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前編 特殊監獄と特殊ラバー囚衣  黒百合商事で、女性社員が虐待されている。  その情報が、労働調査会社の調査員、遠智媛子《おち ひめこ》の元に寄せられた。  労働調査会社とは、労働問題を所管する役所の委託を受け、労使双方からの聞き取りや、場合によっては潜入調査を行なう民間組織である。  試験的に導入されたのが、今から15年ほど前。以来着実に実績を上げ、数年前に全国的に導入された。  そんな労働調査会社に高校を卒業した媛子が就職したのは2年前。当初は調査官ではなく、事務社員のしての採用だった。  ところが1年後、所属する労働調査会社が買収された直後、媛子は調査員に任命された。  新しい持株会社の方針により、近年急増している若年層の不当労働被害の調査を強化するのに、若い調査員の増強が急務とがその理由だった。  その後1年間、定年間際のベテラン女性調査員の下で経験を積み、彼女の情報網を引き継いで、媛子は調査員としてひとり立ちした。  その情報網のひとつからもたらされたのが、件の情報である。 「黒百合商事が……まさか、あの黒百合商事ですよ?」  潜入調査を申し出た媛子に、はじめ女性課長は、信じられないといった反応を示した。  とはいえ、それは当然の反応だろう。  黒百合商事は、女性正社員にとって、超ホワイトな優良企業と広く認識されている。  社長以下、経営陣は全員女性。管理職もほとんど女性。それだけに、福利厚生も含めて女性社員が働きやすい環境が整えられている――とされていた。 「ですが……」  寄せられた情報によると、それはあくまで正社員にかぎってのこと。充実しているとされる福利厚生も、正社員以外の従業員の犠牲の上に成り立っている。 「にわかには信じられませんが……」  いまだ半信半疑の課長だが、媛子はその情報が信頼できるものだと考えていた。  ベテラン調査員の下で1年、ひとり立ちしてからわずか数ヶ月の経験で、調査員の勘などと口にするのはおこがましいかもしれない。  だが媛子には、なぜか自分の直感が正しいという確証があった。  それでしつこく食い下がる媛子に根負けし、課長は渋々潜入調査を許可した。 「ありがとうございます。それではさっそく、潜入のための工作を開始します」  喜び勇んで課長室をあとにした媛子は、知らなかった。  彼女が退室したあと、課長が焦ったようすで電話をかけ、小声で話していたことを。 「遠智媛子さん……」  おどおどしたようすのOLに案内された面接室、履歴書を一瞥し、スーツ姿の女性が媛子を見た。 「人事部主任の佐渡です」  傍らに控えるショートボブのOLとは対照的に、堂々とした態度の佐渡主任が口を開く。 「問題ありません。本日付けで、当社の性社員として採用します」 「えっ……正社員? たしか、募集は契約社員だったはずでは?」 「ええ。ですから、契約の性社員です」  正社員と性社員。会話だけでは漢字の違いがわからず、とまどう媛子。  しかし佐渡主任に促されたOLが雇用契約書を媛子の前に置いたとき、彼女のとまどいはさらに大きくなった。 「せ、性社員……って?」 「そうです、性社員。わが社独自の制度で、性奴隷として、正社員に絶対服従で奉仕する契約社員のことです」  耳を疑うような事実だった。  とはいえ、これが冗談などではなく実際にある社内制度なら、とんでもない法令違反だ。 「そ、それは……ほんとうのことですか?」  その確認のため、媛子があらためて訊ねると、佐渡主任が不敵に嗤った。 「ええ、ほんとうのことですよ。民間労働調査会社の調査員、遠智媛子さん」  言われて、ドキリとした。  はじめから、正体を見抜かれていたのか。それならなぜ、重大な法令違反を隠すのではなく、自ら語ったのか。  まったく、わからない。  