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いつもより長い梅雨のあと、その遅れを取り返そうとばかりの暑さがつづく夏の日、鈴仙は重い体を引きずるようにして竹林の中を歩いていた。例年であれば天蓋を作るように枝葉を伸ばした竹たちが日差しを遮り、夏の盛りであっても心地よい風を運んできてくれるのだが今年ほどの猛暑となると気休め程度にしかならなかった。時折、酷く湿気を含んだ風がじっとりと頬を撫で暑さに拍車をかけていくばかり。

汗を吸いきった手ぬぐいで額を拭って歩を進め、すぐに噴き出す汗をまた拭う。ようやっと目的地が目に見えるころには全身が水をかぶったようにぐっしょりと濡れてしまっていた。

竹林の中に埋もれるようにして東屋に毛が生えたような小屋と簡素な水場。玄関の戸を開けると、それまで閉じ込められていた熱気が勢いよく噴き出してくる。

「うっ」

思わず声が出る暑さだがひるんではいられない。意を決して中へ踏み込んで片っ端から窓を開ける。小屋の熱気と入れ替わるように流れ込む外気が涼しい。一通り換気を済ませたら背負子を下ろして玄関に腰を下ろす。小屋の熱気を吸いきった床が尻を通してじんわりと温度を伝えてくる。

「はぁー、あっつい」

ぱたぱたと手で仰いでもまるで効果がない。それどころか最近とみについた腕の肉がぶるぶると揺れて不快感が増すばかりだ。それになんだか以前よりも

肉の感触が大きく…腕がまた太くなったような…。まぁ、太ったことは自覚してるから、と独り言ちる。

以前の鈴仙であればこんなところで休憩を挟まずとも人里と永遠亭の間を悠々と行き来できた。だが、日々のストレスからほんの少しだけ買い食いに走ってしまったのが良くなかった。一口だけが1個だけに、その次は一皿だけついには1箱全部というように食べる量が日増しに増え、それに合わせて体重も右肩上がりに。師匠やてゐから指摘されるようになってからは大分控えるようになったんだけど。

「タイミングが悪かったのよねぇ」

ふぅ、とため息を一つ。思い返せばあの時がターニングポイントだったのかもしれない。すきっ腹を抱えて里から帰る途中、同じ玉兎の青蘭と鈴瑚の2匹のやっている団子屋の前を通りかかったときのこと。

どっちの団子が旨いのか、双方が押し付けるように団子を手渡してきたのだ。それから毎日のように2匹は鈴仙にジャッジを迫ってきた。ここで一旦落ち着いていた体重グラフが勢いよく跳ね上がり、それは今に至ってもとどまるところを知らないままだ。

何の気なしに腹に手を置くと団子のようにまるくせり出した腹の柔らかい感触。思わず目をそらした先には今日も手渡された青蘭と鈴瑚の団子の包み。軽く小腹を満たすにはちょうどいいかなと、手を伸ばす前に下準備。

まずは、座ったことでせり出した腹肉を押しとどめていた帯をほどく。元々大きかった胸は今では西瓜のように成長し、下方向の視界を隠している。その陰でたっぷりと成長した腹肉を押しとどめるように結んだ帯がひどく食い込んでいて、前かがみになることさえ苦しさを覚える始末。汗を吸い、腹肉の圧力で硬く締まった帯の結び目は固く、鈴仙が腹を引っ込めたつもりでもお腹の分厚い脂肪は少しも位置を譲らない。なんとか肉と帯の間に指を挟みこみ、顔を真っ赤にして帯をほどく。

「ふぅ、はぁ…」

さっきまで多少は感じられた涼しさはどこへやら。ぼたぼたと噴き出す汗が頬を伝う。ほどかれた帯を投げて外し上着をばさばさと払って内にため込まれた熱気を追い出す。

下着も丸見えのだらしない格好だが構うものか。どうせ誰も見ていないんだもの。

次にウエストにとどまったズボンから腹肉を持ち上げて外へ出す。まるで餅を抱えるような感触とともズボン圧迫から逃れた贅肉が腿の上に広がるのを感じる。ここにいたってようやく一応の安楽を得たところで団子の包みへ手を伸ばす。

