小説 貞操帯倶楽部 夏の合宿編.6 & 終章 (Pixiv Fanbox)
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2018-08-28 23:36:01
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2022-02-04 11:00:03
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夏の合宿.6
「脱ぎなさい」
愛美先輩に命じられて、素直に従う。今は部屋着代わりの体操着姿だから、脱ぐのも速い。
とはいえ、かろうじて女の子の恥じらいは残っている。
いかに肉体が疼き火照り、精神が焦燥感に駆られていても。いや、そういう状態だからこそ、焦りを感じさせないよう慎重に。
とはいえ、そんな私の気持ちは、愛美先輩にはお見通しだ。
それなのに、恥ずかしいふりでゆっくりと体操着を脱ぐ私を、先輩は待ってくれる。
それは『見られるかも』というドキドキ感で昂ぶる私にとって、羞恥心は快感を増幅させるスパイスにもなるものだから。
私と同じ性向を持つ愛美先輩も、そのことを熟知しているから。
そして体操着のシャツとハーフパンツを脱ぎ、ふたつの貞操帯姿になってからも、愛美先輩は椅子に腰かけたままだった。
「あ、あの……」
「両手を後ろに」
なにか言いたくてもなにも言えず、手で貞操帯を隠そうとした私に、愛美先輩が命じた。
「は、はい……」
その命令にも逆らうことができず、おずおずと両手を背中に回す。
恥ずかしい。
疼き火照る肉体を封じるふたつの貞操帯姿を、瞳に妖しい光をたたえた愛美先輩に見つめられて。
それでさらに羞恥心を煽られ、封印されて冷めない疼きと火照りに、新たに生まれた欲情を上乗せされる。
「はふ、はふ、はふ……」
緩く開いた口から熱い吐息が漏れ始めた。
「素敵よ、裕香」
そこでそう言って、ふたりぶんのセーラー服のスカーフを手に、愛美先輩が立ち上がった。
「お口、あーんして」
「あーん……んぅ」
正面から真ん中に結びめでコブを作ったスカーフを口に噛まされ、抱きつくような体勢で頭の後ろで結ばれる。
愛美先輩の体操服の匂いに少しドキドキしたところで、次は目隠し。セーラー襟につけるときより1回多く折って、目を塞がれる。
それほど、きつく締められたわけではない。
そもそもツルツルスベスベのスカーフは、きつく締めてもすぐに緩む。本来、猿轡や目隠しには向かない素材だ。
それなのに愛美先輩がスカーフを使うのは、それがふだん私たちが愛用している品だから。
日常使っているものを使って言葉と視界を奪われ、非日常の世界に誘われることには、格別の感慨がある。
そのうえ目隠しのせいで、私には自分の姿が見えない。見えないがゆえに、かえって『貞操帯だけの姿』を意識してしまう。
猿轡のせいで、恥ずかしくてもそうと伝えられない。伝えられないがゆえに、私のなかで羞恥心がますます増幅される。
「はふ、はふ、はふ……」
そのせいで疼きと火照りが強くなった肉体に、手枷と足枷が着けられた。
「はふ、はふ、はふぅ……」
期待感に性感が高まり、吐息に甘みが混じり始めたところで、愛美先輩の声。
「乳房貞操帯、外すね」
「はっ、ふぁひ(はい)……」
答えたところで、胸の谷間の南京錠に小さな鍵が差し込まれた。
カチリ。
解錠される金属音。胸の軽い締めつけが緩む。
愛美先輩がわざとそうしたのか。それとも偶然か。金属製のカップの縁が、軽く乳首を撫でた。
「はふぁ……」
それだけで、甘く喘いでしまう。
肉体の疼きと火照りが、いっそう強くなってしまう。
そんな状態の私を、愛美先輩がベッドに誘(いざな)った。
肩を抱いてマットレスの縁にすわらされ、横たえられて手足を大きく広げさせられる。
カチッ。
右の手枷が、なにかに金具でつながれた。
カチッ。
続いて左手。さらに足。
事前に用意していたのだろうか。手枷をベッドの桟に結ばれたベルトかなにかにつながれると、私は手足をX字に開いた恥ずかしい姿勢から、逃れられなくなった。
「はふぅ、はふぅ、はぅん……」
緩く開いた口から甘い吐息を漏らしていると、愛美先輩が私のお腹に馬乗りになった。
でも、苦しくはない。おそらくお腹に体重がかからないよう、脚に力を込めて――。
「ひふッ!?」
そこで、猿轡を噛まされた口の横を、なにかで撫でられた。