わからない、が――。 「性社員として採用されてすぐで申しわけありませんが、貴女には出向していただきます……」  佐渡主任の言葉の途中で、腰のあたりになにかが押し当てられた。  刹那、バチッと衝撃。 (これは……スタンガン!? まさか、あの気弱そうなOLが!?)  かろうじてそうと理解した直後、媛子は気を失った。 「わが社の別部門が経営する、民間特殊監獄へ」  その言葉を、薄れゆく意識のなかで聞きながら。 「ッ……ッ!?」  強烈な衝撃に目を剥いて叫び、媛子は目覚めた。 「ッ、ッ、ッ……」  衝撃の余韻に苦悶しながら、呼吸を整える。 「ご気分はいかが?」  そこで、ひとりの女が媛子の顔を覗き込んだ。 「電撃警棒で文字どおり叩き起こされて、気分いいわけがないかしらね?」  その言葉で、今しがたの衝撃の正体を知るとともに、抑えようのない怒りが込み上げてきた。 「……ッ(これは)、……ッ(どういうこと)ッ!?」  しかし、思わずあげた声は、まったく言葉にならなかった。言葉どころか、音にもなっていなかった。  手足に力を込めても、腕も脚もピクリとも動かせなかった。 「うふふ……無駄よ。抵抗は諦めなさい」  白衣に黒縁眼鏡の女がそう言った直後、視界が闇に包まれた。 「監視カメラの映像を、このモニターに映してあげる。それを見て、わが身の状況を確認なさい」  その言葉の直後、視界が復活した。  しかしそれは、あきらかに自分自身の目で見た映像ではない。  奇妙な形の椅子に座らされた、オレンジ色と白に色分けされた光沢ある素材の全身スーツを着た若い女性。その頭部には、顔部分が黒いバイザーに覆われたヘルメットが被されている。  顔がまったく見えないのに、その人物が若い女性だと思ったのは、スーツが身体の線を再現するように、肌にぴっちり貼りついているからだ。  そのうえで、女性は椅子に拘束されていた。  手のひらを覆うミトンの先端のリングを肘掛けの先端に金具でつながれ、腕は手首と前腕部をベルトで縛りつけられている。  胴体は胸とお腹で、背もたれのベルトを締められている。  脚は太ももを座面に、脛と足首を座面から90度に折れ曲がった足乗せ部分に、左右別々に拘束されている。  厳重に拘束された、ヘルメットの黒いバイザーとスーツのお腹の白い部分に、『203』と書かれたその女性は――。 「まぎれもなく貴女よ、遠智媛子さん。もっとも、ここではこの先、貴女は203番としか呼ばれないけれど」  愕然とする媛子に告げて薄く嗤うと、女が名乗った。 「民間特殊監獄の主席囚人管理官、伊東よ」  そうだ、民間特殊監獄。気弱そうなOLにスタンガンで失神させられながら、佐渡主任の口からも同じ言葉を聞いた。 「まずは、民間特殊監獄について、説明したほうがいいかしらね?」  それは要するに、主に若年層の重犯罪者を対象とした、民間の刑務所である。 「初期の労働調査会社と同じように、今年度から試験的に運用が開始された新制度。その試験囚人として、当監獄と経営母体を同じくする黒百合商事性社員として採用された貴女が、派遣されてきたというわけ」  違う。派遣などではない。スタンガンで昏倒させられ、おそらくその後催眠剤を投与され、意識のないまま運ばれてきたのだ。  しかし、そうと訴えることはできなかった。  椅子に厳重に縛りつけられた身では、逃げだすこともできなかった。  そんな憐れな媛子に、白衣と眼鏡の女――伊東管理官が冷たく告げる。 「すでに貴女の収監手続きは終了し、ただひとつの装具を残し、特殊囚衣の着つけも終わっています。まずは着用済み囚衣の説明をしていきましょう。まずは、このスーツ」  そう言うと、伊東管理官が媛子の肩に手を置いた。 「一見、光沢剤を塗り込めたラバーのようなこの素材は、もともと軍用として開発されたもの。高い防刃性能を持ち、ナイフでも切り裂ことは不可能。