『淫獣捜査 隷辱の魔罠』 第88話 (Pixiv Fanbox)
Published:
2024-02-29 13:34:31
Edited:
2024-03-30 08:15:42
Imported:
2024-05
Content
【88】メッセンジャー
目を覚ましてからの約一ヶ月の間、俺は常に警護がついている生活を余儀なくされた。
行動にも制限がかかり、歩きまわれるのは米軍基地のごく一部のみ。共有の施設を使う場合は、事前に人払いをする徹底ぶりだ。
(どうやら、他の基地関係者の目からも隠しておきたいらしいな……)
ボブ=ホワイト率いる諜報部が主導となった警備体制から、向こうが求めているのがわかってくる。
俺がいる建物の外には、完全武装をした兵士が陣取っていた。彼らは玲央奈の父親であるロイ=スペンサー中佐の部下たちで、いずれも海兵隊から選びぬかれた猛者たちだそうだ。戦場を経験した者だけが纏う、独特な雰囲気というものが一緒にいて感じるようになってきた。
そして、建物の内部、部屋の扉の前にはスーツ姿の男たち。名乗ってはいないが、恐らくボブ=ホワイト配下の諜報員たちだろう。まるで調度品のようにピクリとも動かず、不動の姿勢を貫く。外の兵士らに比べると、随分と無愛想な連中だった。
(しかし、大人気だなぁ)
自室として割り振られた部屋の窓から外を眺めれば、やってきた玲央奈が兵士らに囲まれて仲良く談話しているのが見える。
父親の部下たちは、玲央奈を幼い頃から知っている者たちばかりで、まるで娘や妹のように扱っている。
頭を撫でられて、子供扱いされるのに玲央奈は不満げにしてみせるが、本気で嫌がっていないのは遠目でも伝わってくる。
そんな玲央奈を窮地から身を盾にして守った男として、俺は彼らに認識されていた。
お陰で銃の扱いや射撃訓練、格闘術まで親身になって教えてくれる。
(付け焼き刃だが、無いよりはマシなはず……)
黙々とトレーニングしているのは、今の俺にできることが他にないからだ。
今の立場を保護といえば聞こえが良いが、隔離されて情報制限された籠の鳥状態なのだ。
それでも、幸いだったのは玲央奈が、父親の元から通ってくれることだろう。
まだ脅威が去っていないと玲央奈も基地から出るのを禁止さている。
ニュースでは過労による入院として扱われているが、本当なら無事だと関係者に伝えたいだろうが、それも出来ないでいる。
今は基地内にある父親家で夜を過ごし、日中は俺の元へと訪れるのが最近のルーチンだ。
(でも、正直、彼女の父親がいてくれて助かったな……)
玲央奈にも諜報員が張り付いてはいるのだが、父親とその部下たちが睨みを効かせているお陰で、自由度は高いようだ。
それを利用して、俺は彼女にいくつかのお願い事を頼んでいた。
「お待たせしました、マスターッ」
兵士たちとの会話を終えて、玲央奈が円満な笑顔で俺の部屋へと入ってきた。
彼女が妙にご機嫌なのには理由があった。当初、玲央奈が俺をご主人さま呼びするたびに、父親や兵士らが怪訝な顔をしていた。
それはそうだろう。日常生活では、メイド喫茶ぐらいでしか聴かないで日本語だ。
流石に不味いとおもい、止めるようにお願いしたのだが頑として譲らず、妥協点で見出したのがマスター呼びだった。
(うーん、苦しいが、一応は師匠とか先生の意味もあるしな……)
玲央奈が父親らにどう説明したのかは知らない。ともあれ、結果として彼女のマスター呼びを俺が容認した形になってしまった。それが、彼女には嬉しいらしい。
「あぁ、待ってたよ、玲央奈」
国民的アイドルに慕われる事自体は嬉しいことなのだが、なにか知らないうちに外堀を埋められている気がして、不安に駆られてしまう。
そんな彼女が手にしているのは、有名チェーン店のハンバーガーセットだ。基地内の店は本国仕様らしく、いろいろ違うと聞いていたので買ってきてもらったのだ。
「えへへ、ご一緒させて下さいね」
二人前紙袋がテーブルの上に置かれた。包をあけると揚げたてポテトの美味そうな香りが立ちこめる。ゴクリと唾を飲み込む音が扉の向こうから聞こえてきたのは、警護の諜報員の元まで香りが届いたからだろう。