(本当は下を脱げれば楽なんだけど)

と、ちらりを頭をかすめるがさすがにそれはどうかと思いなおす。とはいえでっぷりとした体を支える尻や足もそれ相応に太く、ズボンを内側から張りつめさせているのは間違いない。

「まずは、青蘭の団子から」

と包みを開く。カラフルな3色団子やたっぷり餡子が乗ったものなど基本を押さえながら全体的に一つ一つが大きめなのが嬉しい。串から一つ口へ運ぶとやわらかな感触と中の餡子の甘さが体に染み入るよう。次から次と口へ運んで気が付くとすべて食べきってしまっていた。

「さて、鈴瑚の方はっと」

残された包みを開けると中にあるのは串団子ではなく、まるで白玉のようにばらばらの団子がぎっしり。どれも黄な粉がまぶされていて団子同士がくっつかないように

配慮されているようだ。

「へぇ、今日は変わり種なのね」

箱に添えられた楊枝を使って口へ運ぶ。まるで薄皮のように伸ばされた団子の中にたっぷり詰まった餡子。濃厚な甘みで思わず舌を打つ。なるほどと思い、次のものを口へ運ぶと今度の中身は黒蜜といったようになかなか趣向がこらしてある。

「見た目をあえて同じにしているのね」

と、これは、あれはと次々へ口へ運んでいると、気が付くと手元の箱には黄な粉しか残っていなかった。

「うーん、今回も鈴瑚の勝ちかしらねぇ」

さっきより心持ち大きくなったお腹をさすりながら呟く。

「ふぁあぁ」

とあくびが口をつくと眠気が急に襲って来た。そのまま体を横たえるとその衝撃が全身の肉に伝うのがわかる。

「ああ、痩せなきゃなぁ…」

団子がたっぷりと詰まった腹をさする。まるで団子そのもののようにもっちりと柔らかい脂肪の感触を感じながら

「お腹の肉が団子なったら青蘭と鈴瑚の2人に取ってもらうのに」

なんて妄想とともに鈴仙の意識はまどろみの中に溶けていった。

気が付くと既に日は随分と傾き、小屋に差し込む夕日で鈴仙は目を覚ました。

「うわっ!いけない!」

ちょっと休憩のつもりがだいぶ時間を使ってしまった。早く帰らないと師匠に叱られる!

慌てて身支度と整えようとまずは押し下げたズボンを持ち上げて腹をしまう。なぜだか以前より窮屈で食い込むような苦しさを感じる。

はだけた上着を前で合わせたところででっぷりとせり出した腹のおかげで左右に分かれたまま。おかしいと思いながらも帯を拾って結ぼうにも丈が足りぬ。

「えっと、もしかして…」

汗でぐしょぐしょのまま乾かしもせず、そのまま寝てしまったのだ。

「縮んだ!?」

うん、きっとそうに違いない。もう一つ考えられないこともないがたぶん、そんなことはないはず。

(ぐぅぅぅぎゅうるるるる)

不意に腹の虫が声を上げる。そうだ、そろそろ夕食どき。ちょっとくらいお腹が見えていたって誤魔化せばいいじゃない。

ウエストよりちょっと上、胸の下あたりで無理やり帯を止めて上着を固定する。だいぶ不格好だが仕方がない。永遠亭の近くまで行けば、ほら移動のカロリーで多少痩せてるはずだし、帯を結びなおせばいい。

よいしょっと背負子を背負うと重みで少しだけ背が反れる。するとまってましたとばかりに腹の肉が上着を押しのけて顔を出す。

「はぁ…」

こんな格好てゐにでも見られたら大変ね、と考えながら永遠亭に向かって進める足は気分的にも物理的にもだいぶ重かった。

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