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夏の盛りにして、守屋神社の巫女、東風谷早苗は困惑していた。目の前の食卓には肉や魚がみっしりと置かれており、自分の手元にはどんぶりに山と盛られた白米が鎮座している。頭を巡らせども巡らせども、このごちそうの由縁に心当たりはなかった。

「えと、神奈子様?この料理は一体…」

おずおずと神社の主でもあり祭神でもある八坂神奈子に伺いを立てる。神奈子はにこりと笑うと料理に手を伸ばしその香りを味わう。神である神奈子にとって食事とはこれで十分。拠り所である信仰心さえ人々から捧げられてさえいれば物理的な食事は本来的に不要なのだ。つまるところ、目の前に広がる料理の数々は早苗一人のためにあるといえる。

「ついに蔵が一杯になってな」

料理を食卓へ戻し、神奈子は腕を組む。眉根を寄せたその表情からは困惑が読み取れる。

「信者たちからの寄進物を蔵に納めておったが、これ以上は入りきらぬ。もうしばらくすれば新米が奉納されることも思うと蔵を作っておかねばならん」

守屋神社は山頂に位置する。蔵を立てる余裕はない。

「だからといって、この量はとても…」

ふぅむ、と神奈子が息をつく

「河童たちに作らせた氷室も満杯でな。これ以上寄進があれば捨てざるを得ぬ。だがそんなことをが露見してみろ。我らへの信仰と信頼は地に落ちよう」

「うう、だからといってこんなに食べたら太ってしまいますよぉ」

「それよ」

神奈子がびしりと早苗を指して告げる。

「巫女とはつまり我らの代理人。それがあまり貧相な体格というのもいかがなものかと思うぞ。麓の貧乏神社を見よ。あの巫女の身なりこそ社の格そのものではないか」

麓の、とは博麗霊夢が巫女を務めるあの神社のことだ。

「いや、でも、これでも1キロくらいは太っちゃいましたし、これ以上は…」

早苗は自らの手を腰にまわす。きゅっと引き締まったウエストをつまんで脂肪の量を強調するが、はたから見れば皮膚をつまんでいるようにしか見えない。

「女性は多少豊満な方がよいと言うだろう?我らも折を見て天狗や河童たちへ下賜するように心がける。早苗も巫女の務めと思って、協力してくれ」

そう言うと神奈子は早苗の前に皿を差し出す。焼きたての魚の匂いが鼻をくすぐるとつられるように腹の虫が声を上げる。しぶしぶながら早苗はそれを受け取ると、目の前の料理との戦いを開始するのだった。

収穫の秋を前にして守屋神社の食糧庫は順調に空きを増やしていた。それと反比例するように早苗の体積は増加し悩みの種から大輪の花が開花していた。

「はっふっ…」

ジャージ姿で神社の周囲をランニングする。その足が日々を経るごとに重くなっていくのを実感させ気持ちを憂鬱にさせる。1歩進めるごとに、以前には感じなかった位置から肉が震える感触が伝わり否が応でも増量した事実を突きつけてくる。

「ふぃー、つっかれた~!」

走りを止めて境内にしゃがみこむ。ぽっこりと膨れたお腹が息を吸うたびに上下しているのがジャージ越しに見えている。腹に手を当ててぐっと押し込んでも思った以上にへっこまない。ぐにりとした柔らかい脂肪の感触が手につたわってくるばかりだ。

「…太ったなぁ」

事実、早苗は太っていた。以前はくびれていたウエストはもちもちとした脂肪に包まれてそのラインはだいぶ緩やかになりつつある。お腹はぽっこりとせり出し最近は如実にスカートがキツイ。それでも腹周りの成長が目立たないのはその他の成長が著しいおかげだ。

もともと大き目だったバストは大きく成長し上着を中から張りつめさせている。ジャージに包まれた下半身はヒップを中心に大きく肉がつき結果として太くなったウエストをもってしてもくびれのある女性らしいシルエットを保っている。やや過剰とはいえる肉付きではあるが、豊満なその体は神奈子の目論見どおり神社の権勢を示す豊かさの象徴として受け入れられているようだ。

(~ぐ~きゅるるる~)

