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ずっと私の中に種はあった。ただ今まで気づいていなかっただけで、それはいつか必ず芽吹いていたんだろうと今になって思う。

この前見たドラマの主人公風に言うなら、「この世界線の私」は偶然なのか、はたまた初めから決まっていたような運命や必然なのか、高校2年生の初冬にその癖を目覚めさせることとなった。


きっかけは一つの些細な仕事。再現ドラマ。

前からお世話になっている芸能事務所の社長が私のキャリア育成を思って取ってきてくれた、きっと誰もが一度は見た事があるだろうゴールデン番組の名物コーナーの仕事。

『ちょっと経験の浅い分野かもしれないけど、これも一花ちゃんの名を世間に知ってもらう良いチャンスだと思うよ。どうかな、私の知り合いが君をどうしても起用したいとも言ってるし…』

学校帰りに立ち寄った事務所で社長から手渡された台本には、一目見て分かるように表紙に大きくその番組名と名物であるダイエット企画の再現ドラマのテーマが書かれていた。

パラパラと中を見ると既に私の名前も入っている。

一般的な女子高生が脂っこい食事や大食いに目覚めて60kgも激太りする、その女子高生の役が既に私にほぼ決まっているらしい。

諸々大人の事情もあるのだろうか、「起用したい」と言いつつも事後報告に近い誘いに私は戸惑う。

とはいえ、仕事内容に不満があるわけではなく、むしろ私もよく見る番組で世間に広く私という存在を知ってもらう機会になるし何より演技の勉強にもなる。

数分考えた後に、私は社長がもってきてくれたその仕事をありがたく快諾するに至った。


撮影はそれから2週間後に始まった。郊外の一軒家を借りてのロケで現場のスタッフはドラマの撮影ほどは多くないという。実際、現場に入るとそれも確かだと自分の目で知る。

ただその場でスタッフの数よりも気になったのは、もう冬場だというのにクーラーの効いたリビング。そして撮影現場であるそこで誰よりも大きな身体をしている女性。

台本に目を通した中で「激太りした後の女子高生役」として挙がっていた若手の女性芸人さんだ。

スタッフさんへの挨拶周りを終え、その巨体にどことなく威圧感を覚えながら恐る恐る彼女に近づくと、向こうから私に声をかけてきた。

「あ、中野一花ちゃんですよね!私、この前の映画観ました!凄く評判良いですよね~、等身大の女子高生の演技もピカイチでしたよ!」

大柄な体型から感じていた怖い印象とは真逆の柔らかい表情と軽いフットワークで歩み寄ってくるその人に、私の中の壁も取っ払われた。

「ありがとうございます!その…本日は宜しくお願いします!」

こちらも半ばビジネススマイルでお礼を返して何か話題を振ろうとするが、しまった。肝心のその女性芸人さんについて私は何も知らなかった。

ただ数刻の無言の後に目線を下げて、一言発してお辞儀をする。きっと微妙な空気に包まれるに違いない。そう思いながら重い頭を上げようとすると、再び相手の方から会話の口火を切ってきた。

「あ~、このお腹?初めて見るとびっくりするでしょ~。私、昔からデブだから一度は痩せてみたいと思ってるんだけどね。なぜか毎晩気づくと食べちゃってて、今や130kg!もう天性のデブ気質なの!あはは!」

「へ?…あ、あはは…そんな悪いことじゃないですよ~!むしろそれが強みだと私は思います」

拍子抜けしたまま顔を上げると、彼女は目線を下げた私を「自身の大きなお腹や巨体に興味をもった子」だと勘違いしたのか、でっぷりと膨らんだお腹を太い指と分厚い掌で撫でながら自身の太った経緯や今の体重を打ち明けてくる。

相変わらず下手な愛想笑いだと自覚しているが、笑みを返しながら一方で彼女のプロ根性や人柄に確かに私は無意識に惹かれていった。


(人前で体重を曝け出せるなんて凄いな…私は皆の前ですら姉妹なのに体重とか言えないし、フータロー君の前じゃとてもじゃないけど無理だよ…。にしても、凄い身体…。)

番組の演出として一女性が激太りするビフォーアフターにインパクトを付けたいという意図がある為か、目の前の女性芸人さんは冬場にもかかわらずTシャツ1枚にジーンズ。しかも服のサイズは身体よりも小さく、贅肉の段がくっきり出るほどにボディラインが明瞭化されていた。

特にお腹はチラ見えした素肌も気になるが分厚い二段の脂肪が目立つ。ジーンズも内側の肉がぎっしり詰まっている為かもう見ているだけでも弾けそうなほどキツい印象を受け、こっちがむしろ苦しくなる。おまけに彼女はクーラーの効いた室内でも額に汗を浮かべていた。

「一花ちゃん、もしかしてそういう性癖とかある…?いいよ、触っても」

私が目の前の女性芸人さんの巨躯に目をくぎ付けにされていると、そう耳元で囁かれた。あまり大きな声で言えないような、少しえっちな匂いがする。

性癖、なんて今まで考えた事もなかったが、急な囁きに心拍数が上がった私は何も考えずに頷いていた。

ニコッと無言でほほ笑む彼女。するとゆっくりとピチピチのサイズが合っていないTシャツに指をかける。ジーンズとTシャツの間から零れるように見えていたお腹が、彼女の手によってもっと露わにされていく。

ジーンズに乗った分厚い贅肉。お腹の肉がこんなにもこんもりと山のように膨れ上がっている事自体、私にとっては奇妙なことだったが、どことなくゆるキャラや着ぐるみのような包容力や柔らかさを視覚的にイメージし、少しずつ「触れてみたい」という興味本位の願望を抱き始める。

頷く相手に申し訳ないと思いながら、まずは右手の人差し指でその大きなお腹を突っつく。柔らかさと硬さの両方が備わった不思議な感触。跳ね返る弾力に今度は掌でがっつりと触れる。揉んでしまっては流石に一線を越えてしまうような気がして、手で触れながら撫でる程度にとどめる。なぜだろう、すごく、気持ちがいい。

「ふふっ…終わり終わり!なんか恥ずかしくなっちゃった!でも一花ちゃんがこっち側の子だったなんて意外だわ~、さっ、呼ばれてるしリハ行こ」

勝手に「こっち側」だと認定されてしまったことを否定しなくてはと思っていても、思うようにいかなかった。そこにはただ赤面して少し息の荒くなった私がいたのだから。


リハーサルで改めて理解したが、このダイエットコーナーの再現ドラマでは、激太り前の役をする場合でもマヨネーズ丼や皿一杯のからあげなど、大量のハイカロリーフードを楽しそうに平らげなくてはならない。

