カテゴリー変更 (Pixiv Fanbox)
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所定の時間が過ぎたので『美しく聡明な客室乗務員が支配される悦びを植え付けられる記録(メイス・フラゥワー)』を、お題箱付き読み放題プランから読み放題プランに変更しました。
前半試し読み
人間は平等ではない。
そんな面白みの欠片もないクリシェを実感する時間がメイス・フラゥワーにはある。ハウンゼンの客室乗務員として、上流階級を気取った男たちにサービスしている時だ。
ハウンゼンは月と地球を往復するシャトル。この往復便に搭乗できる人間は限られている。金かコネ。最低でもどちらかを有している必要がある。
つまりハウンゼンの乗客は全員がハイソサエティな人間なのだが、日常的に彼らと顔を合わせているメイスは、品性は金では変えないという言葉を嫌でも実感する。
我が物顔で振る舞う横暴な客の対応に追われるだけならまだ良いほう。恋人や夫婦連れで登場する人間の側によると、男のほうがメイスに目を奪われるか誘惑してくる。それを察した隣の女は自分のパートナーではなく、メイスのほうに色目を使うなという非難がましい視線を向けてくるのだ。
あなたのパートナーを誰も取りませんよ、人のものを横取りするほど餓えてはいませんからね、とメイスは女の嫉妬を気づかないふりでやり過ごす。こんなことで腹を立てていてはハウンゼンの客室乗務員など務まらない。
なにせメイスはとびっきりの美人だ。体つきや醸し出す雰囲気は成熟した大人の女性だし、片目を隠すように垂れ下がったブロンドは如何にも旧時代の映画スターにいそうな金髪美人。口元のほくろは彼女のそこにキスしたいと男に思わせる蠱惑的なチャームポイント。
自分の体をどう見せれば、使えば男が悦ぶか知っている彼女の立ち居振る舞いはすれ違うオスに邪な気分を抱かせる。特に腰から尻、太もも、ふくらはぎのラインが絶品。彼女の後ろ姿だけで堪え性のない男は下半身に血が滾って仕方ない。
黒いストッキングに包まれた長くしなやかな脚を見ながら、男たちはこう考えてしまうわけだ。あの尻を見ながらバックで深いところを突いて鳴かせるのはグッドアイデアだが、正常位で挿入して気持ちよくなった彼女のほうから俺の腰に脚を絡ませてくるようになれば言うことなし。
メイスのような経験豊富そうで比較対象もそれなりに持っているだろう成熟した女性とワンナイトを過ごし、彼女の口から「こんなにすごいの初めて」「あなたが一番よ」「どれだけ私を気持ちよくしてしまうの」と言わせたい。そんな思春期のころに抱いた妄想を四十になっても五十になっても、あるいはそれ以上の年齢になっても持ち続けるしょうがない生き物を男性と呼ぶ。
自分が男の子供じみた性欲の対象にされていることを自覚したとしても、宇宙空間にいる限りメイスに逃げ場はない。彼女にできることは、愛想笑いを浮かべながらも断固たる姿勢で男どもの誘いを躱し、シャトルが無事に目的地へたどり着くまで時間を稼ぐことだけ。
しかし、そんな方法が通じない相手や状況もある。たとえば今。
今日のシャトルは地球連邦のエグゼクティブという男性の貸し切りだった。先日のハイジャック事件により、やはり重要人物が一箇所に集まり移動するのは危険と警護の観点から見直された。その結果、少人数に分かれて移動するようスケジュールの見直しが発生した。もしくは、本当に金とコネの両面に恵まれている人物なら、ハウンゼンを貸し切るという豪気な方法で問題解決を図る。
今、メイスの目の前にいる男は、その類の人物だった。
年齢は四十代。世間的には中年と呼ばれる年頃だが、七十になっても八十になっても権力の座に居座り続ける人間が幅を利かす世界では、彼でもまだ若手と中堅の狭間といったところ。
彼はトラビス・ペイジという名前で、如何にも自分は競争を勝ち抜き権力の座に就いた優秀な人物だという強烈な自負心や、傲慢さが溢れ出しているタイプの男だった。
とある哲学者が言うところによれば、能力主義の弊害は競争が公平性を欠くものだったことより、多くの人が競争は公平に成されていると信じていることによって起きる。能力主義者は他人の成功や失敗を全て、その人物の能力に帰結させる。人間個人の価値と彼の社会的地位には相関があると考えるのだ。
