44.とっさの一言 (Pixiv Fanbox)
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※The English version is also below.
※한국어판도 밑에 있어요.
アモルの祭式の当日。
「ちょーっと待った!」
今まさにお姉様の口づけを受けようとしていたその時、それに待ったを掛ける声がありました。
皆の視線が声の方に向きます。
わたくしもそちらを見て、そして呆然としました。
声の主は平民でした。
そこに驚きはありません。
驚いたのは平民の格好です。
彼女は全身傷だらけでした。
「レイ、遅いわよ」
「いや、ちょっと手間取っちゃってさ」
平民は、はらはらしたと言わんばかりのミシャに軽く謝ってから、お姉様とわたくしの間に割って入って来ました。
お姉様はふん、と小さく鼻を鳴らしてから、
「逃げ出したわけじゃなかったんだね。そこだけは認めよう」
「だーれが逃げますか。絶対に負けないって言ったでしょう?」
お行儀悪く舌を出してお姉様を威嚇しつつ、平民はわたくしの手を引いてお姉様から距離を離しました。
繋がれた手の温もりに戸惑いながら、わたくしは色々な思いのこもった目を平民に向けました。
「あなた……」
「クレア様、安心して下さい。こんなヤツにクレア様は渡しませんから」
そう宣言する平民は、顔にもいくつも傷を作っていましたが、それでも何故か晴れ晴れとした表情でした。
「そう言われても、もう勝負はついてるよ。キミがどんな供物を持ってきたか知らないけど、ボクの供物はフロースの花だ。これ以上の供物はないんだろう?」
そう言って、お姉様は光を放つ花を掲げました。
そうなのです。
お姉様はもう最高の供物を用意しているのです。
「例えキミがフロースの花を持ってきたとしても、それなら早い者勝ちだ。勝者はボクで動かな――」
「私の供物はこれです」
お姉様の言葉を遮って、平民はポーチから「それ」を取り出しました。
「それは……枝?」
わたくしは見たままを呟きました。
平民が供物だというそれは、どうみてもただの木の枝でした。
わたくしはがっかりした自分を自覚し、初めて彼女に何か秘策があるのかと期待していたことを知りました。
「そんなものしか手に入らなかったのかい?」
「いいえ、これをずっと探していたんです」
平民は何故か自信たっぷりですが、周りの目は白いものばかり。
それはそうでしょう。
供物としての格は、見た目からも歴然です。
「捧げてみれば分かりますよ」
さあ、と平民はお姉様を促しました。
捧げてしまえば後戻りは出来ません。
止めるなら今ではないか、とわたくしは迷いましたが、平民はわたくしを安心させるように力強く頷きました。
「いいとも。なら捧げてみようじゃないか」
そう言うと、お姉様は恋の天秤の前に進み出ました。
古めかしくも気品のある造りの天秤は、まさに神が遣わした神器に相応しい貫禄を備えていました。
「では、ボクから。我が心の内を、神の裁きの下に」
お姉様は戯曲を演じるかのような仕草でアモルの詩の一節をそらんじると、フロースの花をうやうやしく天秤に捧げました。
天秤に捧げられた花は一層まばゆい光を放ちます。
伝説に謳われるだけあって、天秤が大きく傾きました。
「次は私ですね。捧げます」
平民の方はと言えば、何のこだわりも見せずに無造作に枝を天秤に載せました。
天秤は――ぴくりともしません。
「やっぱり、ボクの勝――」
お姉様がそう言いかけたその時、辺りに地鳴りが響き渡りました。
「地震!?」
揺れに備えて皆が地面に伏せますが、やがて気がつきました。
地面は少しも揺れていません。
揺れているのは、恋の天秤だったのです。
「なんだ?」
誰かが怪訝な声を上げました。
見ると、枝から新芽が芽生えています。
それだけではありません。
次々に根が生やした枝はみるみる生長し、瞬く間に大樹となって天秤を傾けました。
「フロースの花が負けた……? この枝は……一体……?」
呆然と呟くお姉様に、平民は言いました。
「連理の枝、と言います」
平民の話によると、これはこの近くの森に棲むモンスターが落とすアイテムなのだそうです。
入手難易度は極めて高く、手に入れるのにとても苦労したとか。
平民はこれを手に入れるために、こんなに傷だらけになるまで頑張ってくれたのでした。
「フロースの花が最も重い供物じゃなかったのか……?」
「今まで知られていたものの中では、確かにフロースの花が一番です。でも、それより重い供物があったってことですよ」
得意げにそう言うと、平民は今度はわたくしに向き直りました。
「クレア様」
「……?」
あまりの展開にまだ呆然としていたわたくしは、平民の声で我に返りました。
平民は傷だらけの顔を乱暴に拭った後、最低限の身なりを整えてこう言いました。
「ホントはこんな勝負どうだっていいんです」
「え……?」
それは……わたくしのことなどどうでもいいということ……?
