Home Artists Posts Import Register

Content

午後八時。 足立区にある河川敷で、二人の女子高生が制服をはだけさせ、取っ組み合い、殴り合いの喧嘩をしていた。 「死ねやクソ女ぁ!!!」 「てめぇが死ねよキチガイがよぉ!!」 一人は、黒髪の内巻きのワンカールボブ、目は威圧的な程ぱっちりとした深い黒色の瞳が特徴的な女。 もう一人は、腰まで届くサラサラな茶髪、少し切れ長な瞳をした悪戯好きな雰囲気を持つ女。 二人は、互いに罵詈雑言を浴びせながら、相手の顔や腹を蹴り、殴る。 がむしゃらに髪の毛を引き千切り合い、皮膚に爪を立てて抉り合い、噛みつき合う。 その様は、獣同士の殺し合い。 二人の女子高生は、顔面から血を流し、口から血を吐き出し、身体中の至る所に青痣を作っていく。 何故、この二人がこんな激しい喧嘩をしているか、その理由を説明するには三十分ほど前に遡る必要がある。 ……。 〜〜〜〜〜 「あ〜〜オニヨンリングもっと食べたいなぁ〜〜〜。ね〜ウリ、オニヨンリング食べたいよねぇ〜〜? 追加注文したいよねっ?」 「別に」 とあるファストフード店で、茶髪のロングヘアをした女子高生が、目の前に座っている桃色のツインテールの女子高生に絡んでいる。 しかし、ウリと呼ばれた女は素っ気ない態度で、頬杖をつきながらスマホを弄っている。 「えぇ〜〜!? オニヨンリングだよっ?! めっちゃ美味しいんだよっ?! 食べたくないのぉ!?」 「……あのさ、奢らせようとしてんのバレバレだから。食べたいんならノマネが自分で注文しな、ばーか」 「くそが」 ウリの態度に腹を立てたのか、ノマネと呼ばれた女は舌打ちをする。 そして、テーブルの下でウリの足を軽く蹴る。 「は??? なに? 殺すよ??」 足を蹴られたウリは怒りを露わに、ノマネの足を思いきり蹴り返す。 「痛あッ!? ウチそんな強く蹴ってないじゃん!?」 「うるさ、死ね」 「……んだお前コラッ!」 「っ……あ゛!?」 ガタンガタンと暴れる机を押さえながら足を蹴り合う、そんな二人を、他の客達は迷惑そうに見ていた。 そんな二人の耳に、甲高い女の声が飛び込んでくる。 「ねぇ〜ムーくぅん♡ ばんごはん食べたらさぁ〜。ムー君の部屋行っていい♡? なんかあたしえっちな気分になってきちゃったぁ♡♡」 「あ〜…」 ウリとノマネは店の扉を開けて入ってきた女子高生と男性を見て、喧嘩を止めて表情を歪める。 店内にいた他の数人の客も、皆同じように顔を歪めている。 それもそのはず、今入ってきた男女のペアの、男性の方から酷い臭いがするのだ。 まるで生まれてから一度も風呂に入ったことがないような、強烈な体臭を放っている。 数メートル離れているウリとノマネですら、鼻を抑えて顔をしかめてしまう程に。 しかし、その男性の腕に抱きつき、身体を密着させている黒髪ワンカールボブの女の子は全く気にしている様子はなく、顔を赤く染め嬉しそうに笑っている。 その様子を見たウリとノマネはひそひそと小声で話し始める。 「うわうわうわうわ……何あれ何あれヤバいんですけど……!」 「……臭すぎ」 「髪ボッサボサで無精髭でデブでアニメシャツとかヤバッ……w」 「……キモすぎ」 「ねっ、ねっ、あれパパ活かな? あんな男に引っ付いてるとかそれじゃんね?」 「んー……なんかそういうのじゃない雰囲気」 「えー絶対そうだってwww」 ウリが否定するとノマネはクスクス笑う。 すると、その会話が聞こえていたのか、件の女の子がこちらに視線を向けていた。 その視線に気付いたウリとノマネは慌てて目を逸らす。 ((やば……)) 二人は、冷や汗を流して黙り込む。 沈黙していた二人の元に足音が近付く。 「ねえ」 頭上から聞こえた声に二人が顔を上げると、そこにはやはり先程の女子高生が見下ろしていた。 その顔は、明らかに不機嫌そうで、眉間に皺が寄っている。 