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 寝苦しい夜には、空調をいじってみたり、湿度を変えてみたり、香を焚いてみたり、過去に忘却を寄せてみたり、未来に思いを馳せてみたり、私は寝つきが非常に悪いわけである。眠りに落ちる瞬間が、とても怖いのだ。そのくせ、寝起きもとてつもなく悪い。起きしなの私はさながら別人格だ。

 ここのところは、ちょうどPTSDの治療も目処が立ち、減薬を進めている。担当医いわく、意固地な私にしては、目覚ましい治療効果なんだそうだ。クスリでどうにかなっちゃう心ってなあに?なんて思う私であるが、気楽に構えることは、自分で思うより難しい、私にとってはひとつの技術なんだと分かった。動き続ける心臓のように、私の心は弛緩のすべを知らなかった。

 シワ取りのボトックス注射が身近になりつつある。見てくれでご飯を食べている私にとっては、欠くことのできない設備投資だ。あれはボツリヌス菌が作り出す毒素を応用して、筋肉を収縮させる命令が伝わらないようにする、要は緩みっぱなしにさせる治療だが、顔の筋肉の引き攣れが解けるほどに、私は心がシャキっとするような、まだ戦えるぞ、と、熱い思いが滾る。

 冷房を強め、扇風機で空気をかき混ぜ、除湿機を最大出力にして、電子レンジでホットタオルを作りつつドライヤーをかけようものなら、ブレーカーが落ちる。私の身体や心も、そんなもんなんだろう。そんなことを考えていたら、いま世話になっている事務所から3日間の貸切指名の打診があり、私の心臓はさらに鼓動を早めるのだった。

 ゆめうつつ、心ばかり。つづく

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