往々にして能力主義者は運を成功の要素に認めないか軽視する。彼らは成功者の経歴を見て、たまたま破れかぶれの博打が成功しただけとは思わない。そんな難しい判断を下せるなんて先見の明があった凄い人だと感動する。能力主義者が重視するのは現時点で成功しているかどうかだ。彼らは成功したという結果から『~であれば、あの人には能力があるに違いない』と推論するだけである。その人に本当に能力があるのかの証明は必要としない。
逆に能力はあるが何らかの事故によって発揮できず不遇な立場に置かれている人もいるだろう。彼らに対して能力主義者は冷淡だ。社会的に成功してない=何者でもない=じゃあこいつには価値がない、というのが能力主義者の一般的な考え方である。彼らがどこを見て人を判断しているか。相手の所得と資産額だ。
こうした能力主義の害は、多くの人が自分たちは不確定要素の影響が強いランダムな競争を強いられていると感じている時より、この世は正しく回っていて能力主義に間違いはなく競争は平等に成されていると信じている時のほうが強く出る。
つまり、その競争で勝った人間は、自分は公平な競争の勝者なのだから価値がある人間だ、幾ら敗者を傷つけるような言動をしても良いし、弱者が何か言ってきても負け犬の遠吠えなど相手しなくて良いと考え傲慢に振る舞うようになる。他者の窮状や境遇に対して冷淡になれるのだ。
そして、人生で大きな成功を掴み取れなかった側の人物も、自分の所得が低いのは私が無価値な人間だからだ、平等な競争で勝てなかった私に何かを求める権利はないと考えるようになる。
高級シャトルの客室乗務員は見た目の美しさだけでは務まらない。博識なメイスは件の哲学者の言葉を知っていたし、それはトラビスに当てはまると頭の中で両者を結びつけていた。
月のターミナルを出発してから、トラビスは頻繁にメイスを名指しで呼んだ。サービスする相手が一人しか乗っていないシャトルは、最低限の人員で航行しているため、普段よりも乗務員と客が互いの存在を個人として強く認識しやすい。
「少しお酒に付き合ってくれないか」と何度目か分からない呼び出しでトラビスは言った。
「就業中ですので」
「そうは言うけどハウンゼンを降りたら会ってくれないだろ」
メイスは確信を持ってイエスと答えられたが言葉は飲み込む。代わりに彼女は、トラビスを正面から見て、目元に笑みを浮かべながら言った。
「私、あまりお酒には強くないので、酔ってしまったらトラビス様に粗相をするかもしれませんよ」
メイスの言葉に、トラビスは脂下がった表情を作る。美男子と呼んで差し支えない男だが、やはり欲が前面に出てくる瞬間は他の男と変わらない。だらしない本性が表情に表れる。
「見たいな。君のような美人が男相手にどんな粗相をしてくれるのか」
「分かりました。では、一杯だけ」
メイスは特権意識に凝り固まった男たちとハウンゼンで多数顔を合わせてきた。目の前の男は話して通じる相手じゃないという感触を彼女が得るには充分な会話だった。通常の運行であれば以後の対応を他の客室乗務員にパスできるが、今日は地球までトラビスの相手をし続けなければならない。この調子で呼び出されては敵わないと彼女は妥協した。
メイスが答えると、トラビスは満足げに笑う。そして彼は君の分のグラスも持ってくるようにと言った。
メイスはハウンゼン内のバースペースへ行く。バーテンダーに事情を説明すると彼は渋面を作りながら彼女用のグラスも用意してくれた。
「あの人は自分を何様だと思ってるんでしょうね。あの人に限ったことではなく、ハウンゼンに乗る人間はだいたい皆そうですけど」
このバーテンダーは明け透けな会話を好む。客がいないところではよく愚痴をこぼしていた。
「ごめんなさい。私のせいで迷惑をかけて」
「あなたのせいじゃありませんよ。あんな奴らに愛想笑いを振りまいて疲れないんですか?」
「慣れてるから」
「嫌味ですね」
「いいえ。事実を述べただけ。そうやって楽しませるのも私の仕事のうちだから」
そう言って微笑むと、バーテンダーは呆れた様子だった。
