競売奴隷の末路 (Pixiv Fanbox)
Published:
2022-02-11 09:00:00
Imported:
2022-05
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黒城珠貴《こくじょう たまき》
私、樹咲美玖《きさき みく》がその名を競売奴隷リストのなかに見つけたのは、10日ほど前のことだった。
はじめ、同姓同名の他人かと思った。プロフィールを見て、黒城珠貴その人であると知った。
珠貴は、私の同級生だった。
黒城家は、私が住んでいた地方では随一の資産家である。とはいえ、珠貴は小中学校と、地元公立校に通っていた。
そういう教育方針だったというわけではないだろう。きっと私と珠貴が住んでいた田舎町には、選ばれた名家旧家の子女だけが通うような、名門私立校がなかったというだけのことだ。
その公立校で、珠貴は輝いていた。
それはただ、黒城家の令嬢だからというだけの理由ではない。
小学生の頃から、彼女の美貌は際立っていた。中学に上がる頃には、周辺の町にも評判が広がり、他校の男子が見にくるほどだった。
そして、珠貴が秀でていたのは、その容姿だけではなかった。
テストの成績は、常に学年でトップの優等生。しかもいわゆるガリ勉タイプではなく、スポーツもそつなくこなす。さらにそれら美点を鼻にかけることもなく、周囲の人全員に分けへだてなく接する。
そんな珠貴の後塵を拝し、私の成績は万年2位。たった1度だけトップを取ったことがあるが、すぐ抜き返された。
容姿にも自信はあったが、珠貴の前ではまったく目立たなかった。彼女より私のほうが好きだったという男子は、いわゆる『マニア』に属するタイプだろう。
私の家も地元では名の通った会社を経営していたのだが、黒城家とは格が違った。うち程度の会社を、珠貴の家は複数所有している。
(珠貴さえいなければ……)
私はもっとチヤホヤされるのに。
そう考えたことは、1度や2度ではない。
(なんとかして、珠貴を……)
みじめな境遇に貶め、溜飲を下げたい。
そんな妄想は、常に心のどこかにあった。
とはいえ中学を卒業し、珠貴が都会の全寮制私立女子高校に入学するため地元を離れてからは、彼女に対する負の気持ちは薄れていた。
大学進学のため私も都会に出ると、珠貴のことを思い出すこともなくなった。
そんな折、偶然見つけた奴隷競売のサイトで、黒城珠貴を見つけた。
(どうして……?)
怪しげな奴隷競売サイトに、珠貴が出品されているのか。
私の家のようなただの会社経営者なら、事業に失敗して没落することもあるだろう。
だが珠貴の実家は、そういうレベルの家ではない。ひとつやふたつ事業が潰れても、黒城家の屋台骨が揺るぐことはない。
(でも……)
世の中、なにが起こるかわからない。
連鎖的に事業に失敗し、そういう事態に陥ることもないとは言えない。都会に出て故郷への興味が薄れた私が知らないだけで、そのことで地元では大騒ぎになっているのかもしれない。
あるいは黒城家内部で、お家騒動があった可能性もゼロではない。
そう考えたところで、中学時代のどす黒い感情が蘇った。
なんとかして、珠貴をみじめな境遇に貶めたい。そのさまを見て、嘲笑してやりたい。
そうするため、夜な夜な膨らませていた妄想を。
(珠貴を落札したら……)
その願いが、叶えられる。
とはいえ、どう考えても非合法な奴隷競売サイトを利用する勇気は、私にはなかった。
しかも表示された最低落札価格は、学生の身分の私が、右から左に動かせるような額ではない。仮に落札に成功しても、代金を払うことはできないだろう。
そこで私は、珠貴のプロフィールページのなかに、ある表示を見つけた。
『落札時オプションのお見積もり』
つまり、落札した奴隷に付けるオプションを選び、その費用を見積もりできるようになっているのだ。
考えてみれば、それは当然のこと。奴隷競売サイト利用者にとっては、落札価格プラスその費用を合わせて予算を考えなくてはならない。
そしてそれは、私にとって恰好の妄想ネタであった。
『落札奴隷に、性奴隷調教を希望しますか?』
希望しない。性奴隷らしくなった珠貴ではなく、令嬢の精神を保ったままの彼女を、私の手で調教したい。
『落札奴隷に、性奴隷装備を装着しますか?』
それは装着したい。精神はかつてのままで、肉体は性奴隷に改造されたとき、珠貴がどういう反応を示すか見てみたい。
そう考えて、珠貴の肉体に施す性奴隷改造を選んでいく。
衣装。
乳房と股間周りがオープンになった、いかにも性奴隷装束といった趣きのある灰色のラバー製レオタード。
刺青。
