『淫獣捜査 隷辱の魔罠』 第83話 (Pixiv Fanbox)
Published:
2023-08-12 20:30:00
Edited:
2023-09-23 13:13:52
Imported:
2024-05
Content
バタバタとヘリコプターがけたたましく飛びまわってる音が聴こえる。
(俺たちを探している? いや、それにしては動きが奇妙だな……)
闇夜と生い茂る木々で機体は見えないが、ゴルフ場の周囲を複数の機体が旋回しているようだ。俺たちを探すならば昇降機の周辺を重点的に飛びまわるはずだし、こう木々が多い地形では特殊な装備がなければ人海戦術の方が有益だろう。
(なにかに警戒……いや、威嚇しているのか?)
音を聴き分けると慌ただしく飛びまわる一機のヘリコプターと、ゴルフ場周辺に滞空している複数のヘリコプターに区分できた。
後者のヘリコプターを寄せ付けないように前者が飛び回っているようだ。
(それにしても明け方も近い時間だというのに、こうもヘリコプターが飛び続けている事自体が異常だろうな)
標高百メートルそこらと低いとはいえ、このゴルフ場は山の上に造られたものだ。記憶が確かなら南北の麓から山頂へと抜ける道路があり、隣接した土地には遊園地まであるはずだ。
周囲には多くはないが民家もあり、夜明け前とあれば住人たちは就寝中なのが普通だろう。
そこへ多くのヘリコプターが飛びまわり続ければ、苦情が来ても不思議ではない。
秘密の倶楽部を運営する側としては目立ちたくないはずで、それだけでも異常が発生しているのがうかがえる。
(地下の混乱が波及しているのか……ん? 風向きが変わったら妙に焦げ臭いな……)
ヘリコプターがこちらを意識している余裕がなさそうなのを木陰から確認すると、茂みからでて周囲を観察する。すると、目的地である方角から黒煙がいくつかのぼっているのが見える。それが風向きによって流れてくる焦げ臭さの正体だった。
(クラブハウス……それから車道の方かな?)
なにやら騒ぎが起こっているのは確かなようだ。恐らく周囲のヘリコプターは報道関係か消防のものだろう。
地上も同様かそれ以上の混乱で、その対応に追われて黒服たちの手がまわらないのなら、俺たちにとって好条件といえる状況だ。
脳裏では先ほどまで聞いていたナナさんの声を思い出していた。
「うふふ、これだけ手厚くご支援いたしたのですから、ご褒美は期待しておりますわよ」
これがナナさんによる妨害工作の結果ならば、確かに手厚い謝礼が必要だろう。
別れぎわに放たれた彼女の相変わらず言葉にクスリとするとともに、その言葉に露骨に眉をひそめていた玲央奈と、それを腹を抱えて笑っていた杏子さんの姿も連鎖的に浮かんでくる。
「へぇ、頑張るとご褒美が貰えるんだねぇ」
良いことを聞いたと含み笑みを浮かべる杏子は、まるで好物を前にしてた肉食獣のような目で俺を見つめていた。
彼女も無償での協力ではないらしいので、あとのことを考えると恐ろしく、いろいろと頭が痛い俺だった。
(やはり、はたから見るとモテ期ってヤツに見える状況なのかなぁ……)
何度でも言うが、美女たちに言い寄られる状況なんてこれまでの俺の人生ではありえなかった。
正直にいえば男なら嬉しい状況だが、対処方法がわからなければ戸惑いや不安の方が大きくなってしまうのが実情だ。
(ゲームならハーレムエンドへの攻略方法もあるのだろうけど、俺にそんな器用なこともできるはずもないしな……)
ピリピリとした空気が漂う今の状況に対して、経験が無さすぎてどう対応すればわからない。結果、硬直してしまう俺は、気づかないふりや曖昧な態度をしてしまうのだった。
(玲央奈との一件だけでも露見すれば社会的に抹殺されるか、ファンに刺殺されるしなぁ……)
こういう時につい考えてしまうのが紫堂の存在だろう。
