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掛け慣れない眼鏡のおかげで鼻すじがどうにもムズムズする。そもそも目は悪くない、どころか千里眼と言われるほど目がいいものだから眼鏡など、これまでの生の中では経験したことがない。サイズが合わないのか度々ずり下がってくるそれを直しながら犬走椛は山を哨戒していた。

この眼鏡は河童から賭け将棋のカタとして譲り受けたものだ。曰く、椛の千里眼をより強化するもの、らしい。見た目はなんの変哲もない赤いセルフレームだが河童の技術の粋が詰まった一品とのこと。

(…なんなら銭でよかったんだけど)

するりと下がってきた眼鏡を左手でくいっと持ち上げると、一瞬影が目の端をよぎる。気が付くと眼鏡越しに馴染みの烏天狗がふわりと地に足をつけるのが見えた。


「あややや、珍しいものを付けてますねぇ!」

挨拶もなしにさっそく眼鏡に興味津々な様子だ。この烏天狗、射命丸文はとにかく素早く、さらにいろんなことに顔を突っ込んでくる要注意人物だ。すらりとした体にほっそりとした手足。光を浴びた黒髪がさらりと風に舞っている。背から延びたくろい翼を折りたたみ、ポーチから筆と手帳を取り出す。

「千里眼が自慢の白狼天狗が眼鏡!?これは事件ですかね!どうしましたか?」

「なんでもありませんよ。友達からもらっただけです。」

「なるほどなるほど!普段はしゃれっ気がない椛が眼鏡とはこれは事件かと思いましたよ。あ、いやいやいやいや、とてもお似合いですよ!」

一言答えるたびに、二言三言は返ってくる。さらに左右に飛び回りながら手帳に何やら書き込んでいるから鬱陶しいことこの上ない。大方、彼女が出版するゴシップ新聞の記事にするつもりだろう。どうせ読者もいないからそんなに気に病むことじゃないけど。

(ちょっと試してみるか)

眉間に意識を集中して千里眼を起動する。その力が眼鏡に流れ込むと眼前の烏天狗が青く縁取られ、周囲に数字が浮かんで見える。

「これは…」

名前、種族、階級から身長、体重まで、それぞれの項目に彼女のデータが浮かんで見える。

「んん?どうしました?」

眼前の烏天狗が怪訝な顔をして椛の顔を伺う。

「あ、いやいや…」

ふと、数値の脇に+2の文字見つける。項目に目をやると「体重51kg」の文字。

「文さん、ちょっと太りました?」

せわしなく動いていた烏天狗が固まる。

「え、いや、そんなこと、ナイデスヨー」

顔色が青くなったり赤くなったりと忙しい。どうやらこの眼鏡はホンモノらしい。これでガラクタつかまされていたらそれこそゴシップ記事の3面あたりに載せられかねないな、なんて思ったりして。

「そ、それじゃ。執筆があるので!」

烏天狗は踵を返すと突風のごとく去っていった。

(…そうだ!)

巻きあがった落ち葉が舞うさまを見ながら椛はちょっとしたイタズラを思いついてた。

時は食欲の秋、の少し手前くらい。グルメ系の記事のニーズが最も高まるころあいだ。椛は射命丸文とともに人里に来ていた。

「文さん、あそこですよ」

指さす先には赤いのれんを下げた店。昼は飯屋、夜は居酒屋というよくある形態だ。振り向いて文を促すのに合わせて千里眼で彼女を見る。その輪郭は以前に比べると丸みを帯びて、そしてひとまわりは大きい。椛がこの眼鏡を得てから、ことあるごとに文に差し入れと称してお菓子や総菜をさしいれて来た成果だ。スランプに陥るとどうも食で解消する傾向があるようで、椛の想像以上に文は肥えていった。変装用のブラウスは余裕がなく、たわわな胸とその下から成長しつつあるお腹のシルエットを隠そうともせず、羽織ったジャケットの袖もぱつぱつと窮屈そう。キュロットから延びる足はむっちりと太く柔らかく、以前のすらりとした印象からは程遠い。ベルトは無理に留めているらしく、お腹に食い込みぎみだ。

体重の数値は57.8kgを示している。

(今日で60行けるかな?)