わたくしは不安になりましたが、レイはこう続けました。
「私には物語のような恋は出来ません。ご存じの通り、茶化さないと大事なことすら言えなかったりします」
でも、と彼女は続けました。
「たとえ神様の天秤に認められなくても、それでもあなたを愛します。誰に負けようとも、それでもずっとあなただけを愛し続けます。だから――」
平民はわたくしの前に跪いて、手を取ると――。
「メイドではなく、私をあなたのパートナーにして下さいませんか?」
物語の一節ではなく平民自身の言葉で、彼女は初めてわたくしに愛されることを望みました。
そのことが、わたくしには堪らなく嬉しかったのです。
「……あなたって人は……」
理由の分からない涙が浮かんできました。
悲しくはありません。
むしろ、わたくしの心はとても温かなものに満たされていました。
彼女の問いに答えましょう。
そうしてまた、わたくしの隣を彼女に歩いて貰いましょう――そう思った矢先のこと。
「あっはっは! いやー、負けた負けた!」
いい雰囲気になりかけた所に、お姉様の屈託のない笑い声が響き渡りました。
「マナリア様。今、いいところなんですから空気読んで下さいよ」
「やだ。やっぱりボク、キミがいい。最高だよ」
不満そうに言う平民に、お姉様はそう言うとハグをしたのです。
わたくしは驚きに目を見開きました。
「ちょっ、マナリア様」
「やー、いいないいなとは思ってたけど、まさかこれほどまでとはね。うんうん、キミこそボクの伴侶に相応しい」
ちょ、お姉様、今なんて……?
「お、お姉様、それはどういうことですの……?」
「やー、ごめんね、クレア。ボクの目的は最初っからレイだったんだよ。レイの反応が楽しくて、ついクレアをつついていじめちゃった」
てへ、とお姉様は舌を出して笑いました。
お姉様の目的が……平民……?
じゃあ、つまり、お姉様が仰っていた目的の半分というのは、彼女のことだったのでしょうか。
それはダメ。
ダメです。
何がダメなのか分かりませんが、とにかくダメです。
「ちょっと、マナリア様。離して下さい」
「やだ。このままスースに連れて帰る」
お姉様と平民が仲良くじゃれています。
わたくしは段々腹が立って来ました。
「お断りです!」
「うんうん、嫌がるところがまた一段と可愛らしいね。そんなキミが好きだよ」
そう言うと、なんとお姉様は平民に――レイに口づけをしようとしました。
わたくしは、もう我慢の限界でした。
「ちょ、やめ――」
「ダメーーー!!!」
わたくしは二人の間に入って両手で二人を押しのけると、あらん限りの声で叫びました。
「レイはわたくしのものよ! わたくしのものを取らないで!」
自分が何を言ったのか、その意味は遅れてわたくしの頭に浸透してきました。
あばばば!?
わたくしってば何を口走りましたの!?
「ク、クレア様……?」
レイがおずおず、といった様子で声を掛けてきます。
わたくしは顔が真っ赤になるのを感じました。
「ち、違いますわ! 今のはそういう意味じゃなくて――!」
「クレア様ー!!!」
レイがわたくしに抱きついてきました。
暑苦しいし、うざったい――でも、ちょっぴり嬉しいとわたくしは思いました。
もちろん、そんなことはおくびにも出さず、悪態をつくのがわたくしです。
「ちょっと、お離しなさい!」
「嫌です! 愛してます、クレア様!」
「私は嫌いですわよ! はーなーしーなーさい!」
「わたくしのものって言ったじゃないですか!」
「うるさいですわ! 忘れなさい!」
レイと一緒にじゃれ合います。
こういうことも、何日ぶりかと思いました。
「マナリア様、失礼ですけれど、勝負あったと思いますよ?」
「うーん、そうみたいだねー」
お姉様とミシャが、わたくしたちのじゃれ合いを見て何事か話しています。
でも、わたくしは嬉しさと照れくささでそれどころではありませんでした。
「はーなーしーなーさい!」
「いーやーでーす!」
以前と同じようなやりとり。
でも、わたくしの胸の内側は以前とは比べものにならないほど、温かく満たされていました。
*Translation below was made possible with the help of Sephallia. Thank you so much Sephallia.