「うわッ、コーラがでけぇ」
「こっちのLサイズよりも大きいでしょう?」
いちいち驚く俺の反応が面白いらしく、玲央奈はよく笑う。普段が大人びてみえる彼女だが、こうして垣間見える素の姿は年相応の少女のものだ。
――愉しげに笑いながら二人でファーストフードを味わっている……
傍目にはそう見えていただろう。その合間では、玲央奈が頼んでいた結果を伝えてくれていた。
まず、手渡してくれたのはジブロックに入れられたライターと名刺だ。
出血で気を失った際に、助け起こしたナナさんがコッソリと懐から抜き取ってくれたものだ。ヘリには彼女は乗らなかったので、同乗する玲央奈に託してくれていた。
お陰で米軍の目に触れられず、取り上げられることも避けられた。
「オイルを足して、電池も交換しておきました」
ジブロックからライターを掴みだす俺に、玲央奈が耳打ちしてくれた。父親とバイクや車のメンテナンスをしてみせる彼女だからメカにも強い。分解して調整もし直してくれていた。
「さて、これでようやく動けるな……」
どうやら米軍は独自で行動しているらしく、日本側と情報交換をしている気配はない。当然のように、俺と玲央奈がここで保護されているのも秘密にされているのだろう。
諜報員が国内に、どれだけ投入されているのかはわからないが、派手な動きが出来ないだけに捜索をするなら日本側の方に分があるだろう。
(ボブ=ホワイトが現れないのは、忙殺されて余裕がないのかもしれないな……)
手にしたライターの摘みを調整して、おもむろに点火する。何気ない動作だが、決められた手順を踏むと所在地を知らせる電波が発信される機能が発動する。
これで、駿河さんに俺の居場所が伝わるはずだ。兄貴や涼子さんが信頼する有能な彼女だから、なにか動いてくれるはずだ。
(まずは状況を把握するところからだ)
米軍からの情報が降りてこない現状では、あまりにも情報が不足していた。
(新たな情報を得られていない……それとも、俺に流せない情報があるのか?)
情報という点で有力なのが濡羽 八祥さんだろう。
情報屋と名乗ったからには彼は裏社会に精通しているはずだ。米軍や警察が把握していない情報が彼から得られるかもしれない。
彼から貰った名刺には住所が記載されているので、ひとまずそこ行って接触を試みようと思っている。
(ナナさんとも知らない仲ではないようだし、上手くすれば、そちらも何かわかるかしれないしな……)
それに加えて、米軍の保護を拒否して現地に残った鷹匠さんと玲央奈は連絡方法を聞いておいてくれた。
その方法は、俺もプレイしていたこともあるネットワークゲーム内でNPCを介して伝言を伝えるという手法だ。
一方通行での伝達で、相手に届いたのか確認する術がないのが難点だが、すでに玲央奈が状況を伝えるメッセージを残してくれている。
こちらも、鷹匠さんたちが行動してくれるのを待つしかない状況だ。
(それでも、涼子さんと二人だけで潜入した時に比べれば、随分と頼れる面子が増えたものだな……)
それ以外にもできる事がないか、ハンバーガーを頬張りながら考えていた。だから、目の前の頬につけられたケチャップを指で拭ってやり、それを舐めたのも意識しての行動ではなかった。
考え事をしながらの無意識な行動に玲央奈も不意をつかれたのだろう。驚いた表情を浮かべていたのだが、俺はそれにも気付いていなかった。
「むぅ……」
心ここにあらずといった様子に、玲央奈は不意に俺の手を取ると、その指をおもむろに咥えてみせた。
唇を窄めて舌腹を押し付けてくるとスロートしてみせる。妖しい舌の動きに不覚にもゾクゾクとしてしまう。
「な、なにをして……」
「シーーッ」
俺の唇に指を押し当てて続く言葉を封じると、激しく潤んだ瞳を向けて顔を寄せてくる。
そのまま唇を重ねられ、俺はソファに押し倒されてしまった。
「だって、もぅ一ヶ月も待たされてるんだもん……」
仰向けになった俺の上に跨ると、上気した顔で見下ろしてくる。
扉の外には警護の人がいるというのに、随分と大胆な行動だ。それだけ我慢が効かない状態ということなのだろう。
(これを止められないな……)
