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※リクエスト作品


「お前等ぁ!!」

教室で来月の試合のスタメンについて話していると、廊下から男の怒声が聞こえた。

「はぁ…またやってんな」

呆れたようにヒロが廊下の方へと目を移し、大きなため息をついた。

「この前ちょっと制服着崩してただけで俺もやられた」

ケンケンも思い出しながら苛ついているような口調で言う。

「この学校で校則守れなんて言う方が間違ってるのにな」

「ほんとほんと」

ヒロの言葉に俺は苦笑しながら頷いた。

「陽太は苛つかねぇの?あのドラゴリに」

「俺?苛つくに決まってんじゃん」

話を振って来たケンケンに、当然と返す。

俺だってあいつには散々な目に合わされてきた。

阿久津 龍(あくつ りゅう)、通称ドラゴリ。

スポーツが盛んなこの学校で、体育を担当している教師だ。

勇ましい名前通り、筋肉質な身体に190近くある巨体で、ラグビーの選手として結構良い線まで行ったという話も聞いたことがある。

兎に角校則に厳しく、このご時世なのに聞き分けのない奴らには体罰すらも行う、一人だけ時代に取り残されたような教師だった。

スポーツが盛んな学校というだけあり、生徒達には血の気の多い奴らが多いが、一通りのスポーツができ、武道までやっているというドラゴリに歯向かえる奴らはいない。

俺らのような反抗的なやつらには特に厳しく、逆に大人しい優等生や女子にはめっぽうに甘かった。

故にドラゴリを嫌う奴らは少なからずいた。

「俺だってこれまで何回殴られたか分かんねぇよ」

「陽太もかよ。俺だって買い食いしただけなのにその場で頭殴られた」

「俺も俺も!ちっと彼女と良い雰囲気になって、教室でくっついてたらドカンと。そのくせ彼女には注意すらしねぇ」

「調子乗ってるよな」

「かなりな」

「なぁ、俺らもうすぐ引退じゃん?」

ヒロの言う通り、3年になった俺らは、この夏の大会で所属していたサッカー部を引退することになっている。

「だからなんだよ」

「2年の奴らもドラゴリのこと嫌ってる奴ら多いんだよ」

「あぁ、あいつ学年関係なく怒鳴るからな」

「顧問でもねぇのに、色んな部活怒鳴り回りやがって」

スポーツが万能な割には、あいつは何の部活の顧問も持っていない。

それはこの学校がスポーツが盛ん故に、部活ごとに専門のコーチが付くからだ。

顧問の教師はあくまで管理をしているだけで、特にスポーツの知識も経験もいらないため、ドラゴリのように檄を飛ばすような奴より、メンタルのケアに重点を置いた教師が選ばれる。

