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pixiv側へ掲載した「カエルの出来損ない」の続き話です。

カエループはカエルループの意味です、果たしてどのようなループなのでしょうか?

産卵要素が含まれますので、その手の内容が苦手な場合はご注意ください。


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「さ、水守ちゃん。ここがあたしのおうちよ」

「おうちって……ここ、田んぼだよね?」

「そうよ? だってあたし、カエルだもの」


 カエルならば確かに、田んぼに居ても当然だよね。

 夜の田んぼからカエルの鳴き声が聴こえてくる事は多いし、きっとカエル達はここで生活しているんだね。


「さて……水守ちゃんには、今日から3日以内に泳げるようになってもらうわ」

「え、3日以内に!? そんな、絶対に無理だよ……」

「諦めないで? 誰だって泳げるようにはなるよ。あたしだって、最初は泳げなかったのよ?」

「そんな事言ったって……あなたはカエルだから、そういう事が言えるのよ」

「水守ちゃんも今はカエルだもの。だからきっと……ううん、絶対に大丈夫よ」


 カエルさんはそう言うけれど、きっと私の水泳オンチを知らないから言えるんだ。


「私の水泳オンチ、知らないくせに……私、最初からカエルだったあなたとは違うもの」

「……あたしだって」

「え?」

「……ううん、何でもないの。ともかく、水守ちゃんを3日以内で泳げるようにするからね」

「何でそんなに早く泳げるようにさせたいの?」

「そ、それはね……カエルとして生活する上で、泳げないと困るでしょ?」

「うん、確かにそう言われればそうだけど……」


 カエルさんは少し言葉に詰まっていたようで、本当に理由はそれだけなのかな? と思ってしまいました。


「さてご飯にしましょ。水守ちゃん、これ食べられる?」

「うぇっ……これ、生き物だよね?」

「ええ、糸ミミズよ。これがカエルのご飯なのよ」


 こういうのって私、見るだけでも苦手……本当にこれ、食べられるの!?


