小説 貞操帯倶楽部 夏の合宿編.5 (Pixiv Fanbox)
Published:
2018-08-24 12:23:03
Edited:
2022-02-04 10:59:22
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夏の合宿.5
「う、ん……」
朝、目を覚ますと、愛美先輩はすでに制服のセーラー服に着替えていた。
「起きたのね? ギリギリまで寝かせてあげようと思っていたんだけど」
眠い目をこすりながら朝の挨拶を済ませると、愛美先輩は苦笑まじりにそう言った。
たぶん、私があまり眠れていないことを知っているのだ。
昨夜――。
乳首だけで絶頂寸前に追い上げられたあと、乳房の貞操帯を着けられた。熱い火照りと甘い疼きを宿したまま、私のおっぱいは封印されてしまった。
その火照りと疼きせいで、消灯してからもなかなか寝つけなかった。やっと眠りに落ちても深くは睡眠できず、何度か目覚めてしまった。
そして火照りと疼きは、今もくすぶるように残っている。
「大丈夫? なんなら朝食の用意は、私だけでやっちゃうけど」
「いえ、平気です……」
重い身体を引きずるようにベッドを出て、パジャマ代わりに着ていた体操着を脱ぐと、嫌でもふたつの貞操帯が目に入った。
貞操帯倶楽部に入部して以来、かたときも外したことのない股間の貞操帯と、昨夜着けられた胸の貞操帯。
乳房貞操帯なんてものがあるなんて、昨夜まで知らなかった。
とはいえ、現代の貞操帯は肉体のみならず精神の貞操をも守るためのものだ。その目的のため、女の子の感じやすいところを封印する胸の貞操帯があっても不思議ではない。
とはいえ、ちらりと見た鏡に映るふたつの貞操帯姿は、ちょっとだけ恥ずかしい。
その姿がいたたまれず、できるだけ見ないように、ハンガーにかけてあったセーラー服の上衣を取る。
頭から被るように上衣を着て、左脇のサイドファスナーを閉じて胸もとのホックを留める。三角のスカーフを四つに折って、その形が崩れないように襟の下に収め、スカーフ留めでまとめる。その形をふんわりと整えてから、スカート。
「下着、着けないんだね?」
「えっ……?」
貞操帯の上にショーツを穿かないと昨日決めたことは、愛美先輩も知っているはずなのに。一瞬怪訝に思って、胸の貞操帯のことを言っているんだと気づいた。
睡眠不足と肉体の疼きと火照りのせいで、思考能力が落ちているのかもしれない。
そして思考能力が落ちている私は、愛美先輩がかけた言葉の目的には気づかない。
「えっ……あっ、はい」
気づかないままそう答えて、胸の貞操帯を意識してしまった。
あらためて視線を落として胸もとを見て、セーラー服を持ち上げる膨らみが、いつもより大きいことに気づく。
ふつうのブラと違い、胸の貞操帯は乳房にフィットしているわけではない。乳房のふもとには隙間なく密着しているが、半球状のカップは私の乳房よりずいぶん大きい。
乳房貞操帯が、もともとそういうものなのか。それとも股間の貞操帯のときのように、正確にサイズを測定して選んだわけではないからか。理由はわからないが、服の上から見ると、カップ2サイズくらい大きくなったように見える。
おまけに、チェーンのストラップが首のすぐ横を通っているから、セーラーの襟から見えてしまいそうで――。
「見えちゃいそう……」
「いいんじゃない、見えても」
私が鏡を見ながら呟くと、愛美先輩がにっこり笑って告げた。
「えっ……」
「私たちは、貞操帯倶楽部なんだから」
そうだ。私たちは貞操帯倶楽部だ。
だから、貞操帯を着けているのはあたりまえのこと。それに私が知らなかっただけで、胸の貞操帯もふつうに着けるものなのかもしれない。
