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キヴォトスにたどり着いてから、「先生」と呼ばれる立場になり、不思議な時間の流れを感じていた。危険に晒されることもあるけれど、だんだんとこの場所での生活にも慣れていった。自分なりに「先生」と呼ばれるのに相応しい態度も身につけたと思う。


だけど、そんな名前がもたらす責任感とは裏腹に、抑えきれない欲望がどこか胸の奥に漂って消えることはなく、どちらかといえば募るばかりだった。誰にも打ち明けられない。マゾヒストとも呼ばれる自分の性癖は、「先生」という名にはあまりにかけ離れていて、夜ごと独りの世界で自分を慰めることで、表向きの大人らしさを演じていた。


しかし、その限界も静かに迫っていた。キヴォトスに来てすぐ、世話を焼いてくれた早瀬ユウカ。慰めの対象は必ず彼女だった。もし普通の性癖だったなら、どれほど楽だっただろうか。そうであれば、彼女に積極的にアプローチもできただろう。しかし、この欲望を素直に彼女に伝えたら、もう二人の関係は決して元に戻らないだろう。自分は「先生」ではなくなってしまう。


今日も彼女のペンを握る細くて女性らしい手に目が行く。その手には黒い手袋が嵌められている。今夜もこの光景を思い出しながら、ひとりで自分を慰めるのだろう。

そんなことを考えていたその時、背後を指で軽く突かれ、振り向く。そこにはユウカの友人、生塩ノアが微笑みながら立っていた。

「先生、ちょっとお時間いただけますか?」と彼女は優しく言った。



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