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1:私とキャンプと各務原なでしこ……と。 「いやぁ~さっすがリンちゃんの足だねぇ~~白くてスベスベで柔らかそうだよぉ~♪」  温泉帰りのテントの中……なでしこのヤツは突然私のテントに押し掛けたかと思ったら、いつもの調子で「歩いて疲れたでしょ? 足のマッサージしてあげるね♪」などと宣いながら、寝袋に入っていた私を引き摺りだし靴下を脱げと催促し始める。 秋の夜長をまったり本でも読んで更けさせようと思っていた矢先の出来事に、私はその申し出を拒否る暇も与えられずあれよあれよの間に防寒用のモコモコ靴下を脱がされ裸足にさせられてしまった。そして私の生足を見るなり放った言葉がさっきの言葉だ。 「じ、じろじろ見るなよ、恥ずかしい……」  なでしこにさすがだと褒められたのは素直に嬉しいが、その褒めた場所が足であるというのはいかがなものかと思う。  別に人の何倍も透き通るような白い肌を持っている訳でもないし、極端にスベスベな肌という訳でもない。普通というやつだ、いたって普通っ!  でもなでしこはそんな平凡な私の足を興味深げに見つめ回して何やら嬉しそうな顔をしてはしゃいでいる……  一体なんなんだ? 足フェチか何かだったけか? なでしこは…… 「ほら……私の太腿に足乗せて~? 滅茶苦茶気持ち良よく揉んであげるから♪」  テントの入り口付近でご丁寧に正座をしつつポンポンと自分の太腿を叩いて私の足をそこに置くように誘導するなでしこだけど……私は一抹の不安を覚えてしょうがない。何かよからぬことを企んでいるのではないかと疑わしくなってくる……特にこういう妙にサービス精神が旺盛な時のなでしこは要注意だ。 「いや、私は本を読んでまったりしたいって思っていたんだけど……」  と、やんわり断る体で言葉を紡いでみたはいいけど、“思っていた”などという含みのある微妙なニュアンスの言葉を語尾に付けてしまい……結局“了承”を余儀なくされる返しをなでしこからされてしまう。 「それじゃあマッサージを受けながら読めばいいよ~♪ きっと気持ち良過ぎて、す~ぐ眠くなっちゃうと思うけどね♥」 「いや! す~ぐ寝ちゃったら本読めないだろ!」 「えぇ~いいじゃん。本なんて夢の中で読めばいいんだし~」 「そう都合よく読めるか!」  なでしこは、たまに変なスイッチが入って余計なことをし始める傾向が多々あるのだけど……今日はマッサージしたいスイッチが入ってしまっているらしい。こうなればどんなやり取りをしても頑として引いてはくれない。私がよっぽど拒否しない限りは押し続ける事だろう。 「(ふぅ……)分かったよ、少しだけだぞ?」  まぁ別に少し気恥ずかしいというのを我慢すればマッサージ自体は悪いものではない。だから拒否する理由にもならないし……確かに歩きっぱなしで足も全体的に気怠さを感じない事もない。だから今日くらいはなでしこの気まぐれにも付き合ってやってもいいか……。などと自分を納得させる言葉を心のモノローグに流しながら、私はなでしこの太腿に恐る恐る左足を運んでいく。  なでしこは膝の下ほどまでの丈しかないカーキ色のカプリ・パンツとその下に薄黒いストッキングを穿いて私の目の前で正座して私が足を置くのを待っている。  私はなでしこの視線をむず痒く感じながらもそっと太腿に片足を乗せ、後は煮るなり焼くなり好きにせい! と言わんばかりに足の主導権を彼女に渡した。 「うはぁ♥ リンちゃんの足がこんなに近くにっ!? いやぁ~やっぱりキャンプは良いものですなぁ~♥」 「おい、それはキャンプと関係ないだろ……」 「んへ? そっかなぁ~? うへへ……♪」  他愛のない会話をしつつもなでしこはマッサージとやらを始めるために私の足首を自然な流れで掴み、自分のやり易い位置に足先の場所を変えようと私の足を掴んだまま太腿の上を右に左と少しの間彷徨った。 「くふっ!? んんっくっ……」  私は“他人足首を掴まれる”という行為に慣れておらず、外気のせいで冷え切っていたなでしこの指先が触れた瞬間思わず変な声を上げてしまう。 「ん? どうしたのリンちゃん? 