「なに見てんの」 「えー……いや、見てないですけど」 「見てた」 「え〜……? いや、まじで見てないですってぇ〜」 「見てた」 ウリとノマネは誤魔化そうとするが、女子高生の表情は変わらない。 それどころか、更に眉間に皺を寄せ、二人を睨みつける。 その表情に面倒くささを感じたウリが口を開く。 「……ごめんなさい、ちょっと気になったから見ました」 「チッ!」 謝罪の言葉を口にしたウリに対して、女子高生は舌打ちをしてきびすを返す。 そして吐き捨てるように言う。 「人の彼氏に色目使ってんじゃねーよ、ブス」 「「……ふぁ?」」 その言葉を聞いた二人は、口をぽかんと開け、呆然とする。 「い……いやいやいやいや色目なんか使ってねーよ!! なに勘違いしてるし!!」 数秒後、正気に戻ったノマネが立ち上がり叫ぶ。 ノマネの声に、席でスマホをいじっている彼氏の元に戻ろうとした女子高生がピクリと反応し立ち止まる。 「お前の彼氏が臭くてヤバいから見てただけだし!! 誰がそんなきもい男になんか色目使うかよバーカッ!!!」 ノマネの怒号を聞いて、周りの客がざわつき始める。 「……あ゛?」 それを聞いた女子高生は眉間にシワを寄せて振り返る。 彼女は、ノマネの方にズンズン歩いていき、目の前まで行くと至近距離で睨みつける。 「なに? ……もう一回言ってみなよ」 「てめーの彼氏がキモいっつったんだよ、男の趣味悪いうえに耳まで悪いんかお前」 「ちょっとノマネ……やめなって……!」 ウリはノマネの服を掴み、彼女を静止しようとする。 しかし、その手を払いのけ、ノマネは言葉を続ける。 「そっちこそもっかい言ってみろよ、誰がブスだよてめーのがブスだろボケがよ」 「あはっ! 彼氏も居ないお前にブス呼ばわりされたくないんですけど〜〜? 女同士でデートして可哀想だね〜?」 「デートじゃねえわッ! つかあんな男と付き合うぐらいなら死んだほうがましだわッ」 「じゃあ死ねばぁ?」 「てめえが死ねよッ!!」 口喧嘩では我慢できなくなったノマネは女子高生の肩を突き飛ばす。 その衝撃で女子高生の身体がよろけ、後ろの席に座ってハンバーガーにむしゃぶりついていたお婆さんにぶつかる。 「っ……! ッてえなコラァッッッ!!!」 突き飛ばされた女子高生はお婆さんのハンバーガーをひったくり、ノマネに投げつける。 「うわらばッ!!?」 ノマネは飛んできたハンバーガーを避けることが出来ず、顔にべちゃりと当たってしまう。 「んッ……だコラぁっ!!!」 ノマネは顔にへばり付いたハンバーガーを投げ返す。 しかし、肩に力を入れ過ぎた暴投は対象の女子高生ではなく、ハンバーガーを奪われたお婆さんの顔面にクリティカルストライクしてしまった。 弾けるケチャップとマスタード。 飛び散る肉片。 恐慌状態に陥るお婆さん。 店内に広がる阿鼻叫喚。 騒ぎを聞きつけた店員が慌ててやってくる。 「お客様! お客様! やめてくださいお客様っ!!」 「制服にケチャップ付いただろがブス茶髪がァっっ!!!」 「ああ゛ッ!!? こっちは顔面に付いてんだよこのクソ女がッ!!!」 二人の女子高生は取っ組み合いになり、激しく髪の毛を引っ張り合う。 「お客様ッ!!! お客様!!!! あ゛ーーーお客様ッ!!!」 「ちょっ……! ヤバいってノマネ! やめなって!!」 ウリと店員さんが必死になって二人を引き剥がそうとするが、中々上手くいかない。 「「ぶっ殺してやるッッッ!!!!」」 二人が殺意を持って互いの顔に拳を叩きつけようとしたその瞬間── 「警察だ!」 その声と共に店の入り口が開かれ、二人の警官が入ってくる。 「うわっ警察……!?」 「やば……!」 二人の女子高生は殴り合う寸前で拳を止め、おとなしくなる。 「君たちかぁ、店の中で暴れてる二人の女子高生は。こちらのハンバーガーのおばあちゃんから通報があったぞぉ」 見ると、お婆さんが携帯を片手にノマネ達に指を差し、歯茎を剥き出しに怒りの形相をしている。 