本番前からがっつり食べる事はなかったが、実際に食卓に座ってその食べ物の山を目にすると妙に緊張した。確かにこの類の仕事は今までに経験がない。

唯一の救いは、「一人暮らしをして親の束縛から解放されたことで大食いに走った」という役の設定。普通の家族勢ぞろいの場面を撮影されるだけならこれまでも多々あったことだが、もしこれが一家団欒の食事シーンで目の前に父親役、母親役、兄弟役の役者の方々に見られながら大食いの実演をしなければならないとなっていたら…、そう考えるだけで緊張が良くない方向へ行ってしまいそうだ。そうならなかっただけ良かった。


私の出演シーンのリハーサルを終え、次はさっきまで話していた女性芸人さんにカメラが向けられる。「激太り後の女子高生役」だ。

演技の勉強としても自分とは経路の違う役者を見ておくのは重要だ。そう思って初めは見ていた。

パツパツの制服を汗だくになりながら脱ぐシーン。サイズの合っていないTシャツを着て全身の肉が強調されている姿。朝食昼食夕食に常人離れしたハイカロリーフードを胃袋へ流し込むシーン。リハーサルだというのに本番さながら全ての食事を快く平らげる姿に、傍から見ている私がどことなく胸の高まりや憧れを感じてしまう。そんなに食べたら太ってしまうと分かっているのに。

それに、大して似ているわけではないというのに、どういうわけか自分がもし激太りしたら、目の前の彼女のような人間、体型になるのだという妄想が膨らみ、心がムラつく。

先程触ったお腹がもし自分のお腹だったら…、あの極太の脚や二段腹、130㎏という数字が自分のものだったら…。

ここが仕事場だということも忘れて私は一人、自分の世界に入りかけていた。

(もし、私が太ったらフータロー君にどう見られるんだろう…。ごくんっ)


本番を迎え、私は再びリハーサルの時に相対した皿一杯のから揚げの山や丼から溢れるほどの白米を卓上に迎える。これまでの演技は及第点を余裕で超えていたといっても過言ではない。NGはほぼ出していないし、現場からも流石の一声が上げられていた。

あとはこの食事シーンを撮りさえすれば、この場面を境に私とあの女性芸人さんとが入れ替わる形でドラマが進行していく運びになる。

大量のハイカロリーフードを私が自分の胃袋に流し込む、それこそが私個人のこの撮影の山場というわけだ。

だが、心なしかリハーサルの時に感じていた緊張や不安は薄れ、どこか私なら全て食べられるような予感に包まれている。根拠のない自信、とは少し違うが、リハーサルで彼女の大胆なまでの大食いや身のこなしを目にして以降、自分の中の枷が外れてしまっていた。


「ちょっとぐらい食べても変わらないよね!うはぁ~美味しそう…!いっただきまーす!」

少しオーバーなくらいの演技だが、食欲に駆られ目の前の食べ物に惹かれている女子高生の演技としては適切だろう。自然とそれらが湧き出てくる。

「あむっ、ほふっ、うっまぁ~!いくらでも、はむっほむっ、はべられひゃう…!もぎゅごくっ、とまらない…!」

拳骨大のからあげを大きな口で頬張る。姉妹の前でも見せた事がないくらいの豪快さをやってのけ、溺れそうなほどの肉汁と油共々、食道へ通し飲み込む。ずしんと胃袋に落ちる肉。これをまだあと暫くは続けなくてはならないが、その重さや味の濃厚さが私を魅了する。

はぐっ…むふっ、あむんっ…!

ふぅ、あむっ…もごもご…ごっくん!

プシュ…ごくごくごくっ…ぷはぁ…

カメラを意識した演技が時が流れるにつれ崩れ、いつしか周囲の存在など忘れたようにただひたすら、自身の食欲と名もない欲求の為に食に耽る。大きな一粒のから揚げにマヨネーズをこれでもかと乗せ、口へ運ぶ。それを食べ終えたかと思えば、丼山盛りの白米にもマヨネーズやその他調味料をふんだんにかけ、箸で口内にかきこんでいく。まるで大食い番組の出演者や相撲などのスポーツで増量に励む少年の食事シーンのよう。

自分の中でも多少の罪悪感こそ感じていたが、それ以上に食べる事の快感と膨らんでいく私自身のお腹の圧迫感に幸福を覚えていた。

最終的に全ての料理を平らげ、〆の2Lコーラを飲み干す。メイクが崩れそうなほどの汗と腹部の苦しさに苛まれながら、これ以上ない満足感と達成感。自分がこれまでの自分ではない何者かになれたような気がした。


「いや~一花ちゃん、良かったよ!まさかこんなにも上手いとは思わなかった!次も是非使わせてほしいくらいだよ!」

撮影終了後、現場監督を始めとしたスタッフ一同の絶賛を照れくさく思いながらも、特にあの女性芸人さんからも拍手を受け、笑みがこぼれる。だが妊婦のように丸く突き出たお腹の重量が私の意識を自身のお腹へと向けさせていた。

「皆さんありがとうございま、げふっ!…し、失礼しました!」

深くお辞儀をしたと同時に腹部に溜まったガスが無意識に放出され、一気に羞恥の底へと落とされる。人前でげっぷしたことなど初めての経験だ。

その後、苦笑いやフォローをスタッフさんたちがしてくれたが、私はただただ恥ずかしさからその場を後にした。思い返してみれば今日の私はおかしかった。太った人の身体に夢中になったり、慣れない大食いで興奮したり…。


帰宅する頃にはもう夜も更けている、夕飯を作ってくれている二乃には悪いけど流石に食事は控えるしかない。そう考えながら乗っていた社長の車は既に私の家の近くまで差し掛かっていた。お腹とシートベルトの当たる感覚が、どことなく他人にお腹を摩られているように思えてきて、また少し興奮している。この感情を誰にも知られてはならない。

もし知られようものなら私は変態、変な子扱いされる。

「一花ちゃん、着いたよ」

社長の一声で我に返ると、そこは自宅の目の前だった。そびえ立つマンションに入れば、姉妹皆の待つ我が家がある。送り届けてくれた社長に降車後一礼すると、お返しのウインクがされ車は走り去っていった。