ドラゴリはその点は評価されていないということだろう。

「で、引退するからなんだよ」

話が反れてしまったのを元に戻す。

「引退する前に、ちょーっと悪戯してやんねぇ?」

ヒロが何かを思いついたような、含んだ笑顔で俺らに言った。


■■■■■■■■■■■■■


サッカー部の夏の大会。

この大会で3年の連中は引退になる。

毎年のことだが、部活を引っ張って来た3年が引退する大会というのは、胸が熱くなる。

この大会期間中は他の部活も遠征しているため、学校全体が自習の期間になり、部活に入っている奴は自習ではなく自主練することも許されている。

もうすぐサッカー部の決勝戦の日。

練習にも熱が入り、これを利用してサッカー部は朝から練習を重ねている。

昼過ぎに檄を飛ばすために見に行ったが、かなり気合いが入っていた。

これは試合の日には俺も応援に行ってやらないとな。

そんなことを考えながら、他の部活の様子を見るために、俺は体育館へと向かおうとした。

「阿久津先生」

すると、練習から抜けてきたのか寺崎が声を掛けて来た。

「おぉ、寺崎か。どうした」

身体は締まって筋肉質ではあるが、比較的細目の爽やかな連中が揃うサッカー部。

その中でもエース的存在なのがこの寺崎広、通称ヒロだ。

「俺ら決勝が近いんで、練習終わりに部室で喝を入れて欲しいんすけど」

そんな寺崎が声を掛けて来た理由は、とても意外なことだった。

普段厳しい俺は、生徒達から恐れられている自覚がある。

それを今日は敢えて喝を入れて欲しいなんて。

不思議に思いながらも、嬉しい気持ちが先行した。

「よし。良いぞ」

俺は意気込んで返事をすると、寺崎はなんだか妙な笑顔を浮かべていた。

もうすぐ試合で緊張しているのか…これは強めに檄を飛ばしてやるか。

そんなことを考えながら、俺は上機嫌にその場を去った。



「阿久津先生!」

夕方。

他の部活の連中や生徒が帰った時間、言われた通りに部室に行くと、寺崎といつもつるんでいる、沢渡健と高杉陽太の二人がいた。

部長の沢渡と、副部長の高杉。

エースである寺崎と合わせて3バカは、学校の女生徒からモテるせいで、そっち関係で俺から怒られることが多い3人だ。

「他の連中は?」

部室には寺崎とその二人だけで、他の連中はいない様子。

「他のメンバーはみんなは家で集中したいってことで帰りました。俺ら三人だけなんだか緊張しちゃってて」

「そこで阿久津先生に頼もうって話になったんすよ」

普段は校則を守らず、手の付けられない三人だが、こんな素直なところを見せられると、俺の愛の鞭が伝わっていたと実感し、その成長に感動すら覚えた。

確かにこの三人は試合で重要な役割を果たす三人。

他の部員達よりも責任を感じているのだろう。

「っし、じゃあ三人共そこに並べ」

「「「うすっ!!」」」

並んだ三人の頬を、端から順番に引っぱたいてやる。

勿論本気ではなく、顔に跡が残らないように力加減をしてだが。

バチンッバチンッバチンッと肌のぶつかる音が部室に響く。

「お前等、頑張って来いよ!!」

「「「ありがとうございます!!」」」

ビンタで三人の目つきが変わったのを感じた。

目に闘志を燃やすような、そんな力強い目に。

これで三人の緊張は取れたはずだ。

しかし…

「なんだかこの部室、匂うな。ちゃんと普段から掃除してるか?」

部屋に入った瞬間から感じていたが、先ほどまで部員達がいたせいか、部室全体が男の汗の匂いで充満し、酷い匂いが鼻をついていた。

サッカーはやっていないが元々色々なスポーツをしていたせいで、この運動部特有の臭い部室には慣れているものの、やはり少し気になる。

周りを見渡すと、練習用のスパイクやソックス、ユニフォームが、恐らく洗濯もせずにいくつも投げ捨てられていた。

「掃除は試合が終わったあと、三年全員でする予定です」

部長の沢渡が答える。

「そうか。後輩たちのためにも綺麗にしていってやれよ」

「はい!」

「それで先生、ちょっとお願いが…」

「おう、なんだ?」

なんだか照れたように寺崎が言う。

「ちょっと今までのお礼がしたいので、そこにマットがあるじゃないですか。そこに寝て貰っても良いですか?」

「ん?これか?」

目線の先にはサッカー部が柔軟に使うためのマットがある。

なんでこんなことを頼んでくるのかは分からないが、何かサプライズがあるのだろう。

ここは何も言わずに寝るべきか。

俺はそのマットに仰向けに寝転んだ。

「あ、もうちょっと上に」

「こうか?」

マットの上から頭だけはみ出るように寝る。

「今だ!!」

「うわっ!!!なんだ!!」

瞬間、沢渡と高杉の二人が俺を転がすようにマットを持ち上げ、俺の身体をくるむようにマットを巻いた。

「おい!お前等!!」

俺の制止も聞かず、元々マットの下に敷いてあった縄でマットごと縛り始める寺崎。

あっと言うまにマットに簀巻きにされてしまった。

「なっ!!なんだこれは!!」

「だから言ったじゃないですか。お礼だって」

「なんでこんなことをした…早く離せ!…んんんっ!!」

叫ぶ俺に、何かを被せる沢渡。

これは…スパイクか!?

