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春はまだ遠い冬の最中。鉛のような曇天が、森全体を重苦しく覆っている。動物も虫も眠りにつき、静寂に包まれた死の森で、唯一動いている種族があった。 それがニンゲンだ。 冬眠することができないニンゲン達は、狩りの得物が減り、作物も育たず、秋までに得た実りの蓄えを磨り潰しながら細々と暮らしていた。 彼らが餓えと寒さに震えなくてはならないのは、ひとえに土地の不足が原因だった。 この森には二つのニンゲンの部族があり、互いに相手を憎みあい、争いあっている。 争いは土地の荒廃を招き、荒廃した土地は森の恵みを失わせ、残された森の恵みを奪い合うことでさらに土地を荒らす悪循環を生む。 二つの部族の境界線はかつての鬱蒼とした森の面影を失い、枯れ果てた土地が広がるばかりとなっていた。 その荒野にあるのは、二つの部族の間にある相互不信という分厚い壁だけだ。 そんな殺伐とした森の中、二人の少女がいた。 一人の少女は黒い髪と黒い瞳をしていて、もう一人の少女は茶色い髪と瞳をしている。 彼女たちが敵対する部族の者であることは、その髪の色と瞳の色によって、誰の目にも明らかだった。 二人は敵同士であるにもかかわらず、同じ目的で部族の境界である荒野にまで足を運んでいた。 荒野には勝手に近づかないという部族の掟を破ってでも、食べるものを調達したかったのだ。 掟のお陰で荒野の周辺に人はいない。まだ食べるものが残されているかもしれない。そんな希望にすがって、少女たちはここまでやってきたのだった。 しかし、彼女たちの目的は達成できなかった。 二人が荒野に足を踏み入れたのはまったく同時で、二人はお互いに鉢合わせしてしまったのだ。 彼女たちは互いの部族を嫌悪し合う大人たちに、相手は卑怯で野蛮で危険な生き物だと教えられてきた。 それを洗脳と呼ぶのか、教育と呼ぶのか、それは人によって違うだろうが…いずれにしても、彼女たちは初めて合う敵対部族の少女をひと目見ただけで激しく嫌悪し合った。 そんなだから、二人のうちどちらかが、あるいはどちらもが、相手を殺そうとするのは当然のことであった。 「あなた、ここでなにしてるの?私達の部族から食べ物を盗むつもり?」 先に口を開いたのは、茶色の髪をした少女の方だった。彼女は自分の目の前にいる黒髪の少女を、油断なく見据えている。 「ボク達の部族は卑怯者のあなたたちとは違う。盗みに来たのはあなたの方」 黒髪の少女の方も、敵意を込めた瞳で茶髪の少女を睨みつける。 彼女たちの間には、一触即発の空気が流れていた。 彼女たちの性別が二人とも女だったのは、偶然ではない。ニンゲンには他の動物にはない特徴があるからだ。 ニンゲンは十五歳から三十歳までの若い女に限り、神から特別な力を授けられる。 その力を授かった女は、強力な脚力、キック力を持ち、素足で岩を砕くことすらできるようになる。 ニンゲンの部族では、力を授けられた女が争いや狩りの役目を担うことを運命づけられていた。 そして…荒野で遭遇した二人の少女はどちらもすでに力を授かっていた。 「私、昨日力を授かったの…そんな生意気なこと言ってると殺しちゃうよ?」 茶色の髪の少女はそう言うと、黒髪の少女を見下すような嘲笑を浴びせかけた。 茶髪の少女もそうだが、黒髪の少女は小柄でまだ力を授かるような年に見えない。 力を授かった少女と、まだ授かってない少女じゃ勝負にならないと踏んだのだ。 「…ボクも昨日、力を授かった。最初の獲物に嘘つき部族の泥棒女を殺すのも悪くない」 しかし、茶髪少女の思惑は外れる。黒髪の少女もまた力を授かっていたのだ。 「へぇー…まあ、卑怯者部族のあなたが授かる力なんてたかが知れてるだろうけどね」 そう言い放つと、茶髪少女はゆっくりと黒髪の少女に向かって歩き始める。 「そう?