44. Impulsive Words
On the day of the Amour’s Festival.
“Hold it!”
Just as I was about to accept Onee-sama’s kiss, one voice brought us to a halt. Everyone turned in the direction of the voice. Following their gaze I looked in shock.
The voice belonged to the commoner, but that’s not what shocked me. I was surprised by her appearance. She was covered in wounds.
“Rei, you’re late.”
“My bad… Just took a bit longer than I was expecting.”
The commoner offered a lighthearted apology to MIsha who had been fraught with anxiety before coming between Onee-sama and I. After breathing out in a huff, Onee-sama said,
“So you didn’t just turn your tail and run, I’ll at least give you credit for that.”
“Just who would run from someone like you. Did I mumble when I said it? I told you there’s no way that I’d let myself lose.”
Uncouth as ever, the commoner stuck her tongue out to taunt Onee-sama while grabbing my hands, pulling me away from her. As I hesitated over the warmth I felt from her hands, I sent a gaze filled with various emotions to the commoner.
“You…”
“Claire-sama, please don’t worry. There’s no way I’d ever give you up to someone like her.”
The commoner’s face was littered with wounds as she made that declaration, but her expression was very bright.
“No matter what you might say, our little contest has already been decided. I don’t know what you intend to offer, but my offering will be a Floss Flower. There’s nothing that weighs more than that, isn’t that right?”
Onee-sama lifted up a radiant flower. That’s right. Onee-sama had prepared the best offering possible.
“Even if you too brought a Floss Flower, I was here and present with mine first. The fact that I won won’t ch―”
“This is my offering.”
Interrupting Onee-sama, the commoner pulled “that” out of her bag.
“That’s a… Branch?”
I just commented on the situation as I saw it. The item the commoner claimed to be her offering just looked like a tree branch. Face to face with my own disappointment, for the first time, I realized that deep inside, I had been expecting something from her.
“Is that all that you could get your hands on?”
“You’ve got it all wrong, this is what I had been searching for all along.”
The commoner was brimming with confidence, but everyone else gave her blank stares. Their reaction only made sense. The quality of the commoner’s offering was clear just looking at it.
“You’ll see once we each make our offerings.”
The commoner urged Onee-sama to proceed. Once they had both made their offerings, there was no turning back. If I wanted to stop them, it had to be now. Just as I was at a loss as to what I should do, the commoner faced me and nodded firmly as though to ease my anxieties.
“Very well, let’s each make our offerings and see.”
With that, Onee-sama proceeded toward the scales. The ancient scales held a refinement and dignity that one would expect from a sacred artifact.
“Alright then, I’ll go first. May the depths of my heart be tried by the Spirit.”
With dramatic motions she recited the famous line from Amour’s poem before offering the Floss Flower to the scales. The scales then bathed the already brilliant flower in a dazzling light. Being the very item extolled in the legend, the scales greatly tipped toward one side.
“My turn then. Here’s my offering.”
On the other hand, the commoner made no exaggerated motions and very simply placed her branch on the scales. The scales―did not budge.
“To be expected, I’ve wo―”
Just as Onee-sama was about to declare victory, the earth rumbled.
“An earthquake!?”
To brace ourselves, we all dropped to the ground. It wasn’t long before we realized that it wasn’t the ground, but the Love Scales that were shaking.
“Just what is happening?”
Someone spoke out in confusion. I looked to see fresh buds sprouting on the branches, but it didn’t stop there. One after another, roots sprouted from the branch as it continued to grow. In the blink of an eye, the tiny branch had become a massive tree turning the scales.
“The Floss Flower lost…? This branch… Just what…?”
When Onee-sama muttered those words in shock, the commoner responded.
