リクエスト① 上 (Pixiv Fanbox)
Published:
2021-10-06 07:29:43
Edited:
2022-09-06 13:20:32
Imported:
2022-09
Content
温かい陽光の差す、五月の正午である。
その日、ウイニングチケットはBNWの仲間達と共に、トレセン学園の食堂に来ていた。
四人掛けのテーブル席には、三人分の料理。
ウイニングチケットはカツ丼、ビワハヤヒデは人参ハンバーグ、ナリタタイシンはラーメンを、それぞれ目の前に置いている。
「ふむ、ちょうどいい時間に来れたな。人が少なくて、席も空いている。のんびりと昼食を楽しめそうだ」
「まあチケットが近くにいると、周囲に他の子達がひしめいている時よりもうるさいけどね」
「えぇえええええええ!? 酷いよタイシーン!」
耳をピンと伸ばして、心底ショックだという表情を浮かべるチケットに、彼女の隣に座るタイシンは溜め息を吐き、斜め前方に陣取るハヤヒデは苦笑した。
「そう言ってやるなタイシン。チケットが大人しくしていたのでは、逆に調子が狂う。むしろのんびりできないだろうさ」
「うぅうううううう!! が、がんどうじだああああああああ!! ハヤヒデのフォローに心が震えだよォオオおおおお!!」
「ふふ、すまないタイシン。前言撤回だ。やはりチケットが近くにいるとうるさいな」
「えええええええええええええええ!? うおおおおおおおおおおん!! ハヤヒデが掌返したよおおおおおおおお!! がなじいよおおおおおおおおお!!」
ワンワン泣くチケットに顔をしかめつつ、タイシンがちゅるちゅるとラーメンをすする。そんな彼女に対し、ハヤヒデが心配そうに言う。
「しかし、タイシン。今日も今日とて、つつましいランチだな。普段の運動量を考えれば、もっとしっかり食べるべきじゃないか? あとでバナナをやるから、それで栄養を補うといい」
「あーもう。要らない。あとでアイツに貰うから」
「え? アイツ? あ! もしかしてタイシンのトレーナーさんのこと?」
泣き止んだチケットが問えば、タイシンは「しまった」という顔になり、見る見るうちに赤面していった。
「べ、別に誰でもいいでしょ!? とにかく! バナナは要らないから! ……自分で食べなよ」
「えー? でもさぁ。タイシン、ハヤヒデのも食べといたほうがいいんじゃない? やっぱりいっぱい食べた方がおっきくなれるし」
ピクッ、とタイシンの耳が動く。
「バナナだけじゃなくて、牛乳も飲んだ方がいいよ! カルシウムをしっかり取れば、ババーンって感じに育つよ!」
ピクピクッ、とタイシンの耳が動き、目がジトッと険しくなる。
そして、彼女はチケットの方を見た。
正確には、チケットの胸を。
紺色の制服をバユンッッ! と前に押し出す、ガロン級の二つの重たい乳袋を。
「……それ、イヤミ?」
「え? 何が?」
キョトンとした顔で、チケットが小首を傾げる。そんな彼女に、タイシンは深いため息を吐いて。
ガバッ!
「え?」
ムニュウウウウウウウウウウウッッッ!!