指ではない。硬いようで、それでいて柔らかいようで、得体の知れないなにか。
「はひ(なに)……?」
そのことにとまどったところで、愛美先輩の声。
「デスクの上にあった羽根ペン……覚えてる?」
覚えていた。たしかにデスクの上ペン立てに、羽根ペンが刺されていた。つまりそれの羽根の部分で、頬を撫でられたのだ。
「うふふ……今の裕香には、これがちょうどいいと思ってね」
そう言いながら、愛美先輩が羽根を動かす。
目隠しの布の下端に沿うように、頬から耳たぶ。
「はぅうん……」
私を艶めいて喘がせて、耳たぶから首すじへ。
「ふはぁあ……」
触れるか触れないかの強さで、ゾクゾクする快感を生み出しながら、鎖骨、肩。
腕の途中まで撫であげて、腋。
「はひぃい……」
ふだんならくすぐったいところだが、今はそこを撫でられても快感にしかならない。
気持ちいい。気持ちいい。
どこを撫でられても気持ちいいのは、視覚を失ったぶん、皮膚感覚が鋭敏になっているからか。
それとも――。
「はひゃあ……」
考えかけたところで、また脇を撫でられた。
「うふふ……裕香、気持ちよさそう」
「ふぁひ(はい)……ひもひぃひへふ(気持ちいいです)……)
言い合うあいだに、羽根は腋から脇腹へ。
「はふぁ……ひもひぃひ(気持ちいい)……」
「どうしたの? 猿轡のせいで、なにを言ってるのかわからないわ」
それは、嘘だった。
セーラー服のスカーフを緩く噛ませただけの猿轡では、発音が多少不明瞭になるだけだ。集中すれば、なにを言っているか聞き取れる。
とはいえ、それはのちにわかったこと。そのときの私は、猿轡のせいで言葉は伝わらないと思い込まされた。
「ふぉんは(そんな)……」
一瞬愕然としたあと、羽根の愛撫でまた高められる。
そして羽根は身体の前面へ。
お腹の這い上がり、胸の谷間。また鎖骨のあたりまで上がって――。
「はふぁあッ!」
少しずつ乳房に近づいていくのかと思った刹那、いきなり乳首を撫でられ、思わず嬌声をあげてしまった。
しかし、それは一瞬。
私の肉体を一段高いところに押し上げたあと、羽根は乳房の麓をなぞるように動き始める。
「ふぁ……ふぉんは(そんな)ぁ……」
乳首を愛撫して欲しくて不満の声を漏らしたのは、猿轡のせいで言葉は伝わらないと信じていたからだ。
「ふぉへはひ(お願い)ぃ、ひふひひへ(乳首して)ぇ……」
そんなはしたないおねだり、ふだんならできるはずがない。
「なんて言ってるのかなぁ。ぜんぜんわからないよ」
そして愛美先輩は、わかっているのに聞こえないふりでとぼける。
それでますます誤解して、私は恥ずかしい言葉を口走る。
「はふぇへひふひ(羽根で乳首)、ひひゃらひふひへ(いやらしくして)ぇ……」
「なにを言ってるの? どうしてほしいの?」
「ほへふぁひ(お願い)ぃ……はふぇへひふひ(羽根で乳首)、はふぇへ(撫でて)ぇ……)
そこで、愛美先輩の表情が変わった――気がした。
目隠しで見えないのだが、先輩が唇の端を吊り上げて嗤ったことが、雰囲気でわかった。
「わかったわ。お望みどおり、羽根で乳首をいやらしく撫でてあげる」
「ふへ(えっ)……!?」
私の恥ずかしいおねだりが、聞こえていたのか。不明瞭なはずの言葉を、理解していたのか。
そのことに気づいて、激しい羞恥心に襲われる。
(恥ずかしい……恥ずかしい……)
しかし、それも一瞬のこと。
「はひゃああッ!」
右の乳首を羽根でサッと払われて、はしたなく喘いでしまった。
「はひぃいいッ!」
左の乳首を羽根で押されて、あられもない嬌声をあげてしまった。
羞恥心を快感のスパイスにして、私は一気に高められる。
「ひゃはぁああッ!」
緩く軽く、羽根で乳首を上下に叩かれて。
弾かれたように、一段高いところに飛ばされた。
「はひッ、ふひぃああッ!」
叩かれていた乳首を弾くように払われて。
ブースターに点火されたように、性の高みへと押し上げられていく。
そこからは、なにもわからなかった。
手足に力を込めて、枷を鳴かせていた気がする。
他人(ひと)に聞かれたら恥ずかしいような言葉を、口走っていた気がする。
気持ちいい。気持ちいい。
乳首を羽根で弄られるだけで、こんなに気持ちいいなんて。こんなに大きい快感に襲われるなんて。
それは――。
そのとき、なにかが来た。
いや違う。私がそこに、たどり着いたのだ。
愛美先輩に誘われて、彼女だけが連れて行ってくれる、恍惚の世界へと、私は――。
