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「四葉、ランニングに行くぞ」

某年、夏の某日。学生にとっては2か月弱の長い夏休みにおけるある一日のこと。日本、更には世界でも稀な五つ子が住まうタワーマンションに男子高校生兼家庭教師の彼が訪れていた。彼の名前は上杉風太郎。全国の高校3年生をかき集めても彼の学力に勝る者はそう多くない。そして、運動及び体力に自信などない彼がランニングに行くことを勧めている相手は…。

「うぐっ…!?ごっくん…う、上杉さんが私をランニングに誘ってるー!?」

勉強そっちのけで有名洋菓子店のシュークリームを頬張ってはクリームを手と口周りに付けている、中野四葉だった。

「そ、そう驚かなくてもいいだろ!…アイツらから相談されてな、お前、この夏休みで何回、いや…“何分”外に出た?」

クーラーが24時間営業を強いられた一室で、汗を額に浮かべこの場所まで炎天下脚を運んできたと思われる風太郎とは反対に、四葉の身体には全くもって運動の印はない。

そう、かつての彼女ならば並外れた運動神経と人付き合いの良さから、夏日には様々な部活動の練習に引っ張りだこ。外出は勿論、運動をしない日などほとんどなかったのだが、今の彼女にはその面影はない。

外出を渋ったのは勉強が忙しいからや特段風太郎の納得のいく理由があったからではない。単に出不精になったからだった。そしてその出不精に至った原因は、彼女のその図体を見れば一目瞭然だ。

「な、何分って…いやだな~私、今日も元気に図書館まで本を借りに行って、帰りに公園のブランコで気分転換を…」

「図書館、今日は閉館日だぞ」

「ギクッ…」

上擦った声に分かりやすく「嘘をついています」という様子を含ませながら、四葉はありもしない記憶を捏造するが、かれこれ1年以上の付き合いがある彼にはその嘘は瞬時に見抜かれてしまった。無論、たとえ今日が図書館の営業日だとしても四葉が図書館に自分ひとりで、しかも真っ当な理由として本を借りに行くなど風太郎には信じられなかった。

というか、果たして四葉は図書館での本の借り方を知っているのだろうか?

「…ったく、正直に白状しろ!四葉お前、その身体になってから一切外に出てないだろ!」

「ひ、ひぃ!はい…実は1か月ほど…」

ビシッと伸ばされた風太郎の腕から指を差された四葉は、逃れる手立てをなくし正直に自身の引きこもり歴を明かした。1か月、その期間はほぼ1学期の終業式から現在までに相当し、今までの休みを全て、空気が淀み四葉の体臭が染みついた家にこもって過ごしてきた事を示していた。

ぼにゅ。

彼女の手と腹がふれあい、肉が揉まれる。そう、アウトドア派の代表と言っても過言ではない中野四葉がここまでの出不精になったのは、身体の変化、ひいては太りすぎが原因だった。

彼女が太り始めたのは高校3年生になってから。バレンタインを経てスーパーでは売れ残ったチョコ菓子が大量に安売りされ、姉妹にあたる三玖のチョコ作りに協力し試食を繰り返していた彼女にとっては、気の迷いでふと購入しただけのスーパーのチョコレートがかなりの美味に感じられていた結果、春を迎えて以降急激に体重は右肩上がりに。

実際、ただお菓子にハマっただけで激太りをするというのは考えづらいが、彼女の場合はそこに「部活動の助っ人が一段落した」というのも相まって、摂取カロリーの爆増と消費カロリーの激減、更には膨らみ続ける胃袋の主張により、体重は夏休み開始時点で150キロに迫る勢いだった。

「だからって、お前なぁ…家に籠って食べてじゃ余計に…その、大きく…なるだろう?」

半年に渡る増量の経緯を四葉から聞いた彼は、自身の数倍はある重量・体積の彼女の身体を見て言葉に詰まる。そのリアクションを受けて、ただ太った経緯を話しただけでも赤面していた四葉の顔が恥ずかしさから更に赤く染まっていった。

「あ、あんまりそんな反応されても困ります…!私だって分かってるんですよ?でも…つい皆が買ってきてくれるお菓子とかお菓子とかお菓子とか…とにかく、食べ物が目に入ると口の中で涎がジュワァって湧いてですね…えへへ…」