“It’s called a twined branch.”
According to the commoner it was a rare item dropped by one of the monsters inhabiting the nearby forest. It was apparently very difficult to obtain, and she had done her very best to do so. She had gone through a lot, and that effort was visible in the wounds that littered her now.
“You mean to say that there was something even better than the Floss Flower…?”
“The Floss Flower was the greatest offering… At least until now. But as it turns out, there was something heavier.”
The commoner spoke proudly before turning to face me.
“Claire-sama.”
“Huh?”
Unable to keep up with how the situation had progressed, I stood in a daze but the commoner’s voice snapped me back to reality. The commoner really roughly wiped her face to make herself just barely presentable before continuing.
“In all honesty, I didn’t care how the competition turned out.”
“Eh…?”
Does she… Does she mean that she doesn’t really care about me…? My insecurities were about to get the better of me, but Rei continued.
“I can’t offer you a love like one out of a fairy tale. As you’re aware, I can’t even say anything truly important without also playing it off.”
She took a momentary pause.
“Even if The Great Spirit’s Scales denied my feelings, I will continue to love you. No matter who I may lose to, I will continue to love you and only you. That’s why―”
The commoner knelt down before me, took my hand and―
“Not as your maid, but would you please take me as your partner?”
Those words hadn’t come from a fairy tale, they were her own. For the first time, the commoner sought my affections in return. That fact made me tremendously happy.
“… Really, you’re so…”
I didn’t understand why, but I felt tears building up.
I wasn’t sad.
It was the opposite, my heart just felt so warm and full.
I should offer a proper response. Then, once again, She’d walk by my side―the very moment that thought crossed my mind,
“Hahaha! Well, I lost, you got me good!”
Onee-sama’s carefree laughter echoed through the area, interrupting the ambiance that had just begun to settle.
“Manaria-sama. We’re in the middle of something, could you read the room?”
“Nope. Just as I thought, I want you, you’re the best!”
The commoner was clearly upset, but Manaria-sama gave an aloof response and hugged her. My eyes opened wide in surprise.
“Hey, stop that, Manaria-sama!”
“Ah~ I always thought you were interesting, but to think that you’d go so far. Yup, you’re the one that should be my spouse.”
Wha, wait, Onee-sama, what did you just…?
“O-, Onee-sama, what do you mean by that…?”
“Ah, Sorry Claire. I always had my sights set on Rei. Her reactions were always so fun so I ended up poking at you to get to her.”
Onee-sama stuck out her tongue and gave a quick, teehee. Onee-sama’s sights had always been set on… the commoner…? Could that have been the other half of the reason that she mentioned the other day?
That was no good.
Just no good. I didn’t know exactly what wasn’t good, but I knew that it was no good.
“Hey, Manaria-sama, let go!”
“Nope. I’m taking you back with me to Sousa.”
Onee-sama and the commoner seemed to get along so well. I felt my anger surging.
“I refuse!”
“Yup, yup, and the way you struggle just makes you that much more adorable. That’s what I love about you.”
Then, unbelievably, Onee-sama’s lips approached the commoner―she tried to kiss Rei.
I couldn’t contain it anymore.
“Hey, stop―”
“You can’tーー!!”
Shouting at the top of my lungs, I forced myself between the two and tore them apart.
“Rei is mine! Don't take what's mine away from me!”
The meaning of the words I blurt out only dawned on me a few moments later.
Abababa!?
Just what nonsense had I just let slip!?
“C-Claire-sama…?”
Rei timidly called out to me. I felt my face burning.
“T-That’s not it! You have it wrong, all wrong! I didn’t mean it in that―!”
“Claire-sama!!”
Rei leaped in to hug me. Her actions were overbearing, sometimes even annoying―but at the same time they did make me feel a little happy. Of course, being the person that I am, I refused to let any of that show and instead bore my thorns.
“Hey, let go!”
“Absolutely not! I love you, Claire-sama”
“Yes, and I hate you! So LET GO OF ME!”
“But didn’t you just say that I’m yours!?”
“Oh shut it! And forget it!”
Rei and I shared what had been our classic exchange. Come to think of it, just how many days had it been since we had been able to do so?
“Manaria-sama, this may come off as rude, but this match seems decided.”
“Mmm… Yeah, it does seem so, doesn’t it.”