牝奴隷とはいえ美女をはべらかしていた彼は、どうバランスをとっていたのかと考えてしまう。
兄が死ぬ要因をつくり、今も涼子さんを捕らえて苦しめ続けている存在だ。なのに、いまだに彼を憎みきれずにいる自分がいる。俺は良くも悪くも彼からの影響をいまだに受け続けているらしい。
(兄貴の呪縛に続いて、今度はこれか……つくづく俺って奴は……だが、それに悩むのも後だ。今は玲央奈を連れて涼子さんとともに、ここを脱出するのが最優先だからな)
その肝心な玲央奈だが気がつけば、周囲には姿がなかった。
焦る俺の背後から彼女のよく通る美声が聞こえてきた。
「ご主人さまぁ」
茂みの向こうから俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
いつの間にか離れていたらしく、慌てて藪をかき分けて声のする方へと向うとそこは隣のホールだった。
「こっち、こっちです、ご主人さまぁ」
コースの脇に設置された歩道で手を振る玲央奈の姿があり、その脇には電動カーが停まっていた。
ゴルフ客がコース間を移動するのに使用するもので四人乗りのシートとゴルフバッグを載せる荷台がある仕様のものだ。
放置されていたそれを、どこからか見つけ出したのか工具を手にして玲央奈がイジっている最中だった。
「ちょっと待ってて下さいね……もぅ終わりますからね」
外されたパネルや剥き出しになった配線がみえており、手慣れた手つきで、それらを繋ぎ直していく。
(あぁ、機械イジりが趣味だって話だったなぁ)
モータースポーツが趣味だった父親の影響で、彼女もプライベートではバイクを乗りまわしてストレス発散しているらしい。
もちろん整備も自分でおこなう彼女だから、構造がシンプルな電動カーなんてお手のものなのだろう。
「これ、使いましょうよ」
機械いじりができて、心なしかスッキリした顔の玲央奈がキラキラとした期待する目で俺をみてくる。
その姿に既視感を受けた俺は、それがなにかすぐに思い出す。
(あー、あれだ……昔、実家で飼っていた柴犬だ……)
目をこらせばパタパタと振られる尻尾まで見えてきそうだ。そういう意味では、玲央奈が俺に向けてくれる感情はじつにわかりやすい。
「よく見つけてくれたね、ありがとう」
礼を言いながら、移動に対する利便性と相手に見つかる危険性を天秤のかけていた。
玲央奈は別として運動不足な俺の体力は限界に近い。それに今の周囲の様子から警察や消防が駆けつけてくるのも時間の問題だろう。
当然、紫堂をはじめとした会員たちは早々にここからの脱出を試みるはずで、残された時間は思っていた以上にないのかもしれない。
「わかった、運転を頼めるかい?」
「はいッ、任せて下さいッ。ついでに、少しイジっておきましたからッ」
フンス、胸をはって自慢げにする彼女の頭を撫でてやると満足そうにしている。そんな姿をみながら
、ある可能性に思い当たる。
(……玲央奈って、実はファザコンなのかもな……)
歳の離れた俺に対して妙に懐いてくれている彼女に、そんなことを考えている俺だった。
「じゃぁ、乗ってくださいッ……あッ、そうだ。これをお返ししておきますね」
助手席に乗り込んだ俺に、彼女が手渡してきたのはライターだった。
駿河さんに手渡された発振器つきの代物だ。すでにその機能は果たされているはずの品物を、水に流されながらも必死に確保していたらしい。
預けたものを律儀に返してくれる姿にグッときてしまう。
「ありがとう、玲央奈がいてくれて助かったよ」
それは事実だった。俺ひとりなら、ここまで頑張れたかわからない。誰かが一緒に戦ってくれる意味を強いほど実感していた。
受け取ったライターを胸ポケットにしまうと彼女は別の品も差し出してきた。
「これから先、必要になると思います」
