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8話.絶頂への渇望、そして奴隷堕ち  眠れたのか、眠れてないのか。  ときどき意識が途切れているが、それを眠りと呼んでいいのかどうか。  頭がぼうっとするのはそのせいか、はたまた性の焦燥感に苛まれ続けてきたためか。  わからない、わからない。  もはや、深く考えることもできない。 「ぁうぅぅ……」  奴隷の口枷で開口を強制された口から、涎とうめき声を漏らしながら、犬の交尾のようにヘコヘコと腰を揺する。  しかし、疲れきった身体では、長くは続けられない。  とはいえ、やめてしまうと、わずかに醒めて焦燥感が強くなる。  だから、絶頂には届かないとわかっていても、無駄なあがきを――。  再びラウラが現われたのは、そんなときだった。 「ずいぶん追い詰められているようねぇ」  顔を見せるなり、ラウラが直接的に誘う。 「気持ちよくなって、すっきりしようか?」 「あ(は)……」  はい。そう答えそうになって、フルフルと首を振る。 「気持ちよくなりたくない?」  しかしその誘いを、きっぱり拒むことはできなかった。  気持ちよくなりたいと、気持ちよくなって大きな悦びを得たいという本能の求めを、否定することはできなかった。  あとひと押し。軽く背中を押してやるだけで、転がるように灯里は堕ちる。  しかし、ラウラはそのひと押しをしなかった。自分では押さず、灯里自身が自ら堕ちるよう仕向ける道を選んだ。  それは肉体のみならず、精神までも奴隷に堕とすため。堕ちたところから、二度と這い上がって来られないようにするため。  ラウラは灯里が自ら奴隷に堕ちるよう仕向ける。 「そう、ならいいわ」  いったんあっさりと引き、奴隷の口枷から流動食と水を流し込む。  もちろん、それには媚薬が混入されていた。しかも、昨夜よりも少しだけ増量されていた。  とはいえ、このたびも媚薬は遅効性。  そのため、このたびも灯里は媚薬混入を疑えず、肉の疼きと火照りを抱えたまま中庭に連れ出された。  ジャラ、ジャラ……。  首輪に繋がれた鎖が揺れる。 「あふ、あぅ、あん……」  媚肉にきつく食い込むベルトに刺激され、灯里が甘い吐息を漏らす。  昨日と同じように、いや昨日よりずっと大きくなった肉の疼きと火照りを抱えて連れて来られた犬小屋。  その入り口には、昨日はあった給餌と給水の装置はなかった。代わりに、入り口の開口に鉄格子の扉が取り付けられていた。  そのことを不審に思っていると、ラウラがしゃがみ込んで、外を歩いたためにわずかに汚れた灯里の足を拭き清め始めた。 「今日は天候が崩れる恐れがあるから、中で過ごしなさい」  言われてみれば、昨日よりは雲が多い気がする。ホライゾンタルの気候に慣れていない灯里にはわからないが、それは天気が崩れる兆候なのかもしれない。 「中の布が汚れないよう、足を拭いてあげるから、安心なさい」  つまり、今日は足で制服を汚す心配がないということだ。  実のところ、灯里にはおしっこというもうひとつ心配事があるが、それは自分自身が気をつけて耐えればいいこと。昨夜、そして今朝、たっぷり水を飲まされたせいで不安は大きいが、小屋の中にいれば、昨日のようなアクシデントは起こらないだろう。 (私が気持ちを落ち着けて、耐えれば……)  そう考えて、犬小屋の床に敷かれた制服の上に、拘束具の肘部分に仕込まれた金属棒を乗せる。  まずは右、続いて左。  畳一畳ぶんに満たない程度の広さの犬小屋の床に両前足を乗せたところで、ラウラが股間のベルトに触れた。 「ぃ、ああッ!?」  それだけで艶めいた悲鳴をあげ、飛び上がるように後ろ足も小屋に入れたところで、ラウラが口を開く。 