Onee-sama and Misha seemed to exchange some words as they watched over us, but I was feeling far too happy, and far too embarrassed to be able to directly address them.
“LET GO OF ME!”
“NO WAY!”
This exchange was just the same as the many we had shared before… But unlike before, my heart felt incomparably warmer and so much more full.
*아래의 번역은 "와타오시 번역"의 협력으로 실현되었습니다.고마워요, "와타오시 번역"
44. 갑작스런 한마디
아모르의 제사 당일.
“잠—깐 기다려!”
지금 당장이라도 언니와 입술이 맞닿으려고 했던 그 순간, 황급히 우리를 제지하는 목소리가 있었습니다.
모든 사람들의 시선이 목소리가 들려온 쪽으로 향합니다.
저도 목소리를 향해 고개를 돌렸고, 눈에 들어온 광경에 깜짝 놀랐습니다.
멈추라고 외친 사람은 평민이었습니다.
하지만 제가 놀란 건 그 부분이 아닙니다.
지금 평민의 모습 때문입니다.
그녀는 온 몸이 상처투성이였습니다.
“레이 늦었잖아.”
“아니 생각보다 좀 수고가 많이 들었거든.”
평민은 아주 조마조마했다고 말하는 미샤에게 가볍게 사과하고서 저와 언니를 떨어트려 놓으며 사이에 끼어들었습니다.
언니는 가볍게 흥, 하고 코웃음을 쳤습니다.
“도망친 건 아니었던 모양이네. 그것만큼은 인정해주겠어.”
“어디의 누가 도망친다는 겁니까. 절대로 지지 않을 거라고 말했잖아요?”
평민은 어린애 같은 태도로 메—롱 하고 위협적으로 혀를 내밀고선 제 손을 잡아끌어 언니한테서 떨어트려놨습니다.
저는 맞잡은 손에서 전해지는 따뜻한 온기에 당혹감을 느끼며 복잡한 마음이 담긴 눈으로 평민을 바라보았습니다.
“당신…….”
“클레어 님, 안심해주세요. 클레어 님을 이런 녀석한텐 절대 넘겨주지 않을 테니까요.”
당당하게 말하는 평민의 얼굴에는 여기저기 생채기가 나 있었지만 그런데도 표정만큼은 맑게 개어있었습니다.
“그런 소리 해봤자 이미 승부는 났어. 네가 어떤 공물을 가져왔는지는 몰라도 내 공물은 플로스의 꽃이야. 이 이상의 공물은 없을 텐데?”
그러면서 언니는 빛을 내뿜는 꽃을 내밀었습니다.
그렇습니다.
언니는 이미 최고의 공물을 마련했습니다.
“설령 네가 플로스의 꽃을 가져왔다고 해도 그렇다면 먼저 가져온 사람이 승리다. 내가 승자라는 점은 달라지지 않——.”
“제 공물은 이겁니다.”
언니의 말을 끊으며 평민은 가방에서 『그것』을 꺼냈습니다.
“그건…… 나뭇가지?”
저는 무심코 제가 생각한 그대로를 중얼거렸습니다.
평민이 공물이라고 꺼낸 물건은 어딜 봐도 평범한 나뭇가지였습니다.
저는 내심 실망하는 스스로를 자각하고서, 그녀가 뭔가 비책을 갖고 있기를 기대하고 있었다는 사실은 지금 처음으로 깨달았습니다.
“겨우 그런 것밖에 손에 넣지 못한 거니?”
“아니요. 저는 계속해서 이걸 찾고 있었습니다.”
평민은 자신만만한 어조였지만 주변 사람들은 다들 영문을 알 수 없었습니다.
그야 그렇겠죠.
어느 쪽이 더 격이 높은 공물인지는 눈으로 보기에도 뻔했으니까요.
“천칭에 달아보면 알게 될 거예요.”
평민은 자요, 하고 언니를 재촉했습니다.
일단 천칭에 걸면 더 이상 돌이킬 수 없습니다.
멈추려고 한다면 지금밖에 없지 않을까, 망설였지만 평민은 저를 안심시키려는 듯이 힘차게 고개를 끄덕였습니다.
“좋다마다. 그럼 어디 천칭에 달아보도록 할까.”
그 말과 함께 언니는 사랑의 천칭 앞으로 나아갔습니다.