そう考えてセーラー服に着替え、私たちは朝食の用意をするために部屋を出てキッチンに向かった。
朝食は、アメリカンスタイルのブレックファースト。愛美先輩がカリカリベーコンとサニーサイドアップを作っている横で、レタスをちぎってサラダを作りつつ、パンを籠に盛る。
飲みものはコーヒー派と紅茶派、どちらもいるので両方用意。ジュースはちょっとだけ手抜きして、買ってあった紙パックのもので済ます。
身体を動かしていると、肉体の火照りと疼きは少し治った気がした。
胸の貞操帯の違和感は股間のものより大きいが、せわしなく動いていると、それほど邪魔な感じはしない。
そうしているうちに、みんなが食堂に集まってきた。
まずは、豊岡先輩と小海。続いて芽衣瑠衣の双子の先輩姉妹。そして最後に、芦屋先生と三木さん。
ちなみに豊岡先輩と小海は制服姿だが、このあと当番を交代する芽衣瑠衣先輩は私服だ。
「あれ、裕香ちゃん、いいものを着けてるわね」
さすが、というべきか。芦屋先生が、最初に気づいた。
「はい、昨日着けてもらいました」
ドキリとしながらも平静を装って答えると、小海がその言葉に食いついた。
「えっ、裕香ちゃん、なにを着けてもらったん?」
「えへへー、内緒。当ててみ?」
ちょっといたずら心を起こしてそう答えると、小海がコーヒーと紅茶のポットを食卓に運ぶ私を凝視した。
「んー……わからん。いつもよりおっぱいが大きい気がするけど……」
「あー、あれを着けたのか」
そこで、豊岡先輩が気づいた。
「合宿だからねー」
「いい機会なのですー」
芽衣瑠衣先輩もわかったようだ。
「えっ、なになに? もしかして、うちだけわかってへんの?」
「くくく……そんなに気になるか? よし、帰ったら小海にも着けてやろう」
不満げに口を尖らせた小海の頭を豊岡先輩がポンポンと叩いたところで、朝食の準備が終わった。
「それじゃ、いただきましょう」
そこで芦屋先生がそう言って、会話はいったん終わった。
朝食の片付けを済ませて部屋に戻ると、今日はもうやることがなかった。
「本でも読みながら、のんびり過ごしましょうか」
愛美先輩がそう言って私も同意。部屋着の体操着に着替えようとしたときである。
「裕香ちゃん裕香ちゃん! 胸の貞操帯、見せて見せて!」
部屋の扉が開け放たれて、小海が飛び込んできた。
「裕香、すまない……どうしてもって言うこと聞かなくて」
続いて頭をかきながら現われた豊岡先輩が、小海の頭をパシンとはたいた。
「アホ、ノックくらいせえ」
「あいたた……」
とはいえ、その程度でめげる小海ではない。
申しわけ程度にコンコンと扉を叩き、手遅れのノックをして目を輝かせた。
「早う早う、見せて裕香ちゃん!」
「え、えーと……」
困って愛美先輩を見ても、苦笑するばかりでなにも言ってくれない。
小海には、悪い下心はない。純粋に興味本位で胸の貞操帯を見たがっているだけだ。
とはいえ、自分で見るだけでいたたまれなくなる乳房の貞操帯を、愛美先輩以外の人に見せるのは恥ずかしい。
しかし、小海は簡単に引き下がってくれそうにない。
「仕方ないなぁ……ちょっとだけだよ?」
ため息混じりにそう言って、スカーフ留めと胸のホックを外し、サイドファスナーを開ける。
思えば、完全に脱ぐ必要はなかった。上衣の裾をたくし上げて、チラリと見せるだけでよかった。
でも、私はそうしようとしなかった。
それは、体操着に着替えようとしていたタイミングだったからか。あるいは、別の理由が――。
『ほんとうに、私と同じになっちゃったみたいね?』
そのとき、昨日の愛美先輩の言葉が、頭の中に蘇った。
そうだ。あのとき、私は愛美先輩と同じように、見られるかもしれないというドキドキに、昂ぶっていた。
『裕香、もう戻れないよ?』
そしてそう言われて、戻れなくてもいいと、戻りたくないと思ってしまった。