「だからやめなって言ったじゃん……馬鹿」 ウリは頭を抱え、深いため息をつく。 そんな彼女らの様子も見ずに、黒髪女子高生の連れの男はスマホゲームに夢中になっていた。 ────── ─────── 数十分後、警察から解放されたウリとノマネは店を出て、帰路についていた。 「はぁ……もう最悪……」 「こっちのセリフなんだけど」 二人は大きなため息をつきながら呟く。 あの後、警察官と店長からこっぴどく叱られた二人は店を追い出されてしまったのだ。 今はコンビニで買った飲み物を飲みながらトボトボと、街灯に照らされた河川敷を二人で歩いているところだ。 時刻は夜の八時前、周りに人はいない。 ウリは、夜空を見上げ、また一つため息をついた。 今日は、厄日だったのかもしれない。 「ねえ」 二人の後ろから聞き覚えのある声がする。 振り返るとそこには先程の黒髪女子高生が立っていた。 ウリは露骨に顔をしかめ、ノマネは敵対心むき出しで睨み付ける。 「……まだ何か用?」 ウリが聞くと、黒髪女子高生は髪をいじりながら答える。 「さっきので満足?」 「は?」 「やり足りないんじゃない?」 そう言って、彼女はニヤリと笑う。 ウリは、彼女が何を言い出すのかを察した。 黒髪女子高生は指をポキポキと鳴らしながら言う。 「決着付けようよ」 その言葉に、ノマネの表情が変わる。 彼女の目が鋭く光り、口元に笑みが浮かぶ。 「上等じゃん」 ノマネは上着を脱ぎ、脱いだ上着をウリに渡す。 「……せめて警察来ない所でやってよね」 ウリは渡された上着を持ち、諦めの表情でため息を吐く。 〜〜〜〜〜 三人は橋の下の河川敷に移動し、ノマネと黒髪が向かい合う。 ウリは、少し離れた場所から二人を見守っている。 「じゃ、やろっか。殺しちゃったらごめんね」 「ははっ! ……殺せるもんなら殺してみろよッッ!!!」 その言葉を皮切りに、ノマネは地面を蹴り、黒髪に突進していく。 「ッラァァァッ!!」 「ッ……!」 ノマネは黒髪の顔に大振りの右ストレートを食らわせる。 鈍い音と共に黒髪の顔が横にブレるが、彼女は怯まずに反撃に移る。 「ああ゛ッ!!」 「んふッ……!?」 下から突き上げる拳がノマネの土手っ腹にヒットし、口から息が漏れる。 黒髪の攻撃は止まらない。 「死ねァッ!!!!」 黒髪は更に踏み込み、ノマネの頭に拳を何度も振り下ろす。 「ぐっ……!」 殴られる度にノマネの視界が揺れる。 意識が朦朧とする。 だが、ノマネは倒れない。 黒髪女の腰に抱きつき、足を踏ん張り耐える。 「っざけんなァッッ!!」 ノマネは黒髪女を担ぎ上げようとする。 黒髪女の足がふわりと浮き上がる。 そのままバランスを崩し、背中から地面に倒れる黒髪女。 「かはっ……!?」 背中を強打した黒髪女は目を見開き、咳き込む。 「っしゃあッ!!!」 ノマネはそのまま黒髪女に覆い被ささり、マウントポジションを取ろうとする。 「クソッ!!」 しかし、そうはさせないと黒髪女がノマネの体を力任せに押し返そうとする。 「このっ……やろぉぉぉッ!!!!」 「どけよコラァッッッ!!!!」 マウントを取りたいノマネと、取らせたくない黒髪女が取っ組み合う。 「チッ……!」 黒髪の抵抗が激しく、マウントは取れないと判断したノマネは左手で黒髪女の髪の毛を鷲掴み、力任せに引っ張り上げる。 「キャアアァァッッッ!!!!」 ブチブチと嫌な音を立てながら黒髪女の頭が宙に浮き、髪の毛が引き抜かれていく。 痛みで絶叫を上げる黒髪女。 それでもノマネは掴んだ手の力を緩めない。 「ッ……!」 黒髪女もやられっぱなしでは済まさない。 ノマネの長い茶髪を左手で掴むと、自分の方に思いっきり引っ張る。 引っ張られた茶髪はぶちぶちと抜け、ノマネの頭皮に鋭い痛みが走る。 「ぎっ……!? ……いぃぃッッッッ!!」 ノマネは一瞬、苦悶の表情を浮かべ呻くが、すぐに黒髪女を睨みつけ、空いている右手を黒髪女の顔面に叩きつけだす。 「ぶッ!! がっ……!」 