嘘つき部族のあなたよりは強い力を授かったと思うけど?」 黒髪の少女も負けじと言い返すと、茶髪少女に向かって歩き出す。 「ふんっ!じゃあ、試してみようよ!」 「望むところ……」 二人は脚を伸ばせば届くほどの距離まで近づくと、その場で立ち止まった。お互いの目を見つめ合い、牽制しあう。 ((まずは小手調べ…!)) 心の中で呟くと、二人は同時に素足で蹴りを繰り出す。 バンッ!! 乾いた音が荒野に響く。茶髪少女の足裏と、黒髪少女の足裏がぶつかった音だ。 二人の体格、足のサイズはほぼ互角。足の裏同士をぶつけ合うと、踵と踵、つま先とつま先までがぴったりと重なる。 「くっ……!」「うっ……!」 威力は、互角。二人は顔をしかめると、一旦足を引き離しすぐに次の攻撃に移る。 「このっ!」「やあっ!」 今度はお互いに向けて前蹴りを放った。 ドスンッ!!! 鈍い音を立てて、二人のつま先がぶつかり合う。足の指同士がぶつかる衝撃が、二人に痛みとなって跳ね返ってくる。 「痛ったぁ……!」「くぅ……んっ!」 しかし、痛みに悶えたのはほんの一瞬だけ。二人はまた一旦足を戻し…再度蹴りを繰り出し、足裏と足裏をぶつけ合った。 「んぎぃいいぃ!?」「んぐぅううぅ!?」 足裏同士の激突はバンッ!とさらに大きな音をたてた。足の指から踵まで、二人の足でくっついていないのは土踏まずくらいだ。 重たい衝撃が踵から膝まで突き抜けて来て、脚が震えてしまっている。 「なによっ…!こんな足っ…!全然大したことないじゃない!!」 「それはこっちのセリフ…!!そんな足じゃ…ボクの足には勝てない…!」 お互いに相手を挑発し合いながら、蹴りあった足を密着させて、相撲みたいに押し合う。足で力比べだ。 「くっ……!んんぅ…!くぅぅうううぅうう……!!」 「ふぐぐっ……!?ぐうぅぅぅ……!!」 二人は歯を食い縛って、全力で踏ん張る。足の指の間に相手の足の指を挟み込み、足の指と足の指が絡み合う。 「くふっ…!ん、んんぅ…!」 「あ、んぅ…!うくっ……!」 足の裏は思いの外敏感だ。密着させると、相手の足の筋肉が動くのが伝わってくる。 茶髪少女が渾身の力を込めて数センチ足を前に出す。茶髪少女は勝ち誇り、黒髪少女は悔しそうに顔を歪ませる。 黒髪少女が怒りに任せて足を前に出し押し返すと。二人の少女の表情が入れ替わる。 「「くっ……!ンンッ……!………っ…このぉっ!!」」 一進一退の攻防が続き二人の足の裏が汗ばみ始めたとき…二人はお互いの足を弾き合って距離を取った。 双方ともに息が荒い。 片足立ちでの力比べは二人の体力を容赦なく奪っていったようだ。 「……はぁ……はぁ……もう限界なんじゃない?降参したら?」 「……そっちこそ、足が震えてる…むう限界なの…?」 強がりを言い合っているが、二人とも肩で息をしている状態だ。疲労の色は隠せていない。 そんな二人を嘲るように、太陽はゆっくりと西へと傾いていく。 日が沈む前に村に戻らないと、二人が失踪したと大騒ぎになってしまうだろう。そうなれば村に連れ戻され、決着をつける前に引き離されてしまうかもしれない。 そうは、させない。 「……そろそろ続きにしようか」 茶髪少女はそう言うと、また素足に力を込める。 「そうしよう……次は、ボクも本気で行く……」 黒髪少女も茶髪少女と同じように足に力を込めていく。そして……ほぼ同時に地面を蹴って相手に向かって蹴りを繰り出す。 バシィイィイイイッ!! 少女たちの足裏が再び激しく衝突しあい、乾いた音が荒野に響いた。 「んぐぅぅぅうううぅうう!!!」 「ひぎぃぃいいいぃっっ!!!!」 足裏全体に激痛が走り、二人は苦悶の声を上げる。足と足を密着させたまま、二人で声を上げて悶え合う。 衝撃は踵から膝まで伝わって、太ももにまで響いているようだった。 お互いに力を授かっているから分かりづらいが、彼女達の蹴りは岩を砕くほどの威力があるのだ。 