それでいて、伸縮性と最低限の通気性もある優れた素材だけど、この光沢が軍用としては目立ちすぎるということで、不採用となったものよ」  次に伊東管理官の手は、媛子の首に触れた。 「この首輪部分は、内部に鋼板が仕込まれ特に強化されている。リングにハーネス接続してつないでおけるし、ヘルメットとの接続機能も兼ねているわ」  それから伊東管理官は、肩に置いた手を手首のあたりへと移動させた。 「スーツと一体式のミトンは、内部で指が分かれている構造。手のひらにものを載せたり、指を曲げて引っかける程度のことはできても、道具を持っての作業は不可能。加えて先端のリングを使い、腕を拘束することも容易にできる」  そして、伊東管理官はいったん手を離し、媛子の前方に周り込んで足に触れた。 「足のブーツもスーツと一体式。ハイヒールの踵部分は鋼製で、ミトンの先端同様に拘束用リングが設えられているわ」  そこまで言うと、伊東管理官は再び立ち上がり、媛子のヘルメットに手を置いた。 「特殊囚衣のなかでも、このヘルメットがもっとも重要な装具のひとつ」  そこで視界が、監視カメラの映像から媛子視点のものに切り替わった。 「バイザーの内側には3Dモニターが設えられていて、表面に取りつけられたカメラで撮影した映像をリアルタイムで見せることもできるし、別のカメラや録画の映像を転送することもできる。もちろん、すべての映像を切って視界を完全に遮断することも可能よ」  そのバイザー上のカメラが捉えた映像のなかで、伊東管理官の手がヘルメット側面に移動した。 「聴こえている私の声も、貴女の耳に直接届いているわけじゃない。内部のマイクで拾った音を、耳孔内に挿入したイヤホンから流しているの。もちろんモニター同様、別の音声を聞かせることも、完全な無音にすることもできる」  そして手はそのまま、ヘルメット上を上方に移動。 「耳の装置と一体式のここに、懲罰装置用電波受信機があるの。さっき送った映像も、ここで受信していると言うわけ。そして、次がこのヘルメットの、もっとも残酷な機能……」  伊東管理官はそう言うと、眼鏡の奥の目を細め、手をバイザー上に移動させるとともに、媛子の視界を再度切り替えた。  眼鏡のフレームに小型カメラが仕込まれているのか、伊東管理官視点の映像の真ん中には、ヘルメットのバイザー。 「ここに大きいものがひとつ、小さいのがふたつ、穴が空いているでしょう?」  視界のなかで、白い指が大きい穴の縁をなぞった。 「どうなっているか、わかる?」  わからない。開口を強制されたまま口を閉じられず、顎がだるいことと関係あるのか。 「大きい穴は、口中のマウスピースつき硬質樹脂菅につながっている。それは口中に留まらず、喉の奥、食道まで深く挿入されているわ」  恐るべきことを告げながら、伊東管理官の指はふたつの小さい穴へ。 「こっちの穴は、鼻孔に挿入されたチューブの出口。口の管と同じように気管にまで達しているだけじゃなく、気管入り口とチューブの隙間を、生体用パテで塞いでいるの。喋ろうとしても音すら出せないのは、声帯がチューブでバイパスされ、空気を通過させて震わせることができないから。そして……」  小さい穴の上、今は緑色のLEDが灯っている窪みを差した。 「これが、懲罰装置のひとつ、呼吸制御装置。専用制御端末を操作することで……」  伊東管理官がそう言った直後、LEDが黄色に変わった。  それから、わずかばかりの息苦しさを覚え始める。 「今が、呼吸規制。身体各データを監視しながら、チューブを通過する空気を、安静にしていてギリギリ生きていける量に制限している状態。さらに……」  そこで、LEDが赤になった。  刹那、空気が吸い込めなくなる。 「……ッ!?」  一瞬パニックに陥りかけたが、すぐLEDが緑に戻り、呼吸も回復した。 「今のが、呼吸を完全に遮断した状態。