たしかに最強の不可逆的措置ではあるが、私のセンスとは相容れない。
ピアス。
乳首を肥大化させたうえで、数ミリずらして十字に貫く2重ピアスは、ぜひとも装着させたい。
陰核《クリトリス》の包皮を切除したうえで、そこにもピアスを嵌めてやりたい。
牛の鼻輪のような鼻中隔ピアスを着け、そこに名前を刻印したプレートをぶら下げるのも、性奴隷に堕ちた珠貴にはお似合いだ。
オープンレオタードから、それらを着けられた乳房と股間を露出した珠貴を想像しただけで、身震いするほどの高揚を覚えた。
長大なシリコーンゴム製ディルドを口中に押し込め固定する密閉式口枷で口を完全に塞がれ、名札つき鼻輪ピアスの鼻をフカフガ鳴らすさまを思い浮かべると、心の奥底から笑いが込み上げそうになる。
そこで、私は女にとってとびきり残酷な装具を見つけた。
陰核固定3穴拡張封印貞操帯。
その名称だけでは、なんのことだかわからなかった。
添付された参考画像を見て、思わずコクリと喉を鳴らした。
装着後の外見は金属製の鍵つきTバックパンツ。それはおそらく、一般的な貞操帯――もっとも、私はその現物を見たことがないが――と大差ないものだろう。
ただし、内側には巨大な筒がふたつと、人差し指程度の太さの筒がひとつ、いかにも体内に挿入するぞと主張するような位置に取りつけられていた。
膣と肛門、それに尿道をも人体の限界まで拡張したのち、それらの筒を挿入。貞操帯本体を穿かせたうえで、鍵をかけて脱げないようにする。
そのうえで、乳首と同じように肥大化させた陰核を尿道用筒出口の直上にある穴から露出させ、ピアスホールにピンを刺して専用工具がないと緩められないネジで固定。
なんと残酷な装具なのだろう。
この特殊な貞操帯を嵌められてしまうと、膣も肛門も尿道も、極限まで拡張された状態で固定されてしまう。
膣と肛門には口枷のものと同じシリコーンゴムのディルドを挿入して鍵で留められるから、完全に栓をして密封できる。尿道にも、金属製の球を連ねたような施錠式プラグを挿入できる。
つまり、貞操帯本体が鍵なしでは脱げないだけではなく、それらディルドとプラグの鍵がなければ、被装着者は排泄すら自由にできない。
いや、専用工具がないと陰核ピアスのネジが外せないから、仮に鍵を手に入れたとしても貞操帯からは逃れられない。
そして、この奴隷の貞操帯を外さないかぎり、膣と肛門と尿道と陰核を、いやらしく淫らに刺激され続ける。
「うふふ……」
それを珠貴に着けることを妄想して薄く嗤い、私は陰核固定3穴拡張封印貞操帯にもチェックを入れた。
そこで、最後の質問。
『装着とそのための処置は、奴隷が覚醒した行ないますか? 眠らせたまま、なにをするか教えず行ないますか?』
すべての残酷な処置を覚醒させたまま、麻酔を使わず施術するか。それとも、目覚めて初めて魔改造されたわが身を見せ、絶望させるか。
いずれにせよ、すべての施術を素人の私の手で行なうのは無理。どうせ自分でできないならと後者を選ぶ。
そこまで終えたところで、私は下着の上から自らの秘所に触れた。
するとそこは熱く火照り、下着に染みを作るほど濡れていた。
性奴隷に堕ちた珠貴を落札し、思うさまに責め苛む妄想は、毎夜私を昂ぶらせた。
夜だけではなく、昼間もその妄想に耽るようになった。
そして、1週間。入札期限の日に再びサイトを閲覧すると、珠貴の価格はすさまじい値段に上がっていた。
それを見て、あらためて気づく。
この非合法な奴隷競売サイトは、もともと私のような者のためではないのだ。
今回は珠貴が被害者になってしまったが、本来は彼女のような人たちが利用するものなのだ。
そうと知り、今日をかぎりに珠貴は名も知らぬ他人の所有物になるのだと悟り、妄想も今宵で終わりにしようと決めてサイトを閉じる。
そしてベッドに潜り込み、最後の自慰を――心ゆくまで堪能したのち、私は眠りに落ちた。
「ん、ぁ……」
口中にねじ込まれた異物が喉奥を突く不快な感覚に、私は目覚めた。
「ぉ、ご……」
ともすればえづきそうになりながら、口中の不快な異物を舌で押し出そうとする。
しかしプニプニと柔らかいそれは、舌で押すとわずかに変形するだけで、変わらず口内を占拠し続けていた。
いや、不快な感覚は口中だけではない。
鼻にも、乳首にも、膣にも、肛門にも、尿道にも、そして陰核にも、独特の違和感がある。
それらが、ほのかな性の悦びを生み出し続けている。
そこで、本格的に覚醒した。
わが身に異常事態が起こっていることを察し、目を開ける。
まず視界に飛び込んできたのは、鉄格子。鋼鉄の格子のあいだから照明を当てられて、その向こうは見えない。
(ここは、檻……? でも、なんで?)