いくら脚が強化される加護を受けていても、敵も同じ加護を受けているのである。 足の裏がビリビリと痛み、足首や膝の関節がガタガタ震えてきた。 このまま蹴り合いなんてしていたら、歩けなくなるくらいのダメージを負うかもしれない。 だが、彼女たちはそんなことには構わず、次の一撃のために再び脚に力を入れた。 彼女たちにとっては、足が壊れるかもしれないという恐怖よりも、相手への憎悪のほうが大きいからだ。 「くっ……このぉおおおぉおおおお!!」 「んあぁああああああぁああああ!!」 足と足を引き離して、二人はまた蹴りと蹴りをぶつけ合う。しかし、今度は今までみたいに一発で終わらせる気はない。 脚を鞭のようにしならせて、連続で蹴りを浴びせかけるのだ。 ビシッ!バシンッ!バチンッ!ズドンッ!ドスンッ!ガスッ!ボコッ!ドスンッ!ドゴッ!ドスンッ!グシャアッ! 「「んぎぃっ!ぐぅっ!んんんっ!ぐぅぅうっ!ああっ!んんぁあああっ!」」 まるで太鼓を叩くようなリズミカルな音が響く。お互いの蹴りがぶつかり合い、骨に響く衝撃が二人の少女の身体を蝕んでいく。 その痛みに耐えながら、二人は攻撃の手を休めない。何度もお互いの足を蹴りつけあっているうちに、だんだんと威力が増していき、威力を増すごとに痛みが増す。 「あぎゃぁっ!?んひぃいぃいっ!?うぎぃいいぃいいぃ!?!ま、負けないわよっ!私の足は、こんなもんじゃないんだからぁ!!」 「んぎゅぅううううぅう!!こ、こっちのセリフ……ボクの足は、もっともっと強いんだぁあ!!あなたの足なんか、すぐに蹴り壊してやるっ!!」 「あ、あなたみたいな女に負けるわけ無いでしょ!!私の足の方が強いに決まってる!!絶対、絶対に勝つっ!アンタの足をぶっ壊してっ!!」 「ボクだって、負けられないっ!!あなたの足なんて、ボクの足に負けて粉々になればいいんだっ!一生歩けない足にしてやるっ!」 お互いがお互いを罵倒し合いながら、脚を動かし続ける。 相手の足が憎くてしょうがない。自慢の足技と、相手の足技が互角なのが許せない。 最初、二人は敵対する部族だからお互いを嫌い合っていたに過ぎなかった。 でも今は違う。 目の前の相手そのものが、憎悪の対象になっていた。 「このっ!このぉっ!このぉっ!このぉっ!」 「くぅっ……!このぉっ……!このぉっ……!このぉっ……!」 二人の少女は何度も何度もお互いの足を蹴りつける。蹴って、蹴られて、同時に蹴り合って、それを何度も何度も…延々と繰り返す。 それでもまだ決着がつかない。 黒髪少女の足も、茶髪少女の足も、もう限界が近づき真っ赤に腫れ上がってしまっている。 なのに二人は止まらない。 意地とプライドをかけて、相手に勝ちたい一心でひたすら蹴りを繰り返す。 「んぐぅううっ!?!こ゛の゛お゛ぉおおおおっ!!」 「んぎぃぃいいいいっ!?ま゛け゛る゛か゛ぁぁぁあぁっ!!」 均衡は、崩れない。 二人はもう限界を迎えつつある足を、何度も何度もぶつけ合い続けた。 利き足はもう棒みたいな感触しかない。ただ激痛が走るだけの棒だ。 ぶつけ合う足を左右で変えることができたらどれだけ楽かと思うのだが…これだけ痛めつけられた足ではもう立っていることすらできないだろう。 ((早く倒れなさいよぉぉおっ!!)) もう何度目かもわからないほどにぶつけた足が悲鳴を上げている。 そして、黒髪の少女も、茶髪の少女もとうとう堪えきれずに涙を流して絶叫する。 「うわぁぁぁああぁあああっ!!まけたくないよぉぉぉおおお!!!」 「いやぁぁぁぁあああぁぁあああ!!!まけたくなぁぁあああい!!!!」 少女達の悲痛な叫びが荒野に木霊すると同時に、ぶつけ合った足が…一番脆い部分から壊れ始めた…。 それは、少女の骨が上げる断末魔の声…! ポキッ! 「あ゛ぎゃああぁぁああっ!!!」 「ひぎぃいぃいいぃいっ!!!?」 