「ちょっ、ケンケンそれやばい!!」

そう言って爆笑する寺崎を横目に、沢渡はそのスパイクの紐を使って俺の顔に固定する。

「お前等どういうつもっっ!!!」

怒鳴ってる途中で、鼻から入って来るスパイクの嫌な匂いに面食らってしまった。

「あはははははっ!!それ誰のスパイク?」

「知らねぇ。その辺に落ちてたやつだから」

「ってそれ俺の!!」

どうやらこのスパイクは高杉のらしい。

「あははははははっっ!!腹痛ぇっ」

それがツボだったのか、腹を押さえながら笑い続ける寺崎。

「良いだろ。今履いてるやつあるんだし、放置してたってことはもう捨てるつもりだったんだろ?」

「まぁそうだけどよ」

「うっ…おいお前等!ふざけるのも良い加減にしろ!!んんっ…これを外してマットも解け!!」

鼻で息を吸わないようにしながら話すが、それでも怒りで鼻息が荒くなってしまう。

「いやぁ、ダメですよ。今離したらぜってぇ俺らのこと殴るっしょ」

「当たり…前だっ。こんなことをするなんて、大問題だぞ…っんんっ」

意識すればするほど鼻から吸い込む臭い靴の匂いが気になって仕方ない。

「まぁまぁ、この姿の写真撮ったら離してあげますよ」

「なん、だとっ…!!」

段々と鼻が慣れて来る。

確かにこの靴は臭いが、昔やっていたラグビーや、趣味でやる野球や剣道のあの汗臭さを経験している俺にとっては、こんな放置されていたスパイクなど大きな問題にはならないということだ。

