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#1  うちの学園の周りには寮やら提携のアパートやらの学園と併設された居住区画が囲むように並び立っている。学園都市と揶揄されるその居住区画はその名の通り、学園に通う生徒達が多く移り住んできているのだけど……学園が出資しているという割にはそのアパートやら寮の家賃は決して安くはない。都心に近いという事もあるし、アパートやら寮のセキュリティも普通と比べてしっかりしてたり建物自体がオシャレだったりするから……まぁ、多少高いのは分からない訳では無いけど……せめて生徒である私達だけにはもう少し金額を配慮して貰いたいと常々思っている次第だ。  そんな高級住宅街と化している居住区の中に、理子先輩の家はある。  3階建ての家だったり大きなマンションが立ち並ぶ都会的な区画に、ポツンと赤い屋根の小さな家がビルに挟まれて建っている。それが彼女が住む家なのだけど……  この家の建ち方を見るだけでも、理子先輩らしい家だなぁ……とシミジミ思ってしまう。  自分よりも背の高いビルの間に建っているにもかかわらず、そのプレッシャーをものともせず反抗的にその場に居座っているようにも見えるその家に……普段の理子先輩の性格が表れているかのようで……妙な親近感すら覚えてやまない。  理子先輩のあのひねくれた性格はきっとこの家の立ち姿にも影響を受けているんだろうな……などと勝手な想像を膨らましつつ彼女の家の呼び鈴を鳴らすと、家の奥から「はぁ~い」という多少元気な声が聞こえてきて……私は思わず緊張するように顔をこわばらせてしまった。  今日は理子先輩から直々に家に来るようにという命令は受けていてたけど……具体的に何をするのかなどの事は聞かされていない。ただ“宿題を手伝ってほしい”という事だけ伺ってはいたけど……本当にそれだけが目的でワザワザ私を家まで呼ぶ必要があったのかは疑問が残る。  ただの宿題だけなら図書館とかカフェとかで済ます事も出来た筈なのだ……なぜわざわざ家にまで呼び出して手伝わせようとしているのか? 何かその部分に企みがあるようで……そこはかとなく嫌な予感が漂っている。 ――ガチャ!  しばらく扉の前で待つと鍵の解錠された音が鳴りドアがゆっくりと開いていった。  扉の奥には……先程の返事の主である理子先輩が立っていた……訳ではなく、それよりも一回り小さい幼女が一所懸命にドアノブに手を伸ばして爪先立ちしている様子が目に映った。 「ん? あれ? お姉ちゃん……誰?」  ただでさえ高校生に見えない程小さい理子先輩を……更に小さくして幼児化したような見た目の可愛らしい幼女。  髪は姉譲りの青みがかった硬めな髪質だけど理子先輩程の極端な長さはなく、せいぜい結いを解けば肩付近くらいまでしか長さはないだろうと見当がつく。その髪を誰かの真似をする様にツインテールに結ぼうとしているが……なにぶん長さが足りない為中途半端な長さのツインテールで収まってしまっている。  そんな、身近な人間を真似して可愛らしく背伸びしようとしている様子が見て取れる幼女に、私はほんわかした気分にさせて貰いにやけた顔で自己紹介を返す事となった。 「えっと……古峯井明日香と言います。理子先輩に呼ばれて来たんですけど……今家に居るかなぁ?」  私の自己紹介にポカンとした顔を浮かべる幼女ちゃんだったが、しばらくすると何かを思い出したかのように顔をハッとさせ……後ろを振り向いて「お姉ぇちゃあぁぁん! お客さんきたよぉ!!」と部屋の隅々まで届くほどの大声で先輩を呼び出してくれた。  その声を聴いたであろう理子先輩は「あぁ、もう! うるさい!」と言いながらドタドタと足音を響かせて二階から降りてきて玄関の前に姿を現した。 「んぇっ!? せ、先輩……? ですか?」  