第36話:ぱんけーき (Pixiv Fanbox)
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午後4時。
お店の中にふわっと広がる甘いケーキの香りで、もうおなかぺこぺこ。
良いタイミングで、メイド服のホールスタッフさんがアツアツのパンケーキを運んできてくれた。
メニュー覗いて一目惚れしたデラックス・パンケーキ。
何がデラックスって、
「え、何枚あるの!?」
「いち、にー、さん…にゃはあ!」
化粧室から戻ってきたりうちゃんは、私のお皿を見て目を丸くしている。
4枚重ねのパンケーキを前に、ミーは涎が止まらない。
今日は金曜日。
学校帰りのりうちゃんとミーは待ち合わせをして、前から来てみたかったカフェにやってきた。
お兄さんも来られたら良かったのに、残念。
「ま、たまにはふたりも良いもんだにゃー」
「それ、聞いたら泣くよ。あの人」
そう言ってりうちゃんはクスクスと笑う。
お仕事だから仕方ないとはいえ、このパンケーキを食べられないなんて、もったいにゃい。
「土日は労ってやろうかのぅ」
「料理でもしよっかな。3人でなにか美味しいもの食べる?」
「さんせー!りうちゃんの手料理でお兄さんもイチコロにゃ」
「ふわトロたまごのオムライスなんてどうかな?」
「にゃーい!ミーのやつにはハート描いてー!」
「いいよ!あの人のには何描こっか?」
「アン◯ンマンでも描いとけば」
「ぷっ!」
さてさて。冷めないうちに、デラックスなパンケーキに舌鼓しなきゃ。
金色に輝くナイフとフォークを手に持つと、ぐー、とお腹が鳴く。
そんなミーを見てりうちゃんは楽しそうに笑った。
「私もおなか空いたよー。あ、すみませーん!あの、私の方もお持ちいただけますか?」
メイド服姿のホールスタッフさんは、ミーたちのテーブルを振り返ると、少し怪訝そうな顔をした。
「えっと...追加のご注文でしょうか?」
「あ、いえ。先ほどこの子が私の分も頼んだと思うのですが、あとどれくらいで運んでいただけるかと...」
しかし、店員さんは困ったようにミーとりうちゃんを交互に見やった。
「えーっと...。ご注文のお品は揃っていらっしゃるようですが...」
「あれ?デラックス・パンケーキをふたり分注文したはずなんですが...」
「はい。その、お連れ様からご注文いただきました際に、ご要望を頂戴いたしまして...」
「要望?」
「はい、盛り付けに関するご要望だったのですが...」
「なるほど」
空気が凍ったのを感じたのは、ミーだけじゃなかった。
「つ、追加のご注文をなさいますか...?」
「いえ、結構です。お引き止めして大変失礼いたしました」
そう言ってりうちゃんは、モナ・リザのように微笑んだ。
顔面を蒼白に染めた店員さんが去った後、
「ミーちゃん」
「にゃ、にゃぃぃ...?」
「デラックス・パンケーキって、2枚重ねだよね?」
メニューを指差しながら、東洋のモナ・リザは微笑みを深める。その姿は天使というよりは---
「そ、そういえばそうだったようにゃ....?」
「どうしてそのパンケーキは、4枚も重なっているのかな?」
「えっと...何かの、その...」
「ふたり分くらいのデラックス感だね」
「そう!何かの手違で一緒のお皿...にゃ!?」
ミーの弁明より早く、りうちゃんは、お皿を奪う。
刹那、彼女の両手が閃光を放つや否や、鋭敏なナイフ捌きによってパンケーキは切り分けられていた。
ミーが呼吸を再開した時にはすでに、彼女のフォークにパンケーキが刺さっていた。
その姿は、天使なんかじゃない。
そう、彼女はまるで、アサシン---
「これは没収」
「あ、えと、その、ミーと一緒に...」
彼女はさらに口角を上げると、満足そうに頬に手を当てた。うっとりした表情で、パンケーキから滴るハチミツを眺める。
「これが食べられないなんて、ミーちゃん、もったいにゃい♡」
「にゃぁぁあああぁぁぁぁあああっっーーー!!」
fin.