ぶつけ合った足の、整った五本の指……その最も脆弱で最も繊細な小指の骨が折れた瞬間だった。 少女たちの口から悲鳴が上がる。少女たちの表情が苦痛に染まる。少女たちの顔が絶望の色に変わる。 少女たちは小指は支えを失ったようにあらぬ方向にひん曲がった。 「うぅ……ひっぐ……いたいよぉ……」 「……うぅ……ぐすっ…………うぅ…………」 少女たちの瞳からは涙が流れ落ちる。折れ曲がった小指同士が重なって、お互いを責め苛む。 今まで経験したことのない痛みに、二人は泣きじゃくりながら……しかし、それでも足と足を押し付け合い続ける。 「よくもっ…!ボクの指を折ったなっ……!」 「うるさいっ!!そっちこそっ!!私の大切な指になんてことしてくれたのよ……!」 お互いの小指を骨折させた二人の少女。赤かった足が、小指だけ紫色に変色している。だが、そんな状態でも二人の少女は蹴りをやめなかった。 いや、やめられなかった。ここまでやり合って、引き分けで解散なんて…そんなの、女の子のプライドが許さないからだ。 彼女たちにとって、これはただの喧嘩ではない。もはやこれは、お互いに指の骨を折られた復讐をするための戦いなのだ。 「うぐぅううっ!んぐぅううっ!」 「んぐぅううううっ!うぐぅううぅっ!」 再び始まる、壮絶な潰しあい。 黒髪少女も、茶髪少女も、泣きながら脚を振るい連続的に相手の足と自分の足をぶつけ合う。 相手の足を砕き、再起不能にするためだけに蹴り合いを続ける。 「はぁはぁっ……!!いい加減にしてよっ!!」 「ふぅっ……!ふぅっ……!そっちこそ、早く壊れたらいいのにっ!!」 激しい動きのせいで汗が飛び散り、涙と混じり合う。 そうしているうちに、黒髪少女の薬指がへし折れた。 「ぎゃぁあぁあっ!!?ゆびぃっ!?ボクのゆびぃいいっ?!」 でも、黒髪少女は蹴りを止めない。小指も薬指も折れたまま、足の裏をぶつけ合う蹴りを続けて……すぐに茶髪少女の薬指を道連れにする。 「ぎひぃいいぃぃいっ!??わ、わたしのぉおおおぉっ??!!!」 茶髪少女が絶叫する。小指に続いて折れた薬指。もうすでにボロボロの足からさらに激痛が走る。 そんな中でも二人は止まらない。泣き叫びながら蹴り合いを続ける。 ((絶対に負けないんだからぁっ!!!)) ドカァッ!!バキィッ!!メキャァアッ!!グシャアァァアア!!! 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!!!」 今度は、茶髪少女の中指が先に折れた。五本の指のうち三本をへし折られた茶髪少女が、まだ二本しか折れていない黒髪少女と蹴り合いを続ける。 「ぐぁあ゛ぁあ゛あぁ゛あ゛あ゛あぁっ!!!」 すぐに、黒髪少女の中指も折れる。 二人とも親指、人差し指以外の指が曲がってはいけない方向に曲がっている。 片足はもう、まともに歩くことにすら使えない状態だというのに、それでもなお相手への憎悪だけで蹴り合いを続ける。 これは女の子の意地だ。 二人の女の子の意地と意地のぶつかり合いなのだ。 「うぐぅううううぅぅっ!!負けるもんかぁぁああっ!!!」 「このぉぉおおおぉぉおおぉおっ!!!!」 バキィ!!ドカァッ!ゴギィッ!ズボォオッ! 「「壊れろっ!!壊れろっ!壊れろぉぉおおおっ!!」」 何度も何度も、鏡写しのようにそっくりな動きで足を振り回し続ける二人。少女たちの喉は悲鳴と怒号を上げ続けている。 何度も叩きつけたせいで腫れ上がった足も悲鳴を上げる。 もう限界などとっくに超えているる……全身から汗を噴き出しながら蹴り合いを続ける少女たちに、戦いが始まる前の可憐さは微塵も残っていない……。 あるのはただ、相手を完膚なきまでに叩き潰すという執念のみ……。そしてついに、決着の時が訪れた……いや、これを決着と言うべきなのか? 「「うぎぃいぃいいいぃいぃいいいっ!!!」」 