椛の思惑をよそに文が暖簾をくぐる。まるみを帯びたその体を見送ると椛は店外の腰掛けで取材が終わるを待つのだった。

結局、今日は3件ほど回って取材を終えた。本当は2件だけの予定だったところ、椛がさらに1件追加させた。おかげで予定よりだいぶ戻りが遅くなってしまったし文のベルトは穴が足りなくなってお役御免になってしまった。

「あややや、もうお腹いっぱいですよ」

行きよりも明らかにせりだしたおなかを撫でながら文がため息をつく。

椛が眼鏡越しに彼女を見ると体重は59.5kg。目論みよりは500gほど足りないが上々だ。

「じゃあ、執筆頑張ってくださいね」

ふよふよと飛ぶ文を見送ると椛は早くも次は何を食べさせようか思案していた。

なぜ自分はこんなことをしているのだろう。どうして、と自問する。椛にとって射命丸文は階級も種族も違う高嶺の花だった。空を自由に飛び気ままに自分に声をかけ、勝手に飛び去って行く。自分からなにか干渉することはできない。ただ彼女の気まぐれを待ち続けるだけ、そう思っていた。だから、あの眼鏡で彼女を見たときに、ふと思いついてしまった。自分が干渉できる数値があるじゃないかと。大したことも良い影響も与えることができるわけじゃない。それでも、その数値を見ればどれだけ彼女に影響を与えられたのか人目でわかる。それが嬉しくて、こんなにも続けてしまったんだろうな、と。

あれからすぐに文の体重は60kgを突破し、その勢いで70もオーバー。ここ最近は80台ヘ乗るかどうかというせめぎ合いが続いている。さすがに危機感が募ったのか、取材の量を減らし

代わりに運動をスケジュールに組み入れられていた。

「ひぃ、ふぅ、ひぃ」

綿のシャツと丈を切り詰めたショートパンツで文が走る。1歩ごとに全身の肉が躍りドスドスと重い足音を立てる。70kgをすぎたあたりからウエスト回りが著しく成長し

くびれもない丸みを帯びた体型になってしまっていた。元々ぴちぴちだった綿のシャツは彼女の汗を吸って収縮し、たわわな胸とさらに大きなおなかの形がはっきりとわかる。

太くなった腕が振るたびにぶるりと震え、ごん太い足で駆けるたびに全身に衝撃を伝えている。

「はぁー、はひぃー」

ぼたぼたを汗を流して手を膝につける。以前と比べ物にならないほど大きくなった尻がショートパンツを圧迫し、下着がちらりと覗く。

「まだ、10分も立っていませんよ」

椛がそんな文を見下ろすように告げる。

「ふ、ちょっと、ひぃ、待っ、ふぅ」

額の汗を拭いつつ文が答える。息を整える文を見ながらついでに眼鏡で体重を確認する。

(77.9kgか…)

昨晩よりわずかに減っている。つまり、

「文さん、朝食食べていませんね。」

ぱたぱたと手で顔を仰ぐ文が首を縦に振る

「だって、早く痩せたいですから」

「しっかり朝を食べないと体を動かすこともできませんよ?運動の前にしっかり食べて下さい」

背嚢からおにぎりを3つ取り出して文に手渡す。やや大き目なそれを受け取ると文の腹がぐぅぅと返事をする。一瞬気まずそうに顔をそむけた文だが、一口、また一口をおにぎりをほおばり、やがて3つすべてを平らげた。それを見届けると椛は「食事の直後に運動はよくない」と文に休憩を促してその場をあとにした。もちろん文に与えるための大量の昼飯を用意するためだ。遠くから文の姿を見つめるとその体重は78.5kgを示していた。


結論から言えば、文のダイエットは失敗した。体重の上昇は緩やかになったものの、減ることはなく、それに嫌気がさした彼女が運動をさぼるようになって自然消滅したのだ。

さらに、その反動か以前よりもさらに食べるようになったので体重も急上昇。あれだけこだわっていた80を軽々と飛び越し、今では3桁も目前といったところ。

季節は冬真っただ中。運動もせず、取材のため、執筆の息抜き、栄養補給と言い訳をつけ文の方から食べ物を欲するようになってきている。

もはや体型もくずれにくずれ、以前のすらりとした姿は想像もできないほど。まるまるとした頬と二重になりかけた顎からは以前の鋭さはみじんも見て取れず、大きな果実を仕込んだような大きな胸と、その下からせり出す大きな腹はシャツを引きちぎらんばかりに圧迫し、歪んだボタンとボタンの間からは肌が覗いている。たっぷりとせり出した下腹を押しとどめるスカートはパンパンに張りつめて、丸い輪郭ははっきりと見て取れる。以前の倍でも足りないほどに大きくなった尻から延びる足はずんぐりと太く、以前の引き締まった脚はたっぷりとした脂肪に埋もれてしまっている。まるまると太い腕でだんごを一つまみしては口に運ぶ文の姿にかつての幻想郷最速の面影はもはや存在しない。

(96kgか…)

最近の文は速度を出すどころか、長距離を飛ぶのもつらい様子。それでも一向に衰えぬ食欲と肥満化ペースを見せていた。以前は息を切れ切れにダイエットに挑戦する彼女と

それを甲斐甲斐しく世話する自分に充足と独占を感じていた。だが最近はそれ以上に罪悪感が椛に芽生えていた。滝のような汗を流して空を飛ぶ姿を見て、本来の射命丸文を

台無しにしているかのような気持ちを抱いてしまった。だから

(3桁で辞めよう)