고풍스러우면서도 기품이 느껴지는 천칭은 그야말로 신이 하사했다고 전해지는 신기에 어울리는 관록을 지니고 있었습니다.
“그럼 먼저 나부터다. 내 진실한 마음을 신의 심판 아래에.”
언니는 희극을 연기하는 듯한 몸짓으로 아모르의 시 한 구절을 읊으며 플로스의 꽃을 공손하게 천칭에 올렸습니다.
플로스의 꽃은 천칭 위에 오르자 한층 더 강렬한 빛을 내뿜었습니다.
과연 전설 속에 등장할만한 공물입니다. 천칭이 크게 기울었습니다.
“다음은 저군요. 달아보겠습니다.”
언니와 다르게 평민은 별다른 행동 없이 아무렇지도 않게 나뭇가지를 천칭 위에 올렸습니다.
천칭은—— 미동도 하지 않습니다.
“역시 나의 승——.”
언니가 그렇게 입을 연 순간 주변의 땅이 울리는 소리가 퍼졌습니다.
“지진?!”
닥쳐올 지진에 대비해 다들 황급히 지면에 엎드렸지만 곧바로 깨달았습니다.
지면이 흔들리는 게 아니었습니다.
흔들리고 있는 건 사랑의 천칭이었습니다.
“뭐지?”
누군가가 의아한 목소리로 외쳤습니다.
천칭에 올라간 나뭇가지에서 싱싱한 잎이 돋아나고 있었습니다.
그뿐만이 아닙니다.
점차 뿌리가 생겨나고, 가지가 눈에 보일 정도의 속도로 자라더니 눈 깜짝할 사이에 커다란 나무가 되자 천칭이 크게 기울었습니다.
“플로스의 꽃이 졌다고……? 그 나뭇가지는…… 대체……?”
멍하니 중얼거리는 언니를 향해 평민이 말했습니다.
“연리의 나뭇가지라고 합니다.”
평민의 설명에 따르면 연리의 나뭇가지는 근처 숲에서 서식하는 몬스터가 떨어트리는 아이템이라고 합니다.
여간 입수하기 힘든 게 아니어서 손에 넣는데 굉장히 고생했다나.
평민은 이 나뭇가지를 손에 넣기 위해 이런 상처투성이 몰골이 되도록 열심히 노력했던 겁니다.
“플로스의 꽃이 가장 무거운 공물이 아니었던 거야……?”
“지금까지 알려진 공물 중에서는 분명 플로스의 꽃에 제일가는 공물입니다. 하지만 그것보다도 더 무거운 공물이 있었던 거죠.”
득의양양한 태도로 말을 마치더니 평민은 제 쪽으로 몸을 돌렸습니다.
“클레어 님.”
“어?”
상상도 못한 전개에 넋이 나가 있었지만 평민이 저를 부르는 목소리에 고개를 돌렸습니다.
평민은 생채기 가득한 얼굴을 난폭하게 벅벅 문지르며 어떻게든 몸가짐을 가다듬고 나서 이렇게 말했습니다.
“저로선 이야기 속에 나오는 것 같은 사랑은 불가능합니다. 이미 알고 계신대로 농담처럼 장난치듯이 말하지 않으면 정말 중요한 사실조차 말하지 못하곤 하지요.”
하지만, 하고서 평민이 계속 말을 이었습니다.
“설사 신이 하사한 천칭에게 인정받지 못한다고 해도, 그렇다고 해도 당신을 사랑하겠습니다. 다른 누군가에게 패배한다 해도, 그렇다고 해도 언제나 당신만을 계속 사랑하겠습니다. 그러니까——.”
평민은 제 앞에 무릎을 꿇고 손을 내밀면서——.
“메이드가 아니라, 저를 당신의 파트너로 삼아 주시지 않겠습니까?”
이야기 속에 나오는 구절이 아니라 평민의 진심어린 말로, 비로소 처음으로 저에게 사랑받기를 소망했습니다.
저는 그 사실이 견딜 수 없이 기뻤습니다.
“……당신이란 사람은…….”
이유를 알 수 없는 눈물이 흐릅니다.
슬퍼서가 아닙니다.
오히려 제 마음은 굉장히 따뜻한 무언가로 가득 채워졌습니다.