さて、帰るか。一歩踏み出す。

ぎゅるるるる…

「こ、コンビニでも寄ってから帰ろうかな…ちょっとのども乾いたし…」

まるで身体を誰かにラジコン操作されているかのように脚が自宅から離れていく。車で来た道を少し戻り、最寄りのコンビニに入るとさっき2Lも飲み干したばかりのコーラをもう一本。そしてから揚げ弁当とペペロンチーノをレジに運ぶ。会計1000円オーバー。高校生が一食にかける値段としては高い。だがお腹がそれを欲しているのだから仕方がないだろう。

「お箸いくつお付けしますか?」

「ひ、一つで…あと、コロッケ2つ…」

自分が中野一花だと気づかれないように俯きながら追加注文をする。ホットスナックコーナーのコロッケが輝いて見えた。

まったく自分は何をしているのだろう、と後悔に近い念を抱きながら、その念の重さがそのまま手にぶら下げたレジ袋の重さとなって身体にかかる。

コンビニを後にしエントランスを通ってエレベーターに乗ると、家のある階まで登る箱の道中でもまた同じように自分の奇行を振り返る。

(こんな、デブ活みたいな…、ううん、なんか私、太る事が…)

扉が開き徐に階へ降り立つ。目と鼻の先に家がある。

考えながらふらふらと向かった玄関先で扉を開くと、四葉の「あ、一花帰ってきた…!」という声がまず耳に届く。

思えば今日の私の摂取カロリーは運動なんてしていないから全てお肉に変わってしまうのだろうか、そう考えるとまた不思議な感覚に襲われる。

「ただいま…!遅くなってごめん…!」

「おかえりなさい、一花」

玄関で靴を脱ぎスタスタとリビングへ入っていくと、出迎えてくれる姉妹たち。本当に良い妹を持ったものだ。五つ子だけど。

そのままの勢いでリビングからキッチンへ向かう。水場で食器を洗う二乃の様子を見るに、既に夕食は私以外済ませているらしい。

「あら?一花、手に持ってるそれ…」

自分から話を切り出そうと思ったのに、二乃に先を越され一瞬戸惑う。

「こ、これ?あ~撮影終わった後にスタッフさんから貰ってね!賞味期限もあるし、夕飯はこれで済ますから…二乃ごめん、私の分の夕食、明日にとっといて!」

レジ袋を一度おき、申し訳なさから手を合わせて謝る。誠心誠意謝らなければ二乃の場合は時次第で機嫌を悪くしてしまうから。

「あっそ、まあ全然いいわよ、一花だって疲れてるでしょ。早く食べてお風呂に入って、さっさと休みなさい」

「ほんとごめんね…。あ、それと…マヨネーズ、ちょっと借りても、いい?」

「は?い、いいけど…あんたがマヨネーズなんて、珍しいわね…」

我慢できずに脳裏に刻みこまれたマヨネーズの味を求めて口が動く。自分でも変なのは自覚しているのに。「ありがとう」とだけ返して冷蔵庫からマヨネーズを一本取り出し、レジ袋と共にそれを抱えて部屋へ早足で向かう。

