202308_RikuhachimaAru_JapaneseShortStory (Patreon)
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人は誰しも長いこと同じ環境に身を置き続ければ、その環境に否が応でも慣れるもので。一日、また一日と朝日を迎え入れる度に「否が応」という気さえも天日干しされて消えていく。
そうして、例えそれが無刺激で退屈な日々であっても、例えそれが足場のぐらつく不安定かつスリリングな日々であっても、人はそんな毎日に順応していくのだ。順応こそ人が生得的に備えた生きる知恵なのだから。…しかし、それは裏を返せば慣性の名を借りただけの堕落、とも言えよう。
学園都市キヴォトスには様々な自治区がひしめき合っているが、中でもゲヘナは今日も銃声が賑やかで、平日休日、雨天晴天お構い無しの世界がそこにはあった。
ドドドドドドドッ…!ドンッドンッドンッ!
「んっ…ふあぁぁ……な、何…」
ブラインドの隙間から差す日光が、社長席の背もたれに体重をかけて仰け反り寝ている彼女の瞼を照らす。それと同時にコンクリートの壁すら貫通するような銃声が鼓膜を叩き、少女は強制的に起床を余儀なくされた。
メガネをやめて早数年、目覚めてすぐのピンぼけした視界には空気中の埃がダイヤモンドダストのようにキラキラと漂っているのが映る。
この廃墟に拠点を構え始めてからどれ程の時間が経ったのだろう。かつての便利屋68(主に社長)は高層ビルのより高いフロアで煌びやかなオフィスを借りて活動することを夢見ていたが、その夢は今や覚めたらしい。
「あっ!アルちゃんお目覚め?って…このお祭り騒ぎじゃいくら疲れていても眠れないよね~」
寝ぼけ眼を擦りながら、目頭の目やにを払いつつ起動途中の頭を待ってはぼーっとしている彼女の前に、昔馴染みの顔が現れては微笑みかける。
「ムツキ…おはよう…。ところで朝からこの騒ぎは何…ま、まさか風紀委員に拠点がバレたの…!?」
社長席に座ったままの便利屋68社長・陸八魔アルの後ろへ軽い足取りで回ったかと思えば、室長・浅黄ムツキはとっ散らかった彼女の赤髪を櫛で軽くとく。日課…というほどではないがたまに見られる光景。
「ん~、たぶん違うんじゃない?もし風紀委員が来てるならここを直接狙うはずだし、そうじゃなくても強すぎて外の銃声なんてすぐに止んでるだろうしっ!…にしてもアルちゃん、髪伸びたね~、今度私が切ろっか♪」
幾度となく遭遇しては主に風紀委員長に痛い目を見せられてきたアルは、起動して間もない脳の回路で銃声から恐怖のシルエットを連想し狼狽える。
だがその表情と声色の変化を敏感に感じ得たムツキによって、アルの推測は制止された。
「ただいま。隣の通りでどっかのヘルメット団が分裂抗争してるみたい。でもほっといても良さそう……あっ、社長、起きてたんだ」
廃墟と化したビルのワンフロアを丁寧に掃除し根城とした便利屋の面々のうち、最も年長者である鬼方カヨコが帰還する。手には計2つの中身のぎっしり詰まったビニール袋がぶら下がっており、そのほとんどが食品のよう。
ゲヘナの中でも僻地であるここから商業エリアまで徒歩でも1時間はかかるであろう。そんな道のりを遅くまで銃周りの手入れをしていたアルが遅寝遅起きしているうちに往復したカヨコの額には、初夏も相まって大粒の汗が浮かんでいた。
「おはようカヨコ。今日も買い出しお疲れ様、あとは依頼の時刻までゆっくり休んでいて…!」
カヨコが荷物を床に置くと、ビニール袋はドサッという音と共に床上に直立する。ふぅっとその課長は一息つく。社長席のアルは部下に労いの言葉をかけた。
「でもホントにこんな廃墟に事務所作ってよかったのー?お金も貯まったんだし、ずっと言ってた良い物件を借りるのも今ならできるんじゃない?」
「ふふふ…そうねムツキ、確かに今ならもっとキラキラしたオフィスに私たちのオフィスを構えることもできるでしょう…!けど、改めて考えてみると、こっちの廃墟でひっそりと稼業に勤しむ姿の方が裏社会に繋がる組織としては凄くアウトローでハードボイルドに見えない?」
買いたての水のペットボトルに口をつけるカヨコを脇目に、ムツキは前々から抱いていた疑問をアルにぶつける。というのも、以前までの便利屋ならば「資金が尽きたから公園野宿or廃墟潜伏」が常だったが、今の便利屋は「資金があるにも関わらず廃墟の一部を改装してまでそこに住まっている」からだ。
しかし、アルに言わせてみればそれにも理由があるらしい。
「家賃や光熱費にかかるお金が節約できれば、その分が食費に回せるでしょう?もう4人で1つのカップ麺を啜らなくて済むのよ!(キラッ)
それに依頼主は事務所に電話線がなくても向こうからやってくるわ…!治安の悪い駅の地下通路、都会のビル横にある狭い道の壁に貼ってある私たちのポスターから、本当に質の良い依頼は舞い込んでくるもの!…も、もう出前の間違い電話なんて来ないわ!」
現にアルの言説通り、今の便利屋は資金の用途を工夫した結果、メンバーの生活にはこれと言った貧しさはなく、中の下くらいの廃墟暮らしならば問題なく行えている。食事にも困ることはなく、空腹に苦しむこともない。
天に恵まれたのか、依頼の募集経路や依頼自体を厳選した結果、初めの頃は身を磨り減らす思いをしたものの、軌道に乗ってしまえば依頼成果から更なる高ランクの仕事が舞い込むようになり、アル社長にしては珍しく事業が安定へと向かっていた。
…きっと彼女の人生でこれほどまで上手く行くことは今後そうないだろう。
「ふーん、アルちゃんがいいなら私もいいけどね♪どこにいても楽しいのは変わらないしっ!」
「ゴクッ…んっ…ぷはっ…」
事業が好調であっても決して真の悪に手を染めているわけではない為、ムツキも異論なし。また何も言ってこないで自然体でいるということはカヨコもまた現状に不満などないのだろう。元々環境にはあまりこだわりがない子だからというのもある。事務所にはまだ帰ってきていないが便利屋の末っ子平社員・伊草ハルカの場合は環境よりもアルの背中がそこにあることの方が重要なはずだ。
ぐぅ、ぐるるるぅぅぅ…
「そ、そう言えばまだ今朝は何も食べていなかったわね…!よいしょっと…」
寝起きから数十分、ムツキに髪をといてもらっていながら二人とのやり取りに夢中になっていたアルが自身の胃袋が鳴ったのをきっかけに空腹を思い出す。
「一日三食」最低でもちゃんと食事を取ることが今の彼女にとっては当たり前の生活習慣となっていた。
ギシギシッ…!
