小説 矯正牧場の馬奴隷 6章 (Pixiv Fanbox)
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2020-08-28 09:18:48
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2023-01-04 23:31:56
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6.理想のポニーガール
それから、どれほどの日にちが過ぎただろう。
はじめは頭の中で数えていたが、10日めを過ぎた頃には、勘定に自信を持てなくなった。20日めくらいには、数えることを諦めた。
朝、干し草の上に排泄し、そのすぐ横で床に這いつくばって餌を食べ、やってきた三原班長に手綱を取られて調教を受ける。
そして夜、その日の調教をうまくこなせば、ご褒美をもらえる。
三原班長の指で、手にした鞭で絶頂させられ、甘美な恍惚の世界に連れていってもらう。
馬奴隷暮らしのなか、いつしかそれが、唯一の愉しみになっていた。
その甘い『飴』をもらうために、つらい『鞭』であるはずの調教に、嬉々として臨むようになっていた。
はるか先の出所の日より、自分の頑張り次第でその日にもらえるご褒美のほうが、心のなかで大きな比重を占めてしまっていた。
(ご褒美をもらい続けることが、刑期短縮にもつながるはずだから……)
ともすれば生まれそうになる羞恥心や自制心を言いわけして抑え込みながら、自分ではそうと気づかないまま、夏海は少しずつ馬奴隷に堕ちていく。
そうしてご褒美欲しさに調教を受けることに背徳感すら抱かなくなった頃、午前の調教を終えて馬小屋に戻ったとき、手綱を壁のリングにつなぎながら三原班長が口を開いた。
「もうじき、ひと月1度の刑期判定会議があるの」
それは囚人ひとりひとりの矯正教育――実態は馬奴隷調教――の進み具合を報告し、その成果によって刑期の延長、あるいは短縮を決める会議である。
「188番の調教は順調だから、刑期が延長される恐れはないわ。安心してね」
それは裏を返せば、刑期短縮が認められる可能性もないということか。
そう考えて少しばかり落胆すると、三原班長が苦笑した。
「188番が入所して約1カ月。調教が順調なだけでは、まだ刑期短縮を提案できる段階ではないわ。一般的な囚人が入所2カ月から3カ月めに着ける最後のポニーガール装備を、1カ月で着けたというなら、話は別だけど」
つまりその装備を着ければ、三原班長は刑期短縮を提案できるということだ。仮にすぐには認められなくても、いずれそれは、刑期短縮につながるプラス評価の要素になることは間違いない。
それにその装備は、今ではなくても、いずれは着けられることになるもの。
「着けてみる?」
だからそう問われ、夏海は迷いなくうなずいた。
それを着けることで、刑期短縮を狙うため。
それと同じくらい、いやそれ以上に、着けることで今日もご褒美をもらえるかもしれないと期待して。
ほかの馬奴隷が着けていて、自分がまだ着けていない、最後のポニーガール装備。夏海はそれに、心当たりがあった。
とはいえ夏海が思いついた装備、いや装備というより装飾は、些細なもののように思えた。
それは馬小屋の中で、排泄が許される時間だけ外される、肛門を覆う蓋。
夏海の股間プレートの肛門カバーがただの金属板なのに対し、ほかの馬奴隷のそれには、馬の尻尾に似せた毛束の飾りがついている。
(その違いだけで……)
ほんとうに刑期短縮の要素になるのだろうか。
その疑問を抱いた夏海には、入所前に性体験がなかった。
同年代の女子と比べると、性知識も乏しかった。
そんな夏海の脚に、いつもの金属棒つき足枷が嵌められる。
手綱に使われるのと同じ扁平の革紐が梁に投げ上げられ、その上を通って落ちてきたところで――。
しかしつながれる先は背中の金具ではなく。ボディハーネスのコルセット部分の側面に設えられた金属製リングだった。