私たちとしてもこれは基本的に使いたくないから、脱走を企てたり反抗したりせず、おとなしく素直にしていてね」  伊東管理官がそう告げると、また視界がバイザーカメラのものに切り替えられた。 「現在すでに取りつけられている装具の説明は、これで終わり。もう充分、絶望できたかしら?」  正直なところ、絶望するには至っていなかった。  それは媛子が、抜群に強い精神力を持っているからではない。  たしかに調査官としての覚悟はできているつもりだが、その経験は1年と少し。なにごとにも動じないほどの精神力は、いまだ獲得できていない。  また、伊東管理官の言葉の意味がわからず、わが身の状況が把握できていないわけでもない。  彼女が絶望に至っていないのは、現状を正確に把握しつつも、いまだその状況に愕然とすることしかできていないから。  いわば、まだ把握はできても、理解が追いついていない状態。  そしてそのことは、伊東管理官にはお見通し。憐れな犠牲者に強制的に理解させるため、経験豊富な彼女は、最後の装具を残していたのだ。  その最後の、かつもっとも残酷な装具が、バイザーのカメラの前にかざされる。カメラに写された器具が、バイザー内部のモニターを通して、媛子に見せつけられる。  全体の形としては、夜用ロングの生理ナプキンに近い形。球体から切り出したような湾曲した金属板の内側に、使徒不明な3つの突起がある。 「どこに着けると思う?」  視界のなかで伊東管理官が薄く嗤った直後、彼女の手が股間に触れた。 「……ッ!?」  特殊囚衣の膜ごしではなく、直接触れられたような感触。これまで気づかなかったが、そこだけオープンになっていたのだ。  だとすれば、見せられている装具が取りつけられる場所は――。 「ッ(ひっ)……!?」  凶悪な3つの突起がどこに収められるのかを考え、おののいてあげた悲鳴は、音声にすらならなかった。 「ッ(やめて)……!」  厳重に拘束された身では、装着を拒否することはできなかった。 「うふふ……」  伊東管理官がいじわるく嗤った直後、椅子の背もたれが倒れ始めた。 「ッ(なにをするの)……!?」  音にすらならない声に答えがあるわけもなく、背もたれが倒れるのに連動して、座面と足乗せが左右に分かれながら傾いていく。  そして椅子の変形が終わったとき、媛子は大股開きの姿勢を取らされていた。  そんな媛子の前に椅子を置き、伊東管理官が腰を下ろす。  おそらく、オープンの股間が、彼女の顔の正面にある状態。  恥ずかしい。  だが、羞恥の姿勢から逃れることはできない。  悔しい。  しかし、屈辱に耐えるしかない。  加えて、そうと口にすることも不可能。  みじめ極まりない状態の媛子に見せつけるように、伊東管理官が医療用の薄いゴム手袋を嵌めた。 「うふふ……」  そこでもう1度嗤い、金属製の股間装具をいったん解体した。  3つの突起のうち、両側のふたつ。外側がノズル状になった細い金属製フレキシブルチューブと、直径が5センチはあろうかという極太の金属筒を、湾曲したプレートから外す。 「尿道用排泄管理器具よ」  それから伊東管理官は、中央の突起だけが残ったプレートと極太筒を置き、細いノズル付きチューブをバイザーカメラの前にかざして告げた。 「フレキシブルチューブを尿道に挿入。膀胱に達した先端のバルーンを膨らませて固定し、外部に尿が漏れなくする。装着固定後はノズルを90度回すことで内部のバルブを開閉できるけれど……今の貴女の手じゃ無理ね」  残酷なことをサラリと言ってのけ、薬品のチューブから絞り出した透明なジェルを、器具に塗り込める。 「これは、塗布式麻酔剤。ほかの感覚は生かしたまま、痛みのみを遮断するうえ、潤滑剤の役割を果たす優れものよ。私は看護師の資格もあるし、手技には自信を持っているけれど……まぁ念のための処置ね」  言われた直後、媚肉の直上に冷たいものが触れた。 「ッ(ひっ)……!?」  