これは恥ずかしさや居心地の悪さからではない。ただ、一早く食べたかったから。

ガチャン…

部屋の扉をしっかり閉じ、服を脱いで半裸の状態のままベッドの上で弁当やパスタの容器を開く。

一気に部屋中に立ち込める食べ物の臭い。特にから揚げに含まれるにんにくの臭いがツンと鼻に響く。臭い。だけどそれを早く食べてしまいたい。

ブリュっとマヨネーズをから揚げ弁当の上にかけ、付属のソースをその上から更にかける。これだけで撮影時の光景を思い出し、ムラムラし始める。

「い、いただきます…!」

あふっ、むぐもぐっ…うまっ…

ふぅふぅ、もごっごくん、もっとたべたい…

プシュ…ごくごくごくっ、げぷっ…だめだってわかってるのに、どうして、あむっはむっ、ごくんっ…きもちいい…


その間10分弱、たったそれだけの時間で弁当2つとコロッケ2つ、そしてコーラを胃袋に収め、本日二度目の満腹を迎える。やはり私はおかしくなっているのか。

「フータロー君にこんなとこ見せられないな…」

ぽっこり膨らんだお腹が、半裸なのもあって確かに視界に映る。明らかに太る行為。だがそれがやめられそうにない。きっと明日の朝も…。

そう考えていた私だったが、夜食を買いにまたこっそりとコンビニに向かう事になるなんて、その時はまだ思ってもいなかった。


中野一花

Height:159.2cm

Weight:48.9kg

B:88.0

W:57.2

H:89.7



~~~~~


「あーえっと…忙しいところ来てもらって悪いんだけど、一花ちゃん…その…」

「もぐっ、むぐっごくんっ…何ですか?」

あの撮影の日から約2ヶ月。新年を迎えそれから2月も近くなった頃、私は学校帰りに事務所に寄っていた。用件は伏せられたまま。ただ面談ということで呼ばれたので行ってみれば、なんとも神妙な面持ちの社長が待っていた。

張りつめた雰囲気に耐え兼ね、私は手に持っていた唐揚げ棒にかぶりつく。途端に広がる鶏肉のジューシーな風味が心を落ち着かせる。

「その、お腹…!あご!太もも!どうしたの一花ちゃん…!」

声を上げて私のお腹を指差す彼。あぁそのことか。

顎を引き、社長が指差す私のお腹に目線の下げようとするも、お腹を見るには膨らみすぎた胸が邪魔する。最近ブラのサイズを大きくしたばかりだというのにまた大きくなっているようだ。

仕方なく自分の視野だけに頼るのを諦め、社長室の全身鏡に自身の姿を映す。

「うわぁ…私すごく太りましたね…お腹も脚もパンパン…私の顔、こんなに丸かったでしたっけ…?」

五月ちゃん以上の買い食いを半ば無意識で続けていた私の身体は当然ながら元のスリムで皆から羨ましがられる体型ではなくなっていた。だがショックはない。

なにせ毎日お風呂や脱衣場の鏡でも目にしているから。でっぷりと膨らんで二段になったお腹のお肉も、極太な太ももの中でもとりわけブヨブヨな内腿の贅肉も、パンパンに膨れた顔とそこに鎮座する二重顎も全部知っている。

ただ知らなかったのは、全身を通して見てみると、自分の想像していた以上に私自身がデブっていたことだけだった。なんなら、この姿を見た瞬間、私の姿があの撮影で会った130kgの彼女の姿に見えたくらいだ。

実際はそこまでまだ太っていないのだが。

「一花ちゃん、自分がかなり女優としてマズイ状態にあるのは理解してる!?今ネット上じゃ『若手女優N、リアル激太りか!』とか『【悲報】中野一花、デブりすぎて別人か』とか書かれて仕事も減って…」

嘆く社長の手元にはネット記事や掲示板のページが開かれたタブレット。それを覗き見ると確かに私のことが散々な言いようで書き込みがされていた。

そんなに私が太るのがおかしいだろうか。この2ヶ月で私にも分かったことがある。食べるのは気持ちいいし太るのもなんとなく背徳感と人に言えない劇薬のような幸福を感じられるのだ。だから私は食べる。もうすぐ100kgになりそうな身体でも、制服からお肉が見えそうになっている身体でも。

幸い、姉妹は皆何も言ってこないし、フータロー君も最近は照れくさそうに私と目が合う度に視線を反らす。誰も今の私を否定しないのだから、気にしなくても…。

「ま、まぁいいじゃないですか~、そのうち痩せますし…」

それに私は女優で、代謝の良い高校生でもある。その気になれば痩せることなんて簡単に…。

「一花ちゃん、はっきり言うけど君、痩せる気ないよね!もしこのまま太り続けるようなら、君には悪いけど…お休みしてもらうしかないよ。世間からの君の評価はこのままだとうちにも君にもマイナスになるからね!」

ずばり私に痩せる気がなくなっているのを言い当てられる。図星だ。正直なところ、私は食べるのも太るのも癖になっている。特に日に日に大きく、柔らかくなるお腹の感覚に。

だが社長の言うこともよく考えてみれば確からしい。タブレットを見る限り、私の名前が載っているニュースや記事、スレッドはどれも批判寄りで皆が太った私を終わったもの扱いしている。ならば、太った私の価値は…?

仕事も確かに激減した。単にそういう時期だと思っていた。だが目の前のベテランの深刻そうな様子を見てその認識を改めさせられる。もしかして、デブな私は女優として不要…?

そう思うと急に不安になる。何も言ってこない姉妹。捉え方次第では、そっけない態度で私を避けることが増えたフータロー君。皆、私を…。

「一花ちゃん、5か月時間あげるから、本気で女優をやりたいなら6月末までに元の体型に戻せるね…?」

社長の哀れなものを見るような目が余計に堪える。

夏前で女優としては仕事も増えることが見込まれる時期。それまでに痩せて元に戻るというのが条件だ。

私はただただ頷くしかなかった。


§§§


ダイエットに挑戦したことは多々ある。元の体重の頃に数kgだけ太った時のダイエットは成功したが、しかし、こうして100kgを目前にした身体では話が違う。

食欲を抑えられず、日々蓄えられていく脂肪の弾力に癒されながら、ブクブクと太りここまで来た。

ロクな運動もしなかったからか、きっと筋肉量も落ちていることだろう。それが今の私の身体。

だがこのままでは私が私ですらなくなる。姉妹と並び立つことも、「彼」の隣にいることも、女優としてのアイデンティティも叶わなくなる。

そろそろ痩せなくてはいけないのだ。

そう決意し私は書き置きを残す。姉妹4人やフータロー君にこんな醜態を晒していた事実が恥ずかしいというのもあるし、これ以上デブな私を見られたくないというのもある。

だから、家を出る。

行き先は誰にも伝えないが、近場のビジネスホテルにする。そこなら暫く泊まったとしても女優業で貯めてきた貯金でなんとか金銭面の条件はクリアできる。何より誰にも見られることなく、黙々とダイエットに集中できるからというのもある。

高校も同時に3か月くらいは休んでダイエットに励むつもりだ。無理に激やせしてもリバウンドが怖いし、とはいえそれ以上休めば卒業要件にも引っ掛かる。幸い、今は2月で年度を跨ぐ為、6月に登校できるペースでダイエットしよう…。私ならできる、痩せられる。



体重計の数字は昨日からまた1kg増え、100kg台が安定し始めた。そろそろ2桁に戻さねば。

スポーツウェアを身に纏い、ビジネスホテルを後にする。午前中は皆高校に行っているため誰にも会うことはないだろう。ランニングでこのブヨブヨな贅肉を燃焼させる。

春先の風が汗だくの肌に触れ気持ちが良い。

3月も半ば、桜が咲き始める。最近のランニングは楽しい。やはり無理をしてはいけない。運動後のご褒美もちゃんと用意して今日も走る。



最近は体重計の調子が悪く、乗っていないので分からないがきっと80kgくらいまでは痩せただろう。ダイエットの為とはいえ姿をくらましているのでそろそろ心配させている姉妹に会っても良いかもしれない。…いや、もう少し痩せてからにしよう。

そう考えながら走っていると、目の前から聞き慣れた声がした。

「おい一花!お前、今までどこに…!っていうかその身体…!」


「ぜぇ…ふぅ…!フ、フータロー君!?

恥ずかしい所、見られちゃったな……。実は結構太っちゃって、ダイエットしてるんだ…。

ぜぇ…ふはぁ、新学期までに痩せないと皆の前でボタン弾かせちゃうかもってね…あはは…。

ふぅ…でももう少しで元に戻るから、安心してて…!じゃあ!」

私のことを数ヶ月ぶりに見て唖然としているフータロー君に、素早く別れを告げて足早に去る。まさかこんなところで会うなんて。ランニングルートは皆の行動範囲から避けた道を選んだはずなのに…。

まだ痩せきれていない体型のまま彼に会ってしまった恥ずかしさが重い身体を加速させる。彼は追ってはきていないようだが、ただ走る。

ぶるぶると揺れる腹肉がより一層波打ち、太ももにぶつかってはバウンドする。

推定80kgくらいまでは痩せたと思っているがお腹の肉はやけに落ちづらい。おまけにスポーツウェアで覆われた胸は谷間や下乳、脇に汗がたまって蒸れている上に若干汗臭い。帰ったらすぐにでもシャワーを浴びたくなる。それは彼に会ってしまって動揺している頭を冷やすという意味でもだ。

と、走っているうちに、ランニングのゴールでありご褒美の時間がやってきた。ポケットから紙幣を取り出し、店頭の券売機に吸い込ませる。いつもの定番。

そして店の入り口を潜ると湿度も気温も外とは比べ物にならないほど高い店内で大将がいつものように私を迎え入れた。

「トッピングは?」

「ふぅ…アブラマシマシヤサイマシ、カラメマシニンニクマシマシで…」

狭いカウンター席に身体を押し込め、着丼を待つ。これがランニングのご褒美。

大丈夫、運動もしているからすぐにもとに戻る。現に痩せているはずだ。

これだけランニングして太っているなんてこと、あり得ない…。

暫くして出来上がったラーメンが運ばれ、私は箸を手にしひたすら掻き込み始める。これで、いいんだ…。

じゅるじゅるるるる…!

ごくん、ぷはぁ…うまぁ…

じゅぼぼぼぼ、じゅるるるる!!

とまらなひ…もっほ…ごくんっ、たべたい…


超大盛りのラーメンをものの数分で食べ終える日々、私は痩せているはず…やせて、いるはず…。


中野一花

Height:159.2cm → 159.4cm

Weight:48.9kg →→→ 181.4kg

B:88.0 → 178.7

W:57.2 → 182.9

H:89.7 → 179.8