何か可笑しかった??」  実際の所は少しこそばくて声が出てしまったのだけど……意地っ張りな私の頭はそういう弱みを彼女に見せたくないと勝手に判断を下し思ってもいない嘘を口から吐いてしまう。 「い、いや……くしゃみしただけだし……」 「えぇ~? だって今……少し笑ってたよね? そんな声出してたよ?」 「だ、だからっ! くしゃみだってば! くしゃみっ!」  我ながら苦しい言い訳を口から出してしまったものだと思うのだけど、なでしこは私の語気が強まると納得はしていないものの渋々その話題から意識を放し、またいつもの朗らかな笑顔を見せながら私の足へと視線を戻していった。 「さぁ、リンちゃん♪ 今日は何処がお疲れなのかなぁ~? 今なら出血大サービス! 足のツボを無料でほぐして差し上げますぞ♪」 「……金取る気だったのかよ……押しかけてきておいて……」 「さぁ、さぁさぁ! 何処? 何処がお疲れかなぁ? 首? 腰? 脚? それとも……頭かなぁ?」 「をいっ! 頭は関係ないだろっ! 頭に効く足ツボなんて聞いたことが無いぞ!」 「うへへ……バレたか……」  いちいちツッコミを入れないと会話は進まないのかッ! と、怒りたくなる気持ちを抑え私は今一番疲れを感じている“腰”というワードをボソリと呟いた。 「えっ、腰? お……おぅ……腰だねリンちゃん! 任せてよ~今から腰に効く足ツボをマッサージしてあげるから♪」 『いや、腰の疲労なら腰を揉んでくれた方が助かるのだけど……』っと言いかけたが……なでしこの左手はすでに私の足裏に照準を定めており、多分今更何を言っても路線を変更してくれるとは思えないと悟り私はその言葉を呑み込んだ。 「腰に効くツボは~~確か……ココだったかなぁ~?」  あ、こいつ! 絶対足ツボに詳しくないだろっ! なんか適当に手を泳がせてるしっ!! 探るような目で私の足裏を見てるし!! 「おい、なでしこ……お前ホントは足ツボなんか詳しくなんて――」  と、私が確信を突く言葉を放とうとした瞬間…… ――ソワっ♥ 「うひぃぃぃっッ!!?」  恐らく苦し紛れに触ったであろうなでしこの人差し指が私の足の土踏まずに触れ、その刺激があまりにむず痒く感じてしまった私は素っ頓狂な声を上げ身体を過剰なほどビクつかせてしまう。 「…………」  思わず出た声になでしこはキョトンとした表情を浮かべて私を見て動きを止める。 「ぃ……いぃ……っくしょん!」  私はまたもごまかす為の態度を取るために偽のくしゃみを創作する。 「………………」  なでしこはそんな私の顔をジッと見つめて動かない。 「うぅ…………」  私はなでしこの突き刺さる視線が恥ずかしく感じ始め目を逸らそうとしてしまう。  その瞬間、なでしこは口元にニヤ~っと何かを企むような笑みを浮かべ、また私の足に視線を落とす。 「リンちゃんて……実は~~こういう刺激が……苦手だったりするのかなぁ~?」  私の反応を見て何かの確信を得たのか、なでしこの顔はみるみるいやらしさを増していく。  目を閉じんばかりのジト目で私を下から覗き、歯を見せながらニシシとワザとらしく笑うその姿は悪魔そのもの。尻の割れ目から尻尾でも生やしているんじゃないかというくらいに邪悪な顔を私に向けている。 ――サワ~~~♥ 邪悪なのは何も顔だけではなかった。いかにも悪戯を好んでますと言わんとするような行動までもが小悪魔を彷彿とさせる。 「んひぃ~~っっ!!? 馬鹿っ! やめ……」  私の足裏を人差し指一本で上から下に縦一文字になぞり上げたなでしこの指は、私の脳裏に“こそばゆい”という感覚を強烈に植え付け思わず足を逃がそうと暴れてしまいそうになる。  でも、なでしこの左手は私の足首をしっかり掴んだままであり、私が暴れようと力を込めても自分の太腿に押し付けてその動きを封殺してくる。  私は背筋に猛烈な寒気とむず痒くてジッとしていらえない感覚を同時に味わい再び声を上げてしまう。 「あれぇ~? 今度はくしゃみじゃなくて普通に悲鳴を上げたよね? それじゃあ……やっぱりリンちゃんはこういう刺激に……」 「な、な、なでしこっ! 足ツボのマッサージはどうしたんだよ? 