「今日は所用で出かけなくてはならないの。使用人には中庭に立ち入らないよう厳命してあるし、わたくしは忙しくて監視もできない……」 「うぇ……?」  言葉の真意がわからず、狭い小屋の中で向きを変えてラウラを見ると、魔法調教師は扉の鉄格子を閉めながら妖しく嗤って告げた。 「股間のベルトに、アカリが『気持ちよくなりたい』と強く願えば、快感を与える魔術のしかけを施したから、誰の目にも触れず気持ちよくなれるわよ」  直後、鉄格子の扉が閉められる音。続いて、錠前がかけられる。  そしてラウラ気配は、犬小屋周辺から消えた。 『魔法の存在を感じさせる程度に使用を抑え、物理的手段で調教を施すほうが効果的』  調教に取りかかる前、そう決めたラウラが、ついに調教そのものに魔法を使った。  それは熟練の魔法調教師が、いよいよ最終局面に、奴隷調教の仕上げの段階に入ったと判断したからである。  そのことを知らず、灯里は狭い犬小屋で、じっと佇む。  留め金さえ下ろせば、今の灯里では開けられない鉄格子に鍵までかけられ、けっして外に出ることはできない。  小屋内部の幅は、オーブの単位で1メートルほど、奥行きはそれよりわずかに広いくらいか。そのため、自由に動き回ることもできない。  出入り口の開口部もそれほど大きくないから、鉄格子の隙間から見えるのは、地面の芝生と石造りの塀のみ。  給餌給水の装置は小屋内に移されていたが、これ以上水分を取ってしまうとトイレが近くなりそうで、口をつけることもできない。  それゆえに気を紛らわせることもできず、強い肉の疼きと火照りを身を炙られて過ごすしかない。  さらに先ほど股間のベルトに触れられたことで、そこをいっそう強く意識してしまった。  そのうえ、この頃になると、朝の流動食に混ぜられていた媚薬が効果を発揮し始めていた。 『股間のベルトに、アカリが『気持ちよくなりたい』と強く願えば、快感を与える魔術のしかけを施した……』  そこで、ラウラの言葉を思い出した。 『今日は所用で出かけなくてはならないの。使用人には中庭に立ち入らないよう厳命してあるし、わたくしは忙しくて監視もできない……』  つまり、今『気持ちよくなりたい』と願っても、誰かに見られるわけではない。 『誰の目にも触れず気持ちよくなれるわよ』  ラウラが言ったように、気持ちよく絶頂しても、誰に知られることもない。 (気持ちよくなり……)  しかし、そう思いきることはできなかった。  媚肉の疼きと火照りは耐えられないほど強くなりつつあったが、わずかに残った灯里の理性が、自ら絶頂を請うことを拒んでいた。  それは、媚肉から溢れる粘液で、床に敷かれた制服を汚す恐れがあるからだ。  本能の赴くまま媚肉をスクールバッグに擦りつけ、汚れてしまったからと処分された経験を、灯里は忘れていない。  とはいえ、疼きと火照りはますます強くなる。 (制服を汚さないよう、横にずらしておけば、イキたいと願っても……)  発作的にそう考えてしまうほど、灯里は追い詰められつつあった。 (ううん、そんなことをしちゃいけない)  頭に浮かんだ不埒な考えを、理性の力で追い出すことができていたのは、しばらくのあいだ。 (でも……でも、もう……ムリ!)  ついに理性は本能に押し切られてしまった。 (制服をずらして、小屋の端に……)  万が一にも粘液で汚してしまわないよう、前足を使って床に敷かれた制服をずらしていく。  まず壁に寄り添うように立ち、そこから逆の壁に向かって。立つ位置を変えながら、少しずつ。  その作業により、媚肉にベルトが擦りつけられる。擦りつけられて、いっそう官能が煽られる。 「んぅ、んっ、あぅ……」  吐息を漏らしながら、床の制服をずらしていく。 