下着と間違われてもおかしくないTシャツ姿に、おそらく太さは70cmを超えているであろうブヨブヨの二の腕を持ち上げては、腕を頭の後ろに回し恥じらいながら笑う。その手の一挙一動に連動して腕の贅肉は波打つが、あまりに分厚い脂肪の為か、硬さと柔らかさが両方見て取れる。それに反して彼女の脇は肉に埋もれて見えなくなっていた。

「で、今は何キロなんだ?」

「…!!な、何キロとは…うちにあるお米の重さが私に分かるわけ、ないじゃ、ナイデスカ…」

急な問いに四葉の動きが止まる。キロ、という単位で問われるものは世の中に数多くあるが、このシチュエーションでその対象となるものは恐らく一つしかない。そのことを分かっている彼女が、嘘をつくのはいけないという良心と自身の体重を明かす事を躊躇う乙女心の間に挟まれて発したのが苦し紛れの論点すり替えとカタコト口調。

「誰が米の貯蓄量を聞いた?お前の体重に決まってるだろ、見たところ終業式の時よりも太い。1か月も引きこもってんだから、いい加減運動して痩せないと、その身体で二学期から通学するつもりか?」

再び彼女の内心に「ギクッ」という擬音が走る。

「うぅ…、…ません」

「は?」

「わかりませぇぇん!」

何を言っているか分からないほどの小声でつぶやいたかと思うと、今度ははっきりと聞こえる声で彼女は告げた。

§§§

「通れるか?」

「…はい、なんとか…。私、こんなに大きくなってたんですね…あはは…」

引きこもり期間に増えてしまった体重を確かめるべく、二人は脱衣所へ向かう。そこには姉妹5人が兼用している体重計があるのだ。だが脱衣所に向かうといってもその足取りは軽いものではない。普通体型より少し細めの体型をしている風太郎と並ぶと、明らかに常軌を逸したサイズであることが明確な四葉は、スポーツに打ち込んでいた以前の姿からは想像できないほどのセルライトと肉の段を備えた極太の脚をゆっくり、ゆっくりと一歩ずつ踏み出し目的地へと向かっている。そして脱衣所手前の難所、彼女の身体では通れるかどうかも怪しい脱衣所の扉前へとたどり着いた。

「最近は皆にタオルで身体を拭いてもらったり、外に出てないからってあんまりお風呂にも…は、入ってなかったりだったので、自分でもびっくりしました…」

「だから少し汗臭かったのか。おかしいと思ったんだ、額に汗一つ浮かべてないのにってな」

「デ、デリカシー!!デリカシーなさ杉さんじゃ、女の子にモテませんよーだ!」

「ふっ、引きこもってばかりで自分を見失っているお前にはこれくらいの毒がよく効くだろ?…ほら、手掴まれ。引っ張るから」

体脂肪率が80%を超えている事は間違いない彼女の身体から発せられる体臭に、風太郎が指摘したかと思えば、以前から彼の言動に羞恥心を掻き立てられてきた姉妹全員が思っていたこと、すなわちデリカシーのなさを返って四葉から指摘し、男女のちょっとした言い合いが始まる。…と思いきや、互いに互いの性格を理解している為か、大した言い合いにもならず、むしろ狭いドアの向こうから風太郎が四葉の手をとり、無理やりにでも脱衣所の中へ彼女の巨躯を引き込む作戦に打って出ていた。

ぐぐぐぐぐ…ぶよっ、ぼよよよよ…!

案の定、激太り&暴食引きこもり生活を続けていたツケとしてたっぷり蓄えられた腹部より下の贅肉が扉に引っかかる。爆弾のように膨らんだ腹はかつて女子の中でも大きかった胸のサイズを現在では凌駕し、まっすぐ脱衣所に侵入しようとする四葉の身体を、特段存在感を放つ脇腹が邪魔する。加えて、大きな腹部からの流れで共に膨らんだ尻はその両山が一般人の顔以上の大きさではないかと思われるほど膨らんでおり、こちらも自力では扉を通れそうにない。

「よ、四葉!少し腹を引っ込めろ…!このままだと本当につっかえるぞ…!」

「ぜぇ…ふぅ!も、もう引っ込めてます!!これ以上は無理です…!」

ソーセージのように太い一指一指を備えた手を、まさに手に汗握るように握り、二人は精一杯の力でSSBBWサイズの身体を脱衣所に入れようと試みる。

ぶよっ!どぷん!ぐぐぐぐぐ…どぷん!