「そんな仕事ならやめてしまえば良いのに。こんなことを言えば怒られるかもしれないが、そういう生き方って疲れませんか?」
若く直情傾向のあるバーテンダーは悪い人間ではない。ただ独善的過ぎるし遠慮を知らない。明らかに彼の物言いは相手の個人的な事情に踏み込みすぎていた。しかし、メイスは気にせず首を横に振って答えた。
「そんなことないわ。私にとってはこれが天職だし、今の自分に誇りを持っているもの。それを否定することは誰にもできないはずよ」
メイスの返答にバーテンダーは感心したような表情になる。
「あなたみたいに自信を持った人を見るとなんだか勇気づけられる。俺も頑張ろうって思えます」
「そう言っていただけると嬉しいわ。でも、あなただって立派な人よ。こうしてハウンゼンのバーテンを務めているのは並大抵の努力で出来ることじゃないと思うから」
「俺なんかまだまだですよ。いつか宇宙で一番のバーテンダーになってみせますから」
若さ故の根拠のない発言。それでもメイスにとって、その無邪気さはとても眩しいものに感じられた。思わず目を細める彼女にバーテンダーは少し照れたような表情を浮かべる。
メイスは頷きつつ、バーテンダーに向かって小さく手を振る。そしてそのまま踵を返してバースペースを出て客室へ続く通路へ向かった。
「お待たせしました」
「君と時間を過ごせるなら幾らだって待つよ……と言いたいところだが、もう地球の重力圏に入っている。到着まで一時間ちょっとと言ったところだろう。時間がない。早く掛けてくれ」
トラビスはそう言って自分の隣の椅子を指し示した。メイスは素直に従う。
「注いであげよう」
「いえ。お客様にそのようなことは」
「遠慮しないで。さあ、どうぞ」
トラビスはそう言ってワインボトルを掲げる。メイスが戸惑っていると、彼は勝手に彼女のグラスへ赤い液体を注ぎ始めた。注がれた量はそれほど多くなかったが、芳醇な香りが漂ってくる。
その香りだけで高価なものだと分かる代物だ。
「君と一緒に飲めるなんて光栄だな」
言いながら彼はグラスを高々と掲げる。乾杯ということらしい。メイスは軽く頭を下げ、自分もグラスを掲げた。
一口飲んでみると、口当たりが良く飲みやすい味が舌の上に広がる。美味しいわねと言うとトラビスは嬉しそうに頷いた。
「そうだろう? 私も好きなんだこの銘柄が」
どうやらこの男は機嫌が良いようだった。メイスのような美女と相席できているのだ。酒で気が緩んだ隙を狙ってこの後の予定もと想像すれば気分だって良くなるだろう。彼女のほうにはトラビスの誘いに応じる気など少しもなかったが。
上機嫌のまま、彼は口を開く。
「君は本当に美しいね……今まで出会った女性の中でも間違いなく一番だ」
突然始まった歯の浮くような賛辞に、メイスは慣れた微笑を一つ返した。彼が本当にそう思っているかなんて分からない。女を口説くときとセックス中の男のセリフほど信用できない言葉がこの世にあるだろうか。だが問題ない。メイスはトラビスの一番じゃなかろうが気にしないし、なりたいとも思わないからだ。
当たり障りのない笑顔に彼は何を見たのだろう。トラビスの顔はさらに明るくなる。
「本当にそう思うんだよ」
「ありがとうございます」
「いや、本当だよ! ああ、もっと君を褒めたいな……」
興奮した口調で言いながら、トラビスはグラスのワインを飲み干す。
「そう言えば君の名前を訊いてなかったな」
「メイスと申します」
「ファミリーネームは?」
「フラゥワーです」
「フラワー?」
「よく間違えられます」と言ってメイスはグラスに口をつける。一杯だけの約束なので早いところ飲み干してしまえば良いのだが、あなたとの時間を急いで打ち切りましたと露骨な態度に出すのは気が引けた。
「花のように美しい君ならフラワーでも間違いとは言えないと思うがね」
「花の命は短いとも言いますわ」
「だからこそ満開の時期を心残りなく楽しむべきだとは思わないかな」
トラビスはメイスを見つめながら言う。その視線は熱い。まるで視線自体が熱を持っているようだ。
「君を見ていると胸がドキドキしてくるよ」
これは彼の本心なのだろうか。それとも女をベッドに誘うための駆け引き?