腹の虫の催促が聞こえる。

「あぁ~お腹すいた」

最近は胃が大きくなったのか、以前の量でも苦しくない。むしろ余裕をもって食べきれるくらいである。そんな自分に一抹の不安を感じながらも食事の待つ炊事場へと向かうのであった。

食卓に並べられた料理に手をのばす。大きく口を開けて放り込み、白米で押し込むようにして胃に流す。皿が空いたら次の皿に手を伸ばし、同じように繰り返す。

「早苗、ストップ」

伸ばした腕が止まる。食卓の向かいに座る神奈子の一声だ。

「早苗、お前は十分立派に育ったよ。おかげで蔵にも余裕ができ我らの面目も立った」

「はぁ…」

「でだ、そろそろ”ちょうどよい”体格になったかと思うがどうだね?」

神奈子が言葉とその視線の先はもっちりと膨らんだその腹部に向けられている。そのふくらみは今流し込むように摂取した料理のせいだけではあるまい。

「わ、私もそろそろ…頃合いかな~と思ってたんですよ、ただ、ほら。お声がかからないから仕方なく…」

しゃべりながら顔に血が上るのを自覚する。

「私も自分が言い出した手前、なかなか伝えにくくてな。無理をさせたようですまなかった」

「い、いえ、滅相も…」

そこからの会話はあまり覚えていない。顔を真っ赤にしてしどろもどろになった早苗に神奈子がフォローをいれつつ、今後は食事を以前の量に戻すこと、無理に増量をしなくてもよいことをなど伝えるものの、真っ赤になった早苗はさいごの最後に小さく「はい」と言うのが精一杯だった。

今年の冬はいつになく大雪だった。ことに山頂にある守屋神社は大雪に閉ざされ参拝客といえば晴れ間を縫って顔を出す天狗たちがわずかにいるくらい。もっとも、秋のうちに十分な食料を貯めこんでおいたおかげで生活には支障はない。唯一の不満といえば日々ダイエットに使おうと思っていた境内に雪がつもり運動がままならないことくらいだ。

「あ~あ、こんな雪が降らなければダイエットも進むのにな~」

こんもりと雪の積もった境内を眺めながら早苗はため息をつく。

「ダイエットなら雪かきでしちゃってもいいんだよ~」

背後から早苗の半纏の下から手が回される。外気で冷えた冷たい手が早苗の腹の肉をつかむ。

「ひゃっ!」

そのまま肉をつかみ、むにむにとこねりまわす。

「早苗~、また太ったんじゃないの~?両手を回しても手が届かないよぉ?」

「す、諏訪子様!や、やめて下さいっ」

早苗が諏訪子の手を振り払うとぶるりと腹肉が震えてスカートがずりさがる。

「だって、痩せる痩せるといいながら、どんどん丸くなっていくんだもの」

守屋神社のもう一人の祭神、守屋諏訪子が笑う。小さな子供のような姿をしているが、神奈子と並ぶ古く強大な神の一柱である。

「そ、それは…」

ずり下がったスカートに腹肉を押し込みながら早苗の目が諏訪子の視線を逃れようと宙を泳ぐ。

「わ、私も痩せようとは思ってるんですよ!思ってるんですけど、その…」

早苗の言葉に嘘はない。確かに痩せよう、痩せたいとは思っている。事実、神奈子に釘を刺されたときには心からそう思った。

だが、成長した胃袋が言うことをきかないせいで、どうにも結果に結びつかないだけだ。それに秋は食べ物がおいしい季節でダイエットに不向きだし、冬になったら大雪で運動もしにくいし何より寒いから動きたくないからダイエットに向いていないだけだ。おかげで早苗の体は以前よりさらに丸みと厚み、そして重量感にあふれたものになっている。大きな胸と尻のおかげでかろうじてくびれたシルエットだったのも今は昔、成長著しい腰回りのおかげでまるまるとしたシルエットに変貌。胸は大きく張り出してメロンを詰めているかのよう。その下のお腹は太鼓のようにせり出して、秋に仕立て直した巫女服を押し上げてつぶれた臍を隠そうともしない。それを支える下半身は相応に太く、太もも一つで