腰が良くなるツボをほぐしてくれるんだろ? だったらほらっ! マッサージをしてくれよ! な?」  このままなでしこの興味が私の“弱点”に向いてしまうのは良くない! 決して良くない!!  だから必死に気を逸らそうと試みているのだけど…… 「ムッフッフ~~♥ もしかしたらリンちゃんの弱点……ひとつ見つけちゃったかなぁ~~?」  だめだ……もうなでしこの中でマッサージを行うという当初の目的は何処かに吹き飛んでしまったようだ。  私の反応が余程気に入ってしまったらしい……興味はすでにソッチに向いている。  これはまずい……。非常に……まずい! 「な、なぁ……なでしこ? アレだったら私がお前のマッサージをしてやろうか? ほら……私はマッサージ得意だから……」  今のなでしこに何を言っても通じない……それは分かっている。  でも何も言わないよりは何か気を引くセリフの一つや二つを言えれば興味を変えられるかもしれない……と思ったけど……。 「もう一回実験だぁ♥ ほ~~れ、コショコショコショ~~♪」  やはりなでしこは聞く耳を持たない。それどころか今度は人差し指に加えて中指も足裏には這わせ、指を交互に動かしながらコチョコチョと私の足裏全体を満遍なくくすぐり始める。 「はぎゃあぁぁっっ!!?」  指が二本になったこそばゆさは先ほどのような耐えられるような次元ではなく、触れられた瞬間はまず素直に悲鳴を上げさせられる。 ――コチョコチョコチョ♥  二本の指が足指の付け根から滑るように土踏まずの部位まで降りてくると、私の声は一段ギアが上がる様に高くなってしまい……ついには悲鳴から上げたくなかった“笑い”を零してしまうようになる。 「はひゃああぁぁぁあっぁっっ!!! は、はひっ!? ば、ば、馬鹿ぁっっははははははははははは、そこはやめろっほほほほ、く、く、くすぐったいぃっ!! っっひっひっひっひっひっひっひっひ……むぐぅぅっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふ……」  土踏まずの窪みをソワソワっと優しく引っ掻いていく二本の指の刺激はあまりにこそばゆく……私は狭いテントの中にいるという事も忘れ必死に身を捩ってなでしこの手から足を逃がそうと試みる。  しかし、足首を押さえつけているなでしこの右手は想像以上に力強く私の足はどんなに身を捩ろうとも自由にはしてもらえない。 「アハ♥ リンちゃんのこんな笑った顔……始めてみたよぉ♥ 可愛いねぇ~♪ 可愛いねぇ~♪ うりうりぃ~~♪」  抵抗できない事が分かって調子に乗り始めたのかなでしこのくすぐりは苛烈さを増していく。  二本の指だったのが三本……四本と増えていき、最終的には全部の指を私の足裏に這わせて余すことなくくすぐり倒していく。  私はその“どうしようもなく笑ってしまう刺激”に翻弄され、自分でも恥ずかしくなるくらいに間抜けな大笑いをなでしこに見せてしまう。   「だっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっっぅははははははははははははははははははははははは!! ほ、ホントにやめてっへへへへへへへへへへへ、なでしこっっ! なでしこぉぉっほほほほほほほほほ、ふひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」  人前でこんなバカみたいな笑い声を上げた事は未だかつてない。あるはずもない!  斉藤(恵那)が構ってモードの時にじゃれ付いて何度かくすぐられる事はあったけど……それでも脇腹をつつかれる程度だったり、ヤられても数秒程度でどちらかというとコミュニケーションの一手段としてのくすぐりだった。 「足の指がクネクネして可愛いねぇ~♥ カカトとかは効くのかなぁ~? ほ~れコチョコチョコチョ~♪」  だけど今のなでしこが行っているのはそのような生温い遊びじゃない。ほぼ拷問に近い!  私が抵抗できないのをいい事に、笑ってしまう刺激を無理やり送り込んで意思とは無関係に笑わせ続ける……これは立派な拷問だ。可愛いく朗らかな顔をしてなんと恐ろしい事をするんだこの娘はッ!! 