太りに太った図体を背面から見たら一体どんな光景なのだろうかと、二人が思いながら手を取り合っていると、贅肉の塊が徐々に目的地へと引き込まれていき、まさにドプン!といった勢いで四葉の身体が扉に挟まれていた拘束から解放された。

「ぜぇ…だ、大丈夫か?」

「ふぅ…ふひゅ…平気です」

大した時間動いていたわけではないが、運動というカテゴリーにこれを含めるならば実に数か月ぶりの運動だった為、彼女の汗には大粒の汗が浮かんでいる。

「ちょっと待ってろよ…体重計、これだよな」

洗濯機の横に立てかけられた体重計を風太郎がしゃがんで手に取り、床に置く。これで体重計測までの準備は完了。あとは彼女の勇気だけ。

「乗って、いいぞ…」

「はい…上杉さん…あんまり、見ないでくださいね…?」

膝を床に着いて、足元が胸部~腹部の脂肪で全く見えない四葉の代わりにまじまじと体重の値を確認していた風太郎に、巨体を備えた少女(?)は儀礼的、というか念の為、乙女心を傷つけられない為に注意を促し一歩前へ踏み出した。

バギッ、ギギギギギ…!

薄い板のような体重計に、ダンプカーのような特大サイズの太りに太った図体が乗る。耐荷重限界とも思われるほどの悲惨な音。少し間違えればこの体重計は天国行きが決定してしまうだろう。

ギギギギギ…ピッ、ピピッ…

計測完了。恐る恐る一歩下がり身体を低くして自身の体重を目視しようとする四葉は、下を向くことによって首を埋め尽くしていた肉のベールが圧縮され、見事な二重顎を形成していたが…

「おっ…ってマジか、228キロ。やっぱランニング行ったほうg…!?」

バチン!!!

「デデデ、デリカシー!!!…って上杉さん!?大丈夫ですか!?上杉さー-ん!!!」

見るなという警告などなかったかのように液晶に映し出された3桁の体重を読み上げた風太郎に、思わずキャッチャーミット以上に分厚くなった肉厚な手で四葉はビンタをくらわしていた。こればかりは彼の非だろう、そうこの場に誰か第三者がいたのならば言っていたに違いないが、生憎二人きりの空間故に仲裁する者はおらず。残されたのは突然の衝撃波に頭を揺すられた風太郎と、意識朦朧の彼を心配する四葉の野太い声、そして228.9の数字が表示されて電源の入ったままの体重計だけだった。

§§§

「…にしても、四葉のやつ、加減ってもんがあるだろ…いてて…」

午後2時の直射日光がインドア男子の肌に刺さる。普段は休日でも高校の制服を着ているような彼だが、ランニングもといウォーキング程度になるかもしれないが運動の場面となるとそれは異なり、珍しく軽い私服姿にスタイルチェンジをしていた。

中野家から徒歩10分、県内でも有数のランニングコースの一部として休日には多くの人が犬の散歩からピクニック、更には日光浴の一環として訪れる公園で風太郎は四葉を待っていた。体重計測から1時間。なんやかんやで運動をしようという事になり、下着を含めて着替えに時間が必要な四葉は彼に着脱衣を見られるわけにもいかず、先に彼だけを公園へ送り出すこととなっていたのだ。

これが仮に出会ったばかりの頃の二乃だったらと思うと、当時の彼女と風太郎の関係を思えば自分だけ公園に向かって相手を待つなどという事は出来なかっただろうが、今回は相手が四葉という事もあって、彼女を信頼する事ができたのだろう。

「見てあの子、すごくおっきい…」

「ちょっと、あんまり見たら悪いわよ。きっと何かあったんだわ…」

ざわざわと言わんばかりの声が次第に大きくなり、風太郎の背後から散歩途中の女性たちの話し声が聞こえる。その内容を推し量るに彼がこうして待ちぼうけている時間はじきに終わりそうだ。

どぷっ、どすっ、ふぅ…!

ぜひゅっ、ぶふぅ…!どぷん、でぷんっ!