~~~~~


結論から言うと私のダイエットはそれはもう盛大に失敗した。日に日に増していく体脂肪率から体重計乗らないという選択を取ることで目を反らし4か月、季節は6月初夏を迎えていた。

ずっと泊まり続けていたビジネスホテルから出ようにも、私ほどの肥満体になった人間が通れるようなドアの仕組みになっていない為、いちいち狭い廊下や扉に胸・腹・尻がつっかえる。

やっとの思いでフロントに向かい精算を終えると、外の世界は気温30℃。ギネス級に激太りした私の身体からは運動不足や食事内容の影響もあってベタついた脂汗が溢れ出す。

「ぶふぅ…ふはぁ、ふぅ…暑いし…重たい…た、タクシー!」

ペンギンのように左右に揺れながらがに股でゆっくり歩く。肉の層が何重にも重なってセルライトと皮下脂肪でブヨブヨになった内腿が、擦れるとすぐにジーンズでも摩擦で破いてしまう。だからできるだけがに股でゆっくり歩くしかないのだ。

大通りに出てからタクシーを捕まえるまで、街行く人の好奇の目を向けられる。きっと誰も私を“あの”中野一花だとは思ってもいない。

華奢でいてグラビアの仕事もオファーがあるにはあったあの頃の私とは体重が6倍ほど異なり、面影など目鼻立ちと髪色程度で他は信じられないほど太った一般女性。

中には、私の視界下1/3を覆うほど膨らんだ両胸を嫌らしい目で見てくる中年サラリーマンもいるが、彼らが身体目当てで私を見ていることなど筒抜けだ。

だがそれも仕方ないだろう。なにせ私が今着ているのはギリギリ胸を覆えるくらいのTシャツと尻に食い込むほど小さなハーフパンツだけ。人々の目には超巨体の痴女と映っていてもおかしくないのだ。それもいつしかロクに外出しなくなり、たまに室内で運動をしては三日坊主で毎日デリバリーのファストフードや弁当をたらふく食べていたツケである。もう着られる服が限られていた。


タクシーに乗り込むと一層自分の身体が肥大化したことを痛感する。分厚い尻肉を車体に擦らせながらようやくの思いで乗車すれば明らかに私の乗っている座席側に車が沈み込む。シートベルトをするとしても、きっと私のお尻とお腹が邪魔をして届かない。こりゃ助手席に乗るのは生涯不可能か。

そんな自分の身体に煩わしさを感じながらも、この期に及んでまだ興奮を覚えていた。

時速30㎞で進むタクシーが数分で停車する。目的地、私の家。ずっと姉妹に隠していたこの身体を見せる時。

時刻は朝6時半、珍しく早起きしたのは登校前の皆に激太りを打ち明ける為…そして、謝る為。

再びのそのそと巨肉を揺らしながら歩く。

久々に通るエントランスですれ違うマンションの住人が不思議そうな目で私を見る。そう、その「あの人どこかで見たような…」という考えは間違っていない。

上りのエレベーターは幸い早朝なのもあって人がいない。

無音のエレベーター内に私の荒い呼吸音だけが響く。ブタみたい。

やがて自宅のある階につくと、あとは緊張しながら家路を辿った。

玄関のドアに手を掛ける。

「ぶふぅ…ふぅ…ただいまぁ……むぐっ、はさまった…!?動け、ない…!」

帰宅早々に玄関に腹肉と尻肉を詰まらせる。もう長女としての威厳も何もない。

開く玄関のドアの音に急いで集まってきた姉妹達が私の姿を視界に入れては暫く唖然とした後に質問責めしてくる。

「一花…ですよね!?何があったのですか!?」

「あ、あんた、前からおかしいと思ってたけど、どう見ても太りすぎよ!」

「一花が着ぐるみみたいになってる!?というか、挟まってない!?」

「一花…だよね?えっと、その…痩せよ?」

玄関に挟まって身動きの取れない私に四葉が駆け寄り、その腹肉に触れる。他人の手が膨れ上がった自分の身体に触れる感触にドキドキしながら、四葉の方もまるで弾力性抜群のクッションと相対しているように私の腹肉を揉み、掻き分け、なんとか室内へ引き入れようとする。

その様子を見て、他の3人も手を貸し始める。改めて良い姉妹だが、私と彼女たちの体型差を目の当たりにしなんとも言えない気分になる。ただ、これだけは伝えなければならない。

「ふぅ…ごめんなさい皆…今まで連絡せずにずっと……。それに…こんなブクブクに太って皆を困らせて…」

みっともない格好ではあるが誠心誠意の謝罪を。

そしてその後、それに対して許してくれた姉妹たちに感謝を。


§§§


キーンコーンカーンコーン🎵

一時間以上かけて汗だくになりながら登校してもなお、私は横を付き添いながら歩いてくれる姉妹たちと一緒に自分たちの教室まで向かっていた。私の横幅だけで廊下の半分以上を占めるため、そこに立っている人たちに避けられながら道の真ん中を歩く。

もちろん特大サイズの制服に身を包みつつも、Yシャツの下からブヨブヨに垂れ下がったへそ下の腹肉を晒しながら。そしてセルライトたっぷりの極太の脚や丸々と膨らんだ顔、分厚い二豎顎と、おまけに久々の運動で大量の汗を衣服に染み込ませながら。