「ふひゃあッ! ふひッグぅうううッ」
ひときわ高く喘いで、私はそこにたどり着いた。
たどり着いた性の高みから、ゆっくりと下りてくる。
次第に、覚醒していく。
気づくと、拘束を解かれていた。胸を露出したままの身体の上には、シーツがかけられていた。
「うふふ……裕香、気持ちよさそうだったね」
そのとおりだ。乳首だけしか責められていないのに、とても大きい快感に襲われ、いつもより強く悦びを感じていた。
それは、目隠しをされて視覚を奪われ、皮膚感覚がふだんより鋭敏になっていたから。
猿轡のせいでなにを言っても伝わらないと思い込み、恥ずかしい言葉を口走ってしまったから。
いや、違う。
もちろん、それらの要素も影響していたが、もっと大きい理由がある。
疼き火照る肉体をふたつの貞操帯に閉じ込められ、それらを解消する手段を奪われて、官能のトロ火で炙られ続けてきたせいだ。
『裕香はもう貞操帯の魅力の大半を知っているけれど、まだ知らないものもある。それを、乳房貞操帯が教えてくれるわ』
乳房貞操帯を着けられたときの、愛美先輩の言葉。
その魅力とは、強制的に禁欲を強いられることで、解放されたときの悦びがより強く大きくなることだったのだ。
そのことを、まる1日かけて、愛美先輩と乳房貞操帯が教えてくれた。
「よかったわ。これで裕香は貞操帯の魅力をすべて理解してくれた」
私がそのことを告げると、愛美先輩は心の底から生まれたような、輝く笑顔を見せてくれた。
「はい。これで私、ほんとうに愛美先輩と同じになれたような気がします。いえ……」
そこで、私は傍に置かれていた、乳房貞操帯を手に取った。
まる1日着けていたからわかる。
それは、ベルトの噛み合わせ部分が、数センチの範囲でサイズ調節できるようになっていた。金属製のカップは私のおっぱいより2サイズくらい大きく、余裕があった。
そして夏の合宿は、あと1日ある。
「いえ……明日の夜まで、愛美先輩にこれを着けてもらったら、ほんとうに先輩と同じになれます」
そう言った私の顔には、おそらく先ほどまでの愛美先輩と同じ種類の笑顔が、貼り付いていた。
愛美先輩を見つめる瞳には、妖しい光が宿っていた。
「愛美先輩、シャツを脱いでください」
「ぁあ……」
そして私に命じられたとき、愛美先輩は先ほどまでの私と同じように、ズクズクに蕩けてしまった。
終章
「おはよう、裕香」
「おはようございます、愛美先輩」
「いよいよ、今日からね」
「はい、新米ですが、よろしくお願いします」
「うふふ……私だって、まだまだよ。芦屋先生に比べたら……」
そこで愛美先輩が、学園近くの総合病院の建物を見上げた。
芦屋病院。
そこが、今日から私の職場である。
あれから――。
『すぐに自信を持つ必要はないわ。でもあなたには、愛美ちゃんと同じ、いえ彼女以上の才能がある。私も愛美ちゃんも、あなたのことをそう評価していることは、憶えておいて。そのことを踏まえて、裕香ちゃんに頼みたいことがあるの』
夏の合宿に向かう車の中で、芦屋先生に言われてから、私は考えた。
『いずれ私たちは老いる。こうして合宿に協力する体力もなくなるし、頭が固くなって部員たちと心を通わせることもできなくなる。そうなる前に、あなたと愛美ちゃんに、私たちの役目を引き継いでもらいたいの』
それは、容易にできることとは思えなかった。
ほんとうに、私に愛美先輩と同じ才能があるんだろうか。
ほんとうに、私は愛美先輩や芦屋先生が考えているような人間なのだろうか。
ほんとうに、私に芦屋先生と三木さんの後継者が務まるのだろうか。
貞節女子学園の貞操帯倶楽部。その部員たちを陰に日向に支えるためには、医学の専門家でなくてはならない。
同時に、若い部員たちを心の底から理解できなくてはならない。
私に芦屋先生や三木さんほどの度量があるとは思えなかったし、そもそも医学部に進み、医師になることは超難関だ。
それを、私は愛美先輩と芦屋先生の協力もあって、なんとか乗り越えた。愛美先輩と同じ大学の医学部に進み、国家試験に合格し、研修も終えた。
医師としても、人としても、まだまだ半人前だけど――。
「来たわね、裕香ちゃん」
芦屋先生と三木さんが、私たちを迎えてくれた。
この人たちと愛美先輩の支えがあれば、私はなんとかやっていけるだろう。
今までそうだったように、これからもずっと。
私たちは――私と愛美先輩は、永遠のコンプリッツェなのだから。
(了)