「う、上杉さーん!お、お待たせしましたぁ~」

すっかり顎が上がって息を切れ切れにしながらもまるで球体のように膨らんだ輪郭の身体が彼の下へ近づいてくる。遠目で見るとそこまででもないが、接近するにつれて他人と四葉の体格差に遠近感が狂わされそうになる。走っているつもりだろうが傍から見ると歩いているようにしか見えないその巨体は、毎秒ぶるぶると全身の肉を震わせ、サイズの小さいスポーツウェアがぴちぴちになるまで張り付いた身体は既に汗でベトベトしている。

「お、おう…なんというか…お前、やっぱり太ったな…」

「な…!?た、確かにこれは痩せていた時に着ていた服ですが!!改めて言わないでくださいよ!」

「いやまあ…なぁ?」

「「言わずとも察してくれ」みたいな表情をしなーい!」

彼女の家、室内で見たときにはそこまで目立たなかったが、今こうして炎天下で全身を一望するとやはり以前の彼女とは比べ物にならないくらいの大大大増量を遂げている。

某人気ゲームのモンスター捕獲用のボールみたく膨らんだ腹肉にびっちりと食い込んだパンツ。普通腰で履くのだろうが腰が尻肉と腹肉に埋もれて消え去っている四葉にとって手頃な段差というのは二段腹の間、重厚な肉段の境目としてへそが深い谷間となったそこにしかない為、無理やりにでもパンツをへその位置で履いているのだ。…この状態で走ろうものなら、いずれ揺れる腹肉に耐えかねてパンツが腹肉の下までずり落ちるだろうが。

加えて、普通体型ならばできないような部位に肉をため込みすぎてできた二の腕の肉段は生後半年以降の赤子を思わせるくらいムチムチ、否、その域を超えてブヨブヨとしており、片腕だけで間違いなくかつての彼女のウエスト以上の太さをしている。

当然、ここまで太ると顔にも肉は付き、シャープだった顔立ちは脂肪によって丸くなり、満月のような丸顔、そして光が当たると影ができて目立つ二重顎がしっかりと刻まれていた。

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「で、でもどうですか?このボディ…案外いい感じだったり…」

「…」

「しないですよねー!知ってましたー!!」

突拍子もないことを言う彼女に風太郎が無視を決め込むと、観念したのか先に歩きだした彼に追いつくように再び息を上げて四葉は歩き出した。

もちろん、どぷんっどしんっという擬音が聞こえそうな足取りで…。

§§§

「…で、なんでお前は今、クレープにケバブなんて食ってるんだ?」

「んぐ…あむっ、なんれっへ、ごくん…言われましても…。あむっ、ふぅ…もぐっむぐ…わはひをよんれるこえは…ごっくん、したんですよね…」

公園の片隅、二人掛けの木のベンチに一人でずっしりと重い尻を下ろし、尻肉をぶよっと広げたまま片手のクレープ、もう片手のケバブを交互に食べる四葉は弁明をする。

なぜクレープとケバブなどという謎の食べ合わせをしているのかというと、それはウォーキングコースにそれぞれにキッチンカーが来て店を出していたからであり、その食べ物の誘惑に四葉が抗えるはずがなかったからである。

口周りに白いクリームと赤いソースをこびり付かせながら夢中になって食べ進めている。この瞬間だけ切り取れば、彼女がダイエット中だとは到底思えない。むしろ男がデブ専であり彼女の方も太る事に乗り気でわざわざスポーツウェアに着替えた上で食べ歩きをしていたよう。

「むぐっ…ぷは…おいひい…ごっくん。上杉さんも…食べます?」

食べかけで自身の歯形がくっきり刻まれたクレープを四葉は風太郎に差し出す。世の中の初心な男子にとっては女子と食べ物の共有、ないしは間接キスなど誘われたら断る理由もなく、理性が追い付かずに一口頂いているところだろうが、超理性人間の彼にはそうはいかない。

「ん…いや…だ、大丈夫だ…」

内心ドキッとしたように見えつつ目を反らす彼に四葉も何かを察するが、深く追及するはずもなく「えーいいんですか?おいしいのに~」と言って再び残りのクレープを口に運ぶ。

「ぷはぁ…食べちゃいましたね…」

「そんなに感傷に浸った雰囲気で自分の腹を摩るな」

「えへへ…ダイエット中の自制が効かない食事…こんなにドキドキするんですね…私知りませんでした」

特大の二段腹を腰かけたベンチの上で摩り、太い指を腹肉の張りつつも柔らかみのある贅肉に沈みこませる。一体どれだけの栄養をため込んだらこれほど太く、丸く膨らむのだろうかという端的な疑問が風太郎の脳裏を過るが、とはいえ、それ以上に内心彼の中では汗を滴らせかつ吐息交じりに食の快感を得ている四葉の姿が少しばかり魅力的に映っていた。信じられないほど太ったものの元は美少女ということなのだろう。

「ふぅ…やっぱりサイズが合わない服はキツいですね…ちょっとだけ楽にしよーっと…」

へそで履いていたパンツを徐に腹肉の下、下っ腹にまで下げ始める。そして露わになるへそ下二段目の腹肉。

ぶよっ!ぼよっ、どぷん!!