それよりもこいつらだ。

俺をこんな状態にするなんて、絶対に許すことなんてできない。

しかもこれを写真に撮るなんてことをさせる訳にはいかない。

「ふざけるな!!」

「ちょっとした遊びじゃないっすかぁ」

「取り敢えずまずはこの臭ぇスパイクを外せ」

「はははっ!!陽太のスパイクやっぱ臭ぇってよ!!」

「うっせぇ!お前のだって臭ぇだろ!!」

「まぁまぁ陽太。足が臭ぇのは仕方ねぇって」

「お前まで!!言っとくけどお前も今すげぇ足臭ぇからな!」

「はぁ?陽太程じゃねぇよ」

馬鹿な会話で盛り上がる三人。

誰の足が臭いなんてどうでも良い話でよく盛り上がれるものだ。

「早く外せ!!」

そんな三人に割って入るように俺は怒鳴った。

そんな俺に目をやると、寺崎が何かを思いついたかのような顔をする。

「なぁ、俺らみんなそれぞれ足が臭くねぇって思ってる訳じゃん?」

「まぁな」

「あぁ」

「じゃあほんとに臭くないか、先生に嗅いで貰おうぜ」

二人に目配せをするように言うと、沢渡も高杉も同意するように頷いた。

「良いねぇ~。これまで俺らのこと散々目の敵にしてくれたお礼も兼ねてな」

「まぁ俺の足は臭くねぇけど!」

二人が子供じみた笑顔で俺を見て言った。

おい、こいつらまさか…

「せーんせ、覚悟した方が良いっすよ。この二人の足、すげぇ臭いんで」

「いやそれはお前だろ!あんな放置してたスパイクが臭ぇんだからよ」

「まぁまぁ、それを決めんのは先生だから」

そう言いながら、俺の顔を囲み始める三人。

仰向けに寝る俺の顔の左右に寺崎と沢渡、そして上には高杉が陣取った。

「うっ…」

三人のスパイクを履いた白いサッカーソックスの足が近づいた瞬間、ムワっと嫌な匂いが漂ってきた。

今俺の鼻を覆っている靴からではなく、恐らくこれは三人の足から直接放たれているもの。

「ふざけるな!!なんで俺がそんな…」

「まぁまぁ先生。先生だって俺らに散々酷いことしたじゃないっすか」

「かるーく仕返し?的な」

「散々俺らのこと殴ったんですから、こんなことで済むなんて安いもんでしょ。それに安心してくださいって。俺ら全員自分の足が臭いなんて思ってないんで」

「んっ…それはお前らが校則を破ったからだろ!!それに臭い臭くない関係なく足の匂いを嗅ぐなんて嫌に決まってるだろうが!!うっ…」

囲む足の匂いと鼻についた靴の匂いが鼻の奥まで入り、一瞬噎せそうになるが、まだなんとかなるレベルの匂いだ。

ラグビーやハンドボールなどの他の部活に比べれば、こいつらはまだ細身の部類。

ごつい奴らの匂いに慣れている俺だからこそ耐えられているが、それでなければかなり酷い匂いを放っている。

「へいへい。校則破ったら殴っても良いって訳ね」

「まぁ俺の足は臭くないっすけど、二人の足は激臭なんで気を付けてくださいよ~」

「だから陽太のは臭ぇって!先生良いこと教えてあげますよ。今日一日、校庭で試合のために丸一日練習してたんすよ。あの炎天下の中」

今は大分ましにはなったが、今日の気温と湿度はかなり高く、水分補給を少しでも怠れば熱中症になるレベルの熱さだった。

見るからに汗で湿り、泥で汚れた三人のソックスは、その練習の過酷さを物語っている。

湿ったソックスはべったりと足に張り付き、脛当てと足の筋肉がくっきりと浮き出ていた。

「そんな訳でぇ…」

ニヤリと笑いながら、寺崎が俺の顔についていたスパイクを外す。

そしてそのスパイクを隅のほうに投げ捨てると、今度は履いているスパイクを脱ぎ始めた。

それに合わせるように他の二人もスパイクを脱ぎ始める。

そして一斉に現れる三人の白いサッカーソックスを履いた足。

練習を1日していたと言うだけあり、白いソックスは茶色く変色し、足裏には土と汗でくっくりと足形が浮き出ていた。

瞬間、気のせいではなく、俺の顔の周りの湿度と温度が上がったのを感じた。

スパイクを外されて油断していたところに、近くにある三人の足の匂いが鼻へと流れ込んでくる。

「うぅっ…!!」

まだ顔に触れている訳でもないのに、既に嗚咽きそうになる程に臭い足の匂い。

スポーツ特有の汗臭さには耐性がある方だと自負していたが、それでもかなりキツく感じた。

「せんせー大丈夫っすか」

「やっぱ陽太のが臭ぇんだって」

「だからなんで俺だけだよ!」

「ほら、お前等いくぞ」

「へいへい」

「せーの」

その掛け声と共に、三人の足が俺の顔を覆った。

「んんっ!!!」

瞬時に防衛本能が働き、息を止めたため、辛うじてすぐに匂いを嗅ぐことは避けられた。

しかし顔全体を覆い尽くすように3本の蒸れたソックスの足裏が乗せられ、そのソックス越しに足の温かさが生々しく伝わり、尋常じゃない程の不快感だ。

「あ、こいつ息止めてる」

「まぁ一生止めてる訳にいかねぇだろ」

「おーい、ちゃんと嗅いでくださいよー」

三人の足が顔の上でグリグリと踏みつけるように動く。

蒸れに蒸れたソックスから染み込んだ汗が顔に付くのを感じた。

この野郎…!!

