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 国指定公認ヒトイヌ。その制度ができたのは、今を遡ること20年前。  はじめは動物愛護の観点から、本物の犬の個人飼育が禁止されたことがきっかけだった。  ペットの個人飼育が禁止されても、身寄りのないお年寄りや心に傷を負った人など、ペットの犬を必要とする人がいる。  そこで生まれたのが、公認ヒトイヌ制度だ。  公に認められた指定ヒトイヌ店が、職業としてヒトイヌになる道を選んだ人に訓練を施し、ヒトイヌの設えを整えて、本当に必要とする人のもとに届ける。  その穏当な制度が様変わりしたのは、公認ヒトイヌ制度がすっかり定着した頃。  数十年にわたる経済の衰退により、ヒトイヌになる道を選ばざるを得ない若者が急増したせいだ。  それにより、ヒトイヌ業者が乱立。また供給過多になったことで、本当にペットを必要としていない、興味本位でヒトイヌを飼おうという人にも届けられるようになった。  そうなると、今度はヒトイヌが足りなくなる。  ヒトイヌになることを希望していない者まで、悪徳業者の罠に嵌められ、ヒトイヌに仕立てられるケースが増えた。  こうなると、もうヒトイヌは奴隷も同然である。  しかし当時の行政府はこれを規制せず、かえって容認する姿勢を取った。  結果、国指定公認ヒトイヌは、その実態を奴隷制度に変容させつつ、現在まで続いている。 「でもね、ウチはそういう仕事はしたくないの」  アルバイトの私にヒトイヌ業界の現状を説明し、社長があらためて口を開いた。  社長は、田中ヒトイヌ店の2代目である。  初期ヒトイヌ制度時代に起業した先代、祖父から事業を引き継いで5年めのアラサーお姉さんだ。  事業のみならず先代の頃からの精神を引き継ぎ、非道な行為はしないとが、彼女のモットーである。 「とはいえ今は、職業として自らの意志でヒトイヌの道を選んで入ってくる子はほとんどいなくてね……」  社長が言うように、公認ヒトイヌが実質的に奴隷制度になってから、高い職業意識を持ってヒトイヌになる者は少なくなった。 「だから、この子も買ってきた子ではあるんだけれど……」  今日出荷するヒトイヌをチラリと見て、社長が小さくため息をついた。  とはいえ、社長は件のヒトイヌに、きわめて丁寧に訓練を施した。  ほかの業者の訓練が、奴隷調教とも呼べる非道なものになっているのに。あるいは、ろくに訓練をせず出荷する連中もいるのに。  社長は、先代からの伝統的ヒトイヌ訓練を行なった。  そのことは、彼女をサポートしてきた私もよく知っている。  だがそれは、奴隷として売られ、ヒトイヌ候補として買われた子にはわからないこと。  それゆえ、配達用の車に積み込まれてからも、社長や私に憎しみの視線を向けてくる。 「でもね、私たちを憎んでくれるほうがいいの。そのぶん、新しい飼い主の優しさが、彼女の心に染み込みやすいから」  そう言う社長が選んだ出荷先は、先代からのお得意様。うちの店で買ったヒトイヌを、家族同然にかわいがっている老婦人だ。  そんなお客さまが、ヒトイヌ飼育が認められる年齢に達したお孫さんに、クリスマスプレゼントとして買ったのが、赤と緑のヒトイヌスーツを着せられたこの子である。 「それじゃ、行きましょうか」  古ぼけた配達車のテールゲートを閉め、社長は私に憂いを含んだほほ笑みを見せた。

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KAGA

誘拐タイプと悪い結末(Bad End)の作品をもっとお願いします:D

masamibdsm

ありがとうございます。bad endの基準は人によりまちまちですが、昨今の規約上の情勢にも鑑み、ヒロインにとって一定の救いのある作品を心がけております。