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「不当労働監視局所属の潜入調査官、通称ブラック企業Gメンの入江勇子《いりえ ゆうこ》さん……」  アームバインダーと呼ばれる厳重拘束黒で腕を拘束され、革ベルトで台車に縛りつけられた私を見下ろし、松黒《まつくろ》産業常務取締役、松黒伊奈美《まつくろ いなみ》が口を開いた。 『松黒産業という会社が、若い労働者を使い捨てにしている』  その通報を受け、開始した潜入調査は、早々に失敗した。 「そもそも、わが社が労働者を使い捨てにしているというのが、大きな間違いです。あなたたちの組織に、調査に入られるいわれはありません」  そう。松黒産業が、労働者を使い捨てにしているわけではなかった。  この会社がしていることは、もっと悪辣だった。調査に入るべきは、私たち不当労働監視局ではなく、警察であった。 「潜入調査のためとはいえ、あなたは一応、わが社に採用された契約社員。社則にのっとり、会社に仇なす不良社員として、廃棄処分とします」  松黒産業は労働者を使い捨てにしているではなく、廃棄処分にしていた。  いや、正確には、廃棄しているわけではない。廃棄した体で、地下組織に売り渡しているのだ。 「容姿はまずまず。ブラック企業Gメンという付加価値もある。オークションにかけたら、どれくらいの値がつくかしらね?」  そう言って松黒常務が目配せすると、傍らに控えていた秘書が、廃棄社員用全頭マスクを私に被せた。

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