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「はぁぁ〜〜〜〜〜ッ………」


双葉の大きなため息がパレス内にこだまする。


正しくは、パレスのトラップ。

『落とし穴』の中…だった。


落ちる瞬間、間一髪掴んだ部屋のロープにより奈落への落下は避けられたが、薄暗い落とし穴の中で宙吊り。

お世辞にも状況が良いとは言えない状態。


「珍しいPCパーツがあったからって…こっそり拝借しようとしたのが間違いだった……

くっそー!卑怯だぞー!少しぐらい許してくれてもいいんじゃないだろうかー!…」


しーん……


双葉の叫び声は上階ではなく、目下の奈落へと吸い込まれていく。

底の見えない黒色に、背中にゾッと寒気が走る。



「1人でこっそり来たのも…ミスったなー…はぁ〜…」



何度目か分からないため息をつく双葉に、小さな影が近づく。



「何してるのぉ?」



「ヒッ!?おわわぁ!?」



「っぶなー!落ちるとこだった…!

なっ!なんだー!?オマエはぁ!」



「オマエって失礼だなぁ…僕はジャックランタン、おねえちゃんはなんて名前?ここで何してるの?」



「えっと……わたしは…ナビだ。

  これは…その…たはは………」



「(ムッ!こいつは理性があるタイプのシャドウだな!…コミュ障のわたしにはちょっと厳しいが…交渉のチャンスだ…!えーと…とりあえずジョーカーがいつもやってるように…)」



「か…かくかくしかじかでな…」



「うーんよくわからないけど…もしかして困ってる?助けてってこと?」



「そっ!そうなんだ!この上に戻らなきゃいけないんだ!そ…その、もしよかったら…手伝ってもらえないか…?」



「わかったよ!でもその前にぼくのお願いも聞いてくれる?」



「お、おう!もちのろんだ!

わたしにできる事ならなんでも言ってくれー!なんつってな〜!」



「(こ…こうやってシャドウが仲間になるんだな!くぅー!やったぞ!わたしでもやればできる!あとでみんなに自慢しないとなー!にしし…!)」




ーーーーーーーーーーー



「んぁあッはっはっはっはっはっはぁ〜ッ!!

やっ!やめろぉほほほぉ〜〜〜ッ!!!」



落とし穴の中で笑い声が響く。

双葉は救出を約束したシャドウに腋の下をくすぐられていた。



「あッ!あぁッはっはっはっはぁッ!!!

待っ!いひぃぃひひひひひぃッ!!!!」



ライフラインとも言えるロープを掴む腕の付け根、普段なら触られれば一瞬で反射的に閉じてしまう腋。

しかしこの状況では手を離して閉じるわけにもいかず、全開のまま無防備な弱点を弄ばれていた。



「おねえちゃんのこの服、くすぐりやすくて嬉しいな!ほらもっと笑って!コチョコチョコチョ〜ッ♡」



「やぁ〜〜〜ッはっはっはぁははははぁッ!!

それは卑怯だぁはははぁッ!!なぁははははははぁ〜ッ!」



双葉の怪盗服は上半身の生地が薄く、身体にピッチリと張り付くような素材で出来ている。

そのためくすぐりを弱めるどころか、生地の滑りやすさゆえ余計にくすぐったさを強く感じることになってしまう。


シャドウの爪を立てるようなくすぐりが、滑りのいい生地の上でショリショリと音を立てて走り回る。



「うひゃぁははははははぁ!まへぇ!ほッ!ホントに落ちるっへぇ!!いゃぁははははぁ〜ッ!!」



双葉自身も届かない事は分かっているが唯一自由な脚を振り回し、腋を襲う手を蹴り落とそうとする。



「おねえちゃんも嬉しそうでよかった!

笑うって事はうれしい、楽しいって事だよね!」



「ちっ!ちがひゅうっ!あはッ!あひゃぁははは!んあぁははぁ!」



脚を一心不乱にぶんぶんと振り回す。



大股を開き、恥も外見もなく全力で身体を捩るが、非情にも腋から送られてくるくすぐったさが和らぐ事はない。



「あはは!踊ってるみたい!もっとコチョコチョしてあげる!踊って踊って!」



コチョコチョコチョコチョぉ〜ッ♡♡♡



「ひぃぃいぃ〜〜〜ッ!!!!

…んぁああぁははははははははぁッ!!!

こっ!これはダメだぁッはっはっはっはっはっはっはっはぁ〜〜〜ッ!!!!」



音量のつまみを回すように笑い声が大きくなり、無様なダンスのギアが上がる。


人生でくすぐられた経験がないわけではないが、普段から人と触れ合う事がほとんどなく、耐性が皆無の双葉が経験するにはあまりに酷なくすぐったさだった。



「うわぁははははははぁ〜〜ッ!!!

ほ、ほんとにおちるぅ!!はひゃぁッ!!

はにゃれろぉほほほほぉ〜〜〜ッ!!!!」



双葉が大きく脚を蹴り上げた瞬間。



「あっ……」



汗で滑り、手の中からロープが消える。

一気に頭から血の気が引き、そこで双葉の意識は途絶えた。



ーーーーーーーーーーーー



「う゛わ゛ぁ゛〜ははははははぁッ!!!!」




「やッ!やめへくれぇ〜〜〜へへへへぇッ!!」



地下の拷問室、そこに双葉はいた。

しかし先ほどとは違い、中に着ていたであろう薄ピンクの下着1枚を残し怪盗服は全て脱がされていた。


「はぁッ!はなせぇへへへッ!!!ひぃ〜〜ッ!

おなかぁ!おなかよじれるぅ〜〜〜ッ!!」



『人』の字にがっちりと拘束されており、手首と足首に巻かれたベルトが抵抗を許さない。



「あ゛ぁ゛〜ッはっはっはっはっはぁ〜ッ!!

もうくひゅぐったひのいやだぁはははぁッ!!」



腋や足の裏を始めとした、人間がくすぐったさを感じるポイント。

脇腹、鼠径部、内ももなど、その全てにマジックハンドが覆い被さっている。



「いぎゃはははぁ〜ッ!!ぜッ!全部いひゃだぁッはっはっはっはっはぁ〜〜〜ッ!!!

どごもくずぐったひぃいぃ〜〜〜ッ!!!」



双葉は必死に腰を浮かせ、たぷたぷと尻肉を冷たい床に打ち付ける。

唯一の自由である足先を振り、狙いうちされたつちふまずを数センチずらして抵抗する。


もう双葉にできる事はその二つと、笑い声を上げることだけ。



「だッ!誰かたすけぇへへへぇッ!!!

あ゛ぁッはっはっはっはっはっはっはぁッ!!

だしゅけへくれぇへへへへへぇ〜〜〜ッ!!!」



来るか分からない助けを何百回と叫ぶ。

捕獲された怪盗の末路は、見るも無惨で無様なモノであった。


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