「ぶふぅ…ふほぅ…もう少し…ふぅ」

これまで簡単に行っていた登校や階段の上りがこうも苦しく、困難なものになるなんて。それに…。

『え、あれって3年の中野さん…?だよね…なんであんなに太ってんの…?』

『やばっ、同級生にあんな太ってるやついたっけ?』

周りの心ない言葉が妙に耳につく。それは皆も同じようで、特に二乃は私のことを悪く言っている人がいればすぐさま威嚇するような目を相手に向けて牽制してくれていた。

一方、私の中の不安はそれに以外にもある。

そう、フータロー君との再開。痩せている気になっていたあのランニングの日に少しだけ会って以来の再開。

きっと幻滅される。だけどもしかしたら受け入れてくれるかも…。そう思うと、確定していない未来に対して恐怖を感じる。だが、いい加減彼に全てをさらけ出す時だ。

ようやく教室にたどり着き、扉を開ける。ここもまた扉が狭い。

「ぶふぅ…ふぅ、おはよう…ふんっ、ふはぁ…」

誰かに話しかけられる前に自分から朝の挨拶をして教室に入る。お腹をできるだけ凹ませながら、前と後ろから姉妹の助けもあっての入室。

二乃と三玖が急ピッチで布を縫い合わせたり知り合いに掛け合って用意してくれた私サイズの制服が汗で肌に張りついている。この姿を彼に見られる。

教室を見渡すと窓側の列の後方で彼もまたこちらを他の人たち同様見つめている。

「い、一花…だよな!お前今までどうして…!」

教室の後ろからでも前方入り口まで届く声量で彼はこちらに言葉を放つ。そしてザッと席を立てばこちらに駆け寄ってきた。

「フータロー君、実は私…!」

「中野さん、だよね…?その身体、どうしたの!?」

「もしかして役作り…なわけないよね…」

そこから続けて話そうとした所で、クラスメイトたちからの横槍が入れられる。

それもそのはずだ。五つ子で校内の有名人だったというのに2月から新学期になってもなおずっと姿を見せなかった長女が、久々に登校したかと思えば見違えるほどの激太りを遂げていた、そうなれば好奇心からの興味を持たない高校生の方が圧倒的に少ない。

結局、私は朝のホームルームまでの時間をクラスメイトからの追及になんとか対応しながら過ごした。厄介な話や興味本位で私のことを写真に撮ろうとする人たちには四葉や五月が対処してくれた。だがそれでも、朝の時間にフータロー君と話すことはできなかった。


「ぶふぅ…ふぅ…ひゅぅ…」

「あ、あのぅ…中野さん…ちょっと」

一限の授業後の休み時間にも後ろの席の女子が話しかけてくる。ツンツンと私の背肉をつつき呼び掛けてくるため振り返ると、彼女の眉間にはシワがよっていた。

「中野さん…座高高くて黒板見えないし、息もちょっとうるさいかも…」

「ご、ごめん…一番後ろに席、替えてもらうね…!」

盛り上がった尻肉で高くなった座高が、クラスメイトの学業を阻害する。おまけに無意識のうちに太りすぎからか荒くなった息がうるさいのだと。

言い訳のしようがない私の非。次の休み時間に席を交代してもらい私は教室後ろのドア横、つまり隅の席で授業を受けることになった。もちろん、全体重を支える椅子は尻の下に二つ必要で。


昼食時になるとTPOなどわきまえることなく胃袋が轟音を発し空腹を訴える。これが一番恥ずかしかった。姉妹の顔も見れない。もちろんフータロー君の顔も。穴があるなら入りたいとはこのことだ。

休み時間になるとまた詰め寄ってくるクラスメイトをなんとか振り切りながら、皆と一緒に学食へ向かう。

階段をなんとか下り、学食につけば食欲のまま豚骨ラーメンと唐揚げ定食、そして焼肉定食ご飯大盛りを注文する。

もう少し我慢するように言う二乃には申し訳ないが、こればかりは半ばもう自制の範疇ではなくなっていた。

五月ちゃんにも負けず劣らずの食事量。これでも実は抑えている方なのだ。


いただきます…!もぎゅ…むぐっもぐっ…!

はむっ、あむ!ごくんっ、おいひい…

もがっむぐっ、ごくん…ぶひゅぅ…ふぅ…ぐぷっ…


3人前の量をたったの5分で平らげ、その分膨らんだお腹を擦る。食事でしか得られない満足感に病み付きになる。

この食べた栄養がまた肉に…。

そう思いかけて我に返る。これ以上の激太りは流石に…。

ブチッ…

ん、何の音だろう…聞き馴染みのない何かの破れる音が微かにし出す。

ブチッ…ブチブチ!

「い、一花あんたヤバイわよ…!」

「ぶふぅ…げぷっ……え、なに…?」

「制服…!」

二乃の切羽詰まったような呼び掛けだ自信の制服、もとい、食べ物を詰め込んだことで一層せり出た巨腹と膨らみすぎた胸に目を下ろす。

すると同時に、視界から白いものが弾き飛び、素肌が露になった。

ブチブチブチッ!!

ぼむっ。どぷんっ!ぶよんっ!

ボタンが一つ弾けると、制服の内側に押し込められていた贅肉が出口を見つけたかのように溢れだし、内側からの肉圧で連鎖的に次のボタン、また次のボタンと一気に弾いていく。

もはや制服のYシャツは前開きとなり、パンパンに膨らんだ二段腹とブラジャーになんとか収まっている爆乳を晒している状態へと化していた。

当然異様な物音に、食堂にいた多くの生徒が振り向きこちらに視線を向けてくる。食べるだけ食べて終いには制服を破いてお腹丸出し…私はとんだ恥さらしだ…。

「おい一花、大丈夫か!」

急な事態に私たちが呆気に取られていると、見知った顔が焦った様子で側に来る。

「ぶふぅ…ふ、フータロー君…!私…」

これ以上は何も言葉が出ない。半満腹状態な上にパニックになりかけている為、私は衆目に半裸を晒して呆然とする。

それは姉妹達も同じだった。姉の身に起きたことを理解するのに数刻の時間を要していた。

「いいからお前ら、一花を…そうだ、保健室に連れていくぞ!」

彼の呼び掛けでハッとした皆が私の手を引き立ち上がらせると、四方を囲むように、他の学生から私の身体が見えないように立ち、そのまま私を警護するような態勢で保健室まで向かう。

