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午後4時。


お店の中にふわっと広がる甘いケーキの香りで、もうおなかぺこぺこ。

良いタイミングで、メイド服のホールスタッフさんがアツアツのパンケーキを運んできてくれた。

メニュー覗いて一目惚れしたデラックス・パンケーキ。

何がデラックスって、


「え、何枚あるの!?」

「いち、にー、さん…にゃはあ!」







化粧室から戻ってきたりうちゃんは、私のお皿を見て目を丸くしている。

4枚重ねのパンケーキを前に、ミーは涎が止まらない。


今日は金曜日。

学校帰りのりうちゃんとミーは待ち合わせをして、前から来てみたかったカフェにやってきた。


お兄さんも来られたら良かったのに、残念。


「ま、たまにはふたりも良いもんだにゃー」

「それ、聞いたら泣くよ。あの人」


そう言ってりうちゃんはクスクスと笑う。

お仕事だから仕方ないとはいえ、このパンケーキを食べられないなんて、もったいにゃい。


「土日は労ってやろうかのぅ」

「料理でもしよっかな。3人でなにか美味しいもの食べる?」

「さんせー!りうちゃんの手料理でお兄さんもイチコロにゃ」

「ふわトロたまごのオムライスなんてどうかな?」

「にゃーい!ミーのやつにはハート描いてー!」

「いいよ!あの人のには何描こっか?」

「アン◯ンマンでも描いとけば」

「ぷっ!」


さてさて。冷めないうちに、デラックスなパンケーキに舌鼓しなきゃ。

金色に輝くナイフとフォークを手に持つと、ぐー、とお腹が鳴く。

そんなミーを見てりうちゃんは楽しそうに笑った。


「私もおなか空いたよー。あ、すみませーん!あの、私の方もお持ちいただけますか?」


メイド服姿のホールスタッフさんは、ミーたちのテーブルを振り返ると、少し怪訝そうな顔をした。


「えっと...追加のご注文でしょうか?」

「あ、いえ。先ほどこの子が私の分も頼んだと思うのですが、あとどれくらいで運んでいただけるかと...」


しかし、店員さんは困ったようにミーとりうちゃんを交互に見やった。


「えーっと...。ご注文のお品は揃っていらっしゃるようですが...」

「あれ?デラックス・パンケーキをふたり分注文したはずなんですが...」

「はい。その、お連れ様からご注文いただきました際に、ご要望を頂戴いたしまして...」

「要望?」

「はい、盛り付けに関するご要望だったのですが...」

「なるほど」


空気が凍ったのを感じたのは、ミーだけじゃなかった。


「つ、追加のご注文をなさいますか...?」

「いえ、結構です。お引き止めして大変失礼いたしました」


そう言ってりうちゃんは、モナ・リザのように微笑んだ。

顔面を蒼白に染めた店員さんが去った後、


「ミーちゃん」

「にゃ、にゃぃぃ...?」

「デラックス・パンケーキって、2枚重ねだよね?」


メニューを指差しながら、東洋のモナ・リザは微笑みを深める。その姿は天使というよりは---


「そ、そういえばそうだったようにゃ....?」

「どうしてそのパンケーキは、4枚も重なっているのかな?」

「えっと...何かの、その...」

「ふたり分くらいのデラックス感だね」

「そう!何かの手違で一緒のお皿...にゃ!?」


ミーの弁明より早く、りうちゃんは、お皿を奪う。

刹那、彼女の両手が閃光を放つや否や、鋭敏なナイフ捌きによってパンケーキは切り分けられていた。

ミーが呼吸を再開した時にはすでに、彼女のフォークにパンケーキが刺さっていた。

その姿は、天使なんかじゃない。

そう、彼女はまるで、アサシン---


「これは没収」

「あ、えと、その、ミーと一緒に...」


彼女はさらに口角を上げると、満足そうに頬に手を当てた。うっとりした表情で、パンケーキから滴るハチミツを眺める。


「これが食べられないなんて、ミーちゃん、もったいにゃい♡」

「にゃぁぁあああぁぁぁぁあああっっーーー!!」



fin.

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