断末魔の声を上げたのは、二人同時だった。 お互いの親指と人差し指が、同時にへし折れる。 これでお互いに、無事な指は無くなった。 「くぅぅううっ!こ、こんなはずじゃ……!」 「くぅぅっ……!こんなことって……!」 最後の最後まで互角のまま終わるのか……いや、そんなこと許せるわけない。足の指が全部折れるまで戦ったのだ。この犠牲に報いるためにも、勝って、この女の足を壊して、それからじゃないと終われない……! 「「死ねぇぇえええっ!!!」」 二人は、折れた足で残された力の全部を使って渾身の蹴りを放った。 二人の足裏が真正面から激突する。 「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!!!」」 そして…二人の足が、ほぼ同時に砕けた。 今まで懸命に相手の踵とのぶつかり合いに耐えてきた踵が、とうとう力尽きたのだ。 踵の骨が粉砕骨折し…それだけでは収まらずに足首の骨まで無数の罅が走る。 「「あ゛……ぁ……ぁ……」」 足が壊れた衝撃で地面に倒れ伏す少女達。もはや立つことすらできない少女達は涙を流しながらうめき声を上げることしかできない。 彼女たちにはもう立ち上がる力も残されていない。ただただ、涙を流すだけだ。 互いへの憎悪を糧にして必死に戦っていた少女達に、もう戦う力はない。あとはこのまま敗者として地に這いつくばったまま惨めに負け犬の姿を晒すだけだった。 しかし、本当の悲劇はここから始まる。集落に帰ってこない少女たちを探しに来た二つの部族が、荒野で遭遇してしまったのだ。 「こいつが…!こいつが悪いのよッ…!こいつが私たちから食べ物を盗もうとしてたのッ…私に見つかったから、私に襲いかかってきたのっ!」 「違うッ…!こいつらはやっぱり嘘つき…!ボクたちの村に盗みに入ろうとしたのはあいつ…!いきなり襲いかかってきたのもあいつ…っ!!」 足を砕かれた二人の少女は、互いに相手がいきなり襲いかかってきたと言い合ってしまう。 二つの部族は、もちろん自分たちの部族の少女の証言を信じ、相手の部族はやはり卑怯で汚くて嘘つきだと罵りあった。 そこからは、あっという間だった。 捜索に来たのは戦える若い女達ばかりだ。 女たちは横一列に並んで相手の列めがけて進み始めた。まるでファランクスか戦列歩兵のようなフォーメーションを組んで進む女達の手には槍や剣といった武器は握られてない。 彼女達の武器は己の脚だ。 鍛え抜かれたしなやかな筋肉に覆われた脚の一撃が、相手に炸裂すれば…その威力たるや、人間の頭を一撃で砕き割るほどである。 そんな脚を使った集団戦術こそが、このニンゲンの戦い方だ。 そして…並んでみてわかったことだが、二つの部族の女達の数はまったく同じだった。数に差があれば…数の少ないほうは圧倒的に不利になるというのに、同じ人数では互いに数の利は得られない。 これは、酷い戦いになる。 一度でも部族間の争いに参加したことがある女たちは、覚悟を決め、気合を入れなおした。 そうして、互いの距離はどんどん縮まっていく。あと数秒も経てば互いの蹴りがぶつかるほどの距離になるだろう。 そうなれば後は泥沼の乱戦となるだろうことは容易に想像できる。 「………………!」 「…………………」 睨みあう両者の間に、沈黙が流れる。 ((勝つ……!)) ((絶対に負けない……!)) ((こいつらは殺す……一人残らず!)) 女たちの心は一つになり、闘志を燃やしていく。 ((まずは、こいつからっ!!)) 女たちは、目の前の女を最初の目標にして一気に脚を繰り出した。全員が健康的な太ももをしている。 美しい曲線を描く美脚が真横から見れば一列に並んで見えて、それは壮観な眺めであった。そんな魅惑の脚が相手の隊列めがけて殺到していく。 バキィイイィイイイッッ!!! 「「「「ぎゃぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!!」」」」 