悪戯カフェへ……ヨウコソ③ (Pixiv Fanbox)
Published:
2020-10-02 14:13:15
Imported:
2023-06
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3:入店
「お客様……で、よろしかったでしょうか?」
店の前であれやこれや考え込んでブツブツと独り言を並べていると、いつの間にやら店の自動ドアから黒いスーツ姿の背の高い女性が私に向かって歩み寄っていた事に気付く。
そして、ニコリと微笑みながら私の顔を覗き込み自分が“お客様”なのかどうかをやんわりと質問してきた。
「あひっ!? あ、あの……えと……その……」
程よく膨らんだスーツの胸ポケットには横に細い小さなネームプレートがクリップされていて【店長:水神 由真(みずかみ ゆま)】という名前を見る事が出来た。
このような風俗店の店長が女性であったことに名札を見て気付き一瞬驚いてしまうが、私が想像したヤクザのような怖い店長というイメージとはかけ離れていたため心の何処かがフゥと安堵の息をついてしまう。
首筋までの濃い緑色をした髪をキッチリと真ん中から左右に流した大人の色気を放つ髪型。背はスラリと高く、スタイルも良い……綺麗な大人の女性という言葉が一番しっくりきて一番的確にこの店長の事を指す言葉となるだろう。
しばらくその愛くるしい笑顔の美人顔を返事もせずに眺めていると、何かを悟って気を利かせてくれたのかその店長の方から優しい口調で言葉を繋げてくれた。
「大丈夫ですよ♥ このお店は女性のお客様もよくいらっしゃいます。恥ずかしがらずに一度試してみてはいかがですか? 新規のお客様でしたら半額のキャンペーンも行っていますし……」
どうやら、私が恥ずかしがってこの店に入るか迷っている……と思っているらしく、実は女性でも気軽に入れる風俗店なのですというようなことを言葉に出し巧みに私を店へと誘おうとしている。
まぁ、普通の風俗店とかでもそのような営業トークは行われるのだろうけど……私はまだ17歳だし……このようなお店に入ればきっと警察沙汰になってしまうのは目に見えている。
事情を説明してみようか……? この優しそうな店長さんなら樹希に対して酷い事なんてしていなさそうだ……。聞いてみようか……樹希がどんな仕事をさせられているのかを……
「サトミさんが……気になるみたいですね?」
あれこれ悩んでいる内に店長から不意に私の名前が飛び出してきたため、素性がバレたか? と顔が一瞬強張ってしまうが、そう言えば樹希の源氏名がサトミである事を思い出し、店長はその彼女の写真を私が食い入るように見ていたからその様に声を掛けたのだと分かり、慌てて首を縦に振ってその問い掛けにYESと無言の返事を返した。
「丁度、今彼女が来店してくれたみたいですから……今受付を済ませて頂ければ彼女を指名できますよ?」
今受付を行えば樹希を私の前に呼び出せる……
従業員として出て来るんだから言い逃れなんて出来ないだろうし、彼女に真意を聞くことが出来るかもしれない……
年齢さえ……誤魔化して入れば……
いや、でも……樹希と違って私はまだ18歳にはなっていないし……バレたら大事になるし……
……だけど、後2か月もしたら……誕生日が来るから……18歳に限りなく近いって言っても過言ではないし……
身分証とか……見せなければ……きっとバレない……はず?
「彼女……可愛いでしょ? このお店でも1番人気なんですよ」
「んえっっ!? い、一番??」
「はい♥ リピーターのお客様も多くいらっしゃいますので、とても人気のニャンニャンですよ」
「ニャ……ニャン?? あ、あのっ! その……」
「……はい? どうされました?」
「か、か、彼女はその……この店で……どんな事を……してくれるんでるんで……しょう……か?」
「クス♥ それでは受付の方でお店の説明……させていただきますね? 決めるのはそれからでも良いと思いますよ?」
「は……はぁ……」
結局私は色々と迷ってはいたものの、店長の言葉に乗せられる形でその店へと入る事となった。
あんな事になるのだったら止めておけばよかった……と、後の自分は後悔するのだけど……
今、私は樹希がどんな格好でどんな仕事をどのようにしているのか……それだけが気になって頭がいっぱいだった。
ちょっと話を聞くだけだから大丈夫……。そんな甘く考えた第一歩がまさかあんな罰を受けさせられることになろうとは……その時は考えもつかなかったのである。