怒りのあまり怒鳴りそうになるが、それではこの顔に乗せられた足の匂いを嗅いでしまう。

冷静になろうとなんとか自分を抑えた。

しかし、

「ドラゴリ~、早く嗅げよ~」

高杉が言った瞬間俺の頭に血が上っていくのを感じた。

『ドラゴリ』

俺の名前の龍と、ゴリラのような見た目から付けられた大嫌いなあだ名だ。

生徒達が影でこっそりこの名前で呼んでいるのは知っていたが、直接言われるのは初めてだった。

「お前…っっっっっ!?!?!?!?!?」

我慢できずに『お前等』と叫ぼうとした瞬間、俺の鼻に一気に三人の足の匂いが流れ込んで来た。

湿った空気に混ざって、酸味と納豆のような粘り気のある臭気が合わさったような、恐ろしい程の激臭。

あまりの臭さに一瞬脳が思考を止め、次の瞬間猛烈な吐き気に襲われた。

「おぉぉぉぉおっっっっ!!!」

臭い。

先程のスパイクなど無臭だったと言えるほどに濃厚な臭さ。

「どっすか?せんせっ」

「変な声上げちゃって。やっぱ陽太の足が臭いんですか」

「なんで俺だよ!お前らの足だろ!」

誰の足が臭いかなんてどうでも良い。

バカみたいに臭いその足共が、顔の上で踊るように指先でグニグニと動き始めた。

もう二度と嗅ぐまいと思っていたが、その湿ったソックスの足指が鼻先を何度もくすぐるせいで、再び鼻から空気を吸ってしまう。

「あぁぁあああああっっっ!!」

臭い。

嗅いだ瞬間訪れる吐き気のせいで、臭いと言葉を発することすら難しい。

「ヒロじゃね?やっぱ臭ぇの。ここまで匂うぞ」

「はぁ?ケンケンもだろ。お前足臭過ぎ」

「あぁ?なぁ先生!俺の臭くねぇよな?」

沢渡が俺の鼻を足指の並びで覆うように足を動かす。

「ほら、早くここ嗅いで。臭くないっすよね?」

「んぁっ」

グイグイと足指で刺激されたせいで、再び鼻へと沢渡のソックスを通った空気が流れ込んでくる。

「んがぁっおおぉぉっ!!」

くせぇぇぇええっっ!!!

全身の血の気が引くほどに臭く濃い足の匂い。

どうやったらこんな臭ぇ足が出来上がるんだ!!

正直舐めていた。

今まで数多くのスポーツを経験し、他の奴らなんかよりは匂いに耐性があると思っていた。

しかもこんな俺と比べたら細身の奴らが、こんな臭い足を持ってるなんて思いもしなかった。

「ほらぁ、やっぱケンケンの臭ぇってよ」

「じゃあヒロも嗅がせてみろよ!」

「いーぜ」

鼻から沢渡の足が離れたと同時に、今度は寺崎のソックスの足指が鼻を覆う。

同じくらいに蒸れて湿ったソックスからは、鼻にネットリとした嫌な感触の液をつけていく。

「ほら、嗅げって!」

沢渡が俺を急かすように、鼻から離したソックスを口へと持っていき、無理やり口へとネジ込んできた。

「おぉぉっ!!んんんっっっ!?!?」

ザラザラとした気色悪い感触が舌に触れた瞬間、塩見のある嫌な味が口内に広がる。

その驚きで鼻から呼吸をしてしまった。

「あぁぁぁぁあああっ!!」

臭い臭い臭い臭い!!!

身体がその匂いを拒否し、身体を暴れさせるが、ガッチリとマットで固定された身体は全く動かない。

涙や鼻水、唾液、顔中から液が吹き出てきた。

「ははははっ!!ヒロの足は泣く程臭ぇってよ!」

「ちげぇよ!これはケンケンの匂いが鼻に残ってただけだろ!」

意味のわからない二人のやり取りなど聞こえない程、俺の身体は匂いでおかしくなっていた。

鼻が曲がるではなく、鼻が壊れるような感覚。

初めて味わうそれは、あまりにも辛いものだった。

「じゃあ最後は俺なぁ。安心してください。俺の足は臭くないっすよ」

そう言って寺崎の足の変わりに今度は高杉の足が鼻へと乗せられる。

既に呼吸を止めるなんて余裕はなく、ただ乗せられた足のフィルターを通して呼吸をしてしまう。

「んお"っ、お"ぉっっっ!!!!」

ツンとした酸味の強い足汗の匂いの後に、スパイクのゴムのような匂いと、発酵した汗の粘り気の強い匂い納豆臭が爆弾のように鼻腔で爆発した。


くっせぇえええええええっっっ!!!!


あまりの匂いに胃液が喉元まで上がってくるのを感じた。

まるで生物兵器かと言う程に臭過ぎる足。

目が白目を剥く程に強烈だった。

「やっぱ陽太のが一番臭そうじゃね?」

「ほら、先生の顔ぐちゃぐちゃだし」

そう言いながら寺崎は俺の目から溢れる涙を、その汚いソックスの足で拭った。

「いやいや、俺が最後だから2人の匂いがついてたんだろ。俺の足は無臭だっての」

「それはない。お前の足はいつも臭ぇよ」

「いやヒロも相当だからな!」

3人のやり取りが遠く聞こえる。

あまりの匂いの応酬に意識が朦朧としていたらしい。

「ふごっ、おおぉっ、あぁぁあっっ」

無意識に漏れる情けない声。

もうこんな臭い足を嗅ぐのはごめんだ。

しかし、そんな俺の心境を知ってか知らずか、寺崎が恐ろしい提案をした。

「なぁなぁ、素足の匂いで決着つけようぜ」

素足。

そう聞いただけで鳥肌が立った。

ソックスでこんなに臭いと言うのに、素足なんて嗅がされてたまるか!!!