「あぅ、あっ、あぅん……」  吐息に甘みが混じってきた。 「あぅん、あう、あうっ……」  艶を帯びた喘ぎ声に変わり始めた。  身体全体が、熱を持って火照る。  熱に浮かされたように頭がぼうっとし、ものごとを深く考えることができない。  それでも絶頂を求める本能に衝き動かされるまま、制服を片側に寄せ、反対側の壁沿いに立ち、意を決っして願う。 (気持ちよくなりたい!)  しかし、何事も起こらなかった。  もしかしたら、願いかたが足りないのか。 (お願い、気持ちよくして!)  あるいは、願いを声に出さないからなのか。 「ぃおぃおうあぇえぅああぃ(気持ちよくさせてください)ッ!」  その直後、ようやく魔術が発動した。  それもまた、ラウラの巧妙なしかけのひとつ。奴隷の口枷のせいで言葉にはならなくても、実際に口にすることで、人は『自ら願った』ことを強く意識する。  とはいえ、熱に浮かされたように快楽を求める灯里が、そのことに気づくわけがない。 「あぅうん……」  股間が媚肉に食い込んだところに快感が生まれ、思わず艷声を漏らしてしまった。 「あぅ、あぃおぇえ(なにコレぇ)……?」  媚肉のうえでなにかが動いているわけではない。振動しているわけではない。快感そのものがそこに生まれ、媚肉に送り込まれている感じ。 「おぇあ(コレが)……」  魔術のしかけがもたらす快感。  未知の感覚にとまどいながらも、灯里は自ら強く望んだ快感に酔わされていく。  快楽の中腹から指をくわえて見上げるだけだった性の頂へ、ゆっくりと押し上げられていく。 「あぅん、あっあっ……」  艶めいて喘ぎながら、昂ぶっていく。 「あっふぁ、あぅああッ!」  昂ぶって、未知の感覚に酔わされる。 「あぅうん、あっあっああッ!」  酔わされて、高められる。  快感が次第に大きくなり、やがて奔流となって押し寄せ、灯里を飲み込み、押し流す。  もう、頂は近い。  ほかに代えがたい幸福感が待つ恍惚の世界へと、もうすぐたどり着ける。  そして、そこまであと1歩。手を伸ばせば届きそうなところまで昇ったとき――。  魔術のしかけがもたらす不思議な快感が、嘘のように消え失せた。 「あぅ……あんぇ(なんで)?」  イケなかったのか。イカせてもらえなかったのか。  とはいえ、肉の疼きと火照りはいまだ残っている。いや、一度絶頂に手が届きかけたことで、それらはいっそう強くなっている。 「あぃあ(なにか)……」  ラウラが、魔術に失敗したのか。  いや、ラウラにかぎって、そんなことはありえない。  本来憎き敵のはずなのに、ラウラのことを圧倒的強者と認めている灯里は、そう考えてしまう。 「あぉいあぁ(だとしたら)……」  自分がなにか過ちを犯しているのか。  そのせいで、絶頂寸前で快感が止まってしまったのか。 「あっあぁ(だったら)、ぉう(もう)……」  間違いは犯さない。  なにを間違ったのかはわからないが、あの快感に身を委ねれば、絶頂までたどり着けるはずだ。  そう考えて、灯里は再び快感を請う。 「おぇあい(お願い)、ぃおぃおうあぇえ(気持ちよくさせて)ッ!」  直後、媚肉に快感が生まれた。 「あっふぁ……」  その快感が、灯里を昂ぶらせる。 「あっあっ、あぅん……」  昂ぶらせて、酔わせる。  そしてそれは、一度は頂のすぐそばまでたどり着いた道。そのせいで、灯里が昇り詰めるペースは早い。 「あぅう、あぅあああッ!」  あっという間に快感の奔流に飲み込まれ、性の高みへと押し上げられた。  もうすぐ。あと1歩。手を伸ばせば、そこに――。  しかし、届かなかった。  肘を折りたたんで固められ、獣の前足に変えられた手では、恍惚の世界の入り口をつかむことはできなかった。  絶頂寸前で、再び快感は霧消してしまう。 