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藤田和日郎先生の『双亡亭壊すべし』を読みました


叔父の影響で『うしおととら』や

『からくりサーカス』を読んで育ったワタクシ

今作も紹介してくれた叔父貴に感謝です


奇怪な家〈双亡亭〉の中で、

ある「絵」を見てしまった者たちを襲う魔の手…


主人公が追い求めるものが「絵」なら

敵が戦いに用いる武器も「絵」

本作では全編を通して

「絵」が重要なテーマとなっております


スペクタクル・モダン・ホラーと銘打たれた本作は

バトルあり冒険ありのアクション漫画でありながら、

「絵とは何か」「人は何のために描くのか」を

探求する物語でもありました


私自身、お絵描きでの悩みにも

多くのヒントをもらえまして

絵を描く方には是非とも読んでほしい作品です


・・・


オカルト好きの中学生たちが

奇妙な「お化け屋敷」・〈双亡亭〉に忍び込む

その屋敷はこれまで踏み入った者たちを

幾人も餌食にして

異形の存在に変えていた魔性の家だった

屋一緒に忍び込んだ少女は、

ヒトならざる存在へと成り果ててしまった

数十年後

日本の首相となったかつての中学生・斯波と

防衛大臣となったその友人・桐生は

〈双亡亭〉の完全破壊のため

世論の猛反発を受けながら

史上初となる国内への航空爆撃を強行する

しかし、

「全ての建造物を破壊する爆弾」を以ってしてもなお

〈双亡亭〉は壊せなかった

重機で解体しようにも、

木造のはずの〈双亡亭〉の外壁は異常な弾力を見せ、

鉄球をも飲み込み跳ね返してしまう


総理は〈双亡亭〉の破壊に248億もの報奨金を賭け

機動隊・特殊部隊に加え

巫女、霊媒師、霊現象研究者といった

除霊のプロフェッショナルを募り命じる


「双亡亭壊すべし」、と

かくして多くの人間を巻き込み、

〈双亡亭〉破壊作戦が始動

そこに巣食う想像を超えた怪異が、

破壊者たちを飲み込んでゆく…


・・・


本作の主人公は絵本作家を志す青年・

凧葉努(たこは つとむ)

〈双亡亭〉の隣のアパートに住んでいたことで

そこを巡る因縁に巻き込まれていきます

タコハは個人的に

本作で一番好きなキャラクターであります


彼は凄まじい力を秘めた槍や

妖怪の相棒に巡り逢った訳でなければ、

拳法や銃が扱える訳でもない

一度見ただけで武器を使いこなせるような

並外れた記憶力も

何人束になっても跳ね返せる超人的な腕っ節も

持ち合わせていない

何の戦闘能力も持ち合わせていない、という

長編の藤田作品では今までにいなかった

タイプの主人公です


ではタコハさんは何が凄いのか、

どうやって戦うのかというと、

彼はひたすら仲間たちを励まします

仲間がピンチなら、

自らを危険に晒そうともその渦中に飛び込み

心の深い部分に語りかけ激励します


大切な仲間を鼓舞し、導く、

言わば言葉で戦う主人公といいましょうか

その言葉の一つ一つがまたアツい

彼も生きてきた中で生身の人間として、

悩みを抱えたり悔しい気持ちになったりして

その度に自分なりの意見を培って生きてきて、

そうやって増やしてきた引き出しから

取り出された言葉だから、

熱を持って仲間たちにも読者にも届く

読み手としては、

まるで自分が誰かに言って欲しかった言葉を

彼が叫んでくれてるようで、励まされました

特に、美大出身で「絵」の道をゆく者なので

「絵」にまつわる言葉は本当に含蓄がある

「タコハさんも同じ悩みを抱えたんだな」

と思うと、その言葉に勇気が湧く

私も絵師の端くれゆえ、

作中の言葉の多くが胸に刺さりました

ラスト2巻の「問答」は何度読んでも圧巻

(泥努サマ語録にも絵描きとして大いに

「脳が揺れた」のですが

語り尽くせないのでまたの機会に)

一方で生身の人間として不安になったり、

弱音を吐いたりもする姿も描かれる

仲間を励ます時のメンタルは神掛かってるけど、

完全無欠ではない、人間らしい脆さも秘めている

強靭な心を持ちながらも、

他を寄せ付けない性質ではない

絶妙に親しみを持てる距離に感じるから

そのあり方を指標にしたくなる

「こんな人がどこかで生きてるんじゃないかな」

と思えて愛おしさを感じる

個人的には、今までの藤田作品の主人公で

一番共感できる部分が多かったです

私はタコハさんに応援してもらいたいと

心から思う


・・・


もっと絵を見てもらいたい…

自分の描く絵に自信が持てない…

絵描きなら誰もが抱く苦悩・もどかしさに、

力強い言葉で切り込んでいく

悩んだ分だけ一筆一筆が、

血となり肉となっていく

絵を描く者たちに、

そのあり方を示してくれる

そんな物語


勿論、熱い心を秘めたキャラクターや

卓越したクリーチャーデザイン、

洗練されたアクション描写といった

藤田作品らしさも見所の

絵を描く人もそうでない人も楽しめる

冒険絵巻でもあります


拙いレビューではありましたが、皆様にとって

このブログが『双亡亭』を手に取るきっかけになれば

幸いです

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