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月末までに書き上げられなかったので、せめて次回の冒頭だけでも先行で掲載しておきます。 -----------------------------------------------------------------------------------------------  それぞれの目的のために二手に別れ、俺たちは玲央奈と杏子さんと ともに紫堂が待つヘリポートのある地上へと向かって歩き出した。 「……て、ちょっと待ってくださいッ」  スタスタと歩き出した杏子さんに、思わずついてきた俺だったが、唐突に不安にかられた。  よく考えれば、彼女はタニマチという老紳士に捕らえられて、ここに連れてこられたと聞いていた。そんな人物は複雑な施設の構造を把握しているのだろうか?  もちろん、俺も初めてくる施設であり、人に案内されて移動したので現在位置がどこなのかもおぼつかない。もちろん、攫われてきた玲央奈も同様で俺の視線から意図を読み取って首を左右に振る。 「ん? なんだい? 地上に行くんだろう?」 「いや、行くって道順とかわかるんですか?」  本来ならナビゲートしてくれる各所のモニターも、警告画面に切り替わって機能していない。  時折、ブロック番号らしきものが壁に描かれてはいるが、大まかでも施設の構造を理解してなければ意味がないものだった。 「うーん、上に昇ればつくでしょう?」 「……えーッ」  なんとなく予測はしていたが、やはり大雑把な性格な人のようだ。探偵事務所を開いているとの話だが、金勘定とかどうしているのか心配になる。  ゲッソリして見えたケンジの様子から、彼の苦労が垣間見れた気がする。彼女の戦闘能力を頼りにしていたが、急に不安に駆られてしまう。 「うッ、い、いやだなぁ……冗談ッ、冗談よ……ちゃんと考えてるから」  不安視する俺に気づいたらしく、慌ててフォローしてくる杏子さんだが、それで不安が拭えるわけもない。  ジトッと見つめる俺の視線に目を泳がせるのだが、ついに根を上げた。 「あぁ、もぅ。わかったわよ。ちゃんとナビゲーターがいるから大丈夫よッ」 「へ? ナビゲーター?」  自信満々に告げる彼女だが、周囲を見渡しても人影はなく、眉をひそめるしかない。 「あー、信じてもらえてなーい……しょうがないなぁ、どうせ、どこかで聞き耳をたてているんでしょう? 女狐さん」 「……女狐とは失礼ですわね。自信満々に見当違いの方向へと歩き出すから、逆に興味津々でしたが、まさかの人頼みとは……私、人選を間違いましたかしら?」  天井から吊り下がっているモニターのひとつがノイズ画面になると、聞き覚えのある声がスピーカーから聴こえてきた。  その落ち着きのある丁寧な言葉使いには、何度も心を救われていた。俺の口元には自然と笑みが浮かんでいた。   「ナナさんッ、無事だったんだね」 「えぇ、お陰様で……もしかして、心配して下さってたんですか?」 「当たり前だよッ」  ノイズ画面で姿のみえないナナさんだが、俺の即答に彼女が微笑んだように感じられた。 「杏子さんに協力を求めてくれたんだってね。お陰で命拾いしたよ。ありがとう」 「いえいえ、お約束しましたからね……あぁ、もちろん、お代はあとでいただきますわよ」 「……えッ、あ……うん……善処します……」  請求があるという話は聞いてはいなかったが、杏子さんは依頼を受けたと言っていたので何かしら報酬が必要だろう。  正直、いくら請求されるのか聞くのが怖いが、その辺りの交渉で悩むのは無事に脱出してからにしよう。そう即座に結論つけた俺は、その話題を脇に置いて話を進める。 「状況は把握できていると考えて良いんだよね」 「はい、大まかには……正直、あの状況で紫堂に対してゲームを吹っ掛けるとは思いませんでしたわ……うふふッ、流石はワ・タ・ク・シのご主人様ですわね」  妙に嬉しそうにするナナさんに玲央奈の表情が険しくなるが、話の腰をこれ以上折るわけにはいかず見なかったことにする。 「なら、ヘリポートまでの道順を教えてくれないか?」 「はい、ではこちらもご覧くださいませ」  即座に目の前のモニターに施設の見取り図が表示され、俺たちのいる現在位置と目的地であるヘリポートがマーキングされる。その間を繋ぐ色の異なる三本のラインが描かれていった。  相変わらずの手際の良さに舌を巻いてしまう。経営者なら秘書として手元に置いておきたくなる有能さだ。  関心する俺に鼻高々といった様子で彼女は、それそれのルートを説明してくれた。 ――ひとつ目のラインは、一番近いクラブハウスへの直通エレベーターを使用するルートだ。  通常の会員の出入りにも使われてるいる為にエレベーターの数も多く、その代わりに警備が厳重な上、冠水と火事から逃れようとする会員たちが殺到中だ。  その混乱に乗じれば今なら警備の目を潜り抜けられるかもしれないが、如何せんすし詰め状態の現状では地上へと出れるのがいつになるかわからない。 ――次のラインは、貨物搬入用のエレベーターを使用するルートだ。  紫堂が利用していた大型エレベーターなのだが、彼はこれを躊躇なく破壊させたらしい。  ワイヤーを切断されて落下した荷台が無惨に潰れた姿をさらしている。その上、トラップも仕掛けてあるらしく、突破に手間取りそうだった。 ――最後のラインは、俺たちが施設に入るのに利用した円形の野外昇降機を使うルートだ。  ただ、現在位置からはもっとも遠く、地上に上がってからもヘリポートまで距離がある。  だが、現実的に考えてもここが唯一使えるルートだった。  一応、その他にもメンテナンス用の作業員用の出入り口もあるらしいのだが、非常事態となった現在は機密保持のために強制閉鎖されてしまっているようだ。 「まぁ、当然ながら相手もこれを把握してるでしょうから邪魔が入るだろうけどね」  そう言いながらも杏子さんは愉しそうに拳を合わせている。  彼女の圧倒的な強さを見ているだけに頼もしい。多少の障害ならなんとかなるのではと、思ってしまうのだが、事はそうは簡単にはいかないようだ。 「厄介なのが到着したみたいですわ」  ナナさんの説明では迎えのヘリには、さらなるシングルナンバーが搭乗してたというのだった。 ――No.07、スーと呼ばれる紅いコートがトレードマークの元軍人の女……  ただし、彼女に求められているのは牝奴隷として男の欲望を受け止めることではなかった。  苛烈な破壊行為から紅蓮との異名をもった彼女は、その殺戮スキルを使い敵対する者すべてを殲滅する役目をおっているのだった。

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