ムツキの手が頭から離れたタイミングで徐に席を立つ。長く使っていたためか社長席の椅子がよく軋む。
(ん…?アルちゃん、もしかして…)
「ふんふんっ♪今日の朝食は……」
起立しかつてはカップ麺が詰まれていた事務所の一角、物品棚の箱に向かうアルの背中をムツキは捉える。
上着越しの彼女の後ろ姿は腰周りがやけに膨らみ、ムックリとしていた。
「あっ…!折角だし焼きそばパンとカレーパンのコンビでいってみようかしら!ふふふ…善良な生徒では思い付かない凶悪な組み合わせね!」
廃墟であるため電気が通っておらず、冷蔵庫もない便利屋の事務所では、基本的に食べ物は日陰に常温保存。その為初夏とはいえ保存の効く菓子パンや調理済みの市販のパンが、社長の朝食としては多く備蓄されている。
ガサゴソッ…
カレーパン2つに焼きそばパン2つ。それぞれメーカーも違うので計4種類のパンを抱えてこの零細企業の社長は自席に戻っていく。顔には満面の笑み。飢えを感じない生活は至福だ。
「まずはピリッと辛いカレーパンよね…そうだわ!炭酸も一緒に飲もうかしら…!」
席に戻る数歩のうちに今度は飲み物に気を巡らせる。調理パンに炭酸ジュース、不健康一歩手前…とまではいかないかもしれないが普通は憚られることを平然とアルは想像していた。
「社長…。前々から言おうか悩んでたんだけど…」
「何、カヨコ?もしかして一緒に食べたいの…?もちろんいいわよ!普段からあなたには買い物を任せっきりだものね…どれが食べたいの…?」
「あっ…いや、そうじゃないんだけど」
ムツキがアルの後ろ姿を見て抱いた印象と同じものを、カヨコもまたパンを抱えて運ぶアルの立ち姿を見て感じていた。
隙間の消え失せたアルの太ももは、以前カヨコが会ったミレニアムの生徒よりも太く、上着がなければスカートから圧倒的な存在感を醸し出している。
おまけに横から見ると分かりやすいが、今の社長の下腹部はまるで妊婦のようにぽっこりと膨れており、歩く度にぶるんぶるんと震えている。加えて胸の膨らみも増しており、その揺れにアル自身は違和感を持たないのだろうか、とカヨコは不思議に思っていた。
だが何を勘違いしたのか、共に朝食を食べようと誘ってきたアルに、カヨコの中の本音は一部の罪悪感と気まずさで再び顔を潜めつつあった。
きっとアルが“こうなった”のは自分が食べ物を多く買って来てしまったからだと。それに体型の事を指摘するのはいくら気の置けない関係の者だとしても気が重い。たとえ相手が総じて二回りほどふくよかになっていたとしても…。
「ねぇアルちゃん?最近、体重って測ってるー?」
「へ…?体重?そういえばもう半年以上測ってないかも…」
カヨコとアルの間の微妙な齟齬を察知したのか、それとも単純に知ってしまった以上はツッコミたくなったのか、ムツキが単刀直入に疑問を投げ掛ける。
体重、それはこの場の3人にとって核心を突くキーワードだった。
「くふふっ♥️そっかぁー、じゃあアルちゃん、自分のお腹、触ってみて♥️」
「ムツキ…またストレートに…」
「お、お腹!?触るってそんな何かあるわけ…」
ムツキの勧めに従う形で両手に抱えたパンを机に置くと、彼女は恐る恐る己の腹に手を伸ばす。その手の動きは先程まで軽い足取りでパンを取りに向かっていた時より遥かにゆっくりで、時の流れ自体が緩やかになったのかと思わせるほど。だが彼女の指先は着実にスカートの生地越しに己の腹へ近づきつつあった。
むにゅ。むにゅんっ…
「…!べ、別に何も…何もないわよ!いつも通りの私のお腹、だわっ…!」
「ホントにぃ~?じゃあ昔からアルちゃんのお腹って、そんなにお肉の溜まったタプタプのお腹だったってことー?ふふ♪」
むにゅ。ぶにゅ…
「し、脂肪…!?うっ…うぅあぁ!!??な、何なのよ!この肉~!!??私、そんなに太るような事なんて…」
友人の誘導に乗せられた先で、指と掌が腹に触れるとそのまま深く腹肉のクッションへと沈みこむ。軽く触れただけで済まそうとしても無駄だった。
明らかに痩せてはいない身体の感触。極貧から豊かな生活への反動がそのまま身体に直で現れ、余剰した栄養、カロリーが贅肉としてアルの身体にはブクブクと蓄えられていた。
ぶにゅ!ぶにゅっ!
揉めば揉むほど贅肉の分厚さが感覚として掌から脳に伝わる。日頃歩いた時にアルが人知れず感じていた腹の揺れは勘違いではなかったのだ。
とはいえ、彼女自身が自体がここまで太った理由を把握しきれているわけでもなく。
(あっ、そういえば…♪)
「ホントに~?最近アルちゃんが先生と二人でラーメン屋巡りしてるの、私知ってるよ~?(たぶん先生にオススメされていつか私たちと行くお店を下見に行ったんだろうけど♥️)」
「あぁ、そういえば…。まぁ、偶然見かけたんだけどね」
遡ること数日前、アルがキヴォトスで唯一「先生」と呼ばれているシャーレの“彼”に当番として呼び出された日のこのこと。
その日は社長不在ということで便利屋の休日としてムツキ・カヨコ、そして末っ子のハルカで街に出ていたところ、お昼時に社長と先生のツーショットで新装開店されたラーメン屋に入っていく瞬間を目撃したというのだ。
特徴的な角と頭上に浮かぶヘイロー、そして何より寝食を共にした社長の姿を見間違えるはずがない。
それを思い出したムツキが激太りした社長への猛攻を続けていた。
「か、隠していた訳じゃないのよ!?今度皆で行こうと…。それにラーメンだけで太るなんて…!」
焦り、額から脂混じりの冷や汗を流すアル。
だがそこに更なる刺激剤が投じられた。
「た、ただいま戻りました…!アル様のトリプルチーズバーガー2個が品切れだったので、お店の方と“交渉”をしていたら遅れてしまいました…。ごめんなさいぃ…」
廃ビルの扉が開かれ3人が振り返ると、そこには火薬の匂いが微かに残ったショットガンを抱えながら、片手には“K”のロゴが描かれた茶色の紙袋が握られており、仄かに火薬と混ざってはいるがジャンキーな香りが漂っている。
…が、これは便利屋の面々にとって決して特別なことではなかった。
ゴミ箱の中には何日分もの同じ袋が詰め込まれているのだから。
トリプルチーズバーガー2個、そして気分によってプラスアルファで諸々。これが彼女たちのビジネスが住まいの豪華さを引き換えに多少安定してからのアルの昼食だった。
「はぁ…とりあえず、食事制限と軽い運動から始めようか」