それは拳銃だった。先ほどの杏子さんが打ち倒していった兵士からくすねていたのだろう。妖しく黒光りする銃に気圧される俺とは逆に、玲央奈は淡々と銃身をスライドさせて弾を装填すると、扱い方をレクチャーしてくれる。これも海兵隊に所属する父親に教えられたもので、射撃した経験も随分とあるようだった。
「できれば使いたくない……というよりも、当てられる自信がないな」
ズッシリとした重さを噛み締めながら、それも懐にしまう。真剣な表情を浮かべる俺の態度を、玲央奈は黙って見つめていた。
「銃を撃たれたばかりで本当は慎重にいくべきだろうけど、残された時間が心配だ。ここは最短距離で一気に距離を縮めたい、頼めるかい?」
「はい、地図もさっき覚えたからバッチリです」
ナナさんが画面に表示したマップから地形まで読み取っているらしい。ラリーで父親のナビゲーションをしていて培った技術らしいというのだからアイドルの趣味にしては本格的だ。
「振り落とされないように、シッカリ掴まっててくださいね」
「わかっ――たぁぁぁぁッ」
玲央奈がアクセルを踏んだとたんに急加速を開始した電動カーだが、それは俺の予想を大いに上回る勢いをみせた。
背後から聴こえるモーター音は、どう考えてもまともな回転数ではなかった。
恐る恐る背後をみれば音源のあたりから焦げ臭い匂いもしてきている。
「ちょ、ちょっと玲央奈――うわぁぁぉぉ」
「目的地まで保てば良いんです。喋ると舌を噛みますよッ」
ペロリと唇をなめる玲央奈は、完全に別のスイッチが入っていた。
電動カーはコース脇の歩道を外れ、生い茂る藪の中へと突入する。舗装されていないそこはデコボコな地面だ。木の根や落ちた枝で車体が激しくバウンドする。
振り落とされないように屋根を支えるポールに必死にしがみつく俺だが、不意に車体が宙に浮いてしばしの無重力を体験する。
元々、ゴルフコースは自然の地形を愉しむものだが、それでもコース周辺は整備されている。
だが、一歩外れた人の入らぬ領域は手つかずな自然のままになっていた。高低差の激しい道なき道を玲央奈は匠なハンドルさばきで障害部を避けて、低い車体性能でも突破できるコースを見極めていく。
だが、舗装された道を想定している車体だ。オフロード車のようにサスペンションが強化されているわけでもなく、衝撃がじかに搭乗者を襲ってくる。
「次、段差で跳ねます。ショックに備えてッ」
「ぐぅぅぅ、痛つぅぅッ」
バキバキと車体の外装が衝撃に砕けて、枝でパーツが剥ぎ取られていく音が聴こえる。それでもスピードは落ちず、藪木をかき分けて進んでいった。
「大丈夫ですかぁ、ご主人さまぁ」
「こっちは、気にしなくていいッ、全力で頼むよッ」
俺の言葉に一瞬、驚いた様子を見せた玲央奈だったが、すぐに嬉しそうに頷いた。
「はいッ、それじゃぁ、本気で行きますからねぇ」
「…………えッ? 今までは本気じゃ――ひッ、あわわわわぁッ」
前以上のスピードで木々の間をギリギリで抜けて、低い枝や藪木が迫ってくる。それらが俺の身体を掠めていくたびに身につけいるスーツの上着を引っ掛けて、徐々に破いていった。
下手な絶叫マシンも目ではない体験に涙目になりながらも、俺を必死に前を見つめていた。
すると木々の隙間から次第に強い明かりが見えはじめた。そちらに向かって車体はさらに加速していく。
「ご主人さまッ」
「このまま突っ込めッ」
今更、コソコソしても意味はないだろう。目も眩む光に照らされる空間へと車体ごと突入する。
「――えッ!?」
ヘリポートの周囲は土手になっていたようだ。そこへ飛び出した車体は当然のように宙を舞うことになる。
眼下には駐機中のヘリコプターが一機、防風ガラス越しに驚くパイロットの顔が見える。
「玲央奈、飛び降りろッ」
「はいッ」
放物線を描いて降下しはじめた車体から俺たちは飛び降りた。身体を捻り、華麗な着地を見せた玲央奈とは対象的に無様に肩から叩きつけられる俺だった。
その直後、俺たちの乗っていた電動カーがヘリコプターへと激突していた。