目の前に姿を現したのは確かに背格好は理子先輩そのものだったのだが……パッと見の印象は先輩のアイデンティティが無く別人のように見えてしまった。  普段のあのアーチを描くように長い特徴的なツインテールは降ろされており、服も制服ではなく部屋着のようで……その服も髪型も見慣れていなかった為一目にはその女性が理子先輩だとは理解する事が出来なかった。  だから思わず本当に理子先輩なのかと聞き返しまったのだが…… 「何よ明日香? 私が私じゃなきゃ誰だっていうのよ? 馬鹿じゃない?」  という、いつもの刺々しい声色と流れるように自然に出て来る罵倒によって、ようやく私は彼女を理子先輩だと認識したのであった。 「い、いや……その……いつもと違って……大人っぽく見えたなぁ~って思って……」  髪を降ろした理子先輩の姿は初めて見た。  ツインテールの長さを見ていた時は『降ろせば長いだろうなぁ』と、ぼんやりは思っていたけど……まさか腰に付くほどの長さがあったとは想定しておらず、私は思わず理子先輩を煽る様な返答を返してしまった。 「そう言うって事は……あんた、私の事いつも幼く見てたって事よねぇ? 子供っぽいとか思っていたって事よねぇ?」  私の失言に当然のように噛みついてきた理子先輩に、彼女を呼び出した妹ちゃんはポカンとした表情を受けべて私と理子先輩を交互に見比べ始める。 「あっっ……イエ……ソノ……違イマスヨ……。言葉のアヤってやつですぅ……。そんな事思ってるワケないじゃないですかぁ~ハハハ♥」  普段通りならこのように私がドギマギして言葉を詰まらせ始めると、理子先輩は蛇が噛みつくようにしつこく私の失言を問い質そうと詰めて来るのだが…… 「フン、まぁ良いわ……。ほら、ユキ? スリッパを出して明日香を入れてあげなさい?」  妹の手前だからか、それとも大人っぽく見えたという言葉が少し嬉しかったのか……今回の失言には特に強い追及はなされず、妹さんに私を通す様指示を下してくれた。 「あっ……妹さん……ユキちゃんって言うんですか? 可愛いですね♥」 「……二坂 雪。私の7つ下の妹よ……」 「7つ!? 7つって事は……幼稚園の低学年?」 「あんた……私の事何歳だと思ってるの? 雪は10歳よ! 小学3年生っ!」 「えっ!? あ、ア、アハハ……冗談ですよぉ♥ もう……理子先輩ったら冗談が通じないんだからぁ……困っちゃうなぁ……アハハ……」 「冗談を言っていたような顔じゃなかったわよ?」 「うぐっ! うぅ……」  私の認識では理子先輩はせいぜい中学1年生くらいにしか見えないし、このユキちゃんに至っては……更に幼く見えてしまう為もはや幼稚園くらいの年齢にしか見えていなかった。  しかし、理子先輩はまごう事なく私の先輩であり、その先輩より7つ下なのだからユキちゃんは正真正銘小学生なのだ。  どうやらこの姉妹は“年相応に見えない呪い”か何かをかけられているに違いない。きっと理子先輩が何か悪さをして……魔女かなにかに魔法を掛けられたに決まっている。そうでなければこの発育の幼さは……可哀そうだと言わざるを得ない。 「明日香ぁ? あんたまた……良からぬこと考えてんでしょ? そういう顔してるわよ?」  私は理子先輩の言葉に内心ドキリとさせられるが、ここでも理子先輩は私の事を追求しようとはせず……私を玄関から上がり込ませると、二階へと誘導するように先頭を歩いて彼女の部屋へと案内してくれた。 「う、うわぁ~~先輩の部屋……中々に乙女って感じですね。意外……」  部屋に入ってまず目についたのは、全面薄いピンク色に仕立てられた四方の壁だった。その壁には年頃の女子らしく男性アイドルのポスターやら音楽グループのカッコいいポスターやらが並べて貼られてあり、そのポスターの間を埋めるようにアニメのキャラシールのような物がポツポツと貼られている様子が見て取れた。 「意外って何よ! 私だって、いちお“女のコ”なんだけど?」  