溜め息一つ溢してカヨコが呟く。ダイエットの基礎の基礎である。調理パン4個にトリプルチーズバーガーが2個、この時点で間違いなくカロリーオーバー兼栄養が偏りまくっている。これでは太って当然だ。
「そ、そんなぁ…私が太るなんてぇ…」
お決まりの嘆きを漏らして椅子に座り込む。すると立っていた時の腹がへそ諸ともぶにゅっと潰れ、饅頭のような腹肉が太ももの上に乗っかった。正真正銘太りすぎである。
「くふふ♥️アルちゃんのダイエット奮闘記、スタートだねっ♪今のぽちゃぽちゃなアルちゃんから痩せられるのか、楽しみ~♪」
「や、痩せるわよ…!ええ、痩せてやるわ!」
補佐をする気を見せるカヨコに加えて、古い友人に茶化された社長はこれまたムツキの思惑通りか一周回ってやる気を滾らせる。タイトスカートを押し出すように膨れた下腹部、ベルトが苦しそうに食い込んだウエストとその上でYシャツのボタンを弾きそうに実った巨乳を揺らして減量を誓う。
「あ、あのぅ…アル様、これは食べないのでしょうか…?た、食べないと…不摂生ではアル様の身体に障ります…た、食べてください…!す、すみません、食べさせます!!」
と、アルがダイエットにやる気を燃やし始めたのもつかの間、ハンバーガーを買ってきたばかりのハルカはいまいち現状を把握しきれておらず、尊敬する上司の不摂生に戦いては紙袋から取り出したトリプルチーズバーガーを両手に持って社長へ特攻した。
「むぐっ!?ちょ、ちょっと、ハルカ…!待っ…あむっ、おいひい、けど…今は…だめよ…!むごっ…ごくんっ、太っちゃうのに…んぐっ、こんな、ごっくんっ…。無理やり食べさせられたら…もっと食べたくなっちゃうじゃない…♥️」
「あ、アル様…!もっと食べてください…!食べないと…!」
「あちゃ~、変なことになっちゃったかも…」
突進してきたハルカに押し倒され、二人は床に横たわる。するとすかさずハルカの手によって社長の口には加減もなしにトリプルチーズバーガーが詰め込まれた。
肉汁とチーズの脂でテカテカにコーティングされた口元、ケチャップが溢れたのか口回りだけでなく頬にも食べかすが付いている。無理やり口に押し込まれたハンバーガー2個が喉を通って胃袋へ落ちる頃にはアルの息も若干整えられ始めていた。
「ふぅ…ふひゅぅ…ハ、ハルカ…落ち着いた?大丈夫よ、私は危ないことなんてしないから……んっ、げふっ」
「は、はいアル様…あっ、す、すみませんすみません…!お怪我はありませんか…?あったら私も自分で自分を……!」
錯乱する平社員を宥めるようにアルは少女の手を握る。冷たく血流の乏しい白い手に、わずかに肉がつき熱の籠った手が重なる。
「平気よ…ありがとう、ハルカ。私を思ってのことよね。ハンバーガーも美味しかったわよ。…そ、その、むしろもっと食べたいくらい…」
「…!!わ、分かりました…すぐに買い占めてきます……!」
アルの一声に正気に戻ったのか、ショットガンを携えた少女は再び駆けてゆく。起き上がってからの飛び出しようは凄まじいものだった。
一連の光景を端から見ていた室長と課長は唖然としつつも、社長の様子に変化を感じ取る。
「いいの?痩せるつもりだったんじゃ…」
「きょ、今日だけよ!…そう、チートデイ!今日はしっかり食べて明日からがっつりダイエットした方がいいでしょう!だから…一日だけ…食べ放題ってことにして…♥️」
課長の確認も手応えがなく、一日だけという理由付けを経て、社長の目の色は大きく変わっていた。
「アルちゃん…目がハートになってる♪ダイエットなのに初日から体重が右肩上がりになっちゃうね~」
ビリッ…!
「い、いいわよ…!あむっ、パンも賞味期限があるし食べておかないと…はむっ、んぐっ…ごっくん♥️」
机上に置かれたパンの山から一つ取り出して封を切ると、すかさず口に運ぶ。ムツキの言うように初日から太ろうと、今日のアルにとっては食欲を抑えるよりも食べてしまいたいという気持ちの方が格段に大きかった。
はてさて、陸八魔アルのダイエットは成功するのだろうか。少なくとも初日から暫くは体重グラフに“望ましい”変化が訪れることはなさそうだ。
ーーーーーーー
陸八魔アル
Height: 160.8cm
Weight: 80.6kg
B: 102.7
W: 99.6
H: 109.9
§§§
day1
「あむっ、やっぱりカレーパンと焼きそばパンの組み合わせもいけるわね…!はむっ、もぐっ…!ごっくん…もうあと1セット食べようかしら…♥️」
「た、ただいま戻りました!アル様、トリプルチーズバーガー買い占めてきました…!」
高カロリーパン2つを同時に頬張る彼女が更に胃袋へ栄養を流し込もうと席を立つ。すると先程ハンバーガーショップへと走り向かった平社員、ハルカが今度は両手いっぱいの紙袋を持って息を切らしながら帰ってきた。
この時点でアルとハルカの間にどれほど消費カロリーの差があろうか、本人たちは気にもしていない。
「むぐっ、ご苦労様…!ハルカも一つ、いえ、好きなだけ食べていいわよ!」
「あ、ありがとうございます…ですが私は1つで…平気です。あとはアル様が食べてください…!ふふふ…」
アルにかけられた慰労の言葉がハルカにとっては一番の褒美だったようで、ジャンキーな山から一つだけ包み紙を手に取ると少女はその場を後にした。その顔には蕩けるような笑みを伴って。
「そ、そう?じゃあ…遠慮なく頂くわね…!いただきまふっ…ん~美味しいわ♥️あむっ、もぐっ…今日だけ…今日だけの特別だから…♥️」
Day50
「社長、いい加減痩せるのかどうか決めた方がいいんじゃない…?」
「んっ…ごっくん、や、痩せるわよ勿論!でも急に食事制限したら身体に悪いでしょ?だから少しずつ食べる量も減らしていかないと…。今日はまだ食べられそうね…もぐっ…んっ、げぷっ…」
両手にジャンクフードを携え、口にはフライドポテトを含んだ彼女は今日もまた食に耽る。100から10に急に食事量を制限しては身体に悪いといい、100から99,98と徐々に縛っていくことを掲げているが、体型を見ても毎日のごみの量や生活をカヨコが見ても、そこに制限を試みている形跡はない。むしろ100から150,200へと食事量は増えている気さえする。
だが当の本人は現実を見ていないのかまた一つ、胃袋へ食べ物を納め、新たな食料に手を付けていた。
ドンドンドンッ…!