小さな両掌で、彼女の巨大な胸を鷲掴みにしたのだった。
「ふわああああああああ!?♡」
一拍遅れて、チケットの口から甘い声が漏れる。しかし、タイシンは手の動きをやめない。苛立ちをぶつけるように、乱暴に彼女の爆乳を揉みしだいていく。
「くそっ! 何食べたらこんなに馬鹿デカく育つの!? おっっっっも!!」
「し、知らないよぉおお! んっ♡ く、くすぐったいから止めてよタイシィン! あ、アタシは胸じゃなくて、背のことを」
「問答無用! うわっ!? 指めっちゃ沈む! 西瓜サイズのマシュマロでも詰まってんの!? 柔らかいのがはみ出して、アタシの手じゃ全っ然収まりきらない! おっぱいにまでチビ扱いされてるみたいで、イライラすんだけど!」
懇願虚しく、親友はますますねちっこい揉み方になっていく。チケットは助けを求めるように、隣にいるハヤヒデの方を見た。
豊かな銀髪が溜め息で揺れ、理知的な唇に笑みが浮く。
「……ふぅ。またタイシンが暴走してしまったな。まったく、チケットの乳房の魔性ぶりは恐ろしい。……おい。そろそろ胸から手を離してやれ」
「は、ハヤヒデぇ……ありがとう……」
「あ、両胸からじゃないぞ。右胸だけ自由にしてやるんだ。左胸は好きにしていい」
「へ?」
チケットは赤面したまま、ポカンと固まる。
その右隣の席に座ると、ハヤヒデは彼女の自由になった片乳を下から持ち上げた。
ダポッ! とチケットの爆乳がのしかかり、掌を丸ごと隠してしまう。
「ふむ。また実ったなチケット。ウマ娘の筋力だから羽毛と大差なく感じるが、それでも五キロ以上ある。ズッッッシリとしていて、乳腺の発達具合が良く分かる乳房だ。チケットの赤ちゃんは幸せだな。おっぱいに困ることがない」
たぽん、たぽん。まるで巨大な水風船で手遊びをするように、ハヤヒデはチケットの乳房を上下に揺らす。
それから、ゆっくりと掌を胸に当て、ズブブブブ♡ とめり込ませた。
「ひゃんっ!?♡」
チケットが甘い声を出す。
彼女のどっしりとした乳肉が、ハヤヒデの白い手首を根元まで飲み込んでいく。
釣り鐘状の爆乳が潰れ、ブクッ♡ と膨らむ。
「ははは。とんでもない質量だ。私の頭もデカいデカいと言われるが、チケットの胸はその比じゃないな。Mカップは余裕で超えてるんじゃないか? N? いや、Oか? Pに届いているかもしれない。ふふ。人間が家族全員で食べる正月の餅の量をはるかに超すボリュームだぞ。柔らかさも同じくらいだ。どれ、少し突いてみようか」
ダッッポン!
ダッッッッポン!
ハヤヒデの掌がまるで杵のように、チケットの右胸を突く。しかし、その衝撃が彼女の肋骨にまでたどり着くことはない。全部、その馬鹿げた重さの乳房に吸収されてしまっているのだ。その度に、チケットが唇から「あっ♡ あっ♡」と漏らす。
そんな彼女の反応に更に苛ついたように、タイシンが呻いた。その小さな両手は、溢れんばかりの乳肉をもみくちゃにしている。
「ああもう! ホント腹立つ! 左胸だけでもデカすぎて、両掌全部使ってもぜんっぜん揉みきれない! 子どもの頃に捏ねたおっきなパン生地の方が百倍制しやすかったんだけど! チケット! アンタ、ホントに気を付けなよ!? アンタ天然なんだから、そこに付け込んでこの凶悪デカパイ揉もうとしてくる輩が、ぜっっったいに出てくるよ!? 男女ウマ娘問わず!」
「う、ウマ娘に関してはもうタイシンとハヤヒデに好き勝手揉まれちゃってるよぉ! 手遅れだよぉ!」
「ふふ、私たちは別だ。BNWの仲間として、チケットの成長ぶりを確認しているだけだからな。……っと、そろそろ人が増えてくる時間だ。タイシン、名残惜しいが乳離れしよう」
「はーっ……! はーっ……! こ、これに懲りたらそのウシ乳ぶら下げて、アタシに説教しないでよね。特に『育つ』とか『実る』とか言うの禁止! 分かった!?」
「うううううううう!♡ わ、分かったからおっぱい揉むのやめてぇ! くすぐったくて恥ずかしくて、変になっちゃうからぁ!」
それから十秒間しっかりと揉みしだかれて、ようやく彼女の爆乳は解放された。後にはますますムスッとしたタイシンと、今までと変わらず涼しい顔のハヤヒデと、湯気が出るほど赤面したチケットが残された。