壁際に寄せる様に置かれているベッドにはこれまた可愛い花柄のシーツが上に掛けられているし、枕もシーツの柄と合わせるように淡い色に統一されていて、いかにも女子だと言わんばかりの空間を演出する一助となっている。  勉強机も先輩の背丈を考慮された全体的にミニマムでコンパクトな机が設置されていて、床に引かれた絨毯も星やら月やら惑星やらが描かれた可愛らしいデザインが施されている。 「いやぁ……理子先輩ってもっと……こう……怖いというか……冷たそうな部屋に住んでそうだなぁって思っていたもので……」 「冷たそうって何よ! あんた……私の事普段どう思ってる訳ぇ?」 「あ、いえ……す、素敵な先輩だとは思ってますよぉ? 勿論♥」 「…………(ジィ~~)」 「う、う、うぅ……ホントですって……」 「……フン! まぁいいわ。それよりも! 今日は私の宿題手伝って貰うから! 早速だけど……上着を脱いでそこの椅子に座って待っててちょうだい?」  理子先輩がその様に促した先には、確かに人が一人腰掛けられるだけの大きさの丸い座面の背の低い小さな椅子が用意されていた。  ダイニングでくつろぐ為の椅子……というよりも、キャンプや日曜大工をする時にちょっと休憩をする為だけに存在するような脚の短い小さな椅子。  座っても足をぶらぶらさせる事も出来ない……というかそこまでの高さが無くて、膝すらも地面に着いてしまう程低い椅子……  彼女は私にその椅子に座るよう指示を下し、更には上着まで脱ぐよう要求を出してきた。 「えっ? あ、う、上着? 上着も脱がなきゃいけないんですか?」 「そうよ? だって……私が今日終わらせないといけない宿題は美術の宿題だし、その宿題の課題は人物画のデッサンだもの。私は出来る限り女子の体の線をこだわってデッサンしたいと思ってるから……上着を着ていたら体のラインを見る事が出来ないでしょ? だから上着だけでも脱いで貰わないと……」 「き、き、聞いてませんよ? そんな事……」 「あれ? 言わなかったっけ?」 「言ってません! 宿題としかっ!」 「そうだっけ? まぁ……いいじゃない、今言った訳だし♥ ほら、つべこべ言わずに服を脱ぎなさい? でないと……無理やり脱がすわよ?」 「ひっ!? ま、ま、まさか……裸? 裸にならないといけないの?」 「んなわけあるか! 学校の宿題がヌードデッサンな訳がないでしょうが、この馬鹿!」 「うぅ……ほ、ホントに?」 「いいからほら、脱ぐ! 上着だけで良いから……」 「むぅぅ……うぅ……。分かりましたよぉ……」  宿題の内容がデッサンだとは聞かされていなかった私は、まさか上着を脱がないといけなくなるとは思ってもおらず……下にはシャツなどは着用せずキャミソールと下着だけという油断した格好で来てしまっていた。  理子先輩の前で薄着になるという事がどれだけ危険な事なのか警戒してない訳ではなかったが……ただ宿題を手伝う(というか、下手したら私が教えてあげる立場になるんじゃないかとも思っていたくらいだから……)それだけなら警戒もクソもないだろう気を緩めてしまっていた。  まさか……服を脱ぐことになってしまうとは……  今更ながら私の危険センサーがビンビンと反応し警戒音を発し始めているのが、加速するように早まっている心臓の鼓音で気付く事が出来る。 「へぇ……今日は、キャミ着て来たんだ? 私はてっきりTシャツぐらいは着てると思っていたから脱がせようと思ってたけど……」  服を脱ぐなりその様な事を言われたものだから、自分の肌を守る様に手を回して小さくなってしまう私。そんな私を見て理子先輩の口元がいやらしく笑みを浮かべる。 「とりあえず……その椅子に座りなさい? そして……その腕を降ろして……シッカリ私に身体を見せないさい?」  私は理子先輩の指示に従うようその背の低い椅子に腰を落ち着けた。