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ここ2、3年くらいイラスト界隈で流行っている色収差フィルター。もはや手垢にまみれた技法だが、先日クリスタ用のプラグインがリリースされたので、今更ながらではあるがA〇ゃんのイラストで初めて使ってみた。


しかし、色収差の原理もよくわからず使ったので、正直なところレンズ効果の再現としてはその体をなしてはいない。その次に使った〇オしゃのイラストにしても同様だ。

視覚的効果が強く、これ見よがしにキャラに乗せるのはどうにも憚られるので、まずは背景にかけてその上からさらにガウスぼかしをかけている。その後キャラにも馴染ませ目的で弱めにかけて、背景とキャラを統合した後に全体にディフージョン処理をかけている。

もはや光学的にはめちゃくちゃなことになっているのではと思うのだが、この手のフィルターをかけるときはなんか良い感じになれとおまじないをかける感覚で行っているので、今回も新しいおまじないを試してみた小五女子のような心持ちである。俺たちは雰囲気で色収差フィルターを使っている。


そもそも色収差とは何なのか。


イラスト講座系の動画やサイトでは、色収差あるいはRGBズレ(版ズレ)と並記されている場合もあるが、この二つは別物らしい。

版ズレとは多色刷りの印刷の際にCMYKが全体的にズレてしまうことであり、RGBですらねえじゃねえかと思うのだが、最初に言い出したのは誰なのかしら。

ちなみにこの二つを混同するとカメラ畑の人間の不興を買うっぽい。Twitterで見た。


そういうことなので、版ズレは置いておくとして、本題の色収差だが、簡単に言うとレンズの構造によって引き起こされる光のスペクトル分解で実像と違う色が写真、あるいは動画として出てきてしまう現象のことだ。色収差フィルターはこれを再現することを目的としている。具体的にはカバー画像に使った〇オしゃの耳の輪郭線を赤と緑(黄色っぽいが)と青とかに分解するフィルターだ。


色収差には軸上色収差と倍率色収差があり、厄介なことに出現条件、出現箇所が異なるのだが、カメラの仕組みから解説しなければならないためだろうか、複数のイラストレーターの講座系動画でも特に言及されておらず、ちょっとモヤったので調べてみた。


条件にもよるが、軸上色収差は望遠寄りのレンズで画面中央付近に出現し、ピントが合っている場所よりも手前はマジェンタの、奥はグリーンの縁取りがつく。絞りを絞ることで軽減できる。標準レンズでも絞り開放で白いモノを撮ると出たりする

対して倍率色収差は広角寄りのレンズで画面周辺部に出やすくなっており、絞りで軽減することはできない。ざっくりとこの辺の説明に加えて、光の入射角度や焦点距離、被写界深度、シャッタースピードの用語説明までしなければならないとなると……確かにこれは言及し辛い。興味があれば各々調べてほしいとなるのもうなづける。


そして、なにより重要なことだが、実写において色収差とは基本的には避けたい現象であり、歪曲収差などのほかの収差とともにこれを補正すべく、メーカーは日々努力を続けており、写真愛好者たちはその努力の結晶であるレンズに何十万という金額をかけている。すべての収差を滅せよ。


しかし、かように実写において忌避された色収差が、イラストにおいてもてはやされたのはなぜなのか。前述の講座系の配信やサイトでは「余韻が出る」「エモくなる」「臨場感がでる」みてぇな、具体性に欠ける説明がなされているが、それってあなたの印象ですよね。それ、完全に、間違ってませんか?(ネット弁慶しぐさ)

いや、別に間違ってはいないのだけれど、エモくなる理由も解説してほしい。

断言した方が情報商材っぽいので断言してしまうが、結論から言うと、これはひとえに情報量を水増しできるからに他ならないからだ。


そう、誰も実写の再現など望んでいないのである。


そも、実写においてもただ高画質化を突き詰めるだけではなく、適宜必要な効果を取捨選択することが肝要で、映像のLo‐Fi化ムーブメントを嘆く声もあるが(Twitterで見た)、まったく的を射ていないと思う。

だが、レンズを通すだけで現実世界の莫大な情報量を得られる実写とは違い、絵は描いたもの以上の情報量を加味するにはひと手間かけなくてはならない。そこで奇妙な逆転が起きる。実写においては不要と切り捨てられた鬼子に、安易に情報量を増やす手段としての白羽の矢が立つこととなった。

オーバーレイでグラデをかけただけでも、情報量を増やすことはできるが、色収差が持つ情報は格別である。

レンズの進化を逆にたどることにより、レトロでノスタルジックな印象を加味し、単純に色数を増やした上で、モノの輪郭を際立たせつつも捉えにくくさせる。そうした複雑な視覚刺激は違和感となり見た者の脳に作用し視線を奪う。やったぜ!こりゃあ猫も杓子も色収差を使いたくなるわけだ!俺たちは雰囲気で色収差フィルターを使っている!


その結果、陳腐化も早かった。


派手な処理だけにみんながみんなこぞって使えば飽きられてしまう。

写真で一時期流行ったミニチュア風の写真を写すチルトシフトレンズと似たモノを感じる。


自分としても、今回使用してみてなかなか使いどころの難しさを感じた。

前述のとおり、一般的には情報量の増加は好まれる傾向にあるが、同時に適切な情報の整理と方向づけが肝要であり、ことさらエロに関しては、過剰にレンズを通していることを強調させるのは主観性や臨場感を削ぐのではないかと思うので、かなりシチュエーションを限定しなくては使えないように思う。AVパッケージ風とかか。

うまくハマれば効果は絶大なだけに、選択肢から外してしまうのは早計だが、毎回仕上げに使う効果でもないというのがひとまずの結論である。



……余談、と言うか、ここまで書いておきながら、ひょっとすると核心となるかもしれないのだが、アニメーションにおいても色収差や四隅の光量不足など、あえて性能の悪いレンズ効果の再現に力を尽くし、効果的に演出に取り入れている会社がある。

これを自覚的、無自覚的に模倣する絵描きが増えたのが色収差が爆発的に流行した本当の原因かもしれない。


みんな、京アニ大好きだからなあ。

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