Home Artists Posts Import Register

Content

 私はしばしば自己紹介の際に「どうも北のファムファタールでーす」と自嘲から入ります。秋田から東京の高校に進学したときに思い浮かんだなけなしのキャッチコピー。男を破滅へいざなう魔性の女。性への規範意識が破綻していた十代は援助交際で小遣いを稼いでいたので、我が身可愛さも少なからずあったのでしょう。曽参人を殺すと言いますが、その二つ名が今でも、人生に発破をかけるときの呪文の序文となっています。幻聴なのか確信なのか、今となってはもはやどうでもいいのですが、私の内なる声が「お前は運命の存在なのだ」と囁くのです。

 十代は悲しみと怒りに支配されていた時期でした。月のように秤動する環境、手を伸ばしても届かない明けの明星、手にしているだけの魔法の杖。薄ぼんやりした彼者誰の中で、探せど見つからぬ自分に失望していました。加賀優作に出会うまでは。

 個性の主張が強いと、こだわりにも強いものがあるのだろうと思わせてしまうのか、加賀優作という名前の由来を聞かれることがあるのですが、特に意味も理由もなく、適当に決めた名前です。身も蓋もないです。成り立ちとしては、ゲイ向け風俗店(所謂売り専ですね)へ所属が決まり、源氏名を決めるとなったとき、恋人から袖にされた腹いせに彼の名前をもじったものにしてやろう、ということで「ゆうと」「ゆうき」「ゆうすけ」……と「ゆう」縛りで候補を挙げていったらことごとくすでに使われている名で、絞り出すかのごとく最後に挙げた「ゆうさく」が欠番だったためそこに収まった。というなんとも愛想のないものなのですが、もっとひどいのが苗字で、アダルトビデオへ出演する運びになったとき、渡された脚本が「保健室の教諭が生徒に手を出す」という内容で、下の名前より苗字で呼び合う必要があるから今決めてくれということで、ちょうどそのときWikipediaで見ていた旧日本軍の航空母艦加賀から拝借して「えっとじゃあ、加賀で」と数秒で即決。こうしてなんのひねりも願掛けもなく、加賀優作くんはこの世に存在を許されたのでした。

 しかし驚いたのはその後で、まず、よくよく加賀を調べていくと、とても特殊な軍艦だったのです。そもそも航空母艦には「瑞鶴」「隼鷹」「飛龍」などの空に関連する縁起のいい動物、もしくは「天城」「伊吹」「赤城」など名山から名付けられるのが通例なのですが、加賀には旧国名が与えられています。これには、もともと、八八艦隊計画という作戦のための戦艦として造られたものの、1922年に締結されたワシントン海軍軍縮条約によって軍艦の保有数の制限を余儀なくされ、加賀やその姉妹艦である土佐は竣工前に廃艦となることが決まった、と思いきや、1923年に起きた関東大震災で改装中だった天城が大破したことにより、海上にあり難を逃れた加賀が繰り上がって航空母艦候補へ仲間入り、戦艦から航空母艦へ改造されることになった、という経緯があるのです。しかし建造技術の黎明期であった当時、1928年にいちおう竣工はしたものの、その後も改修・改造が重ねられ、完成形になったのは1935年のことでした。姉妹艦土佐は当初の予定通り自沈処分、後輩にあたる天城は未完成のまま廃棄。その紆余曲折の末に身につけた特化型の魔改造装備。私はこの軍艦が辿った数奇な運命に、自分自身の人生を重ねざるを得ませんでした。「こいつはなかなかしぶとい」と。

 驚きはそれだけではありませんでした。私は占いの際はタロットカードを主に使用するのですが、本来得意としているのは姓名判断と観相です。平たく言うと名前占いと顔占いですね。姓名判断に関しては、お名前を拝見してすぐ即座に画数を算出できるほどです。自分自身のことはなかなか占わないのですが、ある日ふと「そういえば加賀優作って何画なんだろう」と思い計算してみたところ、総画数41画(正確には総格41と表記します)。これは、流派にもよりますが、男性なら吉(女性には強すぎる)、不思議な強運、理屈でなく情で動く、高いプライドなどを表す数です。あら不思議当てはまってるわ〜と思ったのもそのはず。私の本名の総画数も同じく、41画なのです。偶然にしては出来すぎている。そう感じました。姓名判断の世界おいて名前は一生を決める大事な要素。苗字の最後と名前の最初を足す人格、苗字の最初と名前の最後を足す外格など、画数を計算する箇所はいろいろありますが、名前全てを足した画数である総格は、その人の人生そのものの象徴とも言えます。それが図らずも本名と源氏名で同じ数字とくれば、「ああこれは、なにか大いなる意志によって導かれたものなのかもしれない」と、自分の中でするりと納得できる気がしました。まったくかけ離れた別人ではなく、かといって明け透けな自分自身でもなく、私という個人を補完する役割となる存在。それが加賀優作なのだと。すでに出来上がっていた加賀優作という名前に命が宿る「誕生の瞬間」を、このとき肌で実感しました。

これは私と私、二人三脚で乗りこなしてきた、ささやかな運命の記録。

Comments

No comments found for this post.