座ってみれば想像通り椅子は小さく……お尻は座面に着いているが、膝はそのお尻よりも高くなるという不格好な姿勢となり、私はすぐに膝を曲げ“お姉さん座り”になるよう座り直してその不格好さを解消させた。 「フム。見れば見る程生意気なオッパイしてるわよね? 明日香は……」  手を降ろす様言われたからその通りに降ろしたが、そうした事によって隠していた胸部を見られることになり……理子先輩は意地悪そうにその様な感想を私にぶつけて来た。 「ちょ、先輩! 見ないで下さいよぉ……恥ずかしい……」  キャミソールの胸元はエグ目に深いV字の切り込みが入っていて、その切り込みからは私の胸の谷間から膨らみかけの肌までもが無防備に晒されてしまっている。そこを見られるのが堪らなく恥ずかしく思えて来た私は、思わずまた手を回してその胸元を隠そうとしてしまう。  すると理子先輩はその手が回り込む前に私に向かって…… 「隠すの禁止! 手で隠そうとしたら……お仕置きするわよ?」  っと、脅しを入れて来た。 「ひっ!? お、お仕置き??」  その言葉を聞き慌てて隠そうとしていた手を再び降ろして、姿勢を正してしまう私……  そんな私を見て理子先輩はクスリと笑って視線を胸元へと戻していく。 「ポーズはどんな格好で描いても良いって先生が言ってたから……私の指示通りのポーズを取って貰うわよ?」  理子先輩の視線を感じ胸のあたりがどうしようもなくムズムズし始めてしまう。そのムズムズを解消するために手を回して防御の姿勢を取りたいけど……理子先輩にそれを止められてしまっているから自分を守る事が出来ずもどかしい。 「まぁ……まさかあんたがこんなに肌を露出させる服を着て来るとは思わなかったから、最初に考えていたポーズ案は没にして、新しいポーズ案を指示しなくちゃいけなくなったわ♥」  私の胸を堪能し終えた理子先輩は彼女も勉強机の椅子に腰かけ、机の上に用意してあったキャンバスを手に取り、それに絵画用の白い少し厚みのある紙を挟みながらそのように言葉を零した。  そして、引き出しから絵画用の鉛筆を取り出すとそれを横に構えるように私に向け、狙いを定める様に視線を尖らせていった。 「折角……そういう格好をしてるんだったら、私もココを特に書きたいって思っていたし……そこが見えるようなポーズ……取って貰おっかなぁ~?」  理子先輩の構えた鉛筆の先端が私の胸の位置から僅かに横に動いたのが分かった。その鉛筆の先端の延長線上には理子先輩の鋭い視線が重なる。彼女は、その鉛筆を照準のように見立てて私のあの箇所を狙って笑みを浮かべ始める。 「あ、あの……先輩? 顔が……笑ってますよ? すっごく……怪しく……」 「そう? 私ってば……笑ってる? 今……?」 「は、はい……」 「そっか……じゃあ、多分嬉しいと思ってるって事ね……他人のココを初めて描けるから……」 「ココって……何処……ですか?」 「またまたぁ~~♥ 分かってる癖にぃ♪」 「い、いえ……分かりません……ケド……」 「一度……描いてみたいって思ってたのよねぇ~、いつも触るばっかりで……じっくり見れなかった部分だし……」 「さ、さ、触る?? いつも??」 「ほら……いつも触ってあげてんでしょ? ブ・カ・ツ・で♥」 「ぶ、ぶ、ぶかつ!? 部活っ!?」 「折角だから描いてあげるわ♪ 明日香の……ワ・キ♥」 「わ、ワキぃ!? 私の……ワキぃっ!!!?」  焦らす様にその様に零すと、理子先輩は鉛筆を持ったままその場で腕を上げ……その手を頭の上に運び片方の手で手首を握るような格好を取り始めた。  そして、その格好を私に見せつけながら…… 「この格好を真似して取りなさい? ほら、頭の上で手を放さいないようにするこの格好よ……」  と、私の顔を睨みながら強く指示を出した。 「え、や、そ、そんな格好……恥ずかしくて……出来ませんよぉ……」 「恥ずかしくなんてないでしょ? いつも部活でやってる格好なんだから」 「やってるって……部活の時は無理やりさせられているだけじゃないですかッ! 