「食べないとダメかな……」

「糸ミミズがダメそうだったら、雄ガエルに頼んで昆虫を取ってきてもらう事もできるわよ?」

「ひえぇ……昆虫なんてもっと嫌です……」

「水守ちゃん、大丈夫よ。抵抗があるのは最初だけだから。今はカエルなんだもの。慣れればおいしいと感じる筈よ」


 カエルさんはそう言うと、先に糸ミミズを口に入れて食べ始めました。


「うぅっ……何でこんな思いをしなくちゃならないの……」

「ごめんね、あたしがカエルの呪いを掛けたばかりに」

「ほんとだよ……何でこんな事、したのさ」

「きっとね、そのうち分かると思うの。だから……今はね、ごめんねとしか言えないの」

「何よ、それ……」

「さ、糸ミミズを召し上がって? 鮮度が落ちちゃうから」

「うぅっ、分かりましたよ……」


 私は腹を括って、カエルの小さな手で糸ミミズを掴んで口へ運びました。


「あれ……おいしい」

「ね? おいしいでしょ? カエルになっているから、好みもそれに合わさるのよ」

「うーん、でも……やっぱりそれでも、気持ち悪いものは気持ち悪いなぁ」

「糸ミミズ自体には、少しずつ慣れるしかないわね」

「あなたも、やっぱり最初は苦手だったわけ?」

「うん、そうね……あ、あたしはカエルだから……あはは、おかしいよね?」


 このカエルさん……やっぱり、何か隠しているような気がする。

 あたしの事をカエルにできたり、何だろう……何となく私の予感が、何かを告げているような気がします……。



「じゃあ水守ちゃん、今日も頑張ろうね」


 次の日、私達は広いプールに戻って再び泳ぎの特訓をしました。


「体力を維持できるように力を抜いて、動きは最小限にね。力をしっかりと抜けば、体は水かきで自然と浮くからね」

「うん、分かった。やってみるよ」


 私はカエルさんに言われた通り、やってみましたが……。


「わわっ!」

「うーん、何で沈んじゃうかなぁ……水守ちゃん、多分まだカエルの体に慣れてないのかな」

「だって私、人間の女の子だったんだよ? いきなりカエルにされてもそりゃあ……ね」


 急に慣れて、と言う方が無茶振りなのだと思うよ……。


「まずは泳ぎよりも、カエルとして馴染んでもらった方がいいのかな?」

「カエルとして馴染む?」

「うん、カエルとして生活してもらって、カエルの体に慣れてもらうのよ」

「どういう事をするの?」

「カエルはね、水の中じゃなくてね、草の生えている所や森の中でも生活するんだよ。あたしに着いてきて?」


 そう言ってカエルさんは泳いで行ってしまい……。


「ま、待ってぇ……私、泳げないんだってばぁー……」

「そうだったわね、ごめんね。手、引っ張るからね」


 私はカエルさんに引っ張られ、一旦プールを上がりました。



「ここは学校の裏の森よ。あたし達の仲間も結構生活しているのよ」

「へー、そうなんだ……知らなかった」


 カエルって苦手だから、今度からできるだけ近付かないようにしよう……でも、今度って言える時が来るのかな。

 私、もしかしてこのままずっと、本当にもう戻れないのかな……。


「水守ちゃん、まずはカエルの生活に慣れる為にも、森の中を探索してみましょうか」

「探索するの?」

「そうよ。色々な餌となる昆虫が居るから、どういう昆虫が食べられるのか覚えながら、中を回りましょ」

「うぇー……こ、昆虫を見るの? しかも、食べられる昆虫って……」

「カエルの世界ではそれが普通だからね。後ね、森に来たら気を付けないといけない事もあるの」

「気を付けないといけない事?」

「森はね、カエルにとって危険な事もいっぱいあるの。カエルは体が小さいから、色々な生き物に狙われるの。あたし達が昆虫を食べるように、カエルを餌にする生き物も居るわ」