「はひ、はひ、はひぃぃっっ! い、いい加減にっ……」  流石に息苦しくなるほどの呼吸困難と、腹回りの引き攣る様な痛みに限界を感じ私は右手に制裁の為の拳を握り「しろッ!」という掛け声とともにそれを振り下ろし調子に乗るなでしこの頭をゴチンと殴る。 「ふぎゃっ!!?」  なでしこは蛙が踏みつぶされたかのような声を上げ目を白黒させる。きっと今目の前に星が見えてチカチカしているに違いない……結構チカラを込めて叩いてやったのだからそれも当然だ。 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……よくもヤってくれたなぁ~~? な~で~し~こ~~っ!!」  足首から手を放しその手を次の殴打に備えるように自身のピンク色味の入った髪と頭を庇おうとするなでしこ。私はまずその手が放れた隙に自分の足を引き上げさせ、身の安全を確保しながら彼女に改めて恨み節をぶつけていく。 「ご、ご、ご、ごめんよぉ~リンちゃんっ! と、途中からなんか楽しくなっちゃって……止めらんなくなっちゃったんだよぉ~」   地鳴りのような低い声で放たれた私の恨み節が相当に恐ろしかったらしく、なでしこはハッと我に返ったような仕草を取って慌てて謝罪の言葉を私に返す。 しかし私の気は勿論そんな謝罪なんかでは収まらず……拳に込めた力と同様の力を目にも宿らせて、顔を真っ青にして慌てふためくなでしこを憎しみを込めて睨みつける。 「楽しくなってきて……止められなくなっただって~? コッチは……笑い過ぎて酸欠になっていたっていうのに……」 目を泳がせながらアワアワと身振り手振りを大袈裟にさせ始めるなでしこを制止するように私は彼女の肩に手を乗せる。 「はひっ!? リンちゃん??」  肩に乗せた手に少しずつ体重を預けなでしこを地面に押し付け、私の怒りがまだ収まっていないゾという事をその行為で示す。 「アタタタ……い、痛いよリンちゃん! 肩が重い……」  そのまま体重を込め続けてなでしこを床に寝かせると、私が上に重なって押し倒すような構図になってしまう。 流石にそんな百合展開を私は望んでいる訳ではないので、ある程度力を込めたら怒りの表情をスッと仏のような笑顔に変えなでしこに束の間の安堵を与えてやる。 「あ、アハハ……リンちゃん……。笑顔の方が……怖いよぉ~」  安堵させて油断を誘おうと思って笑顔を作っては見たが、どうやら普段の私はそういう表情を滅多にしないらしく……なでしこの目には不気味に映ってしまったようだ。しかし“笑顔の方が怖い”とはよく言えたものだ……さっきは散々人を笑わせに来ておいてっ! 「な・で・し・こ・ちゃん♥」 「ひっ!? な、な、なんで“ちゃん”付け? なんで今更“ちゃん”付けるの!?」 「か・が・み・は・らぁ……な・で・し・こ……ちゃん?」 「ひぃぃっ! 怖いよぉ~リンちゃん怖いぃィ!!」 「あれだけ私の事笑わせてくれたんだから……覚悟できてるよね?」 「ふへ? 覚悟って……何??」 「か・く・ご! 出来てるよねぇ~?」 「はひぃっ!! ごめんなさいぃぃ~~っっ!!」  私はなでしこの怯える笑顔をスッと素に戻し、彼女の肩から手を放してあげた。  そしてしばしの間なでしこに背を向け寝るために敷いていた私用のシュラフ(寝袋)をなでしこの付近まで移動させ、再び彼女の顔を睨みつけてあげた。  私がなぜシュラフを移動させたのか理解できていないなでしこは、首を横に傾げて頭の上に疑問符を浮かべている。 「ほれ、ストッキングを脱いでこのシュラフの中に入りなよ……」  未だ私の意図を汲めずぼんやりしているなでしこに私は具体的な指示を下す。  ストッキングを脱いでこの中に入れと言われたなでしこは少しだけ間をおいてビクンと身体を反応させる。 そして何やらイケナイ妄想をしたらしく、徐々に頬を赤く染めだし…… 「リ、リンちゃん? もしかして……私と寝てくれるの? 朝まで♥」  と、勘違いも甚だしい妄想を私にぶつけてきた。 「寝るかっ馬鹿っ! 違うわ! なんでお前と添い寝しなきゃならんのよ! なでしこだけがココに入るのっ! ほら、言う通りに裸足になれ! ほらっ!」  