『便利屋のリクハチマさーん、昼食のお届けに参りましたぁ!リクハチマさーん、いらっしゃいますかー?』
チャイムのない便利屋68のオフィスの扉が叩かれ、その向こうからは配達員の声が隙間を通して聞こえてくる。
昼食の注文…そんなことをするのは今の便利屋で一人しかいなかった。
「はーい、今っ…げぷっ、行きますー…よいしょっと…うっぷ…ふぅ、ふひゅぅ…出前料金が期間限定で無料だったから、つい試しちゃったのよね…!ふぅ、んふぅ…いつもカヨコとハルカに買い出しを頼んでばかりじゃ悪いし…ふぅ、げぷっ!」
無理やり贅肉を詰め込んだ彼女の身なりは、ピチピチの服にボディラインがくっきりと浮かんでおり誰がどうみてもサイズが合っていない。
脱いだら大変なことになっているのは間違いないが、脱がずともその身体が如何に贅肉を纏っているかが分かるほどにタイトスカートもYシャツもアルの身体に彼女自身の手で強引に着せられていた。
「あっ、ど、どうも出前で参りました…えっと、注文が特製とんこつラーメンが二人前と餃子四人前、炒飯が三人前…になりますね…。あ、ありがとうございましたぁ…
(すっごい太った人だったなぁ…あの角、ゲヘナの生徒だろうけど…あそこの生徒ってやっぱり大食いが多いのか…ひぇぇ…)」
配達員から受け取ったLLサイズの袋には、到底女子高生一人が一食で食べる量とは思えない中華料理が積まれており、その香りを嗅ぐや否や、扉の前に立ちながらアルの口内に涎が溜まっていく。
ジャンクフードの次は間髪入れずに中華。
ぽっこりどころかでっぷりと膨らんだ腹はこれからも更に肉を蓄えて膨らみそうだ。
「ふふっ♥️…いただきまぁふ…むぐっ、あむっ!じゅるるるるる!!んん~おいひいわね…♥️ぐぷっ…」
Day×××
「んふぅ…あっついわね…今日も、ふぅ…汗で服もびっしょり…。ふぅ…んしょっと、私はアイス食べるけど、ムツキも要る?えーっと、チョコと抹茶と期間限定のももシャーベットは私が食べるから…」
スーパーへの買い出しさえもネット注文で配達してもらおうと試みるようになったアルが、長引く猛暑も相まって巨大な身体にじっとりと汗を流しながら社長席に尻を食い込ませる。
もはや社長席の椅子は高さを調節するレバーが息耐えたのもあり、アルの尻の形がくっきりと刻まれ汗の染み込んだ瀕死の状態。もう更に彼女の体重が右肩上がりを続ければ本格的にガラクタと化すだろう。
そんな社長とこの日も一緒に居るのは便利屋で最も長くアルの姿を見てきたムツキその人だ。
「んー私はいらないかな♪アルちゃんを見てるだけでお腹いっぱいっていうか…私も太っちゃいそうで食欲が湧かないかも?」
「ふ、太っ…な、何を言ってるのムツキ室長!?私は別に太ってなんて…」
唐突に向けられたムツキの言葉の切っ先に、頬をたぷつかせながら戸惑う。大分前に聞いたやり取りを繰り返すように自らの肥満化を否定するが、本人以外の目から見ればまるで別人のような太りよう。否定するにも慌てて動かす身振り手振りからも、二の腕の巨大化や手まで肉が付いたのだと伺わせる始末だった。
「んじゃ、アルちゃ~ん!はい、ピース♥️」
パシャ
名前を呼ばれて顔を声の方へ向けると、携帯端末を社長の方へ向けて構える室長の姿。
一瞬の出来事に、抗おうにも気づいた時にはシャッターは切られていた。
「はいこれ、今のアルちゃん♪どう?痩せる気になったー?」
先程まで向けられていた携帯端末をムツキがクルっと裏返すと、ディスプレイの面がアルへと向けられ、どこか自分と似たような顔の肥え太った女性の容姿がアルの視界に入る。しかも、その端末の持ち主は写真の人物を明示までして…。
「こ、これが…私…!!??」
ぷっくり膨らんだ顔はパーツに以前の面影だけを残して丸く、首にまで肉が付き肩も緩やかな曲線を描いている。
どっぷりと実った胸は、食欲のままに食べ物を詰め込んで膨れた二段腹の上に乗っかっており、馴染みのYシャツやタイトスカートすらロクにボタンも閉められず着こなせていないその体型は、今までアルがテレビやネットで見てきたどの肥満女性よりも太かった。
ほぼ確実に100kgは超えている。ダイエットを意識した日から大して運動もせず物事を先延ばしにした結果、最適でも20kg、いや、恐らく倍近くの体重にまで肥大化を遂げていた。タイトスカートのスリットから覗く自身の脚は、セルライトと肉の段でブヨブヨ&パンパンとなっていて、品性や美しさ、ハードボイルドさなどは一切伺えないほど肉まみれ状態であった。
「ところでアルちゃん、今月の食費でとうとうまた資金が底を着いちゃうみたいだけど、アイスなんて注文してよかったのー?」
「え!?う、嘘でしょ!?そんな……残高…149クレジット…なな、何ですってーーー!!??」
追撃するようにムツキに諭され、手元の端末で便利屋の金融状況を確認すると、数ヵ月前には桁がいくつも多いほどあったクレジットがものの短期間でわずか3桁台にまで減っている。思い返せばそのはず、貯蓄が十分だからと慢心して食ばかりに耽っていた社長はほとんど仕事を請け負うこともなく、ここ最近は収入が1だとすると支出が10。食費や配送費でお金が出ていくばかりでほぼ入ってこない生活を積み重ねた結果、社長がただ激太りしただけの赤字零細企業へと転落していた。
「くふふっ♥️やっぱりアルちゃん気づいてなかったみたいだね~。も~仕方ないなぁ…本当は別に必要ないかなって思ってたけど、アルちゃんに耳よりな情報持ってきたから、試してみてっ♪その間に私たちは猫探しでもしよっかな~♥️」
そう言って歩み寄ってきたムツキから手渡されたのは一枚のチラシ。ショックのあまり脱力していた社長の目に文字が映る。
「『新規プレオープン、体験コース受講生募集中…完全無料でモニターとなって頂ける方を求めています。一緒に水中トレーニングでスリムな体型を取り戻しませんか、無理のないメニューでどんな体型からでもシェイプアップ』…って、これ、スイミングスクールの宣伝じゃ…でも、確かに試してみる価値はありそう…ね…」
ぶにゅっ、ぶよん!