「挑むとこだよ」

「俺も良いぜー」

3人は俺から顔を離すと、長いサッカーソックスを下げ始めた。

「あぁっ、あ"ぁっ、はぁ、はぁ」

やっとのことで匂いから解放された俺は、鼻に残る悪臭とた戦いながらも、なんとか呼吸をした。

臭い、臭い、臭い。

鼻から吸う度に足独特の臭気がするが、鼻がバカになっているのか、直接嗅ぐよりは何倍もましだ。

「うっわ、くっさ!!」

「やっべぇなこれ」

寺崎と高杉がソックスを脱ぎ終わり、声を上げた。

「ごめ、俺の足臭かったわ」

「いや俺の足もだわ」

「俺の足は無臭」

「な訳あるか!!」

「自分の足に顔つけてやろうか!?」

「あ、ごめん、俺のも臭ぇ」

今度は一斉に自分の足が臭いことを認め始めた3人。

俺からすれば今更な話だ。

「はぁ、はぁ、もう、やめて、くれっ」

既に3人の足が臭いと分かったなら、もう俺に嗅がせる必要はないはずだ。

「ん?ダメっすよ。せっかく脱いだんすから」

「まぁ良いじゃないですか。ちょっと嗅ぐぐらい」

「ほら、ここネトネトしててめっちゃ臭いとこ。滅多にこんな臭いの嗅げないですよ!」

俺の拒否の言葉など軽く受け流され、嗅がせる気満々の3人。

これからまたあの臭い…いや、それ以上に臭い足の匂いを嗅がされる。

そう考えただけで恐怖だった。

「や、やめてくれ!!もう、もう勘弁してくれ!」

「先生のビンタ痛かったなぁ」

「す、すまない!謝るから!」

「俺前に殴られたことあるんすよねぇ」

「そ、それも謝る!」

「先生はよく俺らに反省が足りんって言ってましたよねぇ」

「………すまない」

寺崎が俺の顔を見下すように見ると、臭そうな足指をグニグニと顔の上で動かした。

「ひぃぃいっっ!!嫌だ!やめてくれ!!」

それに合わせるように、他の2人も指を動かしながら俺へと近付けてくる。

「すまん!謝る!謝るから!!」

「せんせー」

俺が必死に謝る姿を、ニヤニヤと笑いながら見て言う高杉。

「反省が足りねぇんだよ」

そう言った瞬間、3人の足が俺の顔に乗せられた。

「ひぃいいいいっっ!!」

ベタベタとネトつく素足の裏。

体温が高いのか3人の足は熱く、足汗で濡れていた。

「たっぷり嗅いでくださいね」

まず俺の鼻に当たったのは、寺崎の足の平の部分。

足裏は思ったよりも柔らかく、鼻の穴を塞ぐように押し当ててくる。

「んごっ、おぉぉぉおおっっ!!!」

すっぱさの強い匂いが鼻腔の奥を突き、目が白黒した。

ソックスの匂いよりも鋭く、脳に直接届くような刺激臭が嫌と言うほど襲ってくる。

あまりに強烈な匂いに、目の前がグラグラと揺れる気すらした。

「どーです?俺のす٠あ٠し。あはははっ!!」

俺が臭がる様子が面白いのか、寺崎は笑いながらグリグリと鼻を踏むように押し付ける。

「あがぁぁっ!!あぁぁぁああっ!!」

押し付けられているせいで広がる鼻の穴に、バカみたいに臭い足の匂いが押し寄せてきた。

「追加で俺のもどうぞ!」

そこにすかさず沢渡の足の平が追加される。

両方の鼻の穴をそれぞれの足で塞ぎ広げられ、左右の穴からそれぞれ違った激臭が流れ込んできた。

「お"ぉ"お"おぉぉっっ!!」

酸味が強く、すっぱい匂いの寺崎の足に対し、沢渡の足の匂いは発酵した納豆臭が強い。

両方の匂いが別の穴から入り込み、身体の中で合わさり、猛烈な吐き気が押し寄せてくる。

「良い匂いっしょ?俺の足」

「ばぁか。そんな臭ぇ足の何が良い匂いだよ」

笑いながら足を離そうとしない2人。

「ぐぜぇぇええっっ!!やめでぐれぇええっっ!!うぇぇっ」