ふだんと違う接続位置に少しばかりとまどっていると、馬銜の手綱を取られた。
そのまま手綱を下に引かれ、お辞儀をするように頭を下げさせられる。
それで背中の高い位置にある金具ではなく、コルセット側面のリングを吊られた理由を理解したところで、手綱を足枷の棒に結びつけられた。
「ぉあぅ……」
顔を伏せたまま上げられず、口から溢れた涎が干し草の上に落ち、すぐに吸い込まれる。
開脚したまま深々とお辞儀した姿勢。バランスを取るために、自然とお尻を後方に突き出す形となる。
その夏海のお尻の前に、両手に医療用の薄いゴム手袋を嵌めて三原班長が立った。
カチリ。小さな金属音とともに、肛門の蓋が外される。
引き続き、蓋が尻尾つきのものに交換されて――。
その予想に反し、肛門に冷たいものが触れた。
「ぃうッ!?」
思わず短く悲鳴をあげたところで、それがローションまみれの指だと気づいた。
「あぇ(なぜ)……?」
蓋を交換するためだけに、そこにローションを塗る必要があるのか。
その疑問への回答を得られないまま、三原班長の指が動き始める。
まず窄まりの中心の周りを、円を描くように。
むず痒いような感覚をそこに生みながら、ときおり窄まりの上をスッと指が通過する。通過する際、わずかに指に力を込めてムニっと押す。
「はひッ!?」
そのたび短く悲鳴をあげ、反射的にそこをキュッと引き締めてしまう。
そうするたびに、むず痒い感覚が、どんどん強くなる。
知っている。ご褒美と称して快楽を教え込まれてきた夏海には、その感覚の正体がわかっている。
これは、性の快感の予兆だ。この感覚が大きくなると、快感に変わってしまうのだ。
「うぇお(でも)、ぉうぃえ(どうして)……」
肛門に快感の予兆が生まれてしまうのか。そこは、ただの排泄器官にすぎないのに。
「188番は……」
そこで、三原班長が口を開いた。
「ポニー調教や鞭で気持ちよくなる188番は、やっぱり肛門でも感じるのね」
やっぱり、とはどういうことなのだろうか。
ポニー調教や鞭で気持ちよくなることと、肛門で感じることには、関係があるというのか。
偶然か、はたまた意図してか。その疑問にも、三原班長は答えを与えてくれた。
「188番は、とってもエッチな子。私好みの、エッチで淫らな馬奴隷……」
「うぇ(えっ)……」
自覚のないことを言われてとまどう。
とはいえ、考えてみれば、その結論は当然のこと。
ふつうの女の子なら、ポニー調教はつらいだけのもの。鞭は痛いだけのもの。
それらつらくて痛いだけの責め苦で、気持ちよくなり性的に昂ぶる夏海は、エッチで淫らな馬奴隷。
そんな馬奴隷が、肛門でも感じるのはあたりまえ。
実のところ、すべてが嘘である。
ポニー調教で気持ちよくなるのだと信じさせられたのは、お股の排泄孔から漏れる汗を、女の子のお汁だと思い込まされたからだ。
鞭で絶頂させられたのは、卓越した指技を駆使しての愛撫で昂ぶらせたうえで、快感を痛みが凌駕しないよう加減して鞭を使われたからだ。
さらに、肛門で感じてしまったのは、そこにも少なからず性感帯が存在しているから。
それは、そこを固形物が通過したとき「スッキリして気持ちいい」という感覚を覚えさせ、次回も快便を促すための人体の仕組みである。
とはいえ、夏海はそのことを知らされていない。
それゆえ1カ月にわたる馴致と調教が奏功し、言葉巧みに誘導され、夏海は自分がエッチで淫らな馬奴隷なのだと考えさせられる。
そしてそのあいだにも、肛門に生まれる妖しい感覚は、どんどん大きくなっていた。
「はふ、はっ、はっ……」
肉が昂ぶり、呼吸が荒くなる。
「はっ、はっ、はふぁ……」
荒い吐息に、甘みが混じり始める。
「はふぁ……あぅあ……」
顔を下に向けているせいで、馬銜の口から溢れた涎が垂れる。
口から涎が垂れるように、女の子の場所から熱い蜜が溢れる。溢れた蜜が、金属板の小水排泄孔からこぼれ出す。
「うふふ……そろそろ、いい頃合いね」
そのさまをあざとく見つけた三原班長が、窄まりの中心に指を押し当てた。
「軽くいきんでみて」