短く声にならない悲鳴をあげながら、尿道口にも塗布式麻酔剤が塗られているのだと気づく。  そのとき、尿道口を異物が押し広げた。 「ッ(あ)……ッ(あ)……」  猛烈な異物感。  塗布式麻酔剤の効果もあり痛みはないが、金属製のフレキシブルチューブが尿道に押し入る感触は異様なものだった。  同時に、異物感のなかに、快感の予兆のような感触も生まれていた。 (どうして……?)  そんな感覚を覚えるのか。  それは、陰核《クリトリス》の根っこが、尿道の周囲に存在するからである。尿道を硬い金属が押し広げられるせいで、そこが緩く刺激されてしまうのだ。 (なぜ……?)  こんな究極の緊張状態で、快感の予兆を覚えてしまうのか。  それは、オトナのオンナの本能が成せる業である。加えて生存本能も、緊張状態による極度のストレスから、逃れようとしているからである。  精神の逃げ込む先として、オンナを酔わせる性の快楽は、ある意味で最適だ。  とはいえ、媛子はそのことを知らない。気づかない。  知らず気づかないまま、侵入が止まる。先端が膀胱にまで達したのだろう。  伊東管理官がハンドポンプを器具に接続した。 「うふふ……」  薄く嗤い、伊東管理官の手がポンプを握る。  1回、2回、3回。ポンプが握り潰されるたび、体内で圧迫感が増す。  そして、押しても引いても器具が動かなくなったところで、尿道用排泄管理器具の装着が完了した。  続いて装着されるのは、極太の筒か。あるいは真ん中の突起が残ったプレートか。  いずれにせよ、きわめて残酷な代物だ。  特にもともとの位置からして、肛門用であろう筒は、直径5センチ以上。とうていそこに挿入できるとは思えない。  恐れる媛子に極太筒の器具を見せつけながら、伊東管理官が口を開いた。 「こんなの入らない。そう思ってる?」  あたりまえだ。入らないし、無理に入れたら、肛門は壊れてしまうだろう。 「でも人の肛門って、括約筋を弛緩させれば直径10センチくらいには拡がるのよ。もちろん個人差はあるけれど、この器具程度なら楽に挿入できるわ」  信じられない。  だが伊東管理官は、入ることを前提に準備を進めていく。  先ほどと同じ塗布式麻酔剤を指に取り、肛門に塗り込め始める。  どことなく、いやらしい手つきで。ときおり、窄まりの中心をキュッと押しながら。  その行為が、そこにも妖しい感覚を生み始めた。  個人差こそあれ、人は誰しも肛門周辺に性感帯を持っていることを知らない媛子は、肛門で快感を覚えることにもとまどう。  そのときである。  肛門近くに、プツリとなにかが刺さった。  だが、痛みはない。 「……ッ?」  音声にならないとまどいの声をあげたところで、もう1度プツリ。 「今、括約筋に局所弛緩剤を注射したわ。麻酔剤のおかげで、痛みは感じなかったでしょうが」 「ッ(えっ)……?」 「なぜ弛緩剤を使うのかわからない? さっき教えたはずだけど?」  言われて、思い出した。 『人の肛門って、括約筋を弛緩させれば直径10センチくらいには拡がるのよ』  つまり、肛門括約筋を弛緩させたうえで、極太筒の器具を挿入しようとしているのだ。  そのことを拒絶する術《すべ》のない媛子の肛門への、潤滑剤を兼ねた塗布式麻酔剤の塗り込めは続く。  いやらしくも艶かしい手つきで塗り込められるほどに、ムズムズとした肛門性感の兆しが強くなる。  それがほんとうの快感になりかけた頃、肛門に指が挿入された。 「……ッ!?」  驚き、慌てて括約筋を引き締めようとしても、すでに弛緩剤が効果を発揮しており、力を込められなかった。  潤滑剤を兼ねた塗布式麻酔剤の助けも仮りて、痛みも抵抗もないまま、挿入された指はズブズブと、ズブズブと。ズブズブ、ズブズブと。  そこで、おかしいと感じた。  指にしては、長すぎる。 「うふふ……もう私の腕が途中まで入ってるわよ?」 