チラシを読みながら無意識のうちに掴んでいた己の腹肉が贅肉脂肪まみれで弾力しかないことを改めて実感し悟る。自分はこのスイミングスクールでダイエットをいい加減進めるきっかけを得なければいけないのだと。
それと同時により現状を見るならば、社員3人の為にも社長として一友人として、足を引っ張ってばかりはいられないのだと。
そうして、この日はカヨコとハルカも合流した午後から、特大サイズの水着購入とスイミングスクールの体験コース入会の手続きに四人揃って奔走したのであった。
§§§
「アル様は、ま、まだいらっしゃらないのでしょうか…」
「まだシャワーとか色々準備してるんじゃない?もう暫く一息ついてゆっくり待とう」
「「「はぁ~…」」」
スイミングスクールの申し込みに現地の店舗までやってきた便利屋の面々。偶然、というか奇遇なもので、開店直後かつ客足が乏しい上に、ちょうど数刻後に水中トレーニングのレッスンが始まると聞いて、この機は逃すまいと即入会。自力での着脱衣が困難になりつつあったアルを全員で着替えさせた後、施設の展望テラスからプールサイドに社長が現れるのを待っていた。
「にしてもムツキ、社長の水着、あれでよかったの?三人がかりで何とか着せられたけど、サイズが…」
日常生活でアルがしていた服装は特に下半身が黒を基調にしていたのもあって、想像上の彼女の太りようとは何倍も肥え太った彼女の姿が半裸にして先ほどまで更衣室にはあった。
スカートに押し込まれていた腹肉に関して言えば、ウエスト部分で締め付けられていたベルトを外して脱いでみれば、どっぷりと大きくせり出して膨らんだ二段腹が顕になる。
それと共に、スカートで隠されていた下半身は、出不精かつ座ってばかりいた近頃のアルの生活を体現したのか、肉を蓄え続けた巨尻から下はブヨブヨのセルライトと皮下脂肪が纏わり付いていた。特に、内腿に至っては肥満体特有の贅肉の段が幾重にも重なっているほどだ。
「ふふっ♪お店にあった一番大きいのを出してもらったから、あれ以上大きなのはないんだって~。もっとおっきいのは特注らしいよ~♪」
「ふ、風呂敷…カーテンみたいな大きさで……。それに、アル様のお身体もとても弾力があって……」
カヨコの疑問に答えるムツキだが、三人の脳裏には暫く経ってもなお、カーテン級の特大水着とそれにギチギチに肉を詰めながら何とか息を切らして更衣を終えたアルの姿が残っている。
手に取った時点では店の在庫で最大サイズ、とてつもなく大きかった水着が、社長の前にするとそれでも小さく感じられたので不思議だ。とはいえ、今の便利屋は食費等でお金が底をつきかけている為、オーダーメイドの水着を作る余裕などない。無理にでも小さくてもその水着に耐えてもらわねばならぬのだ、アルの肉圧に。
「揉んでて気持ちいいよね、アルちゃんのお肉♥️」
「まぁ否定はできないね。あそこまで太ると贅肉ってあんなに柔らかいんだ…」
手を握っては開いて、水着を着せた際に触れた社長の贅肉の感触を思い出す社員一同。水風船やクッションのような巨体に触れるとか細い指がぶにゅっと沈み込み、そのまま手を動かせば重くはあるがいとも簡単に贅肉の山を波打たせられた。その感覚が忘れられない。当の本人は汗だくになりながらも、触れている彼女の肌は汗で湿りながらひんやりと冷たく、夏にはその分厚い脂肪に触れるだけで涼めそうだ。筋肉が落ち代謝も低下したアルの方からすれば、ただでさえ暑苦しいのでたまったものじゃないだろうが。
と、そう談笑しているうちに、無人のプールサイドに一つの下膨れの巨体がノソノソと歩き現れた。
「あっ!見て見て!あれ、アルちゃんじゃない?おーい、アルちゃ~ん!!ファイト~♥️」
「ム、ムツキ…!展望室からじゃ声も届かないから」
展望室から手を振る室長。だが当然両者はガラス張りの壁で隔てられているため、プールサイドを既にへとへとになりながら歩く社長には声は届かない。
まだトレーニングはおろか、水中にすら浸かっていないのに疲労と哀愁の漂う背中。それもそのはず、この数ヵ月間ほぼ依頼もなく、外出も社員に任せてばかりで全くと言っていいほど運動量が足りていなかったその身体は、久々の遠出と階段の上り下りで既に体力切れを引き起こしていた。
他方、見方を変えれば一歩踏み出す度に波打つその垂れ下がった二段腹と、互いにぶつかり合い震える腿の贅肉、なんならその身の脂肪と重力によって嘗ての三倍ほどの重荷となった身体自体がアルの体力消耗を加速させていると言っても過言ではない。
「あ、アル様!!…と、あれ…もしかして…ですけど…」
漸く見えた敬愛なる社長の姿に沸き立つハルカだが、その後方数mにまたしても見覚えのある容姿を目にしていた。
寝起きから整えられた形跡のない散らかった黒髪、瓶底のように厚いレンズのメガネと、細マッチョ…とまでは言えない水着姿に肩の下がった微妙な猫背加減が彼の健康の危うさを醸し出している。
そう、シャーレの先生だ。
「いやはやぁ~、しかしまさか本当にシャーレの先生に手伝いに来ていただけるなんて思いもしませんでしたよ~。急遽今日のインストラクターが欠勤してしまって、ダメもとでシャーレにお仕事を依頼して良かった良かった」
「いえいえ、キヴォトスでこうした健康事業を行う方が増えるのは一人の大人としても有難い限りですし、今日は予定も空いていたのでこちらこそお手伝いできて光栄です」
プールサイドをゆったりと歩きながらこのスイミングスクールの経営者であろう人物と打ち合わせを兼ねた会話を交わしているであろう姿は、展望室の若い生徒たちの目から見れば声は聞こえずとも立派な大人そのもの。
一方先生目線では、事業の肝であるプールの施設にどんな設備や備品が揃えられているかを歩きながら解説され、一通りの案内を終えていよいよレッスン開始といった状況だ。
「それでなんですが、今日の体験コース受講生というのは何人来ているんでしょうか」
隣を歩く経営者に今日の業務において欠かせない確認、「一体何人が受講生として足を運んでいるのか」を尋ねる。もしも10人20人となれば、先生一人で全員の水中エクササイズを監督するのは至難の業だ。相当気を張らねばならない。半ば緊張しての質問だった。
「一人ですよ」
「えっ、あ…一人…ですか?」
が、その緊張はどうやら杞憂だったようで、拍子抜けするような極少人数、というか単数で先生も耳を疑いかけた。
たった一人なら経営者本人が監督するくらいできるのではないか…とさえ思ったほどだが、バックヤードの仕事もあるのだろう。そうして半ば溜飲が下げ、視線を前方へ向ける。
「ええ、一人ですよ。…っと、ちょうどあそこに。今日の受講生さんがいますねぇ、書類を見た限りでもかなり手強そうな人ですから、シャーレの先生も心してかかってくださいね~」