私は別に……そんな格好を好きでしていた訳じゃ……」 「ツベコベ言ってないでさっさとやれ! 出来ないって言うんだったら……いつものように無理やり万歳の格好をさせちゃうわよ?」 「ひっ!? い、いつものように……? 無理矢理!?」 「部室から借りて来た枷もあるし……それで手を拘束して天井から吊るしてあげてもいいんだけど?」 「か、カ、枷っっ!!? 何でそんな物借りてきてるんですかっ!」 「フフ……さぁどうする? 枷で拘束された方が良い? それともぉ~?」  自分で手を上げないなら拘束して手を上げさせる……と、その様な要求を出してきたものだから私はその要求に対して激しく首を横に振って拒否した。  枷など付けられれば……その後どんな事をされるか分かったものじゃない! 宿題だ何だと言っておきながら私の事をくすぐってイジメてくるに決まっている! 抵抗が出来なくなればそんな事も平気でやってくる先輩なのだから、何が何でも拘束される訳にはいかない! 「わ、わ、分かりましたよぉ……やればいいんでしょ? やれば……」  渋々というか……半ば選択の余地など与えられず、私は頭の上で手を掴み合って素直に理子先輩の指示通りのポーズを取る事となった。 「ウンウン♥ 良いじゃない……その腋丸出しの格好……♥」  理子先輩は私が素直に応じたのを見るやその様な感想を私に零し、ゆっくりと自分のポーズを解除して片足を組む姿勢を取り直してキャンバスを再び拾い上げると、それを手に持った。 「相変わらず……あんたの腋……エロいわよね?」  手に取ったキャンパスを右足の太腿の上に置いて斜めに立て、片方の手でそれを支えながら早速鉛筆を走らせ始める理子先輩。彼女の顔は言葉とは裏腹に真剣な表情に変わり、私の姿とキャンバスの紙を交互に見比べつつ筆を進ませていった。 「……うぅ……………………」 「……………………………………」 「………………………………………」  キャンパスから鉛筆の走るカシャカシャという音が鳴り始めると、先輩は全く喋らなくなってしまった。てっきり私のこの格好を茶化しながら宿題とは名ばかりのイジメを私に強いて来るんじゃないかと思っていたけど……どうやら、宿題とやらに取り組む姿勢は真面目であるらしく、煽る言葉が出るどころか手を出してくる気配さえも見せず写生の課題に没頭する姿を私に見せ続けた。 ――シャカシャカ、カサカサ、シュッシュッ。ササササ……シャシャシャ。 「………………」 「…………………………」 「…………………………………………」  正直、理子先輩とは部室以外の場所で会うという機会に乏しく……普段何をやっていて、どんな家に住んでどんな家族や友達が居るかなど知りもしなかった(まぁ、知ろうとも思わなかったが……)。  髪を降ろした姿も初めて見たし……言ってしまえば彼女の普段着さえも初めて見たと言っても過言ではない為、私の目には全てが新鮮に映ってしまう。  学校の時とは違い家での格好は、紐で結ぶタイプのラフなショートパンツを下に穿き、上は部屋に貼ってあったポスターそのままの柄がプリントされた黒い半袖シャツを着るという大変ラフな格好を部屋着にしている。  部屋に居る時は靴下は穿かないようで、ショートパンツから出ているその細くて健康的な脚も完全に素足の状態だ。  片方の足を組む様な格好で椅子に座っている為理子先輩の裸足の足先は私の目の延長線上の宙を漂っている格好となっている。私の座っている椅子が低いせいもあり、理子先輩の方が座り姿勢は高くなっていて……この構図は傍から見れば女王様が下僕に足を舐めさせるような格好に見えてしまいかねない。それだけ彼女の足の位置と私の口元の位置が同じくらいの高さに有るという事を言いたいのだけど……そう考えると屈辱以外の感情は湧いてこない。  