「まあ、ご冗談を」
いつもどおり軽くいなしたが、彼女は自分の鼓動が速くなっているのを感じた。ドックン、ドックンと胸の鼓動が伝わってくる。アドレナリンが噴出する。物凄い勢いで血流が増えている気がした。
「本当なんだよ。君みたいな人を目の前にして何も感じない男はいない。なあ、どうだろう。このまま私としばらく一緒に過ごすというのは。仕事だからってトンボ返りという訳ではないのだろう」
そう言いながらトラビスはメイスの肩に手を回してきた。メイスは、少し困ったような表情を作り、やんわりとトラビスの手を退ける。すると彼は、今度は手を腰へと伸ばしてきた。腰のラインを確かめるように撫でてくる。その手つきには性的なニュアンスが含まれていた。
(ああ、駄目)
彼に触れられると感じてしまう自分がいた。下半身からじんわりと熱が広がっていく。子宮のあたりがキュンと疼くような感覚がある。体が反応していた。今すぐこの男とセックスしたいと疼いている。
駄目だと分かっているのに興奮してしまう自分を止めることができない。頭では拒絶しなければならないと思っているのに体が言うことを聞かない。
明らかにメイスの肉体は通常の状態ではなかった。
「ん……っ」
吐息とともに声が漏れる。それが合図だったかのようにトラビスの手が動いた。制服の上から胸を揉まれた。ブラ越しに伝わる感触を楽しむようにして揉む手付きは欲望に満ちていた。乳首に触れないように注意しながら円を描く指先。その指先が先端に触れるたび、乳輪で生まれた快感が脳髄にまで走る。
「あッ……」
反射的に声が出てしまった。慌てて口を噤んだがもう遅い。トラビスの視線が一瞬鋭くなったような気がした。彼の瞳に獣じみた光が宿っているのを見て取る。獲物を狙う肉食獣の目だ。
「どうしたんだい?」
白々しいことを言う男に対して、彼女は首を横に振ることしかできない。彼女は男ならむしゃぶりつきたくなるような瑞々しい唇を真一文字に引き結ぶ。これ以上は彼の卑猥な行為で悦びを示したくなかった。だというのに彼女の口は訴えるために歌い続けた。
「い、いえっ! いえ、何でもないです……んっ! んっ! あっ!」
「可愛い声じゃないか」
トラビスの愛撫は終わらない。今度はゆっくりと揉み解すような動きに変わる。五指全てを使ってじっくりと丁寧に胸全体を撫でられる。体の奥の方からじわりとした感覚が沸き上がってくるのが分かった。甘い痺れにも似た感覚はやがて全身に広がっていき、皮膚の表面を覆う神経が敏感になっていくのが分かる。
直接肌に触れたくて仕方がない。もっと強い刺激が欲しいと思ってしまう。それを自覚してしまったら我慢できなくなる。無意識のうちに腰をくねらせていた。
「んっ……はぁ……あん……や、やめ……はぁ、んっ……!」
彼の左手がメイスの腰を抱き寄せながらヒップに掛けてのラインを撫で回す。反対側の手は胸を揉みつつ胸元のボタンを緩め始めていた。前を開いた制服の間から下着に包まれたバストトップが覗く。フロントホックタイプのブラジャーだ。
「君は着痩せするたちらしいな。期待以上のボリュームだ」
トラビスの声は弾んでいた。美尻なのは分かっていたが、脱がせてみれば目測以上の巨乳。全身で愉しめそうだと悦んでいるのだろう。
彼の手がスカートの内側に入り込んでくる。太腿を這う掌の感触。ストッキング越しだからまだ耐えられるが、直接触られたらあっという間に陥落してしまいそうだった。
そんなメイスの気持ちを見透かすように、トラビスはさらに大胆になる。ショーツの上から秘所をなぞり始めたのだ。割れ目に沿って上下に動く太い指。布を隔てているとは言え敏感な部分へのダイレクトアタックは強烈過ぎた。
「んんっ! ああぁッ!」
思わず嬌声を上げてしまう。メイスが弾かれたように首をガクンと後ろへ傾けると、豊かな金髪が揺れた。
「ダメです、ダメ。そんなとこっ、ろぉ」
彼女は両手でトラビスの手の動きを止めようとする。だが彼の力は強い。メイスが全力で押し返しても彼は悠然と指を動かし続ける。女の必死の抵抗を嘲笑うように、触れるか触れないかの絶妙なタッチでおまんこくすぐりを愉しんでいた。
「何がダメなものか」
トラビスはそう言ってクリトリスをタップした。電流のような鋭い快感が背筋を駆け抜ける。電撃のような衝撃に彼女の体はビクンッと跳ね上がった。絶頂に達したわけではないだろうが軽くイッているかもしれない。その証拠に膣口がパクリと開き愛液が溢れ出る。粘度のある透明な液体が流れ落ちる。
(こ、こんな簡単にイカされるなんて……!)