 そう聞いて私はゾッとしました……カエルのまま食べられて、こんな姿のまま一生を終える事になんてなったら。


「水守ちゃん、そんなに気負わないで? きちんと気を付けて行動していれば、大丈夫よ」

「本当に、大丈夫なの?」

「うん、人間だって自ら危険と分かっている生き物には近付かないでしょ? それと同じなのよ」

「どういう生き物が危険なのか、そういうのを覚えればいいの?」

「そうよ。カエルとして生きる為には、どうしても必要な大事な事だから」


 色々と覚える事があるみたいで、カエルもカエルで大変なんだね。

 ちゃんと覚えないと、最悪命取りにもなるかもしれないようで……。


 その後、私達は森の中を駆け巡りました。

 途中で食べられる昆虫、危険な生物、色々な事をカエルさんに教えてもらいました。


「ねえ、ところであなたって、名前はあるの?」

「あたしの名前? えっとね……」


 私がふとこんな質問を投げると、カエルさんは間を開けてから……。


「無いわ。だって、カエルだもの」

「本当に無いの?」

「ええ、無いわよ」

「カエルでも名前はあっていいと思うよ。一緒に居るのにあなたって呼ぶのも、何だか違和感だもの」

「……いいの。あたしは、只のカエルだから」


 カエルさんは、何だか少し悲しそうな顔を見せました。


「どうしたの?」

「ううん、何でもないわ」


 何だかこのカエルさんの表情に、妙に既視感がありました。

 多分……私、この子の事を知っているような気がする。

 でももし間違っていたら、と思うと……私は、口に出す事はできませんでした。



 夜は田んぼでご飯を食べて眠り、日中はプールで特訓をして、その後は森の探索をして。

 私達はこんな感じの生活を3日間繰り返しました。


 そして日中、再び私はプールで泳ぎを教えてもらっていました。


「水守ちゃん、もうカエルの生活や体には慣れてきたかな?」

「うん、始めは色々戸惑ったけど……段々慣れてきたと思う」


 苦手だったカエルの体も、今では自分の体なんだもの。

 もうカエルを見ても何とも思わないくらいには、私自身がカエルとして馴染んでいました。


「じゃあ早速泳いでみよう。まずは力を抜いて水に浮いて」

「これでいいのかな……あ、浮いてる」

「水守ちゃん、やればできるじゃない。今日は沈む様子はなさそうね」

「あなたが懸命に教えてくれたから。きっとそのおかげよ」

「そうかな? えっとじゃあ次はね、体力を減らさない程度に、手足を交互に動かして水を力強く切るようにね」


 人間の頃やっていたような泳ぎ方……この状態のまま、それができれば良いんだよね。


「水守ちゃん、進んでる! 進んでるわよ! 泳げるようになったじゃない!」

「私、泳げてたの?」

「ええ、もうこれで水守ちゃんも、カエルとして大丈夫そうね。これであたしも役目を果たせたわ。良かった……」


 カエルさんは自分の事のように、ホッとしていました。


「ありがとう、あなたのおかげで泳げるようになったよ」

「こちらこそ。水守ちゃんが成し遂げてくれて、本当に良かったわ」

「私が泳げるようになって、そんなに嬉しいの?」

「うん、勿論よ」


 カエルさんは本当に凄く喜んでくれて……こう見てると、何だかカエルも可愛いのかなと思うようになりました。


「さて水守ちゃん、あたしは役目を果たせたから……今日でお別れよ」

「え、お別れ……なの?」

「ええ。あたしは元々、水守ちゃんを泳がせる事が役目だったから。それが、あたしの呪いを解く……ううん、何でもない」

「もしかして……やっぱりあなたは、佳恵ちゃんなの?」

「水守ちゃん、もう1人でも田んぼに戻れるよね。もしまたこのプールで泳げない子が居たら、次は水守ちゃんが教えてあげる番よ」


 カエルさんは……私の質問には答えませんでした。


「さよなら。水守ちゃん、カエルでも頑張って生きてね」


 カエルさんは最後にそう言い残すと、何処かへぴょこぴょこと跳ねて消えて行きました。



「糸ミミズ……おいしい。でも何だか寂しいよ。急に私、1人だなんて」


 夜になって田んぼに戻って来た私は、夜ご飯を食べていました。

 でも、私の事を支えてくれていたあの子はもう居ない。

 何処へ行ってしまったのか、大体検討は付くような気もします。


 私の検討がもし当たっていたとすれば、もうここへ戻って来る事はないのでしょう。


『ズン』

「え、何?」


 突然何かが私の背中に圧し掛かり……って、カエル!?

 あの子……ではない、どうやら雄のカエルみたい。


「ゲコッ、ゲコッ」

「え、何? 何て言ってるの?」

「ゲコッ、ゲコッ」

「ただ鳴いているだけ? と言うか私、カエルなのに言葉が分からない……」


 もしかしてあの子とお話できたのは……あの子が私と「同類」だったから?


「ゲコゲコ」

『ドピュ!』

「わーっ!」


 雄ガエルにお腹を抱えられ、私は液体を注入されてしまいました……恐らくこれ、男の子のアレだと思う。

 あの子も言ってたもの……産卵の時期が近いとか、自分が産むハメになるかもしれないからとか……。


 多分私が泳げるようにならなければ、あの子がまだここに居たのだと思う。

 そしたらきっと、あの子が産卵する事になっていたのかもしれない。


 多分それで……だから、早く私に泳げるようになってほしかったのかも。


「ゲコッ、ゲコ」


 雄ガエルはやる事だけやったら、何処かへ行ってしまいました。

 そのすぐ直後、私はまるでお腹を下すかのような感覚に襲われてしまい……。


『ムリュ……ズブズブズブ、ムリュムリュムリュ……』


 出てる、下からいっぱい卵が出てきてる……。


『ポチャン!』


 一旦卵の塊は田んぼの中へ落ちましたが……。


『ズブズブ……ムリュ』


 ぶつ切りになって、まだまだ沢山出てきます。

 凄い、私今……命を産み落としているんだ。

 まだ人間の女の子として性交もした事ないのに、カエルの卵を産み落とすだなんて……。


『ムリュムリュ……ポチャン! ムリュ……ポチャン!』


 これで全部産み切れたのかな?

 何だかまだお腹が変な感じ……それに、下の穴も少しヒリヒリして痛い。

 でもこの子達がオタマジャクシになって、成長していずれはカエルになって……と思うと。


 私、この子達の生みの親なんだ。

 そう思うと何だかもう、カエルの事を蔑ろになんてできませんでした。

 カエルになってからと言うものの、カエルに対する苦手意識は段々と消えて行き、私はどうやら苦手を克服したようです。


 そう言えば泳げない事も苦手だったけど、できたと言う事はこれも克服だよね?

 私、カエルに馴染めたから克服できたのかな?


(ありがとう……佳恵ちゃん)


 私はあのカエルはきっと佳恵ちゃんだったんだ、と信じて……心でお礼を言いました。



「うぅっ、水泳って苦手だなぁ……」


 私がプールで水浴びをして泳いでいると、補泳をしているらしい女の子を見掛けました。

 私も少し前までは、あの子と同じ立場だったんだよね。


「やっぱりダメ、上手く泳げない……」


 どうやら女の子は苦戦している様子です。


「あ、カエルが泳いでる……カエルはいいなぁ、上手に泳げて」


 あのね、私だって最初は泳げなかったんだよ?

 でも必死に私に教えてくれたカエルさんのおかげで、今は泳げるようになったんだもの。


 きっと頑張れば、あなたも泳げるようになるよ。


「私もカエルになれればいいのに……そうすれば、きっと泳ぎなんて簡単にできそうなのに」

(そっか……じゃあ、カエルになってみる?)

「え? 今、何処からか声が……何これ、体が熱い……」


 次は私がこの子に泳ぎを教える番です。

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