守護聖神アストレア【番外編③】 (Pixiv Fanbox)
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銀河系の外れに位置する小惑星にて、二人の女神の戦いが繰り広げられていた。
「ふッ!!」
クイーン・ステラの鋭い拳が怪物の腹部を貫く。銀河系の外より突如として飛来した未知の生物、流醒獣。
その狙いが地球にあることが発覚したのは、先のヒル醒獣による侵略事件だ。
「はあぁああぁ!!」
青い光沢を放つアストレアの脚が、風を切るように敵を吹き飛ばした。
その流醒獣たちの拠点の一つとなっているのが、標的である青く美しい地球を一望できる、この小惑星だったのだ。
「この惑星の敵は全てやっつけたようですね、クイーン」
灰色の岩盤がどこまでも続く殺風景な景色を見渡しながらアストレアが尋ねる。
激しい戦闘の後でも息の一つも切らすことなく、クイーンが澄んだ声で答えた。
「そのようですね。先の戦いでは後手に回り、思わぬ苦戦を強いられました。今回はこちらから積極的に動くと致しましょう」
「それは好都合だわ。わざわざそっちから排除されに来てくれるなんて……」
しかしそれに続いたのは、アストレアでもクイーンでもない、何者かの声。それを認めた瞬間、二人の女神の背にゾワリと戦慄が走った。
先程まで戦闘の真っ只中に居た二人の研ぎ澄まされたセンサーですら、この存在の気配を捉えることが出来なかったのだ。
遠く離れた崖に悠然と腰かけていたその何者かは、たった一度の跳躍で二人の前に降り立った。
「御機嫌よう、クイーン・ステラ、アストレア。我が名はシェンハ。この宇宙の外側から来た、貴方たちの上位種よ」
シェンハと名乗ったその生物の紹介を聞きながら、アストレアは奇妙な感覚に襲われていた。
確かに目の前に居るはずなのに、これだけ近付かれても尚、その気配を感じることができないのだ。まるで幽霊と対峙しているかのような底の知れない不気味さを感じながら、それでもアストレアは堂々と言い放った。
「上位種? 笑えない冗談ね。この星々に牙を剥くつもなら、容赦しな……
……ぐふううぅ!?」
台詞を最後まで言うことは叶わなかった。アストレアを持ってして目で追うことすら敵わない素早さで、シェンハの拳はアストレアの腹部に深くめり込んでいた。
「んッ……!? く、ふ……ッ」
しかしアストレアにとって予想外だったのは、その速さ以上に、圧倒的な膂力であった。
これまで戦ってきた敵の中でも、一、ニを争うほどに小さな体躯。その細い腕、幼気な拳からは考えられないパワーが、アストレアの腹筋を貫いた。
一瞬浮いた体が、地球に比べて小さな重力にすら耐えきれず崩れ落ちる。
「ん、あぁあ……!! は、ぐッ……!! あ、うぁ……!!」
四つん這いのように倒れたアストレアは、敵の眼前であることなど気にする余裕もないまま悶絶する。
蒼い戦姫に一撃にしてそれほどの苦しみを与えたシェンハに、女王が吠えた。
「貴方の相手は私が引き受けます!! かかっておいでなさい!!」
百戦錬磨のクイーンにとっても、強さの底すら知れぬ敵と相対するのは初めての経験であった。
全身にエナジーを漲らせ、臨戦態勢に入る。
敵の武器が速さと力であるならば、数百年間この銀河系の平和を守り抜いてきた自らの能力が遅れを取るとは思えない。そんなクイーンの絶対の自信は――
「いやあぁあああああああぁぁ!?」
――呆気なく、打ち砕かれた。
目線も集中も、一瞬たりとて切らしてはいない。しかし敵は残像すらなくクイーンの眼前まで距離を詰めてきた。まるで、違う時間軸で行動しているかのように。
シェンハの指先から放たれた電撃は、クイーンの思考回路すら一撃にして灼き切った。
「あぁああぁッ!! あはあぁああああぁああああぁぁ!!」
クイーンの深い母性の象徴であるかのような両乳房の先端から、味わったことのない強さの電撃が送り込まれる。まるで母乳を吹き出すかのように激しく火花が噴き上げながら、クイーンは甲高い悲鳴を上げ続けた。
「ふん、所詮はこんなものか」
攻撃がやむと同時に、クイーンもまた糸が切れたかのように膝から崩れ落ちた。
艶めかしく光る銀色の尻を突き出すような姿勢で悶える二人の女神を見下ろしながら、シェンハは悠然と告げる。
「言ったでしょう? 貴方たちとは種としての次元が違うのよ。大人しくこの銀河系を引き渡せば楽に死なせてあげるけど」
ようやく吸えるようになった息を浅く繰り返しながら、アストレアは地面についた拳を、土を抉るように握り込んだ。
「この程度で私たちが諦めると思ったら、大間違いなんだからっ」
「どうやら、強めのお仕置きが必要なようですね……!!」
立ち上がった二人の女神は、それぞれの手に武器を出現させる。これまで幾度もの死闘を乗り越えてきた二人の意志は、欠片ほども衰えてはいなかった。
「ふぅ……ん」
自らの力を見せつけようと立ち向かってくる存在に、シェンハは興味深げに喉を鳴らす。そして自らの身長をも悠に超える長さの獲物を召喚した。
「分からず屋の女神様たちに、格の違いを教えてあげるわ」
銀河系の命運を懸けた戦いが始まろうとしていた。果たしてアストレアとクイーン・ステラは、かつてない強敵を退けることが出来るのだろうか。