青天、粛々 (Pixiv Fanbox)
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日記です、大したことは起こりません
前回(https://www.fanbox.cc/@hikodge/posts/1277795)のつづき
道を行く、暑い夏の水路脇を行く。
今現状、青天、先週まで雨が毎日降り続いていたとは思えないし、その時はそれが大層な事で、この夏はずっと雨が降り続くのではないか、ひいては夏が終わり冬になっても雨は続き太陽はもう出ないのではないか、生贄でも捧げるか、人の頭を模した小麦粉の塊を川に流すか、そんな悲観的な気持ちになっていたかと思えば今日は暑くて暑くて、いい大人が目的もなく水路脇をトボトボ歩いています。
しかし流れる水の音が大きくなって、水草もはっきりと葉っぱが見えてくると随分嬉しくなるものです。
光合成という大したことをして水の中でも息ができるこいつらは、水の中で息ができぬ我々を煽っているようにゆらゆらと身を燻らせ、笑い笑う。
生贄でも捧げるかよ、そんなので雨が止むかよ、阿呆なんだな、愛着がわく。
ゆらゆら。
対して自尊心も高くなく、煽られていると分かっていてもつられて笑ってしまう私です、水の音がうるさい、だがなんともこれが心地よい、笑うのは気持ちよい。
よく日に照らされた足元のブロックが熱い、くるぶしが熱っぽく湯だちます。
しかしそんな道すがら、からりと乾いたブロック道が急に色を変えて一種異様な雰囲気を湛えています。
ブロック道を形作るブロックの隙間から、本当は水路に落ちるはずであった水が、導管から漏れてわずかに湧いていました。
平らな水たまりの水面を、よく目を凝らすと小指の先ほどの膨らみ、寝転がった母猫の腹の乳首のように膨らみ、水を満たしています。
陽光と絶え間なく供給される湧き水のお陰か、その周囲1メートル50センチ×40センチほどの空間に草が青々と茂っていました、夏々サラダボウル。
もちろんその草もブロックの隙間から生えています、足元のブロックを覆い隠すほどの生い茂り方、放置されていた盆庭をそっくりそこに置いたような佇まい、ちょっと感動してしまいます、男の子は元来こういうものが好きな生き物なのです。
眺めながらずうっと片手に持っていたチーズスフレの包装を破いて齧り、ひやりと冷たい中のチーズクリームを飲み込み、水源と緑に囲まれ、肥沃で丈夫な地盤、水際に発展した小さな王国に想いを馳せる―――
やあ暑い、涼しくもなんともない、戻ろう、戻ってクーラーをつけよう。
外になんて1秒だっていたくない、勝手に滅びろ、水際の王国。