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夏の合宿.6 「脱ぎなさい」  愛美先輩に命じられて、素直に従う。今は部屋着代わりの体操着姿だから、脱ぐのも速い。  とはいえ、かろうじて女の子の恥じらいは残っている。  いかに肉体が疼き火照り、精神が焦燥感に駆られていても。いや、そういう状態だからこそ、焦りを感じさせないよう慎重に。  とはいえ、そんな私の気持ちは、愛美先輩にはお見通しだ。  それなのに、恥ずかしいふりでゆっくりと体操着を脱ぐ私を、先輩は待ってくれる。  それは『見られるかも』というドキドキ感で昂ぶる私にとって、羞恥心は快感を増幅させるスパイスにもなるものだから。  私と同じ性向を持つ愛美先輩も、そのことを熟知しているから。  そして体操着のシャツとハーフパンツを脱ぎ、ふたつの貞操帯姿になってからも、愛美先輩は椅子に腰かけたままだった。 「あ、あの……」 「両手を後ろに」  なにか言いたくてもなにも言えず、手で貞操帯を隠そうとした私に、愛美先輩が命じた。 「は、はい……」  その命令にも逆らうことができず、おずおずと両手を背中に回す。  恥ずかしい。  疼き火照る肉体を封じるふたつの貞操帯姿を、瞳に妖しい光をたたえた愛美先輩に見つめられて。  それでさらに羞恥心を煽られ、封印されて冷めない疼きと火照りに、新たに生まれた欲情を上乗せされる。 「はふ、はふ、はふ……」  緩く開いた口から熱い吐息が漏れ始めた。 「素敵よ、裕香」  そこでそう言って、ふたりぶんのセーラー服のスカーフを手に、愛美先輩が立ち上がった。 「お口、あーんして」 「あーん……んぅ」  正面から真ん中に結びめでコブを作ったスカーフを口に噛まされ、抱きつくような体勢で頭の後ろで結ばれる。  愛美先輩の体操服の匂いに少しドキドキしたところで、次は目隠し。セーラー襟につけるときより1回多く折って、目を塞がれる。  それほど、きつく締められたわけではない。  そもそもツルツルスベスベのスカーフは、きつく締めてもすぐに緩む。本来、猿轡や目隠しには向かない素材だ。  それなのに愛美先輩がスカーフを使うのは、それがふだん私たちが愛用している品だから。  日常使っているものを使って言葉と視界を奪われ、非日常の世界に誘われることには、格別の感慨がある。  そのうえ目隠しのせいで、私には自分の姿が見えない。見えないがゆえに、かえって『貞操帯だけの姿』を意識してしまう。  猿轡のせいで、恥ずかしくてもそうと伝えられない。伝えられないがゆえに、私のなかで羞恥心がますます増幅される。 「はふ、はふ、はふ……」  そのせいで疼きと火照りが強くなった肉体に、手枷と足枷が着けられた。 「はふ、はふ、はふぅ……」  期待感に性感が高まり、吐息に甘みが混じり始めたところで、愛美先輩の声。 「乳房貞操帯、外すね」 「はっ、ふぁひ(はい)……」  答えたところで、胸の谷間の南京錠に小さな鍵が差し込まれた。  カチリ。  解錠される金属音。胸の軽い締めつけが緩む。  愛美先輩がわざとそうしたのか。それとも偶然か。金属製のカップの縁が、軽く乳首を撫でた。 「はふぁ……」  それだけで、甘く喘いでしまう。  肉体の疼きと火照りが、いっそう強くなってしまう。  そんな状態の私を、愛美先輩がベッドに誘(いざな)った。  肩を抱いてマットレスの縁にすわらされ、横たえられて手足を大きく広げさせられる。  カチッ。  右の手枷が、なにかに金具でつながれた。  カチッ。  続いて左手。さらに足。  事前に用意していたのだろうか。手枷をベッドの桟に結ばれたベルトかなにかにつながれると、私は手足をX字に開いた恥ずかしい姿勢から、逃れられなくなった。 「はふぅ、はふぅ、はぅん……」  緩く開いた口から甘い吐息を漏らしていると、愛美先輩が私のお腹に馬乗りになった。  でも、苦しくはない。おそらくお腹に体重がかからないよう、脚に力を込めて――。 「ひふッ!?」  そこで、猿轡を噛まされた口の横を、なにかで撫でられた。  指ではない。硬いようで、それでいて柔らかいようで、得体の知れないなにか。 「はひ(なに)……?」  そのことにとまどったところで、愛美先輩の声。 「デスクの上にあった羽根ペン……覚えてる?」  覚えていた。たしかにデスクの上ペン立てに、羽根ペンが刺されていた。