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ピアナはとある富豪の家に潜入していた。

潜入といっても、忍び込むわけではない。

あくまでも正門を通って、一時的な従業員として働く。それがピアナの怪盗としてのやりかたである。

屋敷のメイドとしての面接はあっさり通って、今日からしばらく住み込みで働くことになる。


狙いは地下倉庫に隠されているという、盗品の美術品の数々だ。

貿易商であり美術品コレクターでもあるここの主人は、慈善家として知られる一方で、裏ではかなりあくどい事をやっているというのが業界での噂だった。各地の秘宝をそっくりの偽物に入れ替えて、自らは本物を手に入れる。それがここの主のやりかたらしい。それにしてもすり替えられる贋作はなかなかの傑作で、素人には見分けられないほどに精巧なものである。もしかすると……贋作王なのではないか、そんな疑いの眼差しを抱き、ともかく屋敷に潜入することになった。最終的には本物を取り返すことも目的だが、一体誰がその贋作を作っているのか。それを確かめるのも重要なことである。

内部の人間の動きを把握しなくてはならない。そうするためには、メイドとして屋敷の隅々まで調べることが一番良いような気がする。


「いきなり……こんなこと……っ!」

全く予想していないわけではなかったが、最初に与えられた仕事は主人の夜伽を務めることだった。ある程度覚悟はしていたとはいえ、知らない男の前で裸になるのはさすがに抵抗がある。

しかし同時にチャンスでもある。相手に密着することで、思考を読むことができる。

どのように贋作を作り出しているのか。誰が裏にいるのか。それを知りたい。


ピアナは相手の視線をじっと見つめ、その思考を盗もうとする。

そうしていると、首輪をぱちりと嵌められた。

「こ…これは……」

「それは拘束具でね。自分の意志では外せないものだ。もし無理に外そうとするなら……」

「ひいっ!」

主人が持つもうひとつの同じ形の首輪から、内側に棘が飛び出るのが見えた。

「まあ、変な気は起こさないことだね。私は用心深いんでね。とはいえ、贋作王の娘が、自分から飛び込んできてくれるとは思わなかったが。」

「(ば……バレてる!?)」

「まあ、せいぜい働いてくれたまえ。君には期待しているよ。私の贋作もそろそろ作っておかなくてはね。ふひひ」

ピアナは会話を通して相手になりきり、思考を読もうと務めたが、流れてくるのは、(この娘、孕ませてやる。絶対に孕ませてみせる。そうするまで手放さないぞ)というシンプルな意思だけだった。

「(やば…これってもしかして超ピンチ……!?)」

逃げ場のない寝室で、ピアナは身震いをした。

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