なんとか必死に声に拒否を声に出すが、嗚咽で掻き消されてしまった。

2人の足の匂いは混ざり合い、純粋に2倍の匂いではなく、何倍にも臭くなる代物となっていた。

「さぁて、じゃあ俺のも嗅いで貰おうかなっと」

そう言って最後に2人の足の間に置かれたのは、高杉の蒸れた足。

3人の中で一番湿り気を感じるその足は、丁度中間地点に置かれているため、2人の足の匂いに混ざり合いながら、両方の鼻穴から流れ込んでくる。

「おおぉぉお"お"っっ!!!」

湿り気の強い高杉の足が混ざったせいで、鼻全体に纏わりつくように広がっていく激臭。

あまりの匂いに世界が揺れているように見え、目がチカチカした。

匂いで殺されてしまう。

あるはずないのに、匂いで死すらも意識した。

「おぉ、苦しんでる苦しんでる」

「一番くせぇのはやっぱ陽太か」

「また俺かよ!」

そんな状態になっているとも知らず、再び呑気に足が臭いと言う話をし始める3人。


もう許してくれ…


こんな臭い足の匂いはもう嫌だ。

そう願っても、次から次へと3人の蒸れに蒸れた足の匂いが鼻へと流れ込む。

「んぉぉおっ、おぉぉおっっ」

呻く度に気が遠くなっていく。

「なんか声弱くなってね?」

「匂いが足りてないんじゃねぇの」

「まじでか。こんなくっせぇのに。先生も好きだなぁ」

何を勘違いしたのか、3人が恐ろしいことを言い出す。

「おぉぉ"っ、も、もう許じでぐれぇええっ!!」

無理矢理声を出したからか、目からは涙が溢れ、ダラダラと口からは唾液が垂れてしまった。

「はははははっ!!めっちゃ号泣してるよこいつ!」

「情けねぇー」

「なぁ先生、もう止めて欲しい?」

グイグイと鼻を押すように足を動かしながら、高杉が聞いてくる。

「も、もうやめでっ、んぉぉっ、臭ぇのはもうっ」

俺は匂いに犯されながらも、僅かな希望に縋るために必死に言葉を紡ぐ。

「せんせー、人に頼む時は敬語っしょ?」

寺崎がニヤニヤと笑いながら、ふざけた調子で言ってきた。

普段なら怒りで怒鳴り付けるところだが、今は早くこの臭過ぎる足の匂いから逃げたい気持ちで、怒りよりも先に言葉が出た。

「お"ぉっ、もうっ、やめでぐだざいぃっ!臭い足はもう嫌でずぅうっ!んおぉっ」

「あっはっはっはっはっはっ!!!!!」

「あのドラゴリがやべぇな!!」

「腹痛ぇっ!!」

3人が一斉に俺をバカにして笑う。

羞恥で顔が熱くなるのを感じたが、そんなことよりも早くこの足達から逃げたかった。

一通り笑い終わった3人は、笑い涙を拭いながら俺を嫌な笑顔で見下してくる。

「なぁ先生。足で一番くっせぇとこってどこか知ってるか?」

沢渡が急にそんなことを聞いてくる。

足の一番臭い部分。

そんなの、ソックスの時に嗅がされた、足指の根元の部分に決まっている。

なぜそんなことを聞いてくるのか。

答えに辿り着くまでに、それ程時間は掛からなかった。

「あぁぁっ、やめっ、やめでぐれぇええっ!!」

「あ、分かりました?そうそう。ここっすよ」

俺から足を離し、足指の股を広げるように俺に見せてくる沢渡。

かいたばかりの汗が滴り、ソックスのカスがついたあまりに臭そうなその場所を。

「ほら、俺のも見てくださいよ」

「俺のも俺のも」

2人も沢渡と同じように俺から顔を離し、足指をグニグニと見せつけてくる。

ネトつく液体がついた、見るだけでその臭さを想像して吐き気がする程の代物だった。

「い、嫌だぁぁあっっ!!誰かっ!誰かぁぁあああっっ!!」