さっきは押し倒してなでしこと身体を重ねる妄想が一瞬だけ脳裏を過ったけど……まさかなでしこまでそういう妄想を膨らますなんて……。これはもうお仕置きだ! さっきの分も含めて……たっぷりお仕置きしちゃるッ!! 「ちぇ、なんだぁ~違うのかぁ~~」  なでしこは何故か残念そうに口を尖らせ、渋々私の指示通りストッキングを片方ずつ脱ぎ始めた。 しかし……なんか……こんな狭い空間で友人のストッキングを脱ぐシーンを無言で見つめているというのも……何やら変な気分になってしまう。 なでしこの柔らかそうで綺麗な脚……徐々に脱げていくストッキング……モチっとした触り心地がよさそうなふともも……小さきくびれた足首……綺麗に手入れされているであろうカカト……緩い曲線が艶めかしく映る土踏まず……そして綺麗に処理された薄桃色の健康的な足の爪…… 見ているうちに……なんだか触りたくなる欲求が勝手に高まってしまう。 生唾を呑み込んで反対の足の露出も舐めるように見届けた私は、脱ぎ終えたストッキングをテントの隅に置きなおしてあげてしばし無言でなでしこを見つめる。 いつも2つ編みにして束ねている長いピンク色の髪は今日は温泉上がりであるのもあってかサラリと腰付近まで毛先を落とし、いかにも女性らしい色気を無意識的に醸し出している。私だって髪は長い方だけど、少し硬い髪質のせいでなでしこのように首を傾けただけでサラサラと毛先の位置が変わるなんてことは殆どない。 ジト目で口を閉じている印象がデフォの私とは正反対になでしこの表情は事あるごとに変化し色んな表情を私に向けてくれる。積極的な性格も相まって、野クル(野外活動サークル)の面々ともすぐに仲良くなったようだし先生や他の生徒からの評判もとてもいい。 別に私が人見知りであると認める訳ではないが、なでしこを見ていると自分がいかに人と話をしていないかが浮き彫りにされているようで少し辛い…… 『あれは陽キャという生き物なんだ……私とは別の生命体なのだ……』と自分に言い聞かせ距離感に気を付けようとしているが、彼女の積極性は私が置こうとする距離を軽々と飛び越え気付けば隣に立っていたりもする。 勿論……嫌いじゃないけど、今までそういう距離感で詰めてくる人間と会ってこなかったせいで今でも戸惑ってしまう。 本当に彼女(なでしこ)とこの距離感でいていいのだろうか……と。 「リンちゃん? どしたの? 急にボーっとして……」  いつの間にかもう片方のストッキングも脱ぎ終え体育座りして私の事を眺めているなでしこが、ジッと動かなくなった私の呆けた顔を見て心配げに声をかける。 私はハッと我に返り咳払いで呆けた顔をリセットし、黙ってシュラフを手元に手繰り寄せジッパー開けてシュラフの中に手を置きポンポンと無言で「ココに入れ」と指示を下す。 膝の間から警戒するように見ているなでしは私の仕草を見てあきらめの表情を見せ「分かったよぉ~」と情けない声を零しながら私のシュラフに足先から身を入れようと脚を伸ばしてきた。 「あぁ、違う違う。逆だよ……逆……」  足を半分ほどシュラフの中に入れかかった頃合いを見て私はなでしこの身体に手を伸ばし、それ以上身体を入れようとするのを拒んで見せる。 当然……なでしこは普通にシュラフの中に潜るつもりだっただろうから、私のこの制止に目を丸くして「えっ?」と聞き返してくる。 「頭の方から逆にこの中に入って……この頭を出す部分の所から足を出すんだよ」 その様に説明するとなでしこは「あぁ成程……」と零すと同時にギクリとするような目で私を見る。 「り、リンちゃん? もしかして……そのために裸足にさせたの? 私にお返しするために……」  私はまた自分に似合わない笑顔を顔に作り、コクリと頷いて見せた。  そう、これは仕返しだ。  私にあんな無様な反応をさせておいて……お返しをしない筈がない。  なでしこにも同様に恥ずかしい思いをしてもらわないと不公平だ。 そんな思いが顔に宿っていたのかどうか自分では確認のしようもないが、なでしこは私のにこやかな(?)笑顔を見て恐れ慄いてる。 