子供風の王女様に逆らえない哀れな奴隷の役を強いられているかのようで……なんだか理不尽な演劇に勝手に組み込まれてしまったかのように感じられ……妙に腹立たしい。 「なによ? 何か言いたげね……」  そんな屈辱感というか、理不尽さに苛立った感情はすぐに私の表情に現われていたようで……理子先輩は私の顔を見るなりその様な言葉をボソリと呟いた。 「いえ……別に……」  私は、腕を上げ続けるという負荷が段々しんどくなってきた事を表わすように手の組み方を左右逆にする仕草を取って見せ、理子先輩に不貞腐れるような表情を取りながら言葉を返してみた。 「嘘ばっかり……。私の事“憎い”って顔してるわよぉ? 今……」  足先だけでクルクル円を描いて私の顔がその様に歪んでいる事を指摘する理子先輩。その足が動いた事により私の目の先には彼女の可愛らしい足裏がチラチラと視線の先に映り込む事となり、不覚ながらも私はその足裏に視界を奪われる事となってしまった。 「フフフ♥ 何よ? 私の足……触りたそうに見るじゃない……?」 「うぐっ! べ、別に……」 「触りたい? 触りたいんだったら……触らせてあげよっか? この足の裏ぁ♥」  そう言って私の方に足先をグッと持ち上げ足の裏を晒して見せる理子先輩……。  私はその足裏を見て、胸の奥に何とも言えないネットリとした衝動が湧き上がるのを感じた。 「触っても……良いですか?」  その衝動が私の理性のタガを緩め始める。この……目の前で“触れ”と言わんばかりに見せつけてきている足裏を思いっきり触ってやりたいという願望が、その衝動と共に胸を激しく鼓動させてくる。  触りたい……。この生意気な足を……今すぐに……  触ってギャフンと言わせたい。こんな理不尽な格好を取らせた責任をこの足に取らせてしまいたい……。 「触りたいならぁ……触れべいいじゃない……。好きにしたら?」  理子先輩から飛び出て来たその言葉に、許しを得たと勘違いした私は思わず組んでいた手を外して手を降ろそうとしてしまうが…… 「ただし! 手を降ろしたら罰を与えるのは変わらないから!」  続けて飛び出してきたその非情な条件に……私は手を放すのを思いとどまり、組み解く事を諦めさせられた。 「先輩ぃ! それ……結局触れないヤツじゃないですかっ!」  その言葉を聞いた途端に、湧き上がってきていた衝動がスッと胸の奥へと引っ込んでいく感覚を味あわされる。期待が高まったのにすぐにその期待が裏切られた……その様なガッカリ感が私の胸をもどかしくさせ始めた。 「罰を恐れないって言うなら……触ればいいんじゃない? ほらぁ♥ 触りたいんでしょ? ほらほらぁ♥」 「むぅぅ……くぅぅ!!」  目の前で足先をプラプラさせて挑発する理子先輩だが、流石に罰を与えると言われて手を出す気にはなれない。  先輩の足は可愛らしくて綺麗で……思わず触りたくなる魅力があるのは勿論なのだが……その代償が罰だというのなら話は変わる。  彼女の言う罰は……つまりは拷問と大差のない虐待を私に与えるという事に等しい……  それは部活の時だと間違いなくそういう事態になるのは当たり前だが、それが例え家であってもやることは同じだろう。家でやり辛かったら……次の日の部活まで持ち越されてその時に存分に酷い目に合わされる事になる。それが分かっているから、誘惑にホイホイと乗ってしまうだらしない自分は律さないといけない! 一時の衝動で手を出せば、一生もののトラウマを植え付けられないのだから……ここは衝動を抑えないといけない場面なのだ! 「フフ……我慢なんかしちゃってぇ~♥ 明日香らしくもない……」 ――コンコン!  そんなこんなのやり取りをしていると、先輩の部屋の扉を控えめにノックする音が転がってきて……先程顔を見せたユキちゃんが私と先輩二人分の麦茶の入ったコップを持って部屋へ入ってきた。 「お姉ちゃん? お茶持って来たよぉ~?」  