私はそろそろ観念して目の前のことが現実であることを受け入れ始めていた。先程先生が入れてくれたコーヒーが気管に入りひとしきりせき込んで痛い思いをしたおかげである。神さまは残酷だ。私を正気に戻してくれた。
だからこそ全力でとぼけた。これまでの人生で一番言葉につっかえたかもしれない。
「私は百合だとか、そういう、目で、先生の作品を見ているわけではありませんよ」
「それは嘘だね。君は間違いなく、私の作品をそういう目で見てくれているよ」
動かぬ証拠だと言わんばかりに、先程返してもらった本を開かれた。
「こんなに見事な痕跡本見たことないよ」
世界で一番嫌われたくないひとに、誰にも知られたくない恥部を露見してしまった。
胸の痛みに追い打ちをかけるように鼓動が早くなっていく。神さま、私はそんなに悪いことをしたでしょうか?わざわざ目前に顕現して悪事を暴かれるほどに?
「歪曲せず無理のない考察、それでいてリビドーにブレーキを掛けない。意地でもキャラクター同士をくっつけたがるその執拗な根性、もっと自信を持ってほしいな」
皮肉とは思えないほどキラキラした表情で神さまは言った。
矮小な人間はもう突っ伏して泣き寝入りするしかないので、「腹を切って詫びるほかない…」だの、「どれだけの贖いをすれば…」だのひとしきり落ち込んだが、目の前にいるのは同級生の女の子なのでもうどうしようもなかった。そうだ。そもそも作者に読者からこういう展開がツボです!だとか口出しするのは出しゃばり過ぎだ。
私は彼女のベッドから起きて、少し冷たいとは思いながらも自分の本ともらった新刊を抱きしめて、
「…ファンの方々は先生自身が書いた作品の中に自分なりの楽しみを見つけているのですから、一ファンの意見なんて」
参考になさらないでください、と続けるつもりであったが、立花さんはそのゆったりとした落ち着いた声で少し唸ってから、
「教えてくれたら、君の好きな子同士の短編を書くよ」
「なんでもしますわ!」
即降参した。えげつないワンサイドゲームだった。
【つづく】
本編の続きはこちらです:https://sai-zen-sen.jp/comics/twi4/oshiyuri/0014.html
今の私が5時間で書ける文章は原作ありで4500文字弱でした。ロミ先生はこれをもとのお話なしで1万字一日でできるらしいので化け物ですね。
楽しかった点:漫画では描いてない細かい設定とか書けた。ジュリちゃんの気持ちの理解が文字にすることでより深まった。
気をつけた点:ノベライズ化するため、漫画とは違う描写や順番を入れ替えたり台詞を少し変えたりした。
難しかった点:地の文がただの説明になっていないか、説明しすぎかもしれない?
次から気をつけたい点:ジュリ視点の地の文がクドい気がするので三人称視点の方がいいかもしれない?
次はSSを書くために買った本を読んでから、改めて書いてみます!
以上です。