派手な音を立てて機体が横倒しになる予想外の結果に思わず呆然としてしまう。
四機は駐機できる広々とした空間に残る機体はその一機のみで、ヘリポートの周辺も炎に包まれている。夜空まで覆うほどの黒煙がすぐ近くにまで迫ってきていた。
「りょ、涼子さんは……」
運良く骨折などしていないようだが打ちつけられた全身が激しく痛んだ。ヨロヨロと立ち上がる俺の前で横倒しになったヘリコプターの扉が跳ね上がると白スーツ姿の紫堂が姿を現した。
「やれやれ、これは予想外の展開だな。少し、キミのことを侮っていたのかもしれないね」
そう言いながらも紫堂は愉しそうに笑みを浮かべていた。
身につけた白スーツの襟を正しながら機体の上から悠然と見下ろしてくる。俺との距離は十メートルといったところだろうか。
その彼が不意に手を振るとキラリと光るものが放物線を描いて俺の方へと飛んできた。慌てて両手で受け止めたそれは鍵だった。
「これは……」
「約束だからな、アレは返すよ。ただし、少しばかり余興には付き合ってもらおうかな」
その言葉に応じるように紫堂の背後で大きな影が機体から出てきた。
紫堂と一緒にいた狗面の大男だ。四人いた屈強の男たちもこの男で最後のはずだ。
だが、ゆっくりと立ち上がる姿が炎に照らされていくと俺の顔が次第に強張っていくのがわかる。
「涼子さん……」
全裸の彼女が巨体に磔にされていたのだ。分厚い胸板に背を預けるようにして、鎖で繋がれた枷で四肢を拘束されている。その姿は、まるに肉の鎧のようだ。
そんな彼女の秘部を猛々しく勃起した剛柱が貫いているのが嫌でも目に入ってくる。
巨体は軽々とジャンプして機体から飛び降りると、その衝撃でさらに結合が深まったのだろう。下腹部を内部から盛り上げられた涼子さんが顎を反らせて悶絶していた。
「うッ、うぅぅ……」
大男が歩むたびに巨根が膣壁をえぐり、リングピアスに吊るされた分銅が揺れて乳首を引き伸ばす。
そのたびにペニスギャグを咥えさせられた彼女は、滝のように流す汗で全身を悶えさせ、涙で頬を濡らした顔を隠すように顔を背ける。
愛しの女性が凌辱されている姿に心を激しく揺さぶられた俺だったが、湧き上がる怒りがそれを塗りつぶし、そして、それもすぐに醒めていった。
「ふーッ……どういう、つもりですか?」
恐らく、その時の俺は怖い顔をしていたのだろう。心配そうに見守っていた玲央奈がビクッと肩を震わせて恐ろしいものを見るような目をしていたからだ。
対象的に機上から見下ろしている紫堂は、邪悪な笑みを深めていた。
「見ての通りだよ、配置しておいた残りの部下たちが空振りに終わってしまったからなぁ。追加のゲームで俺を愉しませてくれないかい?」
「……この鍵で、彼女の拘束を解けば良いんですか?」
「あぁ、手段は問わないよ。その男を殺しても殺さなくても構わない。ただ、炎で焼け死にたくなければ早くすることをすすめるよ」
そう告げた紫堂自身も同じく焼死する危険があるはずだが、彼からは焦りが感じられない。
(危機を回避する手段があるのか、それとも危機を愉しんでいるのか……)
なんとなく後者である気がしていた。追加のゲームを愉しむ対価として、自分の命がこの状況から助かるかも賭けているのだろう。紫堂とは、そういう男なのだとわかってきていた。
(それがわかったところで俺には選択肢などあるはずもないけどな……)
否応なしに紫堂のいう追加のゲームを受けることになるのはわかっている。
そういう風に場の流れをコントロールするのも彼の常套手段なのだろう。
――カチリッ
懐から取り出した拳銃を両手で構えて、玲央奈に教えられた通りにセーフティを解除して撃鉄を起こす。
照準の向こうには大男のシルエットと、その体には括りつけられた涼子さんの裸体が見える。
拳を振り上げて迫ってくる巨漢を前にしても俺の心は妙に醒めているのだった。