そう言われ、頭が蕩けていたせいで、思考を経ずに従った。
そのときである。
ヌルリ。
窄まりをこじ開け、指が侵入してきた。
「ひッ……!?」
悲鳴じみて短く喘ぎ、挿入された指を食い締めてしまった。
とたんに広がる、妖しい感覚。
「あ、ぅん……」
性の快感につながる予兆に、甘い吐息を漏らしてしまう。
「ん、あぇ(なぜ)……」
なぜ簡単に挿入を許したのかと言葉にしかけた声に反応し、三原班長が口を開いた。
「うんちをするときのようにいきむと、人の肛門は少しだけ開くの。そこへ不意打ちでローションまみれの指を挿入されたら、けっして拒めるものではないわ」
そう言うと、三原班長が挿入した指を動かし始めた。
妖しい感覚を生みながら、指がゆっくりと押し込まれる。
その感覚を増幅しながら、侵入してきたときと同じペースで引かれる。
「はっ、ふぁあ……」
それで夏海を甘く喘がせて、再び指が押し込まれる。
そこに生まれる妖しい感覚が、ますます大きくなってきた。
ご褒美でもらえる快楽と同じ種類の肉の悦びを、そこでも感じ始めていた。
(ダメ、こんなことじゃ……)
肛門という、ふつうは排泄にしか使わない器官で、性的に高まることへの背徳感を抱いたのは一瞬。
肛門に生まれる快感は、指を抽送されるたび強くなる。
甘美な絶頂の味を憶えてしまった肉体は、さらに大きい快感を求めてしまう。
肉体の求めに従い、本能が肛門性感を受け入れる。
そして快楽を受け入れた本能は、理性に言いわけさせる。
(それが、刑期短縮の近道でもあるから……)
本能に押し流された夏海は、理性の部分で言いわけして、背徳感を覆い隠してしまった。
(私は、エッチな子だから……三原班長好みの、淫らな馬奴隷だから……)
さらに、三原班長に信じ込まされたことを思い出してからは、高まるペースが速くなった。
「んっ、あっ、ふぁ……」
抽送される指の動きに合わせ、熱を感じさせる吐息を漏らす。
肛門へのは性的な刺激が、少しだけ強くなった気がした。
そこに生まれる快感も、同じように大きくなったように思えた。
「ふぁ、あっ、ぁうっ……」
顔を下向きに固定され、馬銜を噛まされた口から、絶えず涎を垂らす。
「ぁうっ、んっ、ふっ……」
ますます肛門性感が強くなった。
そこから広がる悦びも、いっそう大きくなった。
「ぁう、あぅ、あぁう……」
高まる性感で頭が蕩ける。
「はぅ、あぅ、あぅん……」
何度となく押し上げられた性の高み、絶頂がかいま見え始めた。
それでも指の抽送は止まらず、肛門への性的な刺激はますます強くなる。
薄い肉1枚隔てただけの女の子の肉にも、その悦びが伝搬してきた。
「ふぁあ、ひぁ、はひゃあ……」
駆け抜ける快感で、女の子の肉の奥のほうが融ける。
溶けた肉が熱い蜜となり、口から垂れる涎にも負けないほどの大量の液体を、股間プレートの小水排泄孔から溢れさせる。
もう、絶頂は近い。性の高みが、甘美なる悦びの世界が、すぐそこに見えてきた。
そのときである。
「うふふ……」
妖しく嗤った三原班長が、片手の指を肛門に挿入したまま、もう一方の手でそれを見せた。
新しい、尻尾つき股間プレートの肛門カバー。
しかし、馬の尻尾を模した毛束が設えられた部分の反対側には、異様な形と大きさの突起があった。
細い棒を介し、蓋の裏に取りつけられた、円すいの金属塊。
「尻尾つき肛門カバー……ご覧のとおり、内側にはアナルプラグが設えられているわ」
そのアナルプラグ、金属製の円すい部分を見せつけながら、三原班長が口を開いた。
(アナルプラグ……これが、股間プレートの肛門部分に取りつけられたら……)
蕩ける頭でしばし考えて。
「ふひ……ッ!?」
その異物がどこに納められるのか気づき、短く悲鳴をあげる。
「あぇえ(やめて)ッ!」
だが、拘束された身体は、震わせる程度にしか動かせなかった。
「あぇえ(やめて)、あぃああぃ(入らない)ッ!」
しかし――。
「入るわよ」
「うぇ(えっ)……?」
「充分入るわ。だって今、188番の肛門は、私の指を3本飲み込んでいるんだから、これくらいのサイズのプラグなんて、ふつうに挿入できるはずよ」
