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 突然だが、私は酒が強い。生来の肝臓の解毒能力に併せて、酔っていても気を張って素面を装う術も身につけている。無礼講の場でも素直に酩酊した姿を晒せぬ生育環境だったのだなと、どうぞお察しくださいといったところだが、どうやらこの装う力というのはアルコールだけに限った能力ではないらしく、私はさながら「素直なリアクションアレルギー」のように、咄嗟に出てくる反応を封じてしまうきらいがある。まあ、だいたい、その反応がけっきょく真実である場合が多いのだが。私はあれやこれやと理論をこじつけこねくり回し、遠回りしてそこへ辿り着く。まるで、新大阪へ行くのに、目の前にあるのぞみを見送って、こだまを待ってしまうかのように。

 愛情については。お察しの通り、私は「アイ・ラヴ・ユー」この3語をなかなか声に変換できない。理由のない好意が、物珍しい見世物を眺める好奇心といかに異なるかというのを、まるで好意対象者にだけ解読できる暗号でも組み上げるかのように、私は、「あなたのそういうとこ好きだよ」で済むようなことを、小難しく引っ掻き回す。では逆にと、単細胞生物のように、「これ好き!」、「それ嫌!」などと即座に反応するだけの自分を想像すると、それはそれで薄気味悪いというか、なんと奥行きのない人間なのだろうかと絶望しそうになる。学生時代を思い返せば、私はカンニングができなかった。やろうとも思わなかったし、やったらやったできっと「私はカンニングをしました」と表情に現れてしまうことだろう。

 愛情に話を戻すと、好奇の目と親しみの視線を区別するのにだいぶ時間がかかったなと思う。好意の種類の見極めというか、平たい言葉で言ってしまえば、「モテ」がなにゆえか、というところになるのだろう。私には厄介なことに、そういうのに繋がる取っ掛かりが人よりも多い。生まれたままの姿で鏡の前に立つように、この人と向かい合っても大丈夫なのかと思った相手が、ただただ私の下半身を貪りたかっただけ、なんてことはざらにある話だ。場数をこなして、私はやがて多くを求めなくなっていったが、べつに思い描く愛を捨て去ったわけではない。ただ、それを表現するのが、ひどくこっ恥ずかしいのだ。

 ゆめうつつ、心ばかり。つづく

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