早々に上着を脱ぎ捨てて、上半身はすでに下着だけだ。ピンク色に染まった柔肌からも、玲央奈が激しい興奮状態なのがわかる。
濡れた瞳で見下ろしてくる彼女の顔を、レモンイエローのブラジャーに包まれた双乳が半ば隠している。
窮屈そうに収められて深い谷間をつくる乳房が、フロントホックが外されるとカップを弾き飛ばすようにして全容をあらわす。
Iカップはあるだろう。ズッシリとした乳房は垂れることもなく砲弾状に突き出ている。
その惚れ惚れする形状に導かれるように俺は指を埋めていた。弾力も素晴らしく、埋めた指先が弾き返されるほどだ。
それを愉しむようにさらに揉みたてれば、刺激を受けて乳首が勃起してくる。
「あぁん、もっとッ……もっと激しく揉んでください、マスター」
俺に双乳をわし掴みにされて、嬉しそうに甘い声を洩らす玲央奈。柔肌にうっすらと汗を浮かべ、細腰を淫らに揺する。
彼女の股間が擦りつけられて、俺の下半身もすぐに反応してしまう。
目覚めてからの一ヶ月間、監視されてることもあり禁欲生活を強いられていた。
そんな状態なのだから、激しく勃起してもしょうがないだろう。
ムクムクと硬く隆起してくる感触を受けて、玲央奈は本当に嬉しそうだ。
「あぁ、これが……これが欲しいです……」
照れながらも正直におねだりしてくると、すぐさまファスナーを下ろして下着の中から怒張を取り出してくる。
細く、しなやかな指を絡めて脈打つ肉茎を扱いていく。
その時、扉の向こうから人の気配が遠ざかるのを感じた。どうやら気を利かせてくれたようだ。
どうせ監視は他の手段で継続されているのだろうが、それで随分と気分は変わるものだ。
それに調書も取られているので、施設で体験したことは事細かに知られてしまっている。いまさら気兼ねしてもしょうがないだろう。
(……涼子さん、ごめんッ)
脳裏に浮かんだ涼子さんに謝罪すると、ひとり昂らせていた玲央奈の肩を掴んだ。
ここのところ、鍛錬を積んでいた格闘術がここで活きた。
彼女の重心を崩してみせると、スルリと上下の位置を入れ替わってみせる。
「こうなったら、今夜は帰さないからな」
「ーーはいッ」
お互いのズボンを脱がすと、早々に正常位で結合を果たす。
ズブズブと秘裂を押し分けて、俺の怒張が蜜壺を貫いていくと、玲央奈が歓喜の声をあげる。
初めての時に比べて、突っ掛かりもなくスムーズに挿入できていた。
「あッ……あぁン……」
長い美脚を抱えあげて、ゆっくりと腰を繰り出せば、玲央奈が可愛らしい喘ぎ声をあげてくる。
回を重ねるごとに性に目覚めて、身体が順応してきているのだろう。突き上げるたびに湧き上がる肉悦に身悶えして、シーツをギュッと掴んでいる。
「すご……凄く気持ちいい……あぁ、いいッーー」
感極まったのか目尻に涙を浮かべて恥ずかしそうに手で顔を覆う。その頭を優しく撫でてやると、俺は額に軽くキスをしてやる。
秘密倶楽部で過ごした濃厚で異常に満ちた一夜は、玲央奈だけでなく俺にも大きな変化をもたらしていた。
物事を俯瞰してみるようになったからだろう。以前に比べて心が随分と落ち着いたように感じる。
まるで眼前に防護ガラスを一枚置かれたような感覚で、慣れない格闘術の訓練でも慌てることもない。
今も肉欲を感じながらも、それを上手く制御できていた。お陰で余裕ある抽送をおこなうことができて、射精タイミングまでもコントロールできそうだ。
そして、余裕があるということはジックリと観察もできることでもある。
玲央奈のわずかな反応の違いを読み取り、感じ易いところを探り出し、刺激してやることもできた。
体位を変えて挿入角度をいろいろと試しては、玲央奈にアンアンと喘ぎ声をあげさせてジックリと責め抜いていった。
今は四つん這いの姿勢にした彼女をバックから貫き、その姿を正面から鏡に映させていた。
パンパンと腰を打ちつけるたび、玲央奈の巨乳が激しく揺れる。その自らの姿から目を反らそうするので、長い金髪を掴んで正面を向けさせる。
「あぁ、は、恥ずかしい……」
「だけど、下半身は凄い濡れようだぞ」