「ふぇ……うぇ(えっ)!?」
指が3本も入っているなんて、信じられなかった。
とはいえ、思い当たる節はある。
途中、肛門への刺激が強くなったと感じたときがあった。おそらくそのタイミングで、挿入する指を追加されていたのだろう。
そのことに気づいたところで、肛門にプラグを押し当てられた。
「軽くいきみなさい」
その言葉に逆らうという選択肢は、夏海にはなかった。
仮に拒んだしても、ほかの手段で挿入を決行される。
そう確信できるほど、三原班長の言葉には、強い意志が込められている気がした。
「はひ(はい)……」
反射的に応え、軽くいきむ。
ムニニ、と円すいの先端が、肛門に押し込まれる。
きつい。
それは、材質が指より硬いからか。
ますますきつい。
押し込まれるにつれ、円すいの太い部分が肛門を押し拡げるようになったからだろう。
「んムぅうう……」
そして猛烈な圧迫感に、馬銜を噛まされた口から苦悶のうめきが漏れ始めたときである。
肛門括約筋の一番きついところが、スポンと細いところに嵌り込んだ。
「ぃううッ!?」
大きい快感が駆け抜け、思わず声をあげてしまう。
「ぁううぅ……」
その快感の痺れるような余韻に酔いながら、円すいのいちばん太いところが通過し、蓋とのつなぎ目の細い部分が肛門に嵌ったのだと理解する。
そこで、カチリと金属音。
続いて、ピッピッと電子音。
金属音は、蓋を施錠した音だろう。
だが、電子音は何だったのだろう。
ともあれ、そのことを深く考える余裕もないまま、三原班長がローションまみれのゴム手袋を外した。
それから金属棒つきの足枷を外し、ボディハーネスのコルセット部分に接続された革紐も外し、三原班長は馬小屋を出ていった。
絶頂寸前まで高められ、肉の火照りと疼きを抱えたままの夏海は、ご褒美の絶頂を貰えないまま放置された。
夜、敷き詰められた干し草の上に身を横たえ、悶々と過ごす。
新月に近いのだろうか、ふだんなら天井近くの通風口から差し込む月明かりはない。真っ暗な馬小屋の中で、光を発するのは、二つのLEDのパイロットランプのみ。
ひとつは、収容初日に嵌められた金属製の首輪のロック部分。もうひとつは、今日交換された尻尾つきの肛門カバー。
首輪のパイロットランプは、電子錠のものだろう。
何者かが各種拘束具の鍵を手に入れ、馬奴隷を解放しようとしても、首輪だけは外せないよう鍵の種類を変えているのだ。
では、肛門カバーのパイロットランプは、何のためのものだろう。
カチリと聞こえた小さな金属音は、おそらく施錠したときのもの。つまり、鍵は機械式。その後に聞こえた電子音とパイロットランプは、電子錠のものではない。
いくら考えてもその目的がわからないが、それ以上に、夏海には切迫した問題があった。
それは、肛門性感で絶頂まで追い上げられたまま放置された、肉体の火照りと疼き。
もし絶頂に達していたなら、満足して眠りに就いていただろう。
ただ放置されただけなら、時間とともに火照りも疼きも冷めていたに違いない。
だが、違った。
夏海は、絶頂させてもらっていない。なおかつ、性的に開発された肛門には、プラグをねじ込まれて固定されている。
尻尾の奥のアナルプラグは、常に圧倒的な存在感を主張していた。
硬い金属製のプラグは、蓋を介してボディハーネスの股間プレートに固定され、けっして動かない。
対して夏海のそこの肉は、身体を動かすたびに連動して動く。動いて、軟らかい肉を硬い金属塊にこすりつける。
その緩い刺激が、覚えたばかりの肛門性感を呼び覚ます。
思わず括約筋でプラグを食い締めてしまい、ゾクゾクとした妖しい感覚が駆け抜ける。
そのせいで、肉の火照りと疼きは、一向に冷める気配がない。
とはいえ、アナルプラグによる刺激は、ごく緩いもの。
それだけでは高まりきることができず、かといって冷めることもなく、夏海は肉体を官能の焔《ほむら》に炙られ続けるしかない。
そのせいで眠りに落ちても、すぐ目覚めてしまう。