「あぅ……うぉうぃえ(どうして)?」  イカせてもらえないのか。  イク直前で、快感は消えてしまうのか。  ラウラに言われたとおり、気持ちよくさせてと願っているのに――。  そこで、ハッとした。 『股間のベルトに、アカリが『気持ちよくなりたい』と強く願えば、快感を与える魔術のしかけを施したから、誰の目にも触れず気持ちよくなれるわよ』  たしかに、ラウラはそう言った。  そう、彼女は『気持ちよくなれる』とは言ったが、『イケる』とは言っていない。 「うぉんあ(そんな)……」  そのことに気づいて、愕然とする灯里。  しかし、嘘をつかれたとか、騙されたとは考えられなかった。  実際、気持ちよくはなれた。それまでは指くわえて見ているだけだった頂に、手が届きそうなところまでは連れて行ってもらえた。 (だから、ラウラは私を騙したわけじゃない……)  そう考えてしまったのは、灯里のなかで圧倒的強者になっていたラウラが、絶対的支配者になりつつある証であった。  強者を恐れ、圧倒的な力を持つ者に、人はつき従う。その者が語る言葉が真実であれ嘘であれ、逆らうと恐ろしいからという理由で、不承不承でも従う。  そして力に従ううち、逆らうことを忘れていく。  力の差を見せつけられ続け、逆らっても無駄と心に深く刻まれ、絶対的な支配者として盲目的に受け入れるようになる。  そうなってしまうと、もうダメだ。  一度誰かの支配を受け入れた者は、次も別の誰かの支配を受け入れる。  たとえ次の支配者が圧倒的強者じゃなくても、その者の言葉の嘘を見抜き、反抗する力を失ってしまう。  それは、ホライゾンタルでもオーブでも同じ。個人差はあるにせよ、人間が社会生活を営む生きものである以上、その性質は誰でも持っている。  そのことを熟知しているラウラに、灯里は絡め取られてしまった。  絡み取られて、調教を受けるうち、無意識に圧倒的強者と、続いて絶対的支配者と認めてしまった。  こうなると、奴隷堕ちは近い。  他者を絶対的支配者と崇めることに慣れた灯里は、奴隷として売られていった先でも、新たな所有者を絶対的支配者と認めてしまうだろう。  とはいえ、灯里自身はそのことを知らない。  知らないまま、ただ目の前にある快感を求めてしまう。 「ぃおぃおうあぇえ(気持ちよくさせて)ッ!」  けっして絶頂にはたどり着けないとわかっていながら、それを求める本能に衝き動かされ、その行為が絶頂への渇望をいっそう強くするものだと気づかずに。  灯里は魔術の快感を求め続けた。 「あぅあぅあぁ……」  陽が西に傾き、ラウラが再び現われたとき、灯里はうめき声とも喘ぎ声とも取れる声をあげながら、犬小屋の床にうずくまっている状態だった。  その瞳からは理知的な光は失われ、絶頂への渇望で淀みきっている。極限にまで達した肉の火照りで、紅潮しきった頬。奴隷の口枷で開口を強制された口から溢れる涎も気に留めず。噴き出した汗で全身を光らせながら、媚肉から溢れて水たまりとなった蜜の上で。 「ぃおぃおうあぇえ(気持ちよくさせて)えぇ……」  求めても得られない絶頂を渇望し、ときおり懇願のうめき声をあげる。  鉄格子ごしにその光景を見て、ラウラはほくそ笑んだ。  灯里がそうなるよう仕向けたのは、ラウラである。  魔術の快感を求める前、溢れる涎と蜜で汚れないよう、制服をずらしてよけていたことは意外だったが、それは些細なこと。そのときのための策も、すでに仕込んである。 (あとは、アカリを奴隷堕ちさせるための言葉を、口にするだけ)  そう考えて、ラウラが口を開く。  身も心も奴隷に堕とすための言葉を口にする。 「アカリ、イキたい?」 「ふ、ぇ……?」  その声で、灯里は初めてラウラに気づいたようだった。 「イキたいかって訊いてるの?」  