そう言って理子先輩と私の間に入ってきたユキちゃんだったが、私に先にお茶を渡そうとこっちを振り返るなり顔を横に傾けて頭の上に疑問符を浮かべる事となった。 「明日香お姉ちゃん? なんで万歳してるのぉ?」  ユキちゃんがお茶を差し出してきても手を降ろす事が許されていない私は、彼女の言う万歳の格好(正確には頭の上に手を置いて組んでいる格好)をしたまま手が動かせない。  そういう格好をお茶が出ているのに続けている事に疑問が浮かんでしまったのだろう……ユキちゃんは純粋な興味を含む視線を私に送って問いかけてきている。 「あ、えっと……ユキちゃん? 私の事はイイから……理子先輩にそれ渡してあげて?」 「……? えぇ? 折角用意したのにィ?」 「う、うん。後で飲ませて貰うから……ね?」 「うぅ~~~ん、そう?」  ユキちゃんは私の対応に引っ掛かるものを感じながらも促しの通りに姉の机にコップを二つ置き、改めて私の方を見てまた首を傾げる仕草を取った。 「ユキ? 今、このお姉ちゃんはね……私の宿題の手伝いをしてくれているのよ?」  私の理解出来ない行動に首を傾げたままになっていたユキちゃんに、理子先輩が鉛筆を走らせながら事の経緯を彼女に話し始める。 「宿題ぃ? って……このお絵描き?」 「そうよ。これはね……写生って言って、明日香お姉ちゃんのポーズを真似して私が書かなきゃいけない宿題なの……」 「しゃせーぇ? ふぅ~ん。そういう宿題があるんだぁ?」 「そういう宿題だから、彼女はあのポーズを崩す事が出来ないの♥ ほら……このままの姿を書き写さなきゃいけないから……ポーズが崩れちゃったらお姉ちゃん……書けなくなるでしょ?」 「そっかぁ……だから、万歳の格好から動こうとしないんだね? 明日香お姉ちゃん……」  理子先輩の話し方が、何やら不穏味を帯び始めたのが口調の変化で分かる。  ポーズを崩せない……という説明を入れ始めたあたりから、何かを思いついたかのように口元が ニヤケ始めている。 「そうだ。そういえばユキ? さっき……お姉ちゃんと遊びたいって……言ってなかったけぇ?」 「えっ? う、うん! 遊びたいけど……お姉ちゃんたちは……宿題やるんでしょ?」 「そうね……宿題はやってる……」 「だよね? だったら……ユキ……我慢するぅ」 「宿題はやってるけど……もしも、この明日香お姉ちゃんが……手を降ろしてしまったらぁ……宿題は出来なくなっちゃうわよねぇ?」 「……? そうなの?」 「そう……。だってポーズを真似して書かなきゃいけないからぁ……彼女が手を降ろしちゃったら私……書けなくなっちゃうの」 「そうかぁ……。それは大変だね……?」 「宿題が出来なくなれば……まぁ、私達二人でユキと遊んであげても良いんだけどなぁ~?」 「えっ!? いいの!?」 「だって……宿題が出来ないんじゃ……しょうがないじゃない?」 「ユキ遊びたいぃ! お姉ちゃんたちと、遊びたいよぅ!」 「だったら……宿題出来なくなるように……邪魔しなきゃいけないよね?」 「んへ? 邪魔??」 「そう……邪魔を♥」 「え、でも……邪魔したら……お姉ちゃんすぐ怒るじゃん!」 「大丈夫♥ 今日は……宿題が出来なくなったら、責任は全~部この明日香お姉ちゃんが取ってくれる事になってるからぁ♥」 「えっ!? そうなの!? 本当?? ねぇ、それ本当!? 明日香お姉ちゃん!」  嫌な予感は漂ってはいたが……まさかこんなに早くそのフラグを回収してしまうとは思いもよらなかった。  ユキちゃんは興味津々な表情で私の事を見ているが……理子先輩は邪悪そのものの笑みを作ってその顔を私に向けている。  この顔は……きっと何を言っても聞きいれて貰えないタイプの顔だ……  こういう顔をする時の理子先輩は、何を言っても聞いてくれない…… 「邪魔をしたかったら好きに邪魔して良いわよ? 