信じられない思いでメイスは愕然とした。自分で慰めるときとは比べものにならないほどの快感に頭が真っ白になってしまう。全身の細胞が活性化している気がする。ますます心臓が激しく脈打ち体温が上がるのを感じた。
しかもそれだけではない。下腹部の辺りから何かが這い上がってくるような感覚があった。それは徐々に強くなり、彼女の意識を侵食していく。
(なにこれ……なんなの?)
困惑していると不意にトラビスが口を開いた。
「どうやら効いてきたようだな」
「え……?」
彼の言葉を理解する前に次の一手が飛んでくる。彼はグラスに残ったワインを口に含むとそのままメイスへキスしてきたのだ。いきなりのことだったので避けることもできなかった。唇の隙間から生温くなったアルコールが流れ込んできて口内を満たしていく。
「んくっ? んんーっ!」
彼女は必死に逃れようとしたが、先ほどまで腰を抱き寄せていたトラビスの手が、今は彼女の後頭部を押さえていた。男の力で無理やり唇を押しつけられ逃げることができない。それどころか舌まで絡め取られてしまう。唾液混じりの赤い液体が二人の口の間で何度も掻き混ぜられた。そして最後に舌が引き抜かれて唇が離れる。
「ふぅ……」
一息ついたところで再びワインを流し込まれた。ゴクリ、と音を立てて嚥下させられる。口の端から溢れたワインが首筋を伝って胸元まで流れていくのが分かった。
「何を飲ませたんですか?」
睨むような目つきで尋ねる彼女にトラビスは笑うばかりである。
「だいたいの予想はついているんじゃないかな」
そう言ってトラビスは背広のポケットから一本の小瓶を取り出した。ラベルには『D10』と記されている。
「この薬はいわゆるセックスドラッグさ」
事も無げに言う男にメイスは唖然とするしかなかった。こんなものを飲まされてはたまらないという気持ちと同時に、こんなものを飲まされたのだから我慢できなくても仕方ない、思う存分セックスできるという喜びが同時に湧き上がってくるのだから始末が悪い。彼女は自分が酷く淫乱になってしまったような気がしてならなかった。彼女とて普段なら絶対こんな風に欲情したりしない。だが、今の彼女は違った。
「欲しいかい?」
「そ、そんなもの、欲しくありません」
「嘘はいけないよ。本当は欲しくて堪らないんだろう? 正直に言いなさい」
「う、うう……」
「言ってごらん? 素直になって楽になろうじゃないか」
耳元で囁かれる言葉に抗えない自分をメイスは感じていた。理性とは裏腹に肉体は更なる快感を求めている。子宮の奥が疼いて堪らなかった。早くアソコを掻き回して欲しいと訴えてくるようだ。
(だめ……このままじゃ本当におかしくなる)
それでも彼女は頑なに首を横に振る。そんな彼女を見てトラビスは小さく溜め息を吐いた。
「ここまでして説得してもダメか。それなら君が自分でしている姿を見せてくれ」
「……え?」
「自慰をして見せろと言っているんだ」
トラビスの言葉にメイスは耳を疑った。彼はハウンゼン機内で自慰をしろと強要しているのだ。幾らなんでもそこまで無礼で不躾で恥知らずな命令をされるとは思っていなかった。人前でオナニーするなんて有り得ないことだ。それも自分から進んでするなど考えられない。そんなことしたくない。そう思う反面、彼女の聡明な頭は今すぐ処理しなければこのムラムラは収まらないこと、彼の手で触れられたくないのなら自分でするしかないことを理解してしまう。
体が熱い。子宮が疼く。あそこが切なくて仕方がない。もう我慢できないくらいになっていた。このまま放っておいたら気が狂ってしまうだろう。そうなるくらいならいっその事――。
彼女は自分の胸元に手を伸ばした。制服の上から乳房に触れる。手のひら全体で包み込むようにして揉みほぐすだけで気持ちが良かった。乳首を重点的に転がすとピリッとした刺激が走る。その感覚を求めて何度も繰り返していると次第に硬く尖ってきた。コリコリになった乳首を弄くり回すとジンとした甘い痺れが伝わってくる。
(ああっ! 気持ちいいっ!)
彼女は夢中で胸を揉み続けた。その姿を見た男は満足げに頷いている。
「さあ、もっとだ」
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美しく聡明な客室乗務員が支配される悦びを植え付けられる記録(メイス・フラゥワー)
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