一度持ち上げられ再度手を放されて自由になった贅肉は重力に負けてだぽんと垂れ下がる。若くハリのある柔肌は垂れ下がると言ってもダランとただ垂れるのではなく、重みを感じさせたまま存在していた。まさにボインといった膨らみ。

上半身から下半身へと視線を移すと、ぼんっ!ぼよよん!どっしりどっぷん!

極めて単純な表現だが、到底ボンキュッボンではなく全身がでっぷり膨らんだだらしのない身体で、その上で腹肉の全貌が明らかになったのだ。

「お、おい…あんまり外でそういう恰好は…」

「えっ?」

ほぼ半裸の恰好になっていく四葉に風太郎と言えども直視できず目を泳がす。耳を真っ赤に染めた彼に四葉は下を向いても自身の胸と腹しか見えないが、客観的に自身を見たときの姿を想像して一気に戸惑いが生じる。

「ななな!!私、そんなつもりじゃないんですよ!?ちょっと暑かったので楽になろうかなーってそれだけで!!」

ベンチの上に全体重を乗せた状態でじたばたと戸惑いからパンツをへそまで上げなおそうと彼女はもがく。だが急激な動きとパンツを上げようとする際に重心を前後左右させたことにより、四葉の尻の下で耐え続けていた木製のそれは悲鳴を上げ…。

メキメキ…バキッ!!バキバキバキ…!!

「な、何か変な音が…うっ、えええ!?」

徐々に巨躯が沈みこみ、それに比例して木の割れ目が深くなる。沈み込みが深くなるほどこの巨体では立ち上がるのも難しくなり、太りきった身体がいずれ訪れるベンチの大破、地面への急着地に備えるしかないが、脂肪故に動きが制限されている為、慌てる事しかできない。

バキッッッ!!!

「よ、四葉!!」

チュ…

ドシンという尻肉の着地に、少しでも彼女を衝撃から守ろうと前かがみとなり支えようとした彼は沈み混む彼女へと勢い余って顔を突っ込む。急接近する二人の顔、互いの吐息鼻息を感じる間もなく、一瞬のうちに両者の唇は触れた。

甘いような濃く辛いような…。そんな味がした。

チュパ…

「…う、上杉さん…?」

「…おう…その…」

唇を離すと目を見開いた二人の間に長い長い沈黙が訪れる。相手の瞳に自分の顔が映り、紅潮した自身の姿を見た。

「す、すまん…!そのつもりじゃ…」

「いえ、私の方こそこんな…」

何分経っただろうかというほどの疑似的な静謐の末、風太郎の方から距離を取る。それに乗じて四葉もまた口を開いた。体格も性格も違う男女が一つになったのち、二人はまた別々となる。起こった事態、事実は変えようがなく、二人はただ相手に謝りつつもその出来事を自身の内で正当化しようとしていた。

「そ、その…上杉さん…帰ったらなんですけど…よ、よかったら…お腹とか…マッサージして頂けないかな…なんて…」

一語一語が詰まりながらも真っ赤に膨らんだ顔で四葉は言う。

「…お、俺が!?なんd…」

唐突な要望に疑問を返そうとする風太郎の口を彼女の手が塞ぐ。理由は問わないでほしい、そういう事なのだとただ無言で訴えかけ、彼もまたそれを察し、二人はただ無言で帰路についた。

結論、四葉のダイエットは実行後まもなく破綻した。姉妹らにとって四葉の減量を風太郎に頼んだはずだが、彼はまったく彼女を痩せさせるつもりはないよう。家庭教師なのだから減量指導は専門外、のはずだが、それにしても彼がよく四葉のもとに食べ物を届けている姿は姉妹の目には不思議に映っていた。

というのも、彼女らはあの夏の日、風太郎と四葉の間に起こった些細な変化を知らないのだ。たった1回の口づけ、そして激太りによって贅肉に包まれた彼女の身体に、彼が触れたときの快感を。

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