経営者の指し示す先に目をやると、ピチピチの競泳水着に明らかに窮屈そうにして巨体を収めた一人の女性の姿が。
いくら先生といえども、ここまで肥え太った人を見たのは初めてであり、口にこそしないが目測で体重150kgは超えていそうな身体に興味が湧く。
だが先生の目に映るその姿、どこかで見たことがあるような気がして止まない。
ゲヘナの生徒特有の角が首裏から見え、ヘイローの形にも見覚えがある。赤みがかった髪、先生ほどではないが今まで見てきた生徒の中では比較的高めな身長。…どこかで会ったことがあるような。
しかし彼が記憶を辿ってもここまで太った生徒などいないはず…、と歩きながら考え込んでいたその時、経営者の口から答えが提示された。
「いやぁ、お待たせして申し訳ないですー、陸八魔さん」
「い、いえ、私もちょうど用意が済んだところよ…!ふぅ…た、体力も有り余っていることだし早速始めましょ…えっ」
名を呼ばれ振り返る女性の顔、そして何より呼ばれた姓を聞いて先生の中の絡まった思考の糸が一気にほどける。
陸八魔という苗字の生徒、人は先生が今まで会ってきた中でも一人しかいない。
それに、振り返った瞬間視界に入った先生の顔に唖然とした彼女の表情を見てもそれは明らかだった。
「あ、アル…?アルだよね…?」
「せ、先生…!?どうしてここに…。…って、いえ!人違いよ!?私はその、うぅ…」
アルの内心を明かすならば、重い腰を上げて競泳水着に全身の肉をなんとか押し込みながら臨んだスイミングスクールのレッスンで、あろうことか暫く連絡をアルの方から絶っていた先生に出くわすなんて…。といったところだろう。
急な出来事に身構えながらも、「先生」というワードを口にしてしまったことを包み隠すように人違いを主張する。
確かに喉に肉がついて太くなった声やブクブクに肥えたその容姿はまるで別人のようだが、しかしそれ以外の確定材料があまりに多いのは変わりなかった。
「アル…暫く連絡がないなぁと思ったらずいぶん成長、したんだね…」
「ん?おや、先生と受講生さんはお知り合いでしたか!なら話は早いですなぁ、それじゃあレッスンの方、宜しくお願いしますね先生。私はこれで」
「あっ、は、はい…」
先生の中では彼女が容姿は変わっても陸八魔アルだと確信しているため、人違いなど全く考えずに口を開く。
この一連の様子を見て察したのか、それまで同行していたスイミングスクールの経営者はその場を後にする。説明すべきことは全て伝え終え、受講生は先生の知り合い…ならばもう後は任せればよいだろうという判断だ。
そうして、展望室から便利屋の三人が見ていることも知らず、二人きりになった先生とアル。
この状況に陥れば、もはや言い逃れはできそうにない。
「じ、実は太りすぎて…ダイエットのためにここに通っていて……。で、でも初日からこんな……み、見ないで…。こんなにブクブク太った身体、先生に見られるなんて…」
最初こそ驚いたような表情をしていたが次第に暗雲立ち込め彼女の様子は曇ってゆく。
それもそうだ、憧れに近い感情を抱く理想の大人である先生に、みっともなく惰眠と暴飲暴食を尽くして肥えに肥えた肥満体を見られては平然となどしていられない。
アルの中のアウトローへの意識の他にも、先生の生徒として、便利屋の社長と経営顧問という関係として、一人の女性のありかたとして羞恥心が汲み上げてきたのだ。
ミチミチッ…
「こんなに太った身体じゃ、アウトローにもハードボイルドにも程遠いわよね…。我慢できずに食べて太っての繰り返しだもの…」
自虐的に語るアルだが度が過ぎて目に涙が浮かび始める。確かに食欲に任せて食べてばかりいた結果が今の身体なのだから自分以外責めようがない。
ムツキ・カヨコ・ハルカの三人の合計以上に増しに増した体重が一身に纏わり付いており、特に競泳水着に覆われたボールのような巨大な二段腹には山のように脂肪が備蓄されている。一方で腹とは対照的に皮下脂肪でコーティングされた四肢は、特に下半身に至ってみるとたぷたぷの贅肉の段が形成され、同年代の生徒のウエスト以上のサイズを片脚だけで担っていた。
「私は…そんなことないと思うよ」
「えっ…」
「私はね、生徒の見た目がどうとか素行がどうとかは正直どうでもいいと思うんだ。特にキヴォトスに来て毎日痛感してる。私よりうんと小さいのに重い責任を背負っていながら毎日を堪能している子や、私よりよっぽど大人びて色んなことを考えて物事に打ち込んでる子がいる。容姿で人は測れないんだよね。
だからね、アル……たとえアルが急に金髪にしたり薬で身体が縮んだりしてどんな見た目になっても、私はアルをアルとして見たい。今のアルでも十分素敵だと思うよ」
顔のひきつっていた彼女を見て、大人の出番だと察した先生は持論を語る。それはここキヴォトスで生徒たちと培ってきた彼の認識だった。
ブチッ、ミチミチッ…
「それでも…いいの…?こんな私でも…。」
先生の見解を聞いて再び視線を上げるアル。その目はどこか救われつつあるよう。
「うん、私は今のアルも前のアルもどっちも好きかな。…それに、暴飲暴食に惰眠ってある意味、アウトローな感じがすると私は思ったけどね!」
言われてみればそうとも捉えられよう。普通の人が増量を恐れてしないような暴飲暴食を平気でこなし、あろうことか運動もせず惰眠を貪って好き勝手に生きる……アウトローとも捉えられなくもない。
アルの中でこれまで抱いていた理想像と自分の物理的な容姿がかけ離れていたため気づかなかったが、一側面として彼女は既に望む生き方をしていたといえる。
「た、確かに……。え、ええ…ありがとう、先生。やっぱり先生は……カッコいいわね…」
「ん?何か言ったかな?」
「いいえ、何も!」
差し出された救いの手に彼女は手を乗せ返し、笑顔を取り戻す。体重自体は減っていなくとも内に抱えていた重いものは下ろせたようだ。それを見て先生も安堵する。
さて、これからスイミングスクールのレッスンを始めようか、そう彼が考えていたその時、不穏な音を生徒の身から耳にした。
ブチブチブチィィィ!!!
「あ、アル!?水着が…!!」
「へ?水着…??」
さっきまでとは打って変わって表情に緊張の色を見せる先生に、当人も拍子抜けな声を発する。先生の目線の先は若干下がっており、その対象は自身の腹であるとアルもすぐに理解する。
途端、なにやら窮屈さが軽減されたような気とまだ水にも入っていないのに腹部から体表に涼しさが流れ込んでくるような感覚を受ける。それは間違いではなかった。恐る恐る顔をうつ向かせ、膨れ上がった両乳を押さえながら腹に目をやると…。
ビリィィィッ!!