自分が檻に閉じ込められているのかわからない。
いや、ただ閉じ込められているだけじゃない。
背中でコ形に組まれた両腕は、まったく動かせない。
脚は太ももの裏とふくらはぎを密着させて折り畳まれ、そのうえで大股開きを矯正されている。
それは、身体各所を革のベルトできつく厳しく縛られているからだ。
その状態でお尻を硬い床に、背中を壁に着けた姿勢から逃れられない。
それは、頭のてっぺんをなにかで吊られているからだろう。
着せられた服は、オープンバストの灰色ラバーレオタード。
そこから露出した乳房の頂、乳首は異様に肥大化させられ、バーベル形ピアスが十字に貫いている。
股間には、金属製のパンツ、貞操帯。
(いえ、これは……)
ただの貞操帯ではない。巨大な筒を膣と肛門に、人差し指ほどの太さの筒を尿道に挿入。さらに、露出させられた陰核のピアスホールにピンを刺して固定する、残酷極まりない装具。
陰核固定3穴拡張封印貞操帯。
それだけじゃない。
密封式口枷も、名札つき鼻ピアスも。
珠貴に着けることを想像した性奴隷の装具を、私が嵌められている。
彼女を陥れることを妄想した性奴隷の境遇に、私が貶められている。
私が、眠っていたあいだに。
(で、でも……どうして……?)
わからない。わけがわからない。
「お目覚めかしら?」
そこで、声が聞こえた。
「樹咲美玖さん?」
私の名を呼んだ女の声を、私は知っていた。
あの頃より少しだけ大人びているが、聞き違えるわけがない。
黒城珠貴。
小中学の9年間、常に目の上のたんこぶであり続けた女が、鉄格子のあいだから差し込む照明の向こうに立っていた。
「うふふ……」
逆光でシルエットになった珠貴が、狂気を帯びていやらしく嗤う。
「あなたが見つけた奴隷競売サイトは、わたくしが作らせ、目に止まるよう仕向けさせたものです」
「んぅ(えっ)……?」
「因果応報……というのは少し違うかもしれませんが、見つけたサイトをそのまま閉じてれば、こんなことにはなりませんでした。でもあなたは、わたくしに対する負の感情を、そこで露呈させてしまった」
「んぉんぁ(そんな)……」
「もうお気づきでしょうが、あなたがわたくしに着けようとした性奴隷の装備、そのすべてがあなた自身に装着されています。あなたがわたくしを陥れようとした性奴隷の境遇に、あなた自身が貶められています」
「ぁ、んぁ(なぜ)……」
そんなことをするのか。
言葉にならない私の質問が、珠貴に届いたわけではないだろう。おそらく、はじめからそれを語るつもりだったのだ。
「中学時代、わたくしに勝って成績1位を取ったこと、覚えていますか?」
もちろん覚えていた。だがそれは、たった1度きりのことだ。
「わたくしより、あなたのほうがタイプだという男子もいました」
たしかにいた。でもそれは、ごくひと握りの少数派だ。
「おまけにあなたの実家の会社は、同業の黒城グループ企業より、常に売り上げで上回っていました」
それも知っていた。とはいえ黒城家は、ほかにも多くの企業を傘下に収めている。
だがそれでは、珠貴は満足できなかったようだ。
「この黒城珠貴と黒城家が、1度たりとも、ごく一部であっても、多くのなかのいち分野であっても、他者に負けることは許されないのです」
つまり私にとって珠貴が目の上のたんこぶであったように、彼女にとっては私が邪魔者だったのだ。
そして珠貴は邪魔者の私を、自分に対する気持ちを確かめたうえで、性奴隷の身分に陥れた。
私のように妄想のなかではなく、現実の世界で。
「手を回して入手した、あなたの中学時代の身分証つき生徒手帳も、特別に首輪にぶら下げておきました。そのみじめな姿の画像は、あなたの友人知人全員に送信される手はずとなっています」
私が妄想をはるかに凌駕する、残酷なやり方で。
「あなたに取りつけられた性奴隷の装具は、生涯外されません。あなたがこの檻から出されることは、一生ありません。あなたは生あるかぎり、ここでわたくしの性奴隷調教を受け続けるのです」
その言葉を、私は深く暗い絶望のなかで聞いていた。
絶望に心を折られ、その運命からは絶対に逃れられないのだと諦めながら。
(了)