その言葉で、灯里の瞳にかすかに光が宿る。  正気に戻ったわけではないだろう。その光は、渇望し続けた絶頂に届くための希望を見つけたときの、情欲の光だ。 「ふ、ぇえ……」  その証拠に、一度肯定とも否定とも取れないうめき声をあげ、灯里は――。 「うぃいあぃ(イキたい)……」  熱に浮かされたように、絶頂を望んだ。 「うぃあぇえ(イカせて)ッ!」  渇望したものを求めて、絶頂を懇願した。 「いいわよ。イカせてあげる」  その望みを、ラウラは無条件で受け入れた。  それはラウラ自身が、絶頂を望むよう仕向けたから。絶頂を望ませたうえで与えることこそが、調教の仕上げだから。 「アカリが望んだとおり、あなたがかつて感じたことない、最高の快感でイカせてあげる」  そう言って、ラウラは新たな魔術の呪文を詠唱した。 『アカリ、イキたい?』  はじめ訊ねられたとき、正気を失った状態だった。 『イキたいかって訊いてるの』  二度めのときも、正気を取り戻したわけではなかった。  そのときの灯里にあったのは、絶頂への渇望のみ。  それが望めば得られるとわかったとき、灯里にはほかに選択肢はなかった。 『うぃいあぃ(イキたい)……』  それは、本心を発露させただけのつぶやきだった。 『うぃあぇえ(イカせて)ッ!』  それは、本能が言わさしめた魂の叫びだった。  それがどんな結果をもたらすのか、深く考えることもできず、衝き動かされるように口にした言葉だった。 『アカリが望んだとおり、あなたがかつて感じたことない、最高の快感でイカせてあげる』  わざわざ灯里が望んだことを強調して、ラウラが告げた意味もわからずに。 「あッ……!?」  ラウラが呪文を詠唱した直後、ベルトが食い込む媚肉に、衝撃が生まれた。 「あっ!? あっあッ!」  その衝撃が強烈な快感だと気づいたときには、その奔流に飲み込まれていた。 「あっあっアああッ!」  快感そのものの塊を媚肉から肉壺の中に送り込まれ、一気に高められる。 「あァああッ! ふヒッッッ!」  全身の筋肉がこわばる。こわばって、痙攣する。  イキたくてもたどり着けなかった性の頂に、一瞬のうちに押し上げられて――。 「ふヒッッッ、グぅうううッ!」  あっけなく、イカされた。  どれだけ望んでも得られなかったものを、いとも簡単に与えられた。  これが、ラウラの力。  魔法調教師の、真の能力。  もともと圧倒的強者である絶対的支配者の調教に、抗うことなどできるわけがなかったのだ。  そう思い知らされながら、灯里はイク。  イッてたどり着いた場所で、恍惚に酔う。  この恍惚感さえあれば、ほかになにもいらないと思わせられながら。 「あっ……あぅ……あっあっ……」  ピクリ、ピクリとときおり身体を震わせながら、股間から噴き出す温かい液体の上に身を横たえて――。 「……ッ!?」  そこで、灯里はハッとした。  絶頂後の恍惚のなかで弛緩してしまったせいで、溜まりに溜まっていたおしっこを漏らしていたことに気づいた。  しかし、一度溢れ始めたおしっこを、止めることはできなかった。  止めるどころか、止めようと思うことすらできなかった。 「あぅ……あっ、あぅ……」  待ちに待った末に得られた絶頂の恍惚のなかで、広がっていく水たまりを呆然と眺める。 「あっ、あっ……ぅあ……」  ただそれを見ているうち、水たまりは小屋の隅に寄せられていた制服にまで達した。  白と紺の布に、黄味を帯びた液体が染み込む。染み込んで、汚していく。  ついに、やってしまった。これでスクールバッグと同じように、制服も処分される。  しがし、感慨は持てなかった。  自分とオーブをつなぎ留める最後のアイテムを失うことに、もはや大きな悲しみを感じなかった。  