「なっ、何で破れてるのよーー!!??」
柄の境をまさに割るようにして競泳水着が内側の肉圧に負けて張り裂けている。上下にぱっくり破れた布の間からアルの熟成された二段腹が堂々と顔を現し、更に圧力から逃れるように裂け目を広げていく。
素肌と共に顕になっていく腹肉の山。もはや水中トレーニングどころかプールへの入水、大きく動くことさえ、はだける危険を伴い断念せざるを得ない状況がそこにはあった。
「あははっ♥️アルちゃんと先生、表情がコロコロ変わって面白ーい!水着もやっぱり破れちゃったねっ♪」
一連の様子を高階から見ていたムツキが笑い転げる。あまりの笑いっぷりにガラス壁を越えて声が届いてしまいそうだ。
「これは…今日はもう帰るしかないかもね。社長もなんだかリフレッシュできたみたいだし」
「そ、そうでしょうか…私にはよく分かりませんが……」
長く笑い続けたのちに呼吸を整えるムツキとは対照に、カヨコは早々と荷物をまとめ始める。嫌気が差したり失望したりしたからではない。単に水着破損による運動の中止と社長のどこか自然体になった様子から判断しただけのことである。他方、カヨコの横に座っていたハルカにはいまいちよく分かっていないことが多かった。いずれ経験を重ね人を見ていけば分かるのだろう。
「はぁー…笑った笑った♪でもカヨコちゃんいいの?…ハルカちゃんが何て言うかは想像がつくけど、アルちゃんのダイエットがもしここで頓挫しても」
「別に私は社長がいいならそれで構わないよ。私たちキヴォトス人は頑丈だし、多少太っていたところで社長がその道を進むなら私は着いていくだけ」
「わ、私もアル様に一生…着いて、いきます…!」
室長の問いにあっさりと返答をした課長に続く形で平社員も同意を示す。どうやら彼女たちの社長への思い入れは強いらしい。
そしてそれは室長もまた変わらなかった。
「ふーん、純情だねっ♪まぁ私たち四人なら変わらず楽しくやっていけそうかなっ♥️」
身の丈ほどの鞄を手に、ひょいっと跳ぶとムツキもまた地に足を着け踏み出す。
さて、今度は3人の力を合わせて社長に着せた競泳水着を脱がせる番だ。きっとシャワーだけ浴びてプールにすら入っていないのに汗混じりでびしょびしょのはず。もしも脱衣が困難ならいっそ水着を破るのも手だが、そうなった時のアルの顔は想像に難くない。
その頃、アルと先生の方は一件をトラブルとして経営者に伝えてプールサイドを後にしていた。羞恥によって紅潮した彼女の顔が、はだけたアルを人目に晒したくない先生によって軽く抱かれていることでより赤らむ。経営者の目を丸くして気の抜けた顔も先生の脳裏に残る。この日の事は先生とアル、そして便利屋の面々にとって忘れられない出来事となった。
ーーーーーーー
陸八魔アル
Height: 160.8 → 160.9cm
Weight: 80.6 → 168.9kg
B: 102.7 → 139.5
W: 99.6 → 180.2
H: 109.9 → 172.3
§§§
「わぁ…ここに今のアルたちの事務所があるのか……たっか…」
寒空の下、久々のムツキからの連絡を受け、シャーレから気分転換を兼ねて徒歩で待ち合わせ場所へ向かった先生は驚嘆する。というのも、約束の場所はゲヘナの中でも随一を誇る高層マンションのエントランス。見上げてもキリがないほど高い建築物に首の筋がつりそうになる。丸で空から地に槍が刺さっているようだ。
と、口を開けて間抜けな顔をしていたところに、建物の入口から迎えがやってきた。
「やっほー先生っ♥️さっ、入って入って♪特別ゲストで皆待ってるから早く~」
空っぽだった先生の手を取り、インターバル0秒で成人男性を引っ張りながらマンションへと連れていくその子はムツキだった。
「わ、分かった分かった!ムツキ久しぶりだね」
「くふふっ♥️そういえば先生と会うのも暫くぶりだね!アルちゃんのお世話に夢中になってたから中々先生に会いに行けなくて、折角だし呼んじゃった♪」
かれこれ最後に会ったのはアルのスイミングスクール事件の後、帰宅していく便利屋の4人を事務所まで送り届けた時だから、もう半年弱は会っていなかったのか。
ムツキだけではない、カヨコやハルカ、勿論アルともそれ以来お互いの都合が合わず会えていない日々が続いていた。
しかし、呼んじゃったとはいえ一体この高層マンションで何階まで上がるのだろうと、ムツキに引かれて入った新品同様のエレベーター内で思索する。一階、また一階と上がるにつれ、どこで止まるのか気になってくる先生。
「あの、ムツキ…?皆の事務所って何階にあるの…?」
「あれ~?言ってなかったっけ?最上階だよっ♪」
「え…?さ、最上階…それってかなり家賃も高いんじゃ…」
先生からの問いに軽く返答する彼女だが、先生にとっては打ち返された球が豪速球すぎて飲み込むに飲み込みきれない。高層マンションの最上階なんて一般市民はおろか大抵のお金持ちでもなかなか住めるものではないはずだ。先生の中で心当たりがあるような、お金をたくさん持っている生徒でもそんなところに住んでいる生徒はいないだろう。
だが、そうした高層マンションの最上階に今君臨(?)しているが便利屋68というのだから、また何かの気まぐれでアルたちの事業が大当たりしたに違いない。
…そこからの転落劇がなければいいのだが、と下世話にも先生が内心心配している様子をみてムツキが言葉を発する。
「あはっ♪そんなに心配しなくてもいいよ先生っ。見れば分かるから!ほらっ、着いたよ行こっ♥️」
そう言われムツキの手招くままにエレベーターから降りる先生。その時点で今まで彼が見てきた便利屋の事務所のどれよりも清潔感のある玄関をしており、きらびやかな生活が伺える。だが基本的に物が増えたり、逆に断捨離がされた形跡はなく、玄関から入るにつれて意識的に「かつての気に入っていた事務所を再現した間取りや内装」といった印象が強くなる。
「凄いでしょっ!私たちで特注してカスタムした内装、アルちゃんがどうしてもっていうから特別に作ってもらったんだよ♥️…ただいまぁ!特別ゲストも連れてきたよ♪」
玄関から入った先、分厚い扉をムツキが力を込めて開けると彼女は帰宅の合図をする。つまりこの先に他の便利屋メンバーもいるということだ。
彼女の後を続いて室内へと足を踏み入れる。すると部屋の床に爪先が着くより先に、こってりとしたジャンキーな香りが鼻を刺してきた。油っぽく、プライドポテトやハンバーガー、チキンなどが机上に広げられたような匂い。
それは先生の妄想などではなかった。
「おかえり…あっ、特別ゲストってやっぱり先生か。…久しぶり先生」
4人掛けのファミリーテーブルに広げられたジャンクフードから取ったであろう、分厚い肉と溢れそうなチーズの挟まったハンバーガーを両手に持ち運ぶ生徒はカヨコ。
彼女もパッと見で分かるようにムツキ同様健在なようだ。
「お、おかえりなさい…!今撮影を始めたところなので…後で編集してカットしておきます……あっ、せ、先生も一緒だったんですね…長くご無沙汰して、す、すみません…!」
そして、部屋の中央付近で高価であろうビデオカメラを三脚に繋げながら、その後ろに位置取ってスタンバイしていたハルカも、ムツキの声に振り返っては先生の存在に気づく。
「やぁカヨコ、ハルカ。久しぶりだね、お邪魔します。…にしても二人は何をして…」
生徒の住まいに入るのもあって先生も軽く挨拶を済ませると、ふと疑問に思っていたことを発しかける。
高層マンションの最上階、山盛りのジャンクフード、三脚とカメラ…パズルのピースは揃い掛けているが、未だどうして彼女たち便利屋がこうした生活を送っているのかぎ先生には考えが及びきってはいなかった。その声を聞くまでは。
「ぶふぅ……はむっ…、もぐっ、んぐっ、ごっくん!プシュ…ゴクッゴクッごぷっ……ぶはぁ……んげぷぅぅっ…♥️
ふぅ…むふぅ…カヨコ、次はポテトも持ってきて頂戴♥️まだまだウォーミングアップには軽すぎるわよ……げふっ♥️お腹もぺこぺこよぉ……♥️」
べちっ、どっぶん!ぶるんっ!