以前の彼女のウエストほどはあるだろう。以前は女性らしい、と評されたその体は雪だるまのようにまるまると肥えていた。

「まぁ気持ちだけじゃね~」

諏訪子がケケケと笑う。

「これ、もらっていくよ~」

早苗の袖に入れておいた干菓子を手した諏訪子が悠々と去っていく。早苗はそれを見送るとためいきをひとつ。

「はぁ…」

もう片方の袖に入れておいたまんじゅうを口にして傷心を癒すのだった。


早春を迎えた守屋神社で早苗は困難に直面していた。

「うぅっ!これもきっつ」

計画では春には最低でも秋ごろの体型まで痩せているはずだった。それがむしろ冬の間に増量を重ねてしまい、入る服すらなくなりそうだ。

増量を重ねた早苗の顔は丸く顎は二重。腕はたっぷりと太く動かすたびにふりそでのように踊る。巨大な胸と太い腕が押し込まれた上着はパツンパツンに張りつめて

袖口や裾はみっちりと脂肪で詰まっている。でっぷりとそだった腹はもはや覆うものはなくスカートの縁から盛大にこぼれおち、スカートはこれ以上こぼすまいと

せり出す下腹を必死に押しとどめている。太くなりすぎた脚が動くたびに一方へ干渉し、動きにくいことこの上ない。

なんか贅肉を服のうちに押し込み、姿見で確認すると人生で見たこともないほど太った少女が立っていた。

その事実に憂鬱になりかけるも、落ち込んでばかりはいられない。本格的に春を迎える前に少しでも肉を落とさなければ。

そう思うと重い体を引きずって外へ駆け出していった。

ところどころに残る残雪を見下ろしながら早苗は空を飛んでいた。しばらく走ったりしてみたもののあっという間に息が切れ汗が吹き出して立ち止まる。

ならば走る代わりに飛べばよい。急に走るとほら、膝とか負担かかるし、ね。ということで空中散歩に切り替えた。これで痩せるかどうかはわからないけど効果あるんじゃないかな。たぶん。

眼下に広がる景色とほほを撫でる風が火照った体に心地よい。もうしばらく飛んでから戻ろうなどと考えていると、

「た、助けてくれ~~!」

悲鳴とともに助けを求める声が耳朶を打つ。声の方に目を向けると熊に追われる人間が2人。山菜籠を放り出して一目散に駆けていくが熊の方がまだ速い。

追いつかれるのも時間の問題だろう。早苗はぐいっと力を込めると追われる山菜取りたちの方へ飛翔する。脚がもつれて転んだ山菜取りに熊の爪が振り下ろされるその瞬間、突風が熊を打ち据える。

「さあ!早く逃げて!」

青ざめたままの山菜取りに早苗は声をかける。山菜取りと熊の間に割って入ろうと体勢を整えようとし

「って、あれ!?ちょっ!!」

止まらない。以前に比べて大幅に増量した体を全速力で加速させたのである。その慣性は以前の比ではないのだ。

雷が落ちるような轟音と土埃が舞う。

しばしして我に返った山菜取りが目にしたのは熊を押しつぶすようにして伸びた巫女の姿だった。

「いやいや、今日も大盛況だぞ。早苗」

神奈子は上機嫌で参拝客の列を眺める。早苗はといえば「不本意です!」とぷりぷりしている。山菜取りたちに割って入った早苗は、幸い熊と厚い脂肪がクッションとなったおかげで擦り傷程度で済んだ。伸びた早苗を山菜取りたちがなんとか里まで運びこみ

目を覚ましたころには「巫女の熊潰し」の武勇伝は里中にひろがっていた。

「こんなのかっこ悪いじゃないですかぁ」

早苗は机におかれたまんじゅうに手を伸ばす。おおきなまんじゅうは白と黒糖の二つ一組となっており黒糖饅頭の上に白い饅頭を重ねて置くのが正しい飾り方とされている。もちろん、白は早苗、黒糖は熊の見立てである。よくよく見ると白の方が黒糖より一回りほど大きいのが心憎い。

「まぁまぁ、あらたな名物誕生ということで、な」

神奈子がフォローするが早苗は不満げなまま饅頭を平らげる。よく見るとまた一回り肥えたように見える。白い饅頭が小さくなるのはまだまだ先だなこれは、と思うと、大きく丸い自らの巫女の頭をやさしく撫でるのだった。

おわり。

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