「ふう、チケットの胸はどんなクッションよりも心地いいな。揉めば揉むほど掌が元気になってツヤツヤしそうだ」
「は、恥ずかしいコト言わないでよハヤヒデぇ……。大体、ハヤヒデだっておっきいじゃん。自分の揉みなよぉ」
「誰の頭がデカいって!?」
「いや、頭じゃないって! おっぱいの話だよぉ!」
チケットがワタワタと慌てながら言う。ハヤヒデはハッと我に返ると、コホンと咳払いしてから続けた。
「しかし、本当に成長が止まらないな。大丈夫か? ブラジャーとか、すぐにサイズが合わなくなるんじゃないか?」
「え? あ、うん。一か月前にピッタリだったのに、いつのまにかミッッッチミチになってることとか、結構あるよ」
タイシンは呆れ半分、羨望半分の眼でチケットの胸を見る。
制服にギッチィイイイ! と張っている乳テントの時点で凄まじいが、よく見れば中央の白いライン部分が、プックリと膨らんでいる。
ブラジャーから溢れた乳肉が、谷間の部分を盛り上がらせているのだ。
あまりにも目に毒な光景に、タイシンが憂鬱そうな溜め息を吐く。
「そんなにデカかったら、走ったり屈んだ拍子に、背中のホック弾け飛ぶんじゃない?」
「いやー、それはないよ。ウマ娘のブラジャーは人間用よりも頑丈に作られてるからさ。カップ数が一つや二つ小さくっても大丈夫なんだ。前もって細工したり、アタシとタイシンぐらいのカップ差がない限り、壊れることなんてないんだよ?」
「……ねえ、それ煽ってる?」
「あ、煽ってない煽ってない! だから手をワキワキさせるの止めてよタイシン! 見てるだけでおっぱいくすぐったくなってきちゃうからぁ!」
「ったく。どうして男って、こんな脂肪の塊に惹かれるんだろ。……アイツの家にも、ベッドの下に巨乳系の漫画が隠してあったし。あー、もう! ホントむかつく!」
いつもの如く緩くじゃれ合う二人を眺めながら、ハヤヒデは微笑ましそうに人参ハンバーグを食べる。美味しそうに頬を緩ませてから、すぐにキリッとした表情に戻って、言った。
「それにしても、気の毒なのはチケットのトレーナーだな。こんな凶悪なものをぶら下げた少女が担当なんだから、辛抱たまらないだろう」
「えー? そうかなぁ? トレーナーさん、アタシのおっぱい気になるのかなぁ?」
眉を八の字にして小首を傾げるチケットに、ハヤヒデは苦笑した。
「ふふふ。チケットはそろそろ自分の胸の破壊力を自覚した方がいいぞ? たまに外でトレーナーに抱き着いているのを見かけるが、ああいうのは控えるべきだ。間違いが起こってしまうぞ?」
「えー!? ハグを控えるのはやだよぉ! アタシは全力でトレーナーさんと喜びを分かち合いたいんだ! っていうか、間違いって何? どんなこと?」
ハヤヒデの言葉の意味を考えてウンウン唸る彼女に、タイシンが少しばかり心配そうな視線を向けてくる。
「……チケットさぁ。そろそろ、保健体育レベルの性知識は身に付けといたほうが良いよ。アタシ達、もう高等部なんだから。純真無垢なまんまじゃ、いつか悪い男に引っかかるよ? ……まあ、人間の骨を小枝みたいに折れるアタシ達引っかけようとする男なんていないから、気を付けるべきはレズッ気のある悪いウマ娘ぐらいだろうけど」
「うぅん? せーちしき? れずっけ?」
「タイシン。まだチケットにはその段階の話は早いらしい。とりあえず、赤ちゃんはコウノトリさんが運んでくるわけじゃないと教えるところから始めよう」
「えー!? そうなの!? じゃあキャベツ畑さん!?」
耳と尻尾をピンと立て全身で驚きを表現すれば、ハヤヒデとタイシンが「やれやれ」と言った様子で溜息を吐く。
親友二人の呆れたような態度に、チケットはまたまた小首を傾げてから、目の前にあるカツ丼に箸を伸ばす。
「あ!」
しかし、モウモウと醤油の良い匂いを立てる玉ねぎと卵を口に運ぶ途中で、彼女は箸を止めた。
目が遠くの方に釘付けになっている。
「ん? どうしたチケット。何か妙なものでも見つけたか」
ハヤヒデが問う。
そんな彼女の前で、チケットのルビーの瞳に輝きが増していった。
「トレーナーさんだ!」