きっと歪んだ笑顔を浮かべていたのだろうと想像つくけど、仕方がない……だって、普段余計なことに反応を示そうともしない私の手が今日は珍しくウズウズして仕方がないのだから。 なでしこの……あの生足に触れると想像しただけで…… おっと、いかんいかん……心の涎が垂れそうになっているではないか。 2:なでしこの足 「リ~ンちゃ~んっ! 何も見えないよぉ~~暗いよぉ~怖いよぉ~~~出してよぉ~~」 シュラフの中に頭から潜り直させうつ伏せに寝るよう指示した私は、なでしこが完全にシュラフ端まで頭を入れ込んだのを確認すると下げていたジッパーをジジジと締め上げて彼女の身体をシュラフの中に閉じ込めていく。 ジッパーを上げ切ると、なでしこの身体は完全にシュラフの中に閉じ込められ、彼女の足だけが本来頭を出すために開けられた穴から露出し私の目の前に抵抗なく晒されている。 「ねぇ~~リンちゃんてばぁ~~! 謝るから許してよぉ~~。私……怖いのと暗いのはダメだって知ってるでしょ~?」  シュラフの中でどうにか這い出てみようと藻掻いている様子が外から見ても分かる。でも一人用のシュラフの中から身体を逆に入れ込んでジッパーまで下げられれば脱出が困難なることは言わずもがなであり、なでしこの努力は決して報われる事はない。 「出ぁ~しぃ~てぇ~よぉ~~~! リンちゃぁ~ん、出してぇ~~~」  シュラフの中から発した声は、唯一開いている足部分の穴からくぐもって聞こえてくる。普段聞く声もよく間延びするように出すなでしこだが、シュラフを被っているおかげでなんだかフィルターの掛かったような薄い声になりより間の抜けた声に聞こえてしまう。 「なでしこがちゃんと反省したら出してやる。反省がないようだったら……朝までこのままだ!」  足の指をグッパグッパと閉じたり開いたりさせながら落ち着きのない態度を示していたなでしこだったが、私の言葉に驚いたのか表情が想像できるくらいに足の指をバッと広げて驚きを足でも表現する。 「うぅ……ごめんよぉ~~リンちゃ~ん……出来心だったんだよぉ~~許して? ほら、この通り……ね?」  顔がシュラフの中に入っているから代わりにと言わんとするように足の指を折り曲げてお辞儀をするような真似をするなでしこ。そういう小賢しい真似をするから余計に腹が立つ!(でも嫌いじゃない)  私はなでしこが何度も足先を折り曲げて謝る形を取っているのをジットリ眺めながらなにも言葉を発さず静かに右手を彼女の左足に近づけ、猫の首をひっ捕まえるかのように足首をガシッと掴んでカカトが地面から浮くくらいまで持ち上げてあげた。 「ひぃっ!?」  片足を少し持ちあげただけで、なでしこは大袈裟に身体をビクつかる。私はそんな反応を示す彼女を無視するように、持ち上げた足裏に顔を近づけマジマジと観察を始める。 『……なでしこの足の裏……こんなに近くで始めて見たかも……。なんか……性格とは真逆で華奢そうで……肌が柔らかそうで……触り心地がよさそう……』  足指の先からいくつもの凹凸を経てカカトまでを形作るなでしこの足裏は、自分の足裏と構造は一緒のはずなのにまるで別物のように私の目に映ってしまう。きっと凹凸の形や大きさとか……黒子の位置や肉付きの良さとかそういう細かい部分が違うから別物に映っているのだろうけど……何だろう、他人の足裏を見るというのはこんなにも変な気分にさせられるものなのか? 母さんのを見てもなんとも思わないというのに……なでしこのを間近で見ていると、なんだか胸の奥がザワザワと落ち着かない感じになってしまう。 「リンちゃぁ~ん! 私の足を掴んで何をする気なのぉ? ねぇ! まさか触る気じゃないよね? 違うよね? ね?」  そんな事を言いながら誘うように足の指をグネグネといやらしく動かして見せるなでしこ……艶めかしく動く足の指と動いたことによって生じる土踏まずの肌のしわや皮膚の動き……そういうモノを間近で見せつけられると、ザワついていた私の胸はダメ押しのように欲望を孕んだ熱い血液を全身に送り込んでしまう。 「さ、触るに決まってるだろ。そのためにこんな風に足だけを出させたんだから……」  何度生唾を呑んだか数えていなかったが、きっと私の胃はなでしこの艶めかしい足裏を見る度に呑み込んだ自分の唾液でい一杯になっている事だろう。