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わたしたちの住む千人坂市にはたくさんの怖い噂があります。

「住宅地の外れの雑木林にひっそり建っている廃墟になった屋敷…みんなからガン見屋敷と呼ばれてる…には

恐ろしい見た目をした怪物「ガンミさん」が住んでいる」

この噂もまた街中に流布する噂のひとつです。

友達の友達からこんな噂を聞きました…

30年くらい前、S君というクラスの人気者が友達を引き連れて件のガン見屋敷に肝試しに行ったそうです。

あまりの怖さに一人、また一人と友達が逃げ出し、とうとう残ったのはS君と幼馴染のM君だけ。

気が強く負けず嫌いのS君はM君より先に逃げるのがイヤで、どんどん屋敷の奥に向かいました。

ギイギイという腐り湿った床の踏みしめられる音。

しかしふと、なにやら別の音が混じっていることに二人は気づいてしまいました。

それは音ではなく声…枯れた女性の声が頭の上から聞こえます。

【…ナサイ…オ…ナサイ…ダマリ…オダマ…ナサイ…】

【ヨビ…オ…サマト……ジョオ…サマ…ヨビ…】

【ミナサイ…セ…スイ…ノミ…サイ…】

声はS君の頭の真上から聞こえてきます。

硬直して動けなくなったS君。

隣にいたM君は恐る恐る視線を上げました。


M君は腰を抜かしながら必死に逃げ出しました。

背後からS君の悲鳴が聞こえましたが、M君は振り返ることもせずひたすら足をばたつかせ、玄関へ走ります。

屋敷を飛び出すとそこには友達が待っていました。

パニック状態のM君の姿にただ事ではないと悟り、おそるおそる玄関先からS君を呼びました。

返事はなく、帰ってくるのは風鳴りだけ。

S君はきっと裏口から逃げ帰ったのだ…恐ろしくなったみんなはそう無理やり結論づけ、逃げるように解散しました。

その夜、S君の母親からM君の家に電話がありました。

「Sがまだ帰ってない。そちらにお邪魔してませんか」

M君は事の経緯を両親に話すと、烈火のように怒られました。

深夜、保護者や先生、警察の捜索隊が屋敷を中心とした雑木林をくまなく捜索しましたが、結局S君は見つかりませんでした。

S君が見つかったのはそれから三日後。屋敷の玄関前で倒れていたのを発見されたそうです。

ひどく衰弱しており、すぐさま病院に入院したS君は、幸い栄養失調と軽い打撲だけでしたが、体のあちこちにアザがついていたそうです。

まるで髪の毛で締め付けられたような…

1週間後、S君は無事退院し学校に登校しましたが、以前とはまるで別人のようでした。

クラスの中心的存在でいつも明るかったのに、戻ってきたS君はとても暗く、誰が声をかけても返事をしません。

休み時間はいつもトイレの個室に駆け込み、はあはあとうなされています。

トイレから帰ってくると顔色はいっそう悪くなっているのに表情は晴れてて、それがかえって不気味でした。

トイレから戻ったS君はなんだか変な匂いがしたそうです。

あの日、ガン見屋敷に一人取り残されたS君になにがあったのか。

彼はその後どんな経緯であの女性と出会ったのか。

そして女性の口の中からこちらを見つめてきたあの赤い瞳…屋敷の怪物と女性に、なにか関係があるのか。

恐ろしくなったM君は、それ以上詮索するのをやめたそうです。

【設定など】



【千人坂市】

某県に存在する衛星都市。高度経済成長期に人口が一気に増え、一時期は非常に潤っていたが、バブル崩壊後の現在は高齢化と少子化の波が押し寄せ、緩やかに衰退し始めている。

以前から土地に住む住民と新しく流入してきた住民との間で摩擦が生じることもあり、古い木造家屋と高層マンションが居並ぶなど、混在した風景も垣間見られる。

改築されたばかりの千人坂駅は主要都市と千人坂市を結ぶ重要な交通網で、駅前商店街は市内でもっとも栄えているエリアである。

中心地を少し離れただけで田畑や山などの自然が多く見受けられ、長い歴史を持つ寺社や遺跡も多いことから重要な観光資源となっている。

一方で、古い土着の神を奉じた祠や史跡、鬼女を祀る供養塔、怪人が住みつく廃墟屋敷など、心霊スポットが数多く、市内外からの肝試しグループが後を絶たない。

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