つまりそれの羽根の部分で、頬を撫でられたのだ。 「うふふ……今の裕香には、これがちょうどいいと思ってね」  そう言いながら、愛美先輩が羽根を動かす。  目隠しの布の下端に沿うように、頬から耳たぶ。 「はぅうん……」  私を艶めいて喘がせて、耳たぶから首すじへ。 「ふはぁあ……」  触れるか触れないかの強さで、ゾクゾクする快感を生み出しながら、鎖骨、肩。  腕の途中まで撫であげて、腋。 「はひぃい……」  ふだんならくすぐったいところだが、今はそこを撫でられても快感にしかならない。  気持ちいい。気持ちいい。  どこを撫でられても気持ちいいのは、視覚を失ったぶん、皮膚感覚が鋭敏になっているからか。  それとも――。 「はひゃあ……」  考えかけたところで、また脇を撫でられた。 「うふふ……裕香、気持ちよさそう」 「ふぁひ(はい)……ひもひぃひへふ(気持ちいいです)……)  言い合うあいだに、羽根は腋から脇腹へ。 「はふぁ……ひもひぃひ(気持ちいい)……」 「どうしたの? 猿轡のせいで、なにを言ってるのかわからないわ」  それは、嘘だった。  セーラー服のスカーフを緩く噛ませただけの猿轡では、発音が多少不明瞭になるだけだ。集中すれば、なにを言っているか聞き取れる。  とはいえ、それはのちにわかったこと。そのときの私は、猿轡のせいで言葉は伝わらないと思い込まされた。 「ふぉんは(そんな)……」  一瞬愕然としたあと、羽根の愛撫でまた高められる。  そして羽根は身体の前面へ。  お腹の這い上がり、胸の谷間。また鎖骨のあたりまで上がって――。 「はふぁあッ!」  少しずつ乳房に近づいていくのかと思った刹那、いきなり乳首を撫でられ、思わず嬌声をあげてしまった。  しかし、それは一瞬。  私の肉体を一段高いところに押し上げたあと、羽根は乳房の麓をなぞるように動き始める。 「ふぁ……ふぉんは(そんな)ぁ……」  乳首を愛撫して欲しくて不満の声を漏らしたのは、猿轡のせいで言葉は伝わらないと信じていたからだ。 「ふぉへはひ(お願い)ぃ、ひふひひへ(乳首して)ぇ……」  そんなはしたないおねだり、ふだんならできるはずがない。 「なんて言ってるのかなぁ。ぜんぜんわからないよ」  そして愛美先輩は、わかっているのに聞こえないふりでとぼける。  それでますます誤解して、私は恥ずかしい言葉を口走る。 「はふぇへひふひ(羽根で乳首)、ひひゃらひふひへ(いやらしくして)ぇ……」 「なにを言ってるの? どうしてほしいの?」 「ほへふぁひ(お願い)ぃ……はふぇへひふひ(羽根で乳首)、はふぇへ(撫でて)ぇ……)  そこで、愛美先輩の表情が変わった――気がした。  目隠しで見えないのだが、先輩が唇の端を吊り上げて嗤ったことが、雰囲気でわかった。 「わかったわ。お望みどおり、羽根で乳首をいやらしく撫でてあげる」 「ふへ(えっ)……!?」  私の恥ずかしいおねだりが、聞こえていたのか。不明瞭なはずの言葉を、理解していたのか。  そのことに気づいて、激しい羞恥心に襲われる。 (恥ずかしい……恥ずかしい……)  しかし、それも一瞬のこと。 「はひゃああッ!」  右の乳首を羽根でサッと払われて、はしたなく喘いでしまった。 「はひぃいいッ!」  左の乳首を羽根で押されて、あられもない嬌声をあげてしまった。  羞恥心を快感のスパイスにして、私は一気に高められる。 「ひゃはぁああッ!」  緩く軽く、羽根で乳首を上下に叩かれて。  弾かれたように、一段高いところに飛ばされた。 「はひッ、ふひぃああッ!」  叩かれていた乳首を弾くように払われて。  ブースターに点火されたように、性の高みへと押し上げられていく。  そこからは、なにもわからなかった。  手足に力を込めて、枷を鳴かせていた気がする。  他人(ひと)に聞かれたら恥ずかしいような言葉を、口走っていた気がする。  気持ちいい。気持ちいい。  乳首を羽根で弄られるだけで、こんなに気持ちいいなんて。こんなに大きい快感に襲われるなんて。  それは――。  そのとき、なにかが来た。  いや違う。私がそこに、たどり着いたのだ。  愛美先輩に誘われて、彼女だけが連れて行ってくれる、恍惚の世界へと、私は――。 「ふひゃあッ! ふひッグぅうううッ」  ひときわ高く喘いで、私はそこにたどり着いた。  たどり着いた性の高みから、ゆっくりと下りてくる。  次第に、覚醒していく。  