それは、今のあかりにとって、制服より絶頂後の恍惚感のほうが大切だったから。  その恍惚感を与えてくれたラウラを、無意識下で絶対的支配者と認めていたから。  その調教に抗うことはできないと、思わせられていたから。 『おまえはわたくしに調教され、奴隷の身分に堕とされてしまうのだから』  囚われた初日、ラウラにかけられた言葉。  絶対的支配者の言葉のとおりになると、意識しないまま諦めていたから。 「あぅ、あぅ、あぅう……」  灯里は汚れていく制服を見ながら、低くうめいて恍惚に酔う。  奴隷堕ちの運命を、半ば受け入れて。 「うふふ……奴隷堕ちを受け入れたせいかしら? 囚われてすぐの頃より、乳房が張りを増した気がするわ」  妖しく嗤って、ラウラが灯里の乳房に触れる。  あれから――。  待ちに待った絶頂後の大失禁で汚れた身体を水で洗われ、調教部屋に連れ戻された灯里は、手足を大きく開いた大の字の姿勢で、革張りの寝台に縛りつけられていた。  ラウラの言葉どおり、仰向けに寝かされてなお、灯里の乳房はほとんど横流れしていない。  その先端は乳輪がぷっくり膨れ、乳首はツンと屹立している。 「すっかり、性奴隷の乳房になったわね」  制服をおしっこで汚したと気づいたときの反応を見て、彼女の奴隷堕ちを確信していたラウラが、右手をかざして呪文を詠唱した。  直後、その人差し指に、燐光の針《ニードル》が顕われる。 「性奴隷に堕ちたお祝いに、奴隷の証をあげる」  そう言うと、ラウラが左手で灯里の右の乳首をつまんで引っ張った。 「あっ、ふっ……」  その刺激に、いまだ媚薬の効果と絶頂の余韻が残る灯里が艶を帯びた吐息を漏らしたとき――。 「あッ……!?」  灯里の乳首の根元付近を、燐光のニードルが貫いた。 「ふ、ぎ……!?」  感覚神経が集まった敏感なそこを、魔法のニードルに貫かれる激痛。 「ぎ、ぁああああああッ!」  一瞬で恍惚から覚め、耐えがたい痛みに絶叫する。  しかし、ただ痛いだけではなかった。激痛のなかに、痺れるような感覚が生まれていた。 「それは、わたくしの魔法の効果……」  痛みに悶絶しながらも、とまどう灯里にラウラが声をかける。 「性奴隷に堕ちた灯里を買ったお客が、わたくしのような性感を高める責めをしてくれるとはかぎらない。なかには、買った性奴隷を徹底的に痛めつけることを愉しみにしているお客もいる」  そう言って灯里を震えあがらせ、言葉を続ける。 「これはそんなお客の責めのなかでも、灯里が幸せを感じるための、わたくしからの贈りもの。どんな責め苦も性的な快楽に変換する魔力が込められた、奴隷の証、乳首ピアス」  そして灯里の乳首を横に貫いた魔法のニードルをリング状に成形する。  さらにラウラは呪文を詠唱して、手の中に魔法の金属球を作りだし、リングピアスに吊るしてしまった。 「ひっ、あっあっ……」  右の乳首の根元付近を横に貫くリングピアスと、そこに吊るされた金属球。残酷なその装具には、つなぎ目はない。  ラウラ自身の魔法がなければ、けっして外すことができない。  乳首ごと引きちぎる覚悟がなければ――いや、それも無理だろう。  緩い快感を生んでいた激痛は、すでに嘘のように消えている。ニードルに貫かれた傷口は、一瞬のうちに治癒している。  おそらく、痛みのなかに快感を生む乳首ピアスには、回復魔法の力も込められている。  そのため乳首ごと引きちぎろうとしても、その傷は瞬時に癒され、皮膚と肉を引き裂く痛みだけが続くことになる。そしてその痛みすら、快感に変換される。  そのことを思い知ったところで、左の乳首をつままれた。  そして再び、右手の人差し指に魔法のニードルが生み出される。 