だからなのか。
だから、小海に乳房貞操帯を見られるというシチュエーションに、無意識のうちに期待しているのか。
わからない。
わからないが、そう思ってしまったときから、胸が高鳴り始めてしまった。
上衣を脱ぎ終わったときには、肉体の疼きと火照りが蘇っていた。
そんな状態で、乳房貞操帯を晒して小海の前に立つ。
「うわぁ……」
すると感嘆の声をあげて、いつもは饒舌な小海が言葉もなく私の胸を凝視した。
恥ずかしい。
ほんとうに、恥ずかしい。
露出度ならビキニの水着、あるいは下着のブラより低いくらいなのに、その中に封じ込められた疼きと火照りを見透かされているようで。
「さ、触っても……ええ?」
声をうわずらせ、小海が訊ねる。
「う、うん……ちょっとだけなら」
搾り出すように答えると、小海が日焼けした腕を、私の胸に伸ばした。
「カチカチや、硬いわ……」
半球状のカップに触れて、そう口走る。
「あ、あたりまえ……」
答えかけて、ハッとした。
股間の貞操帯と同じ硬くて頑丈なステンレス鋼のカップに、私の乳房は閉じ込められているのだ。そのカップは、同じ素材のベルトとチェーンで、私の胸に固定されているのだ。
愛美先輩が持っている鍵を使わないかぎり、私自身も含めてなんぴとたりとも私のおっぱいには触れられない。
そのことをあらためて思い知らされたところで、小海が手を引いた。
「すごいわ……ウチ、こんなん着けられたらどうなるんやろ?」
「そらおまえ……アソコはおろか胸にも触れられないんだ。もし欲情してしまったら、鍵の管理者に泣いて許しを請うしかないんだぞ」
豊岡先輩の言葉は、私に向けられた言葉ではない。あくまで先輩のコンプリッツェである小海を煽るための言葉だ。
「あぁ……そんな、うち……」
その証拠に、そうなってしまった自分を想像し、小海は一瞬で蕩けてしまった。
そして同じ言葉を、私も聞いてしまった。
おまけに私は乳房貞操帯を着けられる前から、肉体は欲情した状態なのだ。
『鍵の管理者に泣いて許しを請うしかない』
その状態に、始めから陥っていたのだ。
「騒がせたな」
蕩けてしまった小海の肩を抱き、豊岡先輩が部屋を後にする。
カチャリ、と扉が閉まり再び愛美先輩とふたりきりになって。
「せ、先輩……」
ふたつの貞操帯を管理する愛しいコンプリッツェのほうを見たところで――。
「ひっ……!?」
愛美先輩の妖しい光をたたえた瞳に射すくめられ、私は短く悲鳴をあげた。
それから、愛美先輩はときおり妖しい瞳で見つめるだけで、私を言葉で煽ることはなかった。
とはいえ私の肉体は、ふたつの貞操帯に封じ込められ、疼きと火照りを宿したまま。朝のように忙しく働いていれば気がまぎれるのだろうが、静かに過ごしているだけでは、そうはいかない。それどころか、かえって強く意識してしまう。
そして私の精神は、小海に向けられた豊岡先輩の言葉に煽られたまま。先輩が泣いて許しを請うしかないと評した状態で、平静を装って過ごすしかない。
『裕香はもう貞操帯の魅力の大半を知っているけれど、まだ知らないものもある。それを、乳房貞操帯が教えてくれるわ』
私に胸の貞操帯を着けたときの、愛美先輩の言葉。
この疼きと火照りがもたらす焦燥感が、その魅力だというのだろうか。
だとしたら、私にはわからない。
貞操帯を外してほしい。外して、めちゃくちゃになるまで愛してもらいたい。その思いしか、今はない。
お昼、食堂でご飯を食べているあいだも。そのあと、またのんびりとすごしながらも。夜、またみんなで夕食を摂っていても。
肉体の疼きと火照り、精神の焦燥感は消えない。消えないどころか、ますます強くなっていく。
「そろそろ、頃合いかしらね?」
そして夕食後、再び部屋に引き上げてから、愛美先輩が小さな鍵を私に見せた。