「「「「ぐぎゃあああぁああぁぁあああっっ!!」」」」 横一列に並んだ二つの部族の女達が一斉に蹴りを繰り出し、その足全てが相打ちになったかのようにぶつかった瞬間、すさまじい音が響き渡る。 少女が二人で足の裏を蹴り合わせただけでも、荒野に響くような音が鳴り響くのだ。それが何人も集まれば当然凄まじい音にもなる。 悲鳴を上げたのは、両陣営ともだった。足の裏同士がぶつかり合って、双方ともにそのダメージで絶叫を上げてしまったのだ。 しかしそれで攻撃の手を緩めることなどしない。なぜなら彼女たちの目的は目の前にいる相手を全員ぶち殺して勝利することなのだから。 足の裏が痛いくらいで攻撃は止めない。 ドゴォオオッ!!ガスゥウウッッ!!グシャアァッッ!!ベキャアッッ!!ズガァアアンッッ!!ボギャアァッッ!!! 今度は一斉攻撃じゃなかった。女達はそれぞれがバラバラに動いて蹴りを繰り出す。 あるものは力を貯めて強力な蹴りを放つ。 あるものは一撃は軽くても手数は多く蹴りを繰り出す。 ある女は強烈な前蹴りを放ってくるし、またある女は回し蹴りを繰り出してくる。 様々な技を駆使して、目の前の敵を確実に仕留めようと必死になる。 まるで暴風雨のように、二つの部族の女たちの足がお互いに降り注ぎ合う。 女達の足の裏と足の裏がぶつかり合い、その度に悲鳴が上がる。 「ぎゃああぁあっ!?」 「このっ…!生意気なのよ…!このっ……!」 「殺してやるっ…!私の足で、蹴り殺してやるっ……!!」 「うぎぃいっ!?くぅぅううぅっ!」 「んぐううううっ!!こ、このぉおおぉぉおおおおっっっ!!!」 「い、いやぁぁあああぁああぁぁぁぁぁっっ!!!!」 女たちの足裏と足裏での蹴り合いはなかなか終わらない。 先に戦った少女たちがそうだったみたいに、足の指が折れ、骨が砕ける痛みに耐えながら、ひたすらに目の前の敵を殺そうと躍起になる。 しかし、これだけたくさんの女たちが蹴り合いを続けていれば、不幸な事故も起こる。 足の裏と足の裏がぶつからずにすれ違って、お互いの股間を蹴り合ってしまったのだ。 「「ひぎぃあぁぁああぁぁぁあっ!?そ、そこは…だめぇっ!?!!」」 急所を蹴られた女が、たまらず悲鳴をあげてしまう。 彼女達の足の裏は神の加護によって強化されてる。お互いに強化されてる足の裏同士だから、蹴り合いをしても簡単に壊れたりしない。 だけど、強化された足の裏で強化されていない股間を蹴り合えばどうなるか?答えは簡単だった。 鍛え抜かれた強靭な脚力で思いっきり蹴飛ばされてしまえば、その衝撃は想像を絶するものになる。 股間を蹴られた女の体が浮き上がり、地面に叩きつけられると同時に失禁しながらゴロゴロ転がっていく。 その途中で何度もバウンドして地面を転がり続け、ようやく止まった頃には白目を剥いて泡を吹き出していた。 女達の隊列から一人が脱落しても、女達の蹴り合いは終わらない。 それどころか仲間をやられた怒りと憎悪が更に激しさを増す。 もともと彼女らにとって目の前の相手は殺す対象でしかない。仲間をやられた二つの部族は、ただ殺すだけではすまさないと覚悟した。 死んだその体を足で踏み潰して凌辱してやる。そんな残酷な考えが双方の女たちを支配する。 「死ねッ…!死になさいッ…!その生意気な足ぶっ壊れ死になさいよッ!!」 「死ぬのはそっち!死ぬのはそっちッ!!…その足ぶっ壊れ死ぬのはそっちなんだからっ!!」 「痛っ…!んぎぃいいぃぃいっ!?ぐぅううぅっ!…このっ…!このぉぉおおぉぉおっっ!」 「痛ぃいいいいぃぃいっ!?!このっ!このっ!このぉおっ!!」 女たちの足裏と足裏の激突が延々と繰り返される一方で…最初に蹴り合いをしていた少女たちの戦いも終わってはいなかった。 「あっ……!あぁぁっ…!」 「ひっ……ぃいい……っ!」 