「ひっ、あっ、あぇ(やめ)……」  反射的にさらなる残酷な仕打ちの中止を懇願しようとしたところで、ニードルが乳首を貫いた。 「ひぃあああァあああッ!」  ひとつめのピアスの効果だろう。このたびは、すぐに激痛のなかに快感が生まれた。  それで艶めいて喘いだところで、ニードルをリングピアスに成形される。  そのピアスに、金属球を吊られる。  もう、戻れない。  なにかの奇跡が起き、この場から逃げることができても、性奴隷のピアスを外すことはできない。  そのことに、灯里は打ちひしがれた。  打ちひしがれて、もう奴隷堕ちを身の上から逃れられないのだと実感した。  そして、そのことを敏感に感じ取ったのだろう。  ラウラは唇の端を吊り上げて冷酷に嗤い、宣言した。 「これにて調教完了。アカリ、おまえは完全に奴隷に堕ちた」 第1部 終章  木製の箱の底に身を横たえて、灯里は太い梁が縦横に走る天井を見ていた。  囚われてすぐ、厳しく縛りあげられ、その梁から吊られたこともあった。そのことが、今は遠い昔のことのようにも思える。  ここで、魔法調教師を名乗るラウラの調教部屋で、どれほどの時間《とき》を過ごしただろう。  数日しか経っていない気もする。何カ月も、厳しくも淫らな調教を受けていた気もする。だが、もはやそれはどうでもいいこと。  魔法調教師の調教が完了し、灯里はこれから奴隷として出荷されるのだ。  顔全体を魔法調教師の紋章入りの奴隷の口枷で拘束され、乳房を露出させるぶ厚い皮の拘束衣を着せられ、箱詰めにされて、彼女を買った田舎貴族の元に送られるのだ。  それなのに、灯里は逃げようとするそぶりすら見せない。  肉体を縛《いまし》める拘束はきわめて厳重、かつ堅牢で、けっして自力で解くことはできない。  そのうえ、灯里を捕らえ、凄絶な調教を施した魔法調教師が、今も箱の中の彼女を見下ろしている。  さらに、囚われる前より大きくなったような気がする乳房の先端、乳首に穿たれたピアスは、生涯奴隷の身分を示すもの。施術者にしか外せないそのピアスがあるかぎり、灯里は奴隷の身分から逃れられない。  いや、もし拘束具とピアスがなくても、女が監視していなくても、灯里は逃げられないだろう。  なぜなら――。  そのとき、灯里の視界が闇に包まれた。ついに箱の蓋が、閉じられたのだ。  ガンガンガン。蓋を箱本体に釘で打つ耳障りな音。  しかし暗闇のなかで、灯里は動かない。動こうともしない。  それどころか彼女を閉じ込める箱が運び出されても、人足の手で乱暴に荷馬車に積み込まれても、クッションの悪い荷馬車が走り出し、箱ごとガタガタと揺すられても、灯里は悲鳴すらあげなかった。  それは、彼女が奴隷の運命を受け入れているから。  灯里は憐れな運命を受け入れ、奴隷に堕ちきっているように見えた、が――。 『アカリ、やはりおまえはおもしろい子……極限状態のなかで、合理的に考えられる思考力と冷静さ、さらには脱出を諦めない気持ちの強さを持ち合わせているということ」  灯里を捕らえてすぐ、ラウラ自身が感じた彼女の特質を、魔法調教師は亡失していた。  それは、自らの力量に自信を持つがゆえの、驕りだったのかもしれない。あるいは、灯里の堕ちかたがあまりに鮮やかだったため、見落としていたのかもしれない。  ともあれ、灯里はまだ、堕ちきってはいなかった。  凄絶な調教と続く乳首ピアスの処置に打ちひしがれ、茫然自失の状態に陥っていたが、なにかきっかけがあれば――。  そのきっかけが、灯里を詰めた箱を運ぶ荷馬車の行く手を阻んだ。 異世界の奴隷性女 第1部は、これにて完結です。 しばしの休憩をいただいたのち、引き続き第2部の連載を開始いたします。

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