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今は亡きマム、おば様と呼んでいたカテリーナ大公は、エリスに"アメちゃん"を定期的に摂取させていた。

その正体は〈支配〉の概念の覚醒を抑えるものであり、一種の暗示のような呪いがかけられていた。その精神的支配はアイシャの助けを借りて〈拒絶〉できたものの、身体的影響がわずかに残っていた。


惑溺性物質。つまりは定期的に摂取しないとそれが欲しくてたまらなく感じるようになってしまう習慣性のある物質。エリスが自分の意志で勝手に摂取をやめてしまわないように、わずかにそれが含まれていたのだ。

別のアメ、つまりは普通のお菓子のキャンディを舐めることでもある程度は軽減できる。しかしそれも限りがあり、危うく繁華街で違法薬物を求めそうになったことがある。

そんなエリスを寸前で止めて、相談に乗ったのは、やはりアイシャであった。



「こ……これは治療なんだから。……しかたないよね。」


エリスはひとり自室に籠り、自分にそう言い聞かせる。


数ヶ月前、友人であるアイシャに渡されたのは、3本の男性器を模したバイブであった。

曰く、身体の欲求を別のアプローチによって解消する方法らしい。この手段であれば身体には無害であり、副作用もないという。

彼女のいう通り、これを使ったあとは、たしかに異常欲求は霧散していた。


もっとも一番最初に試したときは、恥部からの出血と激痛が伴い、悶絶の苦しみを味わいながら、騙された!と彼女を恨んだけれども。

でも繰り返すにつれて、徐々に苦痛は期待に変わっていった。


「……今日は、こっちからでいいよね。」


3つのバイブのうち、真ん中のものを取る。

1つは細くて小さく、ロケットのような形をした可愛らしいもの。

今持っている2つ目のものは中程度の大きさで、振動機能と枝状突起がついている。

そして3つ目は極太サイズの禍々しいディルドだ。


一番小さいのは当初はよく使っていたけど、今となってはそれでは満足できなくなってしまった。

中程度の大きさと言っても、ずっしりとした質量感があり、挿入できる長さも10cmほどはある。エリスの小柄の身体には大きすぎるほどであった。

これが、今の一番お気に入りのバイブだった。


ごくりと唾を飲み込み、期待感にぞくりと背中を震わせる。

舌で丁寧に舐めて入りやすいように準備をした。


今からこれが気持ちよくしてくれるという期待感が、自然と潤滑を促してくれる。

バイブの先端を腟口に押し当てると、胸が高鳴った。


「ん……くっ……!」


先端がクリトリスを当たり、思わず声が出てしまって必死に押し殺す。

同じ屋敷には兄のような存在であるアッシュやサイファーがいる。彼らにだけは絶対に見つかりたくない、秘密の行為だった。


「それじゃ……入れちゃおうかな…」


膣の入り口にぴったりとあてがうと、ぐっと力を入れた。

冷たくひんやりとした感触のシリコンの塊が、エリスの一番大切な所を押し広げて侵入してくる。ぞくぞくとした深い快感が、背中を駆け上がって脳に達した。


ただ深く挿し込むのではなく、浅いところをじんわりと刺激していくのも好きだった。

小さいバイブを使っていたときは、基本的にはそういう使い方だった。

Gスポットと呼ばれるところ ― エリスはその名称は知らなかったが ― を、時間をかけてじっくり攻め上げるのがとても気持ちがいいことに気付いていた。


しかし今回は、強く奥まで押し込んだ。





「んん……く…あっ……!こ、これ…っ」


声を押し殺しながらも、指は強くバイブを握りしめる。

エリスは最近、新しい感覚に目覚め始めていた。バイブが膣の一番奥の奥、子宮口のところまで達したとき、耐え難い快感が襲いかかってくるのだ。最初は鈍い痛みしか感じなかったが、今はむしろそれが強い快楽へと繋がっていく。

クリや入口付近もいいが、最奥を突かれるのはその何倍も深い性感が得られることに気付いてしまった。

そこに、このバイブは届くのだ。


「これ……、好き……ぃっ!」


エリスはためらわずにバイブレーターのスイッチを入れると、ヴィンヴィンと鈍い駆動音を響かせながらディルドがうねり、振動し始める。

その振動とうねりによって小刻みに何度も一番奥が押し付けられ、快楽は無限に増幅していく。


同時に枝分かれした突起がクリトリスを刺激し、ビリビリと電撃が奔るかのような快感が背中を駆け巡った。

その振動に支配されたエリスの細身の身体は、全身が震えるように共鳴し、ただひたすら快楽を貪るために髪をかき乱しながらそれを味わった。

自分に悦びを与えてくれるこの道具が、たまらなく愛おしい。


「だめ……!い……!いくっ…」


思わず大きな声が出そうになったので、空いた手で口を塞ぐ。

しかしそれも間に合わず、ビクビクと痙攣し、大きな絶頂に全身が包まれた。


下からこみ上げてきた熱い衝動が脊髄を駆け上り、脳天に達して白い閃光をもたらした。


「は……はぁ……ぁっ……」


呼吸が苦しくなり、深い息をして酸素を求める。全身は強い虚脱感に包まれる。しかし嫌な気分ではない。むしろ清々しい爽快感と満足感に満たされていた。

緩慢な動作でバイブを膣から抜き取ると、着衣を直すこともせずそのまま横になった。


「はぁ……っ」


このまま気持ちよく眠りにつきたい気分であった。



興奮がクールダウンして少し経ち、のそりと身体を起こして片付けに入る。使ったものを綺麗に洗わなくてはいけない。


「そっちを使うのは……まだ怖いかな。」


今日使ったのは2番目に大きいサイズのバイブ。これであんなに気持ちいいのだから、1番大きいのを使ったらどうなるんだろう。まだ怖くて試したことはなかった。使ってしまって、戻ってこれなくなる気がして自分が怖い。

現に、2番目を使うようになってから、小さいサイズのでは満足できなくなってしまった。

あれはGスポットを刺激するのにはいいが、小さすぎて奥までは届かないし、クリトリスを刺激する突起もない。

だがこの2番目の弱点は、Gスポットが手隙になることだ。十分なサイズと太さがある一番大きなディルドなら、これら3点を同時に攻めることができるかもしれない。

また書物で少し読んだ、お尻に入れるというのも少し気になっていた。一番小さいのならもしかしたら入るかもしれない。あそことお尻に同時に入れることなんてこともできるんだろうか‥‥。それって気持ちいいのかな。


「ううん、何考えてるんだ、あたし」


脳裏をよぎった欲望の妄想を打ち消す。

そもそも目的を忘れてはいけない。これはあくまでも悪しき呪いを断ち切るための儀式である。その行為に溺れてしまっては本末転倒だ。


「洗いに行かなきゃ…」


あいにく水場が部屋にはない。屋敷の廊下を通って共同の洗面場に行かなくてはいけない。


道中誰にも見つかりませんように!

エリスは天に祈った。

もしあの二人に見つかったら恥ずかしすぎて死んでしまいそうになる。


エリスは扉の向こうの気配が無いことを確かめ、忍び足で廊下に出ていく。

まるで忍者のように抜き足差し足、エージェントの本領発揮だ。



……だが、部屋の中のエリスをずっと見つめていたガスマスクの男の存在には、最後まで気付くことはなかった。






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