少女たちは、自分たちの嘘のせいで始まってしまった殺し合いの渦中に放り込まれ、その光景を見て恐怖した。 足の蹴り合いをしている女達の中には、彼女たちの姉も、友人も、含まれていた。 自分の大切な友達が、いつも優しい姉が、鬼のような表情で相手部族の女と足の裏をぶつけ合う光景……とっさについた嘘が引き起こしてしまった事態に、恐怖したのだ。 「「ひぃっ……!ひぃいい……!」」 少女たちは…しかし、それも全部相手のせいだと責任を転嫁する。 もう片足は壊れ、立つこともできないが……この悲惨な戦争を始めた原因である相手を許しておけない。 そう思った二人は、尻餅をついたお尻を引きずって距離を詰めて行く。 「こっちの足は…まだ無事なんだから…!あんたなんかに負けるもんかぁっ!!」 「わ、私だって負けないんだから!やってやるわよ!かかってきなさいよ!!」 二人の少女は相手への殺意を高めていく。そして同時に相手の足を潰そうと…まだ無事な方の足に渾身の力を込めて…足裏同士をぶつけ合った。 彼女たちの足が互いの足にくい込み、激痛が走る。 「「ぐぎゃあああぁあぁあぁぁぁぁっっっ!!!」」 あまりの痛みに悶絶し、絶叫を上げる二人だったが、それでも攻撃の手を緩めない。 また何度も何度も、足の裏と足の裏を激突させ続ける。 そのまま互いに蹴り合い続けると、両方の少女の足の指が次々と変な方向に曲がってしまう。 でも、少女たちは蹴り合いをやめない。足の潰し合いを止めない。泣きながら蹴り合い続ける。 隊列を作って互いを蹴り合う女たちの群れも戦いは続いていた。 ((まずい……!このままじゃ負けちゃう……!!)) 女達は焦りながらも必死で足を繰り出し戦い続けたが、……ついにその時が訪れる。 ドゴォオオッ!!ボキィイイッ!! 「「ぎゃあああぁぁぁあああっ!?」」 蹴り合いを続けていた女たちのうちの二人が、互いの足の踵を蹴り壊し合って倒れてしまったのだ。 足を抑えて倒れたまま悶絶する二人を尻目に残りの女たちはさらに次々に攻撃を仕掛けていく。 ドゴォオォッ!!ズガァアアッ!!ベキイイィッッ!!グシャアァッッ!!ズガァアアッ!!! 「ぎゃああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?!」 「ぎゃひいぃいぃぃいぃっっ!!」 「うぐぅううぅうううっ!!」 「んごぉお゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛おお゛お゛お゛ぉっ!?!」 闘いを始めたのは全員が同時だった。足の耐久力なんて、女達にそんなに差はない。 一人が倒れると、あとはもうあっという間だ…次々足の指や踵を破壊されて、女達が崩れ落ちる。 ずらりと並んでいた女達の隊列が、櫛の歯が抜けるようにその数を減らしていく。 あるものは指も踵も破壊されて倒れ込んで動けなくなり。 あるものは折れた指から骨が突き出て、その突き出た骨が互いの足に突き刺さっていた。 あるものは踵が壊れてもまだ足をぶつけ合って、足首の骨までへし折れてしまう。 あるものは倒れながら、まだ無事な方の足をぶつけあってまだ壊し合いを続ける。 そんな地獄みたいな風景の中で、片足を壊し合って尻餅をついて、それでも残った足をぶつけ合い続ける少女たち。 「ごのっ!このっ!!このっ!!」「壊れろっ!壊れろぉっ!!」 もはや足の指は全部へし折れ、青紫色に変色し、踵の骨まで罅だらけになってしまっている。 足裏の皮も破れて血が流れ、足裏はボロボロになっていた。 それでも少女たちは、相手の足を踏みつけ、蹴り、攻撃の手を止めない。 「あぁあ、あ、あああっ!?!あし、足がぁっ!!」 「くぅうっ……!!い、痛い……痛い……っ!!」 「このぉっ!!死ね!!死んでしまえぇえっ!!」 「くたばれぇぇぇぇっ!!」 