「ざんねーん。ここには人を近付けないように後輩達に頼んであんだよ」

「いくら叫んでも誰もこねーよ!」

そう言いながら、3人の足指が俺の鼻へと近付いてくる。

「ごめんなざいぃっ!!ごめんなざいぃっ!!やめでくだざいっお願いじまずっ!!」

「やめませーん」

その言葉と共に、3人の足指が鼻の穴を囲うようにテントを作った。

足汗でベタつく足指達が鼻を覆い、熱と湿気の籠った臭気で蒸されているようだった。

これを嗅いだら大変なことになる。

頭では分かっているのに、散々匂いで犯されていたせいで、息を止めるような体力はもうなかった。

「んがっっっっっ!!!!!!!!」

空気と共に流れ込む、3人の足指の股の濃厚な匂い。

あまりの匂いに身体が暴れるが、拘束のせいで動くことができず痙攣していく。

匂いはミサイルのように脳まで一気に犯し、奥の奥で爆発した。

「あ"ぁ"あ"ぁ"あ"あ"あ"っっっっっ!!!!!!!」

余りにも臭過ぎる匂いに絶叫した。

「うるせぇ~。黙って嗅げねぇのかよ」

「まぁこんな臭ぇ3人の足、一気に嗅がされてんだからたまんねぇだろ」

「見てるだけで吐き気すんもん」

俺が死にそうになりながら足の匂い苦しんでいると言うのに、相変わらずな3人に心から恐怖した。


誰か助けて。


言葉にならない願いを心で何度も叫ぶが、当然誰にも届かない。

「お"ぉ"お"ぉ"ぉ"っっ!あぁぁああっっ!!」

臭い、臭い、臭過ぎる。

臭過ぎる匂いを危険と判断したのか、身体が勝手に拒否し、呼吸が浅くなっていく。

「ほらほら、休まないで嗅げよ~」

「物分かりの悪い先生に対しての、俺らからの愛の鞭ってやつですよ」

「まだ俺ら、片足しか嗅がせてませんしねぇ~」

3人の悪魔のような台詞が遠くに聞こえる。

この俺にまだ足を嗅がせようと言うのか。

身体に空気が足らなくなり、目の前が少しずつ白く光って見えなくなっていった。

「あぁぁっ、あぁぁぁぁぁっ」

自分の声すらも遠い。

「せんせー、聞いてます?」

高杉のその言葉を聞くのを最後に、俺はそのまま気を失った…


■■■■■■■■■■■■■■■■■■


「あ~あ、気ぃ失っちゃった」

「はははっ!!足の匂いで気ぃ失わせるとかやばくね?」

「どんだけ俺らの足って臭ぇんだよな」

泡を吹きながら気を失っているドラゴリを見ながら、ヒロとケンケンと顔を見合わせて笑った。

「ちゃんと撮れてるか?」

「あぁバッチリ。あいつが屈服するとこもちゃんと映ってるよ」

ベンチに立てて置いてあったスマホを確認しながら、ケンケンは面白そうに言う。

「これでこいつも少しは大人しくなるだろ」

大人しくなる…か。

確かにこのままいけば、俺らには手出ししないかもしれない。

しかし後輩たちのためにも、俺らがいなくなってからもこいつの被害を受けないようにしてやりたいところだが…

そうだ。

「なぁなぁ、今度試合あんじゃん。そん時、引退記念ってことでメンバー全員で嗅がせてやんね?後輩達が見てる前でさ」

俺が提案すると、一瞬驚いた顔をした二人。

しかしすぐに笑って俺の意見に同意した。

「良いねぇ~!これをサッカー部の伝統にしようぜ!」

「サッカー部に入ればこいつに手を出されないって広まれば、今後部員も増えるだろうしな」

「じゃあ決まりってことで」

簀巻きを解かれてマットに寝ているドラゴリを横目に、俺らはそんな話をしながら部室を後にした。



END

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