野太い声にむしゃむしゃとハンバーガーに食らいつく咀嚼音。以前聞いた声よりもだいぶ肉厚で籠ったそれは、壁際の背なしソファの上に鎮座し貫禄を放っていた。まだまだ空腹といわんばかりに叩いた巨大な腹は衣装諸共盛大に波打っては揺れ、濃厚なげっぷを響かせる。
「えっ…や、やあアル…。暫く見ないうちに随分と大きく…」
「あはっ、特別ゲストに…先生連れてきちゃったっ!今ね、収録中なんだよ、先生!」
「せ、先生!?これは……ふ、太ったままでいいって先生が言うから……!あむっ、はむっ…た、食べる手が止まらない…♥️」
巨大なぬいぐるみやクッションかと思わせる巨体が狼狽えながらまた一口ハンバーガーに大口を開いてかぶり付く。
収録中、というムツキの言葉やそれまでのパズルのピースがきっかりと嵌まっていく。要はバニー姿にコスプレをしたアルが食事を摂る様子を撮影していたのだ。
「私は『今のアルも好き』とは言ったけど、太ったままでいいとは……。いや、でもそう思っても仕方ないか…」
苦笑いをこぼしながら、スイミングスクールで会った時より数倍巨大化し、身体のあらゆる部位を肥え太らせたアルを見て先生は溜め息混じりに言う。決して落胆したわけではない、ただ現状を受け止めるのに時間がかかっているのだ。
「そ、そうよ…それにこの身体のお陰で、あむっ…むふぅ…沢山食べる私が見たいっていうパトロンもついたのよ!それで便利屋の経営も安定して……んげぷぅぅ♥️」
パンパンに膨れ上がった顔で頬一杯にハンバーガーの栄養を詰め込みながら、二重顎を揺らして社長は語る。そう、彼女は今、自身の食べる姿、そしてそのまま太りゆく姿をパトロンに発信する事で便利屋の莫大な資金を調達していた。一種のインフルエンサーとも見ることができよう。
その容姿は肉の山の如く図体。重力に負けて膨らみ垂れ下がった巨腹が邪魔をして、ブヨブヨの皮下脂肪が纏わりついた極太の足を閉じる事もできず、正面から見ても分かる山のような巨尻はアルの座高を20cm以上高めるほどで、ただ座っているだけなのに壁にも尻がつくくらいに大きい。おそらく彼女が立ったのなら彼女の座っていた背なしソファの部分だけが深く沈み込んでいよう。
ところどころ破れ、穴の空いたバニーコスチュームは、その穴からアルの柔らかすぎる肌を覗かせ、次第に全ての布が弾けとんでしまうのではないかと思われる。特に巨大な腹肉の上段は浮き輪のように厚く、更にこうしているうちにまた一つ、また一つとハンバーガーを彼女が平らげていることから布の裂け目が腹の膨らみに応じて広がっている。げっぷを伴いながらもタイムリミットはごく僅かといったところだろう。
以前より増して膨らんだ彼女の両乳房も腹肉の上に乗っているが、少し布が捲れればその内側に秘められた恥部が顕になり得る。非常に危険な格好だ。両腕も肉が巻き付いており、栄養失調ぎみの先生のウエスト以上に太いものの、その肉の内側にどれだけの筋肉が残されているのかは興味深い。
総じて今のアルの身体は肉の塊のように太っており、立つことはできたとしても、戦闘を行えるのか、戦闘ができたとしてその肉の揺れと体力の消耗に彼女がどれだけ耐えられるのかは怪しいものと化していた。
ビリッ!
過去に一度聞いたことのあるような音が再び先生の鼓膜を叩く。
ビチッ!ビリィィィッ!
それは間違い探しというには急速な変化として、アル以外のその場の全員の目前に現れた。
「ほ、本当は痩せようと思ってても……あむっ、もぐぅもぐぅ……ごっくん、つい食べちゃうのよ…はむっ。
んぐぅ…お、美味しくてぇ…♥️と、止まらないのよね…♥️
もっと、もぐっ、食べないと…♥️はむっ、むぐっ…先生?
先生が…食べさせてくれてもいいのよ…?餌付け…して……んっげぷぅぅ♥️」
「あ、アル…それよりも…ふ、服が…あっ!ちょっと!」
周囲の様子が次第に青ざめていくのを露知らず、ひたすら食べ続けるアルは己の身に何が起こっているのかも理解していない。
穴は広がり、その衝撃で恥部を覆っていた布が溢れる。
当然先生はアルにその事を気づかせようとしていたが、ついに顕になった恥部を前に目を反らすしかなかった。
「しゃ、社長…それ、大変なことになってるけど…」
「わぁ♥️アルちゃんってば、先生の前で大胆~♥️これがホントのアウトローってこと~?♥️」
「あ、アル様…!す、すぐに録画データを削除…いえ、カメラごと爆破しますので……!」
先生が目を背けたと同時に社員一同緊急事態と判断したのか、一斉に口を開く。
困り顔で半ば呆れた様子を垣間見せながら、この四人での愉快さを肌で感じているカヨコ。
社長が自分で気づくように単刀直入に事態を口にして茶化しながらも、場を書き立てるムツキ。
映ってはいけないものがバッチリと記録されたことに慌てふためき、データの削除よりもいっそカメラ自体の爆散を試みようとショットガンをレンズに向けるハルカ。
先生と生徒三人各々の反応が食に夢中になっていたアルにも伝播し、ようやく以て彼女自身が肉山のような身体で起こった異変に気づくこととなった。
「んぐっ、ふぅ、ぶふぅ…♥️ん…?どうしたの?私に何か……え、えええぇぇ…!!??
ちょ、ちょっと先生、見ないで…!んっげぷぅぅ…む、ムツキ何か着るものとかないの!?カメラも止めてぇぇ…!!??」
バニーコスチュームの生地が破れに破れ、裂けた部分から溢れるように巨腹肉が垂れ出す。どっぷりと構えた肉の山があれよあれよと曝け出され、そのまま胸に当てていた布さえもヒラリと脱げてしまっていた。
絶対的大惨事。自分で動こうにも太りすぎてロクに身動きの取れない身体がこんなにも不便だとアルはこの日、改めて痛感したのだった。
後日談にはなるが、どうやらハルカが操作していたカメラ及びそれに繋がっていたPCにて、動画の撮影・録画をするはずだったのが、天然かはたまた神の悪戯か、一連の出来事が生配信になっていたらしく、諸々の事故が全てアルのパトロンへ発信されていたということを先生はムツキから聞くこととなった。それにより、絶景が拝めると一時はパトロンが急増。便利屋の経営状況は更にウハウハになったというが、ものの数時間後にはネットの規制に引っ掛かりアカウントが凍結。更にはキヴォトスの法律に引っ掛かる卑猥な映像が頒布されていたとして、便利屋の存在が風紀委員会のみならず正式にヴァルキューレ警察学校にも周知された。
と、バブルはいつか弾けるもので、高層マンションの最上階における絶頂ライフから一転、健康状態は異常ないもののただひたすらに重すぎるアルの超肥満体を何とか抱えながら、便利屋68の逃亡生活が始まったというのはまた別の話。
ーーーーーーー
陸八魔アル
Height: 160.8 → 160.9 → 161.3cm
Weight: 80.6 → 168.9 → 326.8kg(720Ib)
B: 102.7 → 139.5 → 230.9
W: 99.6 → 180.2 → 280.3
H: 109.9 → 172.3 → 274.8
了
【リマインド】
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