「ふひゅう、ふぅ…はふぅ……ごめん皆…ごめんフータローくん…」

前方に大きく突き出た二段腹をばるんばるんっと波打たせ揺らしながら、食堂から保健室までの道のりを姉妹と彼に囲まれて前進する。

周囲からは好奇の目。学校イチの肥満体をもの珍しそうに観察するような目。

「ぶふぅ…げぷっ…ぶはぁ…あづい…」

顔が火照り汗が滝のように流れ出す。

半裸体をなんとか隠しながら私たちは保健室の扉を叩いた。

「失礼しま~す…ちょっとトラブルがありまして…」

四葉が先陣を切って保健室に入るが教員の声は返ってこない。

「先生、いないみたいですね…」

五月ちゃんも中を確認するが、鍵だけ空いていて中には誰もいないようだった。

「とりあえず、奥のベッド借りよう」

三玖が指差す方には体調不良者用のベッドがあり、カーテンを広げれば私をそこで着替えさせることもできるだろう。

私はやっとの思いで保健室に足を踏み入れ、すぐさまベッドの方へ向かう。

「ぶふぅ…あ、ありがとう皆……。私、痩せるよ…」

これ以上迷惑ばかりかけられない、そう考え皆の前で減量を宣言する。だが返ってきたのは思いもよらない応えだった。

「無理するんじゃないわよ。これまでだって痩せようとして失敗してきたんでしょ、だったら別に無理して頑張る必要ないわ」

「迷惑なんて思ってない。だって私たち家族だから」

「そうですよ一花。そ、それに一花がたくさん食べてくれると私も罪悪感なく食べられると言いますか…あはは」

「それに、一花の身の回りのお世話は私と上杉さんがするから!ですよね、上杉さん!」

「お、俺か!?…ま、まあ生徒のコンディション管理も家庭教師、いやパートナーの仕事か…」

減量への義務感に苛まれそうになっていた私を姉妹の皆が優しく包み込む。

無理に痩せなくていい、そう言ってもらえただけで救われた気がした。とはいえ、甘えてばかりもいられない。自分のことはせめてできるだけ自分でできるようにならなくては。

「ありがとう皆…!」

泣きそうな所を必死に堪えて礼を言う。その様子が伝わったのか、これ以上の言葉は不要と思ったのか、妹4人はこちらにただ微笑みかけ、あとは休むようにと私とフータロー君を置いて保健室から去っていく。

もしかして、私と彼の話す機会を作ってくれたのだろうか…。


誰もいない昼時の保健室。2人だけの時間が過ぎる。

「わ、悪い…カーテン広げとくから…着替えろよ、俺はそこで待っとくから…」

彼はそう言ってベッドを囲むようにカーテンを広げ、私と彼をそれで隔てさせる。

白い布越しに見える彼の影。そこに彼がいる中、私はボタンの弾けた制服のYシャツをなんとか脱ぎ始める。

「ふぬっ、ふはぁ…んぐっ」

顔よりも太く、そして筋肉などないかのように膨れた二の腕をたぷたぷと揺らしながら制服の袖を逆に通す。

やっと脱げた制服は一般的なサイズより何倍も大きく、それでいて絞れば汗が滴るほど濡れ、そして少し臭い。

ベッドサイドで脂汗をかきながら、上半身は下着、下半身は即席でなんとか用意したスカート姿。そんな私が彼に問う。

「…ねぇ、フータローくん…私、実はだいぶ太っちゃって…」

「見れば分かる。一目見た時は誰かと思った」

「だよね…。ランニングしてた私にあった時も驚いたでしょ…?」

「今よりはだいぶ痩せていた気はするが、まぁ誰かと思うくらいには太ってたな」

「もう…やっぱりデリカシーないよねフータロー君は……。ごめんなさい、今まで全然連絡してなくて…」

「謝られれば許す、それだけだ。もう過去のことで怒るつもりもないしな、大事なのはこれからどうするか、だろ?」

カーテン越しの会話が続き、だんだんと彼の口調や語気が優しくなっていく。

優しくされると困ると、ずっと思っていたのに、いざ彼の柔らかな声を聞くと、もっと彼、フータロー君と一緒にいたいと思えてしまう。

「なんで私がこんなになったか……聞かないの?」

「お前のとこの社長からあらかた聞いた。ランニングで肉を揺らしてるお前と会った後、あいつらと話してお前の事務所に連絡を取ったんだ」

「そっか…」

「大体理由は分かってる」

思い返せば、私がここまで激太りするに至ったキッカケはあの番組のダイエット企画で再現ドラマに出たことだった。あの時出会った激太り後の役の人、皿一杯の料理に魅了されここまで太った。あの時の女性芸人さんと今会ったとしたら、ほぼ間違いなく私の方が太っている。見事なまでのデブ。

でも、やっぱり……そこまで嫌な感じは、しない。

『無理に痩せようとしなくていい』なら…太っている私でもいいん、だよね…。

「ねぇ、フータロー君。見て…」

「は?お前、見てってどういう…ちょっ、おま…」

私からカーテンを開き彼に自身の身体を晒す。

包み隠すことのない超肥満体。常軌を逸したサイズの下着も、肉の段と皮下脂肪でブヨブヨな脚も、大きく突き出てかつ垂れ下がるほど膨らんだ二段の巨腹も。全て彼に見せる。


「ど、どうかな…やっぱり太りすぎ…だよね。」

「ま、まぁ…だが悪いことじゃない…だろ…」

「お腹も前よりおっきくなっちゃったかも…。ねぇ…身体、触ってみない?皆には秘密で…お姉さんの身体…」

脇腹の弾力がもはや自分にくびれなどないと知らしめる。せり出たお腹を持ち上げようにも重すぎて、筋肉もほぼない贅肉まみれの腕では持ち上げることも叶わない。

こんな身体を…彼に、見てほしい。

「一花…急にどうして…」

困惑する彼の手を取り、私のお腹に押し付ける。

彼の手が私の巨腹に触れる。

もっと見られたい、もっと触られたい。

「ど?…柔らかいでしょ…」

お腹に押し当てられた彼の手は、私が手を離してもなおまだお腹の贅肉に触れている。

「お、おう…」

「揉んでも……いいよ…♥️」

真っ赤に染まったお互いの顔。私の声に反応して彼の指が私の肉に食い込み始める。

ぶにゅ…ぶよん…!