「ッ(えっ)……!?」  言葉の真偽を確かめられないまま、挿入されていた物体――おそらくほんとうに伊東管理官の腕が抜き取られる。 「ッ、ッ……」  ひときわ強くゾワリと妖しい感覚が駆け抜けたところで、これまでと違う硬いものが肛門に押し入ってきた。  間違いなく、極太筒の器具だ。  それがまったく抵抗感なく、あっけなく挿入されてしまった。  その器具を片手で押さえたまま、もう一方の手でハンドポンプが接続される。  1回、2回、3回、もっともっと、くり返し。ポンプが押し込まれるたび、お尻の中で圧迫感が増していく。  それからポンプの差し込み位置を変え、さらに空気を注入。 「肛門用排泄管理器具に備えられたバルーンを内と外で膨らませ、肛門を挟み込んでいるの。弛緩剤の効果が切れて括約筋が器具を食い占めれば、中身はけっして漏れなくなるわ。尿道用の管理器具と同じく、レバーひとつで開閉して排泄できるけれど」  それは誰か他人の手を借りれば、ということも含めて、尿道用と同じということなのだろう。先端に金属製リングが設えられたミトンの手では、細かい作業はできないのだから。  ともあれそれで肛門用排泄管理器具の装着も終わり、いよいよ真ん中に突起のある金属プレート。  その平均的な男性器サイズの突起を最後の穴、媚肉の奥に挿入するため、塗布式麻酔剤を手に取りかけて。 「あら?」  伊東管理官が手を止めた。 「あらあら、ここはもう、潤滑させる必要はないようね。肛門の揉みほぐしで、感じちゃった?」  それを、媛子は否定できなかった。  物理的に声を出せないというだけでなく、肛門で快感を覚え始めていた自覚があったからだ。 「貴女、アナルマゾの資質がありそうね。黒百合商事の佐渡主任あたりに、性社員として飼われていたら、ここに来るよりずっと幸せだったかもしれないわね」  自分を罠に嵌めた憎き敵の名を聞き、ほんの少しだけ調査員らしい思考力を取り戻す。  性社員。佐渡主任の口からも聞かされた言葉だ。  飼われる。性社員とは、正社員に飼われるような立場なのだ。  そんな違法な行為が公然とまかり通っている会社が、なぜ世間には超ホワイトな優良企業と認識されているのか。 (そこには、なにか裏が……それになぜ、私の正体が彼女にバレて……)  しかし、考えられたのはそこまでだった。 「それじゃ、特殊囚衣を仕上げるわ。尿道と肛門の排泄管理器具を押さえて固定する、電撃および振動ディルドつき金属プレートを装着」 「ッ(えっ)……ッ(電撃?)、ッ(振動)……?」  音にすらならない疑問に答えが得られるわけもなく、金属製の突起――ディルドが、媚肉をヌルリとかき分けた。  刹那、蕩けるような快感。 「ッ(あっ)……」  思わず声を出してしまうが、その艶声も音にはならなかった。  ヌルリヌルリと、金属製ディルドがゆっくりと侵入してくる。  見た目のサイズより大きさを感じるのは、肛門に巨大な器具を挿入されているからだろうか。  肛門内部とオンナの穴は、薄い肉壁1枚を隔てて隣接している。巨大な肛門用排泄管理器具に圧迫され、ふだんより肉壺が狭くなっているのか。  ともあれ、金属製ディルドの存在感は凄まじい。  こんな状態で――前後の器具と電撃および振動機能つき金属製ディルドに3穴を支配され、大小の排泄を管理されて、過ごさなくてはいけないのか。  いや、支配されているのは、3穴だけではない。特殊囚衣に、媛子は全身を支配されている。  管理されているのは、排泄だけではない。特殊周囲で、媛子は五感を管理されている。呼吸をする権利も含めて、あらゆる自由を制限されている。  そのことを心の底から実感し、絶望したところで――。  カチリ。  金属どうしが噛み合う音とともに、特殊囚衣の装着が完了した。 

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