髪を手綱のように握られて、獣の交尾のような姿で交わっている。その光景を見させられて、玲央奈の蒼い瞳がトロンと惚けてくるのがわかる。
「玲央奈は、マゾの才能があって嬉しいよ」
誰もが知る人気アイドルをマゾに目覚めさせて、奴隷のように扱う。
玲央奈を拐わせて調教しようとしていたカネキがこれを見たら、顔を真赤にして激怒してくることだろう。
そんな事を考えて、俺は人の悪い笑みを浮かべると、性的嗜好が大きく変化していることを改めて受け入れる。
嗜虐性と冷徹さが以前に比べて強くなっていた。そのため、精を解き放ちたいという欲求よりも、目の前の玲央奈をもっと悶え泣かせたいと心がざわめくのだった。
その玲央奈も非常事態での初体験を経たことで根付いていた被虐の種子が成長し、見事に花開いていた。
貶められ、嬲られるほどに激しい興奮を感じているのがゾクゾクと身震いする裸体からも明白だ。
被虐の欲望に目覚めた彼女は、同時に俺が求めるものも的確に読み取っているようだ。己の欲望を満たしながら、奉仕する悦びも自己学習していた。
歌手であり、俳優として演技も一流な玲央奈だ。感受性を人一倍高い。地下倶楽部で見聞きして蓄積したものを、フィードバックしているのだろう。
(こりゃ、凄いことになりそうだな)
今更ながら、玲央奈という存在を手に入れた幸運に身震いしてしまう。
「あぁぁ、もっと激しく……虐めて下さい……」
被虐の魔悦に浸りながら、求めてくる愛奴を強く抱きしめてやる。
そうして俺と玲央奈は、お互いの欲望を確認するように、何度も交わり続けるのだった。
その夜は、玲央奈は俺の部屋に泊まっていくことになった。
窓から射し込む月明かりの下、俺の腕を枕にして気持ち良さそうに寝ている。スースーと寝息をたてる彼女へと手を伸ばすと、頬に張り付いていた乱れた髪をそっと直してやる。
可愛らしい寝顔を眺めながら、再び玲央奈を抱いてしまった事実を噛みしめていた。
(後悔はない……ないが、さて、涼子さんになんて説明しようか……)
ヒシッと腕を掴んで離れない姿に、苦笑いが浮かべ、考えるのを中断する。
(まぁ、欲望に忠実であれだな……まずは涼子さんを取り返す……そこからだ)
薄暗闇の中で、ひとり考えていた俺は、ふと視界の隅で点滅するものがあるのに気付く。
手を伸ばして掴んでみれば、それは駿河さんに手渡された発振器付きのライターだった。
底部に発光体が隠されていたらしく、それが一定の周期で点滅を繰り返していた。
(これは……モールス信号か?)
まさか、向こうから伝達してくる術が仕込まれているとは思わなかった。
幸いなことにゲームで学んだ知識の中にモールス信号もあった。
「イヘン……チュウイ……サレ……タシ……ニシ……ゲートデ……タイキスル……」
読み取れた文字を意味が成すように並べいくのだが、ようやくその通信内容を理解して俺は驚愕する。
「……異変、注意されたし……まさか?」
米軍の力を過信するつもりはないが、それでも国内で最も戦力が集まっている場所といえた。
まさか、そんな場所に殴り込みにくるような無謀な手はうたないと俺は思ってしまっていた。
ーー”インパクトを与えたいのなら、その対象となる相手の想像を上回ればいい”と無理やり造らせたと聞いてますわ……
ナナさんが語ってくれたエレベーターでの紫堂の逸話を思い出す。
「そうだった……彼は人を驚かせるのが好きだと教えてくれてましたっけね」
理解したつもりでも、それを上回ってくる。改めて紫堂という人間につい考えさせられる。
とはいえ、異変を知らされたからには警戒する必要がある。
俺がいる建物は、他の基地関係者から遠ざけるために用意されたもので、滞在するスタッフは最低限の人数で、人の出入りも制限されている。
(それでも、この静けさは異常だな……)
常に扉の前に待機している護衛の気配がない。先ほどは例外的に場を離れていたが、本来は交代で誰かいるのが常だ。
慌てて玲央奈を揺り起こして、衣服を身に着けさせるのだが、彼女は重たい瞼をなかなか開けられず、身体はフラフラとしてしまっている。
(いかん、ちょっとやりすぎたか……)