明日香の手を降ろさせる事が出来たらあんたが満足するまで遊んであげるから……♥」  「ホント!? それ本当??」 「えぇ……もちろん本当よ♥ でも……明日香は中々手を降ろしてくれないと思うわよぉ? ユキに出来るかしら……」 「じゃあ、じゃあ! お願いしてみる! 明日香お姉ちゃんに、手を降ろしてくれるよう……お願いしてみるよ!」  目をランランと輝かせながら、ユキちゃんが私に向かってお願いを始める。 「お姉ちゃん! お願い! ユキの為に……手を降ろして? ね?」  私は彼女の純粋な熱視線に首を横に振って拒否の反応を返す。  だって……手を降ろせば……きっと罰は私に下るのだ……。それは意地悪な笑みを浮かべている理子先輩の顔を見れば明らかなのだ。 「お願い~♥ ね? お姉ちゃんも遊ぼ? ユキと……楽しい事しよ? ね? ね?」  なおも首を横に振って嫌だという答えを返す私に、ユキちゃんはしつこく私に手を降ろす事を要求してくる。  それでもなお……首を横に振り続けていくと…… 「下げてぇ~! お願いィ~~! 明日香お姉ちゃ~ん!」  今度は私の二の腕を両手で掴んでブンブンと振る仕草を取って強引に手を降ろさせようと試み始める。私はその力技の仕草にも抵抗を続け…… 「ユキちゃん! だめ! 私は……その……どうしても手は降ろせないの!」  と、身体まで横に振りながら拒否の言葉を出してみるが、ユキちゃんはそれを聞いても諦めるような事はせず……今度は自分の体重をかけて腕にぶら下がる勢いで力を込め始め始末……  そんな私達の攻防戦を黙って見ていた理子先輩だったが、そろそろ核心を突くヒントを与えて良いだろうと思ったのか……鉛筆を机に置きながらユキちゃんに言葉をかけ始めた。 「駄目よユキぃ~? そんな力任せに引っ張っても明日香は腕を降ろしてくれないわ……」  その言葉にユキちゃんは再びキョトンと首を傾げてしまう。 「あんたはまだ小学生でしょ? だったら、高校生のお姉ちゃんに力では敵わないの……♥」 「えぇ~~! じゃあ……どうしたらいいの?」 「ほら、こういう時どうしたらいいか……教えたでしょ?」 「え? 教えた?」 「力で敵わない相手には……どうするのが良いって教えたかしら?」 「……えっと……? どうすれば……良いんだっけ?」 「ほら……明日香の格好……よく見てみなさい……?」 「明日香お姉ちゃんの……格好ぅ?」 「万歳の格好……してるでしょ?」 「うん。してる……」 「万歳してるって事は……どういう攻撃が効くんだっけ?」 「攻撃? えっと……万歳してるっていう事は~?」 「もぅ。ちゃんと教えたでしょ? 万歳してる子が居たら……」 「……あっ! コチョコチョだ♥」 「そう♥ ワキをコチョコチョ~ってくすぐるのが効くって……教えたでしょ?」 「そうだ、そうだぁ♥ コチョコチョだ~♪」 「ほら、見なさい? 明日香の服……」 「お姉ちゃんの……服?」 「袖が無い服を着てるから……ワキの肌は直接触り放題になってるじゃない?」 「アハ♥ ホントだねぇ~♪ お姉ちゃんのワキぃ~もろ出しだぁ♥」 「明日香はね……こういう格好をワザとして来て……コチョコチョして下さい~ってお願いしてるのよ? だから遠慮はいらないわ……」 「そうなの? 明日香お姉ちゃんって……コチョコチョされるの好きなの?」  ユキちゃんの無垢な質問に私は必死に首を横に振り、そうではないと主張を繰り返した。しかし、私がどれだけ否定しようと……理子先輩がすかさずユキちゃんを煽る言葉を被せて来るものだから、ユキちゃんは完全に私を獲物として認識してしまった。  腕を降ろす事が許されていない私に……ユキちゃんはさも楽しそうに手をワキワキさせ屈託のない笑顔を向けた。  そして、その魔手が徐々に私の腕の付け根を狙って移動を始め……

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