顔面を何度も殴られた黒髪女は鼻血を出す。 その鼻血で右手が赤く染まってもノマネは殴るのを止めない。 何度も何度も、拳を叩きつける。 「ッ……がアァァあッ!!!!」 黒髪女は雄叫びを上げながらノマネを殴り返す。 その拳が偶然ノマネの目に当たってしまう。 「んぎゃッ!!?」 目を押さえ怯むノマネ。 その隙を突き、黒髪女はノマネの体の下から抜け出す。 「はあッ! はあッ……! 糞がぁッ!!!」 立ち上がった黒髪女は蹲るノマネの脇腹を蹴りあげる。 「あぐっ……!?」 蹴りから逃れようとノマネはゴロゴロと地面を転がる。 うつ伏せになったところで体勢を立て直そうとするが、その暇もなく黒髪女が馬乗りになる。 「あああアッッ!!!」 黒髪女は叫びながらノマネの髪の毛を鷲掴み引っ張り上げ、頭を地面に打ちつける。 「ぐっ!? ……うぁっ……!」 頭を上下に激しく振られ、脳が揺さぶられる。 ノマネの意識が朦朧とする。 黒髪女はノマネの後頭部を両手で押さえつけ、地面に押し付ける。 顔中が土と血でまみれ、口の中にまでそれが入って来る。 「ゲホッ……オエッ……」 そんな状態でも尚、闘志を失わず歯を食い縛り、なんとか抜け出そうと暴れ続けるノマネ。 黒髪女はそんなノマネを見て、ニヤリと笑う。 「ねーどーしたのー? あたしのこと殺すんじゃなかったのー?」 そう言いながら、黒髪女はノマネの頭をペシペシと叩く。 「クッ……ソがぁッ!!!!」 怒りが込み上げたノマネは両手で地面を押し返し、無理やり上半身を起こす。 「ッ……!」 ノマネが上半身を起こしたことでバランスを崩した黒髪女、すかさずノマネは黒髪女を蹴り飛ばす。 「うぐッ!」 不意を突かれた黒髪女は河川敷の草むらに尻もちをつく。 「はぁ……はぁ……!」 ノマネは立ち上がり、黒髪女の方に向き直す。 「はぁ……はぁ……」 黒髪女も立ち上がる。 二人は肩で息をしながら睨み合い、相手の出方を伺っている。 「ふふ……あははっ」 先に沈黙を破ったのは黒髪女だ。 彼女は突然笑い出す。 「……なに笑ってんの」 不快そうに顔をしかめるノマネに対し、黒髪女は言った。 「いやぁ……なんかドラマみたいだなーって思って」 「は?」 「河川敷で殴り合いの喧嘩なんてドラマでしか見たことなくない?」 「知らんし」 「あはっ、そっか」 黒髪女はまた笑う。 そして、ノマネに向かって歩き出す。 「っ……!」 急に間合いを詰めてきた黒髪女に警戒し、ノマネは身構える。 「びびんないでよ」 「びびってないし」 「ね、名前教えてよ」 「……なんで?」 「いいじゃん、名前くらい」 「そっちが先」 「あたしはサヤカ」 「……ノマネ」 「ふーん、可愛い名前じゃん」 そう言って、黒髪女改め、サヤカはにやりと笑った。 〜〜〜〜〜〜 それからしばらく、二人の殴り合いが続いた。 「オラァッ!!!」 「うぶッ!?」 ノマネが放った右ストレートがサヤカの鼻に当たり、彼女の口から血が噴き出る。 だが、サヤカはすぐに反撃に出る。 「ッだあ゛!!!!」 「ん゛ッ!?」 サヤカは右の拳を大きく振りかぶり、ノマネの腹に打ち込む。 「ん゛っ……ん゛ぼっ……!」 強烈な一撃に胃液が逆流し、ノマネは嘔吐する。 「い……まのは……効いたでしょ……?」 鼻血をぼたぼたと垂らしながら勝ち誇った笑みを浮かべるサヤカ。 「そっち……こそ……」 対するノマネも口からゲロが混じったよだれを垂らしながら笑みを返す。 お互い満身創痍の状態であるにもかかわらず、戦意は全く衰えていない。 「まだまだ……イケるよね……? ノマネ……」 「当たり前じゃん……ぶっ殺してやるから……サヤカぁ……!」 そう言葉を交わした後、二人は同時に走り出す。 「おらぁぁッッ!!!」 「死ねぇぇえッッ!!!」 お互いの顔面を狙い、ノーガードで殴り合う二人。 拳がぶつかる度に鈍い音が響き、その度に鮮血が飛び散る。 「がっ……! ぶあ!?」 「んぶっ!? お゛ッ……!」 