怪文書 (Pixiv Fanbox)
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「ふぅ…今日も暑いなぁ…」
額にじんわりと滲む汗を拭いながらバスを待つ
今日は雲一つない快晴、陽気にお散歩でもしたくなる青空だが今は真夏
燦々と降り注ぐ太陽光もアスファルトから照り返す熱も恨めしい
早く冷房の効いた車内で涼みたいがバスが来るまではもう少し時間がある
もうちょっとコンビニで立ち読みでもしてくればよかったかなぁ…
と、ため息をついていると、ふわっと石鹸のいい香りが鼻をくすぐった
後ろをチラリと見ると別の学校の制服を着た女の子が後ろに並んでいた
黒髪で肩までのボブに綺麗に切り揃えられた前髪、身長は私と同じか…それとも少し低いだろうか、どこにでもいる品性方向な生徒という感じだ
彼女とは会話をしたことがなく、名前も知らなかったがよく帰りのバスが一緒になっていたので顔を覚えていた
どうして名前も知らない子をそんなに気にしているのか?
というのも彼女にはちょっと変わったところがあった
真夏だというのに彼女は夏服の半袖ではなく、長袖のYシャツに黒タイツという出立ちをしていた
それだけならば日焼けをしたくないとか、お洒落だとかでまぁいるにはいそうだが
彼女はマフラーまで首に巻いているのだ
それも今日だけではない、いつ見かけても欠かさず赤いマフラーを身に付けているのだった
そして、彼女はいつも石鹸のいい香りを纏っていた
香水とか、制汗スプレーとは違う自然な落ち着く香り
その香りがするとああ、あの子が側にいるんだなと分かった
そんなことを考えていると、ようやくバスが来た
車内は空いていたので乗客はバラバラの席に座っていく
私も後部座席に座り、背負っていたカバンを隣の座席に下ろして一息ついた
あの子は前方の座席に座っていた
窓にもたれ掛かりながらその後ろ姿を眺める
何故いつもマフラーを巻いているのか
何故いつも石鹸の香りがするのか
理由も知らないまま卒業して
きっとあの子のことも忘れていくんだろうと
そう、思っていた