次第に激しさを増す彼の手さばきに、私の興奮も高まる。

私は変態なのかもしれない。太るのが快感で、そんな太っていく私を見られるのが堪らなく心地よい。ただ今まで、それを隠そうとして苦しんできた。

太りすぎて上がる自分の息もたまらない。波打つ全身の肉も、パンパンに膨らんだ身体も堪らなく好き。

そして、それをもっと彼に触られたい…。

「んん…♥️ねぇ、お腹、持ち上げてみて…重たいよ♥️」

荒ぶったまま彼に懇願する。もみくちゃにされた腹肉の感覚がまだ残っているうちに彼はエプロンのように垂れた私の下腹に手を添える。

ぶよっ…ぶよん…!

彼が重そうにして私の巨大な二段腹を下から持ち上げると、身体が少し軽くなった気がする。やっぱり男の子は力持ちだ。

「頑張って…♥️あっ、臭くない…?そこ、あんまり洗えてないから…♥️」

流れに呑まれて腹肉を持ち上げ続ける彼に声援を送ると同時に、下腹部から内腿周りの体臭が気になる。特にその辺はお肉が邪魔なのと面倒なのであまり洗えていないから。

そして私の心配は杞憂ではなかった。

「んぬぅ…お前…もう、限界…!…くっさ…ぷはぁ…!」

彼の腕がプルプル揺れ始めたかと思うと、やはり肉下の溜まった汗の香りに刺激され、腹肉を支えていた手を瞬時に離す。

「く、臭いよね…♥️ってフータローくん!?急に離したらバランスが…!あっあぁ…!」

ぶよん!!どぷんっ!!ドシィィイン!


支えをなくした二段の特大腹肉が重力に負けて再び垂れ下がると、そのまま私の身体を前方に引っ張る。インナーマッスルもない肥満ボディは押しに弱く、自重につられてそのまま前へ。

そしてその先には彼の姿。

「ぶっ、ぶふほぉ…!おぼい…!」

「いてて…フータロー君、どう?重い?♥️」

「ぶぶはふぁ、ぶぁやぐ、どげっ!」

「お腹の下敷き…だね…♥️でも…どうしよっかな…ねぇ、興奮してるでしょ?アソコ、おっきくなってる♥️」

彼を私のお腹の下敷きにすると、これもまた自分が超ド級のデブになったのだと感じられ止まらない。推定300kgの巨体をもつ女子高生が同級生を押し潰す。その主演が私。

彼の抵抗もむなしく、男の身体は性に忠実で、彼女の巨体に反応していつしかズボンの山が固く盛り上がっていた。

「もっと私がブクブク太ったら、君、潰れちゃうかもね♥️」

他に誰もいない保健室で二人、重い方が馬乗りに体勢を変え男に跨がる。私も彼も汗だくで時間も忘れて密着していた。



§§§



あれから一年。無事高校を卒業した後に、女優として所属していた事務所を退所した私は彼と暮らしている。彼は私の大事なパートナーだ。

だが、夢を諦めた訳ではない。今は個人的な活動をしながらネット上でとある配信をしている。それも、大学の合間を縫って手伝ってくれる彼と共に。

「皆さんこんにちは~、一花です…!今日は…」

三脚で立てられた高画質カメラに向かって私は話しかける。手元には一台のノートパソコン。その画面上には目にも止まらぬ速さで流れるコメント欄。

言語は様々だが、どれも意味合いとしては私の登場、配信開始を待ちわびていたようなもので、熱狂したコメントが目立つ。

というのも、今日の配信は中でも視聴者に人気のある企画を行うからだ。

「今日は…チューブでミルクシェイク、限界まで飲んでみまぁす♥️」

私の発言に合わせてよりコメントの流れが加速する。画面の向こうにいるのは“彼と同じ”重度のデブ専。350kgを超えた私の身体を見たり、もっと太るのを期待している人たち。

適度に運動や筋トレをして、太りながらも筋肉をつけているこの肥満体は、前よりは動けるがそれでも350kg。シルエットだけでみれば爆乳や巨尻、何よりもこれでもかと膨らんだ二段腹が目立ち球体のよう。

そんな身体に今からミルクシェイクを限界まで流し込む。

(じゃあよろしく♥️)

隣に立つ彼にアイコンタクトを送ると彼は頷き、チューブを私に手渡して、早速ミルクシェイクを流し始めた。

「お腹ペコペコだからいっぱい飲むよ~、じゃあ、いただきまぁふ♥️♥️」

極太のチューブの口に加えると、すぐにひんやりとした甘い液体が喉を通っていく。

ごぷっ、ごぷっ、ごくん!

どふっ、どぷっ、んぐっ…♥️

パツパツのスポーツウェアで身を包んだ私のお腹が、秒単位で更に膨らんでいく。ブヨブヨだった肉の塊がパンパンに固くなって膨らむ。

ごくん、ごぷっ、ぐぷっ!

5分の時を経て、私のお腹は過去最高にまで大きくなり、限界を超えそうなほど食した私の身体には汗が滝のように流れていた。

「ぶふぅ…ぶはぁ…も、もお、げんがい…♥️お腹もこんなにパンパン、だよ…♥️」

ぼむっ、ぼよんっ!

指先まで太く肉のついた手で腹を叩くと中身まで揺れる感覚。これも癖になる。

「ぶぶふぅ…もっどふどっちゃうね♥️……げぶふぅぅぅぅ♥️……でちゃった♥️」

それまでなんとか堪えていたげっぷを解放し、脱力する。たった数十分の配信だが私も彼も、私を見てくれる視聴者も、大いに満足していた。

私は他の人とはちょっと違って変だ。太ることも食べることも、私を見られることも凄く好き。

そんな自分に悩んだ時も苦しんだ時もあった。でも今は彼がいてくれる。それに私を求めてくれる人たちも。

…これが私。世間的な有名女優にはもうなれなくても……誰かの特別な人、画面の向こうで今日も生きる一人の女優であれればそれでいいんだ。


中野一花

Height:159.2cm → 159.4cm → 161.5cm

Weight:48.9kg →→→ 181.4kg → 308.2kg(679lb) → ???

B:88.0 → 178.7 → 249.1

W:57.2 → 182.9 → 274.3

H:89.7 → 179.8 → 253.4


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