「「え?」」
チケットの視線が向かう先へ、二人も顔を向ける。料理を持ったチケットのトレーナーが、どっこいしょと椅子に座るのが見えた。
ここからの距離、二十メートル以上。
ハヤヒデは感心したような声を上げた。
「いや全く大したものだ。毎度のことだが、チケットはトレーナーが近くにいるとすぐ分かるんだな。彼を見つけ出すことにおいて君に並ぶ者はいないよ」
「うん! だってアタシのトレーナーさんだもん! 三年間二人三脚でやってきたんだから、すぐ分かるよ!」
尻尾を嬉しそうにブンブン振って、チケットが笑う。そんな彼女に、タイシンは苦笑した。
「うわ、凄い自信。ほんっとにベッタリだね。アンタ、もしかしてあの人のこと好きなの?」
「うん! アタシのこと第一に考えてくれて、付きっきりでトレーニングの面倒見てくれるんだもん! 感謝してもしきれないよ! アタシ、トレーナーさんのこと大好き!」
「はぁ……皮肉が通じないとか、やっぱ天然は最強ってことか」
「でも、タイシンもタイシンのトレーナーさんのこと大好きでしょ?」
「ぶっ!?」
「ははは、予想外のカウンターを喰らったな。今日のところはタイシンの負けだ」
「う、うっさい!」
ほっぺたを林檎のように真っ赤にするタイシンと、楽しげに笑うハヤヒデ。
そんな二人に、チケットは少しだけ申し訳なさそうに言った。
「ご、ごめん二人とも。アタシ、トレーナーさんと一緒に食べてきてもいいかな? この後のトレーニングで少し聞きたいことがあって」
「ん? ああ、別に構わないぞ。その立派な乳房も揉ませてもらえたし、今日のところは満足だ」
「も、もう! からかわないでよハヤヒデ! じゃ、じゃあ行ってくるね!」
そう言って、チケットがカツ丼を持って席を立とうとする。
その時だった。
「……は?」
チケットの動きが、止まった。
その赤い瞳の先。
トレーナーの座っている席の対面に。
自分がこれから座ろうとした席に。
自分とは別のウマ娘が、当然のように座ったのだ。
「ん? どうしたのチケット。地蔵みたいに固まって。何かあった?」
そんな問いを発してから、タイシンもトレーナーの方を見る。彼女の後を追うように、ハヤヒデもそちらを見た。
「おや。確かあの子は」
「知ってるの?」
タイシンの問いに、ハヤヒデが頷く。
「ああ。確か中等部の子だ。まだトレーナーとの契約はしてないようだが、中々に鋭い走りをするらしい。会長も注目してるようだと、ブライアンが言っていたよ」
「ふーん。……あ、じゃあもしかして」
亜麻色のウマ耳をピコピコ揺らして、タイシンはチケットの方を見た。
「あの子、チケットのトレーナーを逆スカウトしてるんじゃない?」
「その可能性は高いな」
彼女の言葉に追従するように、ハヤヒデも頷く。
「彼がマンツーマンで指導するチケットは、今や数多のレースを勝ち取った優駿として有名だ。上昇志向のあるウマ娘なら、自分もそうなりたいと考えるのが自然だろう」
チケットは何も言わない。ただ、自分のトレーナーと名も知らぬウマ娘が、真剣な様子で話しているのを食い入るように見つめている。
そんな彼女に、ハヤヒデは穏やかな笑みを向けた。
「はは。もしかしたら、チケットに後輩が出来るかもしれないな。まあ、安心しろ。噂によれば、あの子はかなり練習熱心らしい。レースに対する姿勢も全力だが、かといってライバルたちを蔑ろにするような性格でもない。情熱家な君となら、かなりウマが合うと思うぞ? ……ん? タイシン、どうした浮かない顔をして」
「……たく、どいつもこいつも何であんなにデカいの?」
タイシンの言葉に、ハヤヒデはもう一度トレーナーの前に座る少女を見て、納得したように笑った。
「おお、本当だ。身長は私よりも低いのに、胸の大きさは同じか……少し大きいくらいか。Hカップ以上はありそうだな」
彼女の言葉の通り、トレーナーを熱っぽく逆スカウトしているらしいウマ娘の胸は、90センチ後半ぐらいはありそうだった。中々のボリュームである。
そして、チケットは見た。
トレーナーの視線が、先ほどから彼女の顔や、天井辺りで彷徨っている光景を。
不自然なほどに、首から下を見ていない。