と心に決めていた。だからせめて3桁になるまでは文を太らせよう。そこまでは自分に許されているのだと。

「この眼鏡もずいぶん使ったなぁ」

人里で文を待つ間、腰掛に座って眼鏡を眺めてみる。元より目が悪いわけはないから、眼鏡をはずしても困ることはない。眼鏡を脇に置いて道を行く人たちを

なんとなく眺めてすごす。

「ふぅ、椛、お待たせしました」

どっかりと文が椛の隣に腰を下ろす。まるまると肥えて太くなった腕には大量の団子の袋詰め。そして、彼女の尻の下には椛の眼鏡。

「ああっー!」

思わず声を上げてもすでに遅し。文の巨大な尻の下で眼鏡はぺしゃんこにつぶれていた。

しきりに謝られたが眼鏡は完全に破損してその機能を失っていた。それから、以前と変わらず文には差し入れを続けてはいるが体重を見ることはできていない。目論みではそろそろ3桁に達するころのはずなのに。太らせるのを辞めることができる頃合いなのに。眼鏡がないおかげで辞めることができない。

なにより…

(文さんが3桁越えになるのを見たかったのに!)

あれ?椛は自問自答する。自分はもう辞めたかったんじゃなかったのか。だから3桁で辞めようって。でも本当は…

気が付くと文の自宅の前で呼び鈴を鳴らしていた。のしのしと足音がして文がドアを開けると椛はそのまま玄関に押し入る。

「ねぇ、文さん。今体重いくつですか?」

「んなっ!」

文が衝撃を受けたようにのけぞる。

椛はするりと文の後ろに回るとその巨体を抱えるように手を這わす。大きな胸や腹、そして背中にいたるまで全身にたっぷりと肉が付いた文の体はマシュマロのように

柔らかかった。

「ちょっと、も、椛?」

突然の来訪と抱擁に当惑する文に椛が再度問いかける。

「今、体重は何キロです?」

椛が文の肉をもみしだく。

「えっと、ななじゅ」

「嘘ですよね。90kg以上はありますよね」

「うっ」

椛の手がまるまるとした下腹部へと伸ばし、せり出した腹肉を掬い上げるように持ち上げる。

「ちょっ、えっと!最近測ってない!測ってないから!!」

「じゃあ、今から測りましょう」

腹の贅肉をつかんだまま文を洗面所へ押しやる。ぶよぶよとした文の体に抱き着きながら床に置かれた体重計を目指す。

「え、ほんとに測るの!?」

困惑する文をさらに一押しして目方を問う。

「100kg超えました?」

文がビクッと体を震わせるものの、いつまで待っても答えはない。

「文さん?」

くるりと前へ回ると文の顔は真っ赤に染まっている。

「み、見えないのよ…もう、お腹が邪魔だから…」

椛が足元に目を向けるが体重計の数値はせり出した腹に遮られて確認できない。

しゃがみ込んで確認するとその数値は102.7kgを示していた。

「文さん、体重は102kg超えてました」

「なっ!嘘でしょ」

くらりとしながら体重計を下りる文。正面から見るとでっぷりとせり出した腹の迫力がすさまじい。

「もう、なんなんですか!いきなり来て体重測らせて、私もう恥ずかしくて」

丸々とした頬をさらに膨らませて文が抗議する。

「文さんがそろそろ100kg超えると思って」

「はぁ!?」

文が当惑の声を上げる。

「どうやら、私、文さんの体重を見るのが好きみたいです。」

「へ?」

「だから、ときどき文さんの体重見せて下さいね」

今度は正面から抱きしめる。大きな胸と腹につつまれる。

「も、もうなんなんですか。わけがわかりませんよ…」

事態が飲み込めないままの文だったが、椛のその手を振り払うことはなかった。

「あ、これおいしいですね!」

椛の差し入れに文が舌鼓を打つ。あれからさらに文は肥え、130を超えたあたりで体重計の針がまわりきって測れなくなった。さらにでっぷりとせり出した腹のおかげでそのシルエットは球に近く、横も縦も厚みがすさまじい。ダイエットも試みてはいるものの、ここまで太ってしまっては激しい運動もできず、摂取カロリーにまったく追いつくことができない。

「文さん、それとこれ…新しい体重計です」

椛が床に新しい体重計を設置する。

「い、いや、ほら。ここのところ変わってませんから!130から動いていませんし!?」

文の顔色がさっと変わる。椛はニコニコして文を促す。

新しい体重計が示した数値は、130を大きく超えて…

おわり

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Comments

Kzzzz(カシザ)

良きあやもみssでした……徐々に肥えてく感じが堪らないです