ズガァアアッッ!!! ボキィイイッ!! そうしている間に踵も粉砕骨折してしまって… 「「うぎゃぁぁぁああああぁぁああっっ!?!?!!」」 …断末魔の悲鳴をあげて、とうとう少女たちは意識を失ってしまった。 片足が壊れても泣きながら戦った二人も、両足が壊れた痛みには耐えられなかった……強すぎる痛みから脳が意識をシャットアウトしてしまったのだ。 意識を手放した少女たちは失禁して、荒野におしっこの水たまりを作る。 水たまりは広がり、二人のおしっこの水たまりが触れ合って…おしっこ同士が混ざり合う。 そのおしっこの池に浮かぶ意識のない、両足が壊れた女の子に片足を引きずって歩み寄ってくるふたりの女…!! 「「妹の仇よ…!あんただけは絶対に許さないッッ!!!」」 それは、彼女たちの姉だった。 隊列を組んで戦っていた女達もすでに全滅していた。 意識があるものは壊れた足を手で抑えて泣きじゃくり、殆どのものは失神していた。 この戦いの元凶になった少女たちの姉も…姉同士で足を蹴り合い他の女達のご多分に漏れず、相討ちになって利き足を壊し合っていたのだが… 姉たちは、愛する妹の両足を破壊した敵部族の女のもとに…足を引きずってでも復讐に向かったのだ。 「あんた…!私の妹に手を出したら…許さないわよッ!あんたも、あんたの妹も殺すわ…!」 意識のない黒髪の少女の股間に狙いを定めながら、黒髪少女の姉を睨みつける茶髪少女の姉。 「こっちのセリフ…!ボクの妹に少しでも触れたら…あなたも、あなたの妹も殺してやる…!」 黒髪少女の姉は、自分の妹を人質に取られた格好だが…同時に、彼女もまた茶髪少女の股間に狙いを定め、茶髪少女の姉を脅迫する。 姉同士の睨み合い。お互いの大切な者に手をかけようとする二人は他のどんな女達よりも恐ろしい顔で睨み合っている。 お互いに人質を取り合った格好だ…二人の間に、ほんの少しでも信頼があれば、人質の交換をするところだ。 だけど、二人の間に、二つの部族の間に信頼関係なんてものはない。 どんな取引をしたって、汚く、嘘つきな相手の部族は絶対に裏切る。 悲しいけど、…悲しすぎるけど…相手の人質になった時点で、妹はもう死んだも同然なのだ。覚悟を決めた二人の姉は、全く同時に…足を振り下ろす。 敵部族の幼い少女の股間を、強化した足で踏み潰す! グジャァァァアアアアアッ!!!! 「「んぎゃぁぁぁぁああああぁぁああっっ!?!?!!」」 失神していた少女が激痛のあまり悲鳴をあげ、股間から鮮血を噴き出して絶命する…! 「「よくもッ…よくもぉぉおおおおおおぉおっ!!!」」 お互いの妹を殺し合った姉たちは、残された最後の力を振り絞り…返り血に濡れて真っ赤になった足を、思いっきり激突させる!! 「「ぎゃぁ゛ぁ゛ああ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!?!!!」」 もともと、さっき相討ちになったばかりの壊れた足だ。 全力の蹴りを相打ちさせて、無事です無訳がない。 二人の足は足首の骨まで完全に骨折し、ふたりの女は絶叫しながら崩れ落ち…泡を吹いて失神してしまう。 全滅。 それは、あまりにもあっけない結末だった。 荒野に散らばる足を壊された女たち。 あるものはすでに絶命し、あるものは両足を破壊されてもはや一生立つこともままならず、一番マシな者ですら片足は使い物にならなくなっていた。 彼女たちは、救出に来たそれぞれの部族の男たちによって集落まで運ばれていったが…… 生き残った彼女達が受けた傷跡もあまりにも酷かった。 足の裏の肉が裂け、潰れ、足の裏の皮膚がズタズタに引き裂かれていた。 彼女たちもやがて傷口からの感染症で死に絶え……多数の女達を殺された二つの部族は、全面戦争に発展することになる。

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