絶頂を覚えた玲央奈に、今度は焦らし責めを試してみたのだ。絶頂寸前で愛撫を止める生殺し状態を続けて、涙ながらに逝かせてッと絶叫する姿につい愉しくなってしまった。
発狂寸前まで焦らし続けて、今後は存分に逝かし続けた。その結果、ついには潮を吹いて失神してしまったのだ。
自業自得だが、後の祭りだ。反省を次に活かすとしよう。
足腰が立たない状態では、そう無理もさせられない。ひとまず様子をみるために彼女を置いて廊下に出てみる。
やはり、扉の前で警護についていた諜報員の姿が見えない。長い廊下は照明を落とされ、周囲には人の気配を感じられない。
ーーカッ……カッ……
静まり返った廊下の奥から、規則正しい靴音が聴こえてきた。
倶楽部で聞き慣れたヒールの音だ。そして、その人物の姿も、すぐに闇の中から現れてきた。
褐色の肌に張り付くような白いボディコン・ドレスを着た女だ。透き通るような布地は、肉感豊かなボディを浮き立たせて、モンロー・ウォークで脚を差し出すたびにスリットから悩ましい美脚が目に飛び込んでくる。
ボブカットに切り揃えた栗色の髪、ハーフらしいエキゾチックな顔立ち、妖艶な笑みを浮かべる肉厚の唇。その持ち主を俺は知っていた。
奴隷の証である首輪につけられた銀のプレート。そこには19の数字が刻まれていた。
「あらぁ、お出迎えいただいて恐縮です」
彼女ーーイクと呼ばれていた女は、少し気怠げな口調のまま、ゆっくりと歩み寄ってくる。
その背後に、他の人物はいないのを確認にすると素早く考えを巡らせる。
(どういう状況だ?)
彼女のゆったりとした物腰からは、ナナさんや涼子さんのような強者の気配はない。
それなのに、煽情的な姿のまま、まるで散歩の途中であるかのように気軽に歩いてくる。
(まさか、警備の者が半裸姿の女を素通りさせるわけもないよな……武力行使なら仲間がいるのか? それとも金を積まれた基地関係者の手引か?)
あまりにも無防備の近づいてくるので、彼女へつい警戒が緩んでいた。気がつけば、数メートルの距離まで詰められていた。
「うふふ……はい、時間切れです」
「なにを言って……あれ……」
彼女の方から漂ってきた甘い香りが鼻腔をくすぐる。その途端、俺の足腰から力が抜けてしまった そのまま跪いてしまう俺の前まで来ると、イクさんは視線を合わせるようにしゃがみこんできた。
「驚きました? 紫堂さまの実験で、ちょっと変わった体質になってまして」
「 くぅ……ハァ、ハァ……なにをした……」
体温が上昇し、滝のように汗かいている。心臓は激しい鼓動を刻み、痛みで胸を押さえてしまう。
あきらかに身体が異常な状態になっているのだが、原因がわからない。状態異常起こすガスであるなら、ガスマスクをしていない彼女にも同じ症状がでているはずだ。
「実は、私の体臭って媚薬になっているの。普段はここまで濃くはないのだけど、それでも、嗅ぎ過ぎると心臓に負荷がかかるかしらね」
「そんな……ハァ、ハァ……ばかな…」
にわかに信じられない事だが、信じるほかなさそうだ。あれだけ玲央奈に精を注ぎ込んだばかりだというのに、俺の股間が激しく勃起しているのに気付いたからだ。
紫堂が配下の医療会社を使って、危険な実験をしているとボブ=ホワイトは語っていた。
だが、まさか以前にも会っている女性が、その成果とは思いもしなかった。
彼女の体臭がもつ媚薬効果は想像以上に強力で、頭がクラクラとして思考がまとまらない。もちろん、歩くどころか、立つのも難しい。
完全に無力化された上、このまま心臓に負荷がかかった状態が続けば、命の危険を感じる。
苦しげに呻いている俺の様子を、イクさんは頬杖ついてジッと見ているだけだ。柔和な雰囲気を持っている彼女だが、死にかけている人間を前にしても、変わらぬ笑みを浮かべていることにゾッとさせられる。
俺と同じような目にあい、実際に死んだ者を何人も見てきている。彼女の様子から、それを確信してしまう。
「こんな所で……ぐぅぅ……俺は……死ぬのか……」
俺の呟きに、意外なことに彼女は首を横に振った。
そして、豊満な胸元へと手を伸ばすと、深い谷間からスマートフォンを抜き出してみせた。
差し出された画面には、涼子さんの姿が映し出されていた。