殴られるたびに苦悶の声を上げ、よろけるが、すぐに体勢を立て直し、殴り返す。 殴り、殴られ、殴り、殴られ。 殴打の応酬が続く。 しかし、それも長くは続かなかった。 「あぐっ!……?」 限界を迎えたのはサヤカだった。 ノマネの拳がサヤカの顎をとらえ、脳を揺らし、体がふらつく。 ノマネはそれを見逃さず、サヤカの鼻っ面に追撃のパンチを加える。 「ぶぎゅっ!?」 鼻を潰された痛みに呻くサヤカ。 その隙を突き、ノマネは更に腹に膝蹴りを叩きこむ。 「ごえっ!!??」 内臓を圧迫され、吐き気が込み上げてくるサヤカ。 「おげぇえええぇっっ!!??」 堪らず、その場で嘔吐してしまう。 血が混じった吐瀉物がノマネの脚にかかる。 「きっ……たねぇなテメェッッッ!!!」 苛立った様子で叫ぶと、ノマネは倒れそうになっているサヤカの髪を左手で引っ張り、右手で何度も殴りだす。 「ぎゃっっ!!?? あぎぃっっ!!!???」 髪の毛を引っ張り上げられた状態で頭を滅多打ちにされるサヤカは悲鳴を上げることしか出来ない。 身を屈めながら、ノマネの暴行に耐えるその姿からはもはや戦意を感じられない。 「殺すッ! 殺すッ! 殺す殺す殺すッ!!! 殺すッッッ!!!!!」 殺意に支配され、我を失ったノマネは狂ったように叫びながら、ひたすらにサヤカの頭部を殴り続ける。 「あ……ぐ……」 なんとか意識を保っていたサヤカだったが、ついに力尽きたのかそのまま地面に突っ伏すように倒れ込む。 「はぁッ……! はぁッ……!」 肩で息をしながら、倒れたサヤカを見下ろすノマネ。 サヤカは完全に気絶しており、起き上がる気配はない。 (勝った……) そんな確信を抱きながらも、まだ不安があるのか、倒れているサヤカの脇腹を蹴りつける。 「……」 やはり起きる気配は無い。 「はぁ……はぁ……」 ノマネも体力の限界を迎え、その場に座り込む。 「はぁ……」 ノマネは呼吸を整え、落ち着いたところで自分の状態を確認する。 全身傷だらけで血塗れ、服もボロボロ、おまけに吐いて口の中が気持ち悪い。 だが、気分はとても良かった。 今まで味わったことのないような高揚感に包まれていた。 「おつかれ」 そんな声と共に、ノマネの前に缶ジュースが差し出される。 顔を上げるとそこにはウリが呆れた表情で立っていた。 「……なにこれ」 差し出された缶ジュースを受け取りつつ、尋ねるノマネ。 「見ればわかるでしょ」 そう言いながら、自分も同じものを飲み始めるウリ。 それを見て、ノマネも渡された缶ジュースを開けようとする。 「……手ぇ痛くて開けらんない」 「面倒くさいなぁ」 そう言いながら、ノマネの手から缶を取り上げ、プルタブを開けてあげるウリ。 「……ありがと」 「どういたしまして」 礼を言って、ノマネは早速一口飲む。 「んくっ……んくっ……ぷはっ!」 冷たい液体が喉を通る感覚が心地よい。 ノマネは一気に中身を飲み干し、空き缶を放り投げる。 「ポイ捨てするな」 「あー疲れたー……」 「そりゃこれだけ暴れればね」 そう言ってウリは、気絶し倒れているサヤカのそばにも缶ジュースを置いている。 「……そいつにもあげんの?」 「恨まれたくないし」 「ふーん……」 ノマネは再び、サヤカの方を向く。 彼女は今だ気を失っており、目を覚ます様子はない。 「……死んでないよね」 「そんな簡単に死なないでしょ」 そう言って、サヤカの体を足で小突くウリ。 すると、彼女の口から呻き声のようなものが漏れる。どうやら生きてはいるようだ。 「んじゃ、帰ろっか」 「ん……」 「タクシー呼んであるから……あ、ほら来た」 「……お金出してよ?」 「貧乏ノマネに期待してないよ」 「ぶっ殺すぞ」 「いま喧嘩したら絶対アタシが勝つよ?」 そう言われるとぐうの音も出ないノマネはウリの手を借り立ち上がり、歩き始める。

Comments

No comments found for this post.