すなわち、胸。
その大きな乳房を一瞬たりとも視界に入れないよう、いっぱいいっぱいになっているみたいだった。
タイシンが、呆れたように言う。
「あの人さっきから挙動不審じゃない? ずーっと床か、天井か、あの子の顔ばっか見てる。あれじゃあ逆に胸を意識してるのバレバレじゃん」
「まあそう言ってやるな。顔こそ赤いが契約の話は真面目にしているようだ」
ハヤヒデがトレーナーたちのいる方向へと、耳をピンと立てながら言った。
「ふむふむ。……成る程、一旦この話は持ち帰るようだな。あとで君に相談してから決めるつもりじゃないか。なあ、チケット。……チケット?」
豊かな白髪を湛えた理知的な顔に、一欠けらの動揺が滲む。
チケットの様子が、おかしかった。
普段の様子からは考えられないぐらい、密度の高い無言。
クルクルと変わる豊かな表情の一切合切が、絆創膏の張られた顔から消失している。
平時の天真爛漫さや、レース時の燃えるような眼光もない。
蟻の行進にすら感動する彼女が、今は能面のようだった。
たっぷり、二秒。
「……ん? あ、ごめんね。聞いてなかった」
まるで仮面でも外すように、チケットの顔にいつもの笑みがスルリと浮かぶ。ハヤヒデはやや戸惑いを見せつつも、言った。
「い、いや。ほら、あの子と契約を結ぶかどうか、彼が君に相談に来るんじゃないかと思ってな。まあ、あの口ぶりからするに、チケットのトレーナーはこの逆スカウトにかなり前向きなようだったが」
「駄目だよ」
「え?」
まるで剃刀の温度だった。薄い笑みを描くチケットの唇から、冷え冷えとした声が覗いた。
ゴクリ、とハヤヒデの喉から水音が聞こえる。
親友の異常に気付いたらしいタイシンが、不安げな声を出した。
「ちょ、ちょっとチケット。……アンタ、どうしたの? なんか、おかしくない?」
「……え? そうかな?」
ふわりと、チケットの声に熱が戻った。顔に浮かぶ笑顔もいつも通りの明るいものに戻っている。
そんな彼女に、若干の緊張を残したまま。ハヤヒデが尋ねた。
「と、ところでチケット。その、『駄目』というのは……何故だ? さっきも言ったが、あの子は努力家で善良だぞ? 君どころか、タイシンでもそれなりにやっていけるタイプだと思うが」
「ちょ、ちょっとハヤヒデ! それどういう意味!? ……でも、アタシも気になる。何で駄目なの?」
タイシンの問いに、チケットは困ったように眉を八の字にして、言った。
「うーん。だってさあ、トレーナーさんってああ見えて結構不器用なんだよ? アタシだけならまだしも、あの子も一緒に受け持つっていうのは難しいと思うんだよね。そりゃあ、後輩は欲しいけどさ。でも、不十分な指導を受けてあの子が燻るのは可哀想だよ。……今回のスカウトは断るべきだと思う」
つらつらとそう言ってのけたチケットに、ハヤヒデとタイシンは目をパチクリさせていた。
「ん? どうしたの二人とも?」
「い、いや……まさかチケットがそんなにまともなことを言うだなんて」
「……明日は雨かもね」
口々に好き勝手なことを言う親友二人に、チケットはガビーン! と尻尾と耳を立てた。
「ひ、酷いよおおおお!! 二人とも、アタシのことなんだと思ってるのおおおおおお!?」
「元気で善良だが深謀遠慮とは無縁なウマ娘かな」
「声と乳の馬鹿デカい馬鹿」
「うおおおおおおおおおおおおん!! 二人がいじめるよおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ワンワン泣くチケットに、どこか安心したような笑みを浮かべて、タイシンとハヤヒデは一息ついた。
「さて、そろそろ食事を再開しよう。冷めてしまうからな。あ、ところでタイシン。先ほどのバナナの件だが、三本でいいか?」
「いや、要らないって!」
いつものやり取りに戻る二人を前に、チケットは涙を拭って元気な微笑みを浮かべた。
そして、ゆっくりと目の前にあるカツ丼に箸を運び、卵でテラテラと光る豚カツを噛む。
ミチィ……と食いちぎる。
肉の繊維の一本一本を、プツプツと断っていく音を奏でながら。
彼女は、昏い瞳でトレーナーたちを見ていた。