気づくと、拘束を解かれていた。胸を露出したままの身体の上には、シーツがかけられていた。 「うふふ……裕香、気持ちよさそうだったね」  そのとおりだ。乳首だけしか責められていないのに、とても大きい快感に襲われ、いつもより強く悦びを感じていた。  それは、目隠しをされて視覚を奪われ、皮膚感覚がふだんより鋭敏になっていたから。  猿轡のせいでなにを言っても伝わらないと思い込み、恥ずかしい言葉を口走ってしまったから。  いや、違う。  もちろん、それらの要素も影響していたが、もっと大きい理由がある。  疼き火照る肉体をふたつの貞操帯に閉じ込められ、それらを解消する手段を奪われて、官能のトロ火で炙られ続けてきたせいだ。 『裕香はもう貞操帯の魅力の大半を知っているけれど、まだ知らないものもある。それを、乳房貞操帯が教えてくれるわ』  乳房貞操帯を着けられたときの、愛美先輩の言葉。  その魅力とは、強制的に禁欲を強いられることで、解放されたときの悦びがより強く大きくなることだったのだ。  そのことを、まる1日かけて、愛美先輩と乳房貞操帯が教えてくれた。 「よかったわ。これで裕香は貞操帯の魅力をすべて理解してくれた」  私がそのことを告げると、愛美先輩は心の底から生まれたような、輝く笑顔を見せてくれた。 「はい。これで私、ほんとうに愛美先輩と同じになれたような気がします。いえ……」  そこで、私は傍に置かれていた、乳房貞操帯を手に取った。  まる1日着けていたからわかる。  それは、ベルトの噛み合わせ部分が、数センチの範囲でサイズ調節できるようになっていた。金属製のカップは私のおっぱいより2サイズくらい大きく、余裕があった。  そして夏の合宿は、あと1日ある。 「いえ……明日の夜まで、愛美先輩にこれを着けてもらったら、ほんとうに先輩と同じになれます」  そう言った私の顔には、おそらく先ほどまでの愛美先輩と同じ種類の笑顔が、貼り付いていた。  愛美先輩を見つめる瞳には、妖しい光が宿っていた。 「愛美先輩、シャツを脱いでください」 「ぁあ……」  そして私に命じられたとき、愛美先輩は先ほどまでの私と同じように、ズクズクに蕩けてしまった。 終章 「おはよう、裕香」 「おはようございます、愛美先輩」 「いよいよ、今日からね」 「はい、新米ですが、よろしくお願いします」 「うふふ……私だって、まだまだよ。芦屋先生に比べたら……」  そこで愛美先輩が、学園近くの総合病院の建物を見上げた。  芦屋病院。  そこが、今日から私の職場である。  あれから――。  『すぐに自信を持つ必要はないわ。でもあなたには、愛美ちゃんと同じ、いえ彼女以上の才能がある。私も愛美ちゃんも、あなたのことをそう評価していることは、憶えておいて。そのことを踏まえて、裕香ちゃんに頼みたいことがあるの』  夏の合宿に向かう車の中で、芦屋先生に言われてから、私は考えた。 『いずれ私たちは老いる。こうして合宿に協力する体力もなくなるし、頭が固くなって部員たちと心を通わせることもできなくなる。そうなる前に、あなたと愛美ちゃんに、私たちの役目を引き継いでもらいたいの』  それは、容易にできることとは思えなかった。  ほんとうに、私に愛美先輩と同じ才能があるんだろうか。  ほんとうに、私は愛美先輩や芦屋先生が考えているような人間なのだろうか。  ほんとうに、私に芦屋先生と三木さんの後継者が務まるのだろうか。  貞節女子学園の貞操帯倶楽部。その部員たちを陰に日向に支えるためには、医学の専門家でなくてはならない。  同時に、若い部員たちを心の底から理解できなくてはならない。  私に芦屋先生や三木さんほどの度量があるとは思えなかったし、そもそも医学部に進み、医師になることは超難関だ。  それを、私は愛美先輩と芦屋先生の協力もあって、なんとか乗り越えた。愛美先輩と同じ大学の医学部に進み、国家試験に合格し、研修も終えた。  医師としても、人としても、まだまだ半人前だけど――。 「来たわね、裕香ちゃん」  芦屋先生と三木さんが、私たちを迎えてくれた。  この人たちと愛美先輩の支えがあれば、私はなんとかやっていけるだろう。  今までそうだったように、これからもずっと。  私たちは――私と愛美先輩は、永遠のコンプリッツェなのだから。 (了)

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