特に母指球の膨らみから土踏まずに至る窪みの形は、そこだけ見ると大人の女性の足裏を見ているかのように見事に窪んでいて……同じ高校生徒は思えないくらいに大人っぽさを感じてしまう。 「えぇ~~! やだよぉ……私……足の裏……触られるの弱いんだよぉ? 後生だから見逃しておくれよぉ~リンちゃ~ん」  足裏だけを見れば大人っぽく見えるのに……こいつの声を聞いてしまうと元の“なでしこ”のイメージに瞬時に戻されてしまう。そのギャップも……悔しいかな私の責め欲を高めてやまない。   「あぁ!? こんなトコに汚れがあるぞ~? 私のテントに汚れを持ち込むのはいかんねぇ~~すぐに取ってしまわねば……」  なでしこの足裏を見つめていて“早く触りたい”という欲が溜まりに溜まりまくった私は、カカトについていた黒い汚れっぽいものを見つけるとそれを触るきっかけにしてやろうと安い三文芝居を打ち、自身を抑制していたタガが外れるかのように意思が判断を下す前に本能的に手をなでしこのカカトに這わせ始めた。 ――サワサワサワ…… 「うひぃぃっ!? り、り、リンちゃん!? そ、そんなトコに本当にゴミがついてるの? ねぇっ! うへひゃっ!?」  足の皮膚の中でもっとも硬い皮膚に覆われたカカトの部位。イメージしたモチっとした感触はココからは得られないけれど、カカト独特の少しザラっと引っ掛かるような肌の少し荒れた感触と骨の塊を撫でているかのような硬い触り心地は、私になでしこの足を触っているんだという実感を沸かせてやまない。 「あれ~? この汚れ……なかなか取れないなぁ~~おっかしい~ぞ~?」  私はその汚れが“小さなホクロ”であることは触る前から気付いていた。だから触っただけで取れるとも思っていないしそもそも汚れだとも思ってはいない。でも、触るきっかけに使わせて貰ったのだからこの設定を生かさないともったいないと、落ちるはずのないホクロ周辺のカカトを何度も撫で回して触るための正当性を自分にもなでしこにも言い聞かせていく。 「うはっ! うははっ!!? ちょっっ! リンちゃんっっ! その触り方っっ!! ムズムズしちゃうっっ!! うはっはっはっはっはっはっっ!?」  手のひらでカカトの丸みを包むように撫でている私の触り方にもなでしこは過敏に反応し足をバタバタと暴れさせようと動かし始める。その衝動的な動きは私の手から足首が零れてしまいそうになっていたので、私は足首が手から逃れないよう再度手に力を込めなでしこの左足をしっかりと掴んで暴れさせないよう地面に押し付けてあげた。 「な、なでしこ? 汚れはカカトだけじゃないみたいだゾ? ほら、こんなトコも汚くして……全く、だらしない奴だなぁお前は……」  ここからは完全に嘘でありなでしこには何の非もないのだけど、折角そういう体で触り始めたこの責めなのだから最後までそれを貫き通して胡麻化すしかない。  だって……こんな事……なでしこに素直に言えるわけがないじゃないか……。 “あまりにもなでしこの足裏が魅力的過ぎて、ついつい触ってしまった”なんて変態染みたセリフ……。 ――サワ♥ 「んはっ!? ま、待ってリンちゃん!! そ、そ、そんなトコ……本当に汚れなんてついてる?」  足の指の付け根……。丁度、親指の少し下の母指球と呼ばれる膨らんだ肌の部分……。  そこに人差し指をチョンと乗せてなでしこに合図してあげた。次は“ココ”の汚れを落としてやるゾ、と分かり易いように……。 「ついてるさ。だから取ってやるよ……この頑固そうな汚れを……私の爪でね♥」  勿論汚れなどついていない。でも私には見えてる(……事になっている)。  身動きを封じられ足の指でしか抵抗を示せなくなったなでしこの足裏……その母指球の表皮に……決して取れないであろう汚れが…… ――カリッ♥  私はその他人には決して見えない透明な汚れを、人差し指の爪の先で掬うように一掻きしてみた。 「ぎゃひぃぃっっっ!!?」  なでしこはその刺激に、猫が逆毛立たせて悲鳴を上げるような声を上げ暴れさせようとしていた足を今度は逆に硬直させる。 「あぁ……なでしこ……。残念だけど……この汚れも中々取れそうにないわぁ~。