그녀의 소망에 답하기로 해요.
그리고 다시 한번 제 곁에 선 그녀와 함께 걷자고—— 그렇게 생각한 순간.
“앗핫하! 이야— 이거 졌네, 졌어!”
이제 막 좋은 분위기로 무르익으려는 참에 언니의 호쾌한 웃음소리가 울려 퍼졌습니다.
“마나리아 님, 지금 한창 좋은 장면이니까 분위기 좀 파악해주세요.”
“싫어. 난 역시 네가 좋아. 최고야.”
언니가 불만스럽게 투덜거리는 평민을 꼭 껴안았습니다.
저는 그 광경에 놀라서 눈이 휘둥그레졌습니다.
“자, 잠깐, 마나리아 님.”
“이야— 좋구나 좋구나 싶기는 했지만 설마 이 정도일 줄은 몰랐지. 응응, 너야말로 내 반려로서 어울려.”
잠깐, 언니, 지금 무슨 소리를……?
“어, 언니, 그게 대체 무슨 말인가요……?”
“이야— 미안해, 클레어. 내 목적은 처음부터 레이였어. 레이의 반응이 너무 재밌어서 나도 모르게 그만 클레어를 건드리며 괴롭혔지 뭐야.”
언니는 혀를 내밀며 데헷, 하고 웃었습니다.
언니의 목적이…… 평민……?
그럼 한마디로, 언니가 저번에 말했던 나머지 절반의 이유는 평민을 두고 한 소리였던 걸까요.
그건 안 돼.
안 돼요.
뭐가 안 되는지는 잘 모르겠지만, 아무튼 안 돼요.
“잠깐만요 마나리아 님. 이거 놔주세요.”
“싫어. 이대로 스스 왕국에 들고 가버릴래.”
언니와 평민이 사이좋게 농담 따먹기를 합니다.
저는 점점 열이 뻗치기 시작했습니다.
“거절하겠어요!”
“응응, 그렇게 튕기는 점이 또 한층 귀엽네. 그런 네가 좋다고.”
그러면서 놀랍게도 언니는 평민에게—— 레이한테 입맞춤을 하려고 들었습니다.
저는 이미 참는데도 한계였습니다.
“잠, 그만——.”
“안 돼———!!!”
저는 둘 사이에 확 밀치고 들어가서 양팔로 두 사람을 벌려 놓으며, 있는 힘껏 소리쳤습니다.
“레이는 내 거라고! 내 거를 빼앗지 말아줘!”
지금 자신이 무슨 말을 했는지, 외치고 나서야 점점 머릿속에 의미가 스며들기 시작했습니다.
으아아아?!
지금 제가 대체 무슨 소리를 한 거죠?!
“크, 클레어 님……?”
레이가 머뭇거리는 태도로 저에게 말을 걸었습니다.
저는 얼굴이 확확 달아오르는 걸 느꼈습니다.
“아, 아니에요! 지금 건 그런 의미가 아니고——!”
“클레어 님—!!!”
레이가 저를 와락 끌어안았습니다.
숨도 막히고, 성가셔요—— 그래도 조금이지만 기쁨을 느꼈습니다.
물론 솔직한 속내를 결코 겉으로 드러내지 않으면서 가시 돋친 말을 해주는 게 바로 저입니다.
“잠깐만요, 이거 놓으세요!”
“싫어요! 사랑합니다, 클레어 님!”
“저는 싫다고요! 놓—으—세—요!”
“저를 클레어 님 거라고 말씀하셨잖아요!”
“시끄러워요! 당장 잊으세요!”
레이와 함께 웃고 장난을 칩니다.
이러는 게 얼마만인지 모르겠습니다.
“마나리아 님, 실례지만 승부가 난 것 같은데요?”
“으응— 그런 모양이네—.”
언니와 미샤가 우리들이 장난치는 모습을 바라보면서 대화를 나누고 있습니다.
하지만 저는 기쁨과 쑥스러운 속마음을 감추느라 두 사람이 나누는 대화가 귀에 들어오지 않았습니다.
“놓—으—세—요!”
“싫—다—고—요!”
예전과 달라지지 않은 대화.
그렇지만 제 가슴 속에는 예전과는 비교도 할 수 없을 정도로 따뜻한 온기로 충만했습니다.