もっと強く引っ掻かないとダメかな?」  私はそのように芝居口調のセリフを吐くと硬直した彼女の母指球の皮膚に再び爪を立て、さも汚れを取っているかのように指を上下に往復するように動かしてみせながら、母指球の膨らみを集中的に引っ掻いてなでしこの反応を見た。 ――カリカリカリカリ♥ カリカリカリカリカリカリカリ…… 「ぷぎゃああぁぁぁっっははははははははははははははははははははははは、リンちゃんっっ、それくすぐったいっっひひひひひひひひひひひひひひひ、それ滅茶苦茶くすぐったいよぉぉぉっっ!! んはっっはははははははははははははははははははははははははははは、はひぃぃっっ!!」  反応は予想通り……いや、予想以上にくすぐったがってくれた。  硬直させて(多分)守りに入ろうとしていたなでしこの足だったけど、この引っ掻きが始まってから力が抜けたのかすぐにその緊張は解け硬すぎず柔らかすぎない適度な“張り”を持った肌に戻っていった。  その水風船のような柔らかな弾力のある母指球の肌をリズミカルに爪の先で掻いて回る私の人差し指があまりにもこそばゆかったのか、なでしこは恥ずかしがるような素振りも見せずシュラフの中で豪快に笑い悶えて見せた。  笑うまいと必死に吹き出そうとするのを耐えようとしていた私に比べ、刺激に対して素直に笑い声を上げて反応してくれるなでしこ……。こういう反応を見ているだけでも自分の性格が意地っ張りで素直じゃなく、なでしこは素直で純粋なのだと他人から言われているような感覚になってしまい軽い羨ましさと嫉妬心を抱いてしまう。 「こら、なでしこ。そんなに大声で笑ったら、周りで寝ているキャンパーさんたちに迷惑だろう? 笑うんだったもう少し声を抑えて笑えよ……」  私の醜い嫉妬心は改善を改める方面へ流れずなでしこへの八つ当たりのような仕打ちに姿を変えていく。  周りにテントを張っている人は居ない事も知っているし、シュラフの中で笑う声が遠くまで響くことなど無いという事も理解している。でも私は「笑っているなでしこが悪いんだ」と言わんばかりに彼女を叱責し無茶な要求を被せていく。  なでしこが……こういう刺激に弱いと理解しながら…… 笑いを抑えろと指示した本人が、彼女を笑わせるための刺激を強めていく。 ――カリカリ♥ カリカリカリ♥ カリカリカリカリ……カリカリ♥ 「おひょ~~っほほほほほほほほほほほほほほほ、ぷはっっははははははははははははははははははははははは!! リンちゃんっっふふふふふふふふふふふ、我慢なんて無理だよぉ! くすぐったすぎて笑っちゃうっっふふふふふふふふっ!! だぁ~っっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは、そこやめてっっへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」  母指球の膨らみを上から下から右から左から……色んな場所、角度から引っ掻き回してなでしこを笑わせ続ける。  きっとココをこんな風に引っ掻かれればこそばゆいだろうな……と、自分の感覚でも想像しながら、なでしこの足裏を引っ掻いて引っ掻いて……  そして、その想像の中でやはりもっともこそばく感じてしまうだろうと想像できる箇所に私は視線を合わせた。  まだ……焦らす様に触っていない……足裏のくすぐったい神経が集まったあの場所……  今触っている母指球の丘を滑り降りればすぐに到達してしまう、その場所を見て私は柄にもなく口元をニヤつかせてしまう。  ココを触られれば……反応の良いなでしこは……どんな反応を私に見せてくれるだろう?  そんな邪(よこしま)な期待を胸に持ちながら、彼女の美しい土踏まずの曲線を見てほくそ笑む。  もはや……当初の“罰を与える”という目的も忘れ……私利私欲を満たさんとするように……。 ※試し読みはひとまずここまでです。まだ試作段階なのでアップした文章の中でもガラリと変わる箇所も出てくるかもしれませんがご了承ください。

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