しばらく悶々と過ごし、やがて睡魔に負けても、寝返りを打つだけで起きてしまう。
そんなことを繰り返し、煩悶としたまま、夜明けを迎えてしまった。
「今日から馬車を引く調教を開始するわ」
翌朝、そう言われて馬小屋から引き出されると、そこにはすでに馬車が用意されていた。
全体的な形は、小型の荷車《リアカー》。その荷台部分に、簡素な椅子《シート》が取りつけられている。
鈍く光る銀色の角形メインフレームは、おそらくアルミ製。タイヤの黒い泥よけカバーは、たぶん樹脂製。
その馬車のメインフレームの前部分を、三原班長が片手で軽々と持ち上げた。
タイヤは接地したままとはいえ、本体も相当軽量なのだろう。フレームを片手で保持しながら、もう一方の手でボディハーネスのコルセット部分に設えられた金属製リングを、馬車の金具に接続される。
「基本的に、歩き方は一緒。基本姿勢と歩法はきっちり守ること。ただし、発進時と減速時は重いので、その点には留意してね」
それだけ告げて、三原班長は手綱を手にして馬車に乗り込んだ。
その重みが、ずしっと腰にかかる。
とはいえ、立っていられないほどではない。荷重の大半はタイヤにかかっているし、残りの荷重も腰の位置で支えているので、きつさを覚えるほどの重みはない。
しかしその印象は、手綱をしごかれて一変した。
発進の合図を受け、いつものように足を上げても、馬車はほとんど動かなかった。
足踏み《ピアッフェ》調教のおかげで基本姿勢と歩法を崩さずに済んだが、一歩あたり数センチしか進んでいない気がする。
そこで、三原班長が口を開いた。
「普段より、身体を前傾させてみなさい」
言われてそのとおりにすると、ゴロリとタイヤが回り始めた。
そこからは、それほど重くない。
馬小屋の前から、接続通路を通って周回通路の手前へ。そこで、三原班長が手綱を引いた。
停止の合図。しかし、すぐには止まれなかった。
歩法を乱しながら、慌てて周回通路の手前で停止。
そこで、馬車に乗ったまま、三原班長が口を開いた。
「馬車を引いての初めての停止だから、今回だけは歩法の乱れを見逃してあげるわ」
そして、停止するときのアドバイスをくれた。
「小学校のときの、かけ足からの『全体止まれ』を憶えてる?」
「ぁう(はい)」
「それと似た要領。歩法はけっして乱さずに、5歩くらいかけて少しずつ減速するようにしなさい」
その言葉にもうなずいたところで、発進の合図。
すぐさま動きだし、右折の合図を受けて周回通路を右へ。
しばらく馬車を引いて進んだところで手綱を引かれたので、先ほどのアドバイスを思い出して停止。
すると背後から、三原班長の声が聞こえた。
「その調子よ。繰り返して身体に染み込ませなさい」
そして発進の合図。速度が安定してきたところで、停止の合図。
言われたとおり、かけ足からの『全体止まれ』の要領で、5歩で停止。
「慣れてきたら、止まるまでの歩数を少なくしていきなさい。当面の目標は3歩で止まること。ただし、けっして基本姿勢と歩法を乱さないように」
言われて、再発進。しばらくして停止。
また発進、停止。
その運動を繰り返すうち、特殊ラバースーツの中に熱がこもってきた。
呼吸も速く荒くなってきた。
「はっ、ふっ、ふっ……」
特殊ラバースーツの中で汗を吹き出し、馬銜を噛まされた口から涎を噴き出す。
暑い、暑い。
苦しい、苦しい。
加えて、肛門カバーの裏のアナルプラグが、夏海を悩ませていた。
蓋の裏に固定された硬い金属製のプラグは、けっして動かない。柔らかい夏海の肉は、身体の動きに合わせて動く。
動かない硬い金属塊に柔らかい肉が擦りつけられる刺激は、寝返りを打つだけで、肛門性感を呼び覚ますのだ。
脚を高く上げて歩き、止まるという動作を繰り返すことによって得る刺激が、それより弱いわけがない。
歩くたび、止まるたび、アナルプラグが肛門の性感帯を刺激する。
「はっ、ふっ、んっ……」
痺れるような快感が駆け抜け、吐息に甘みが混じり始める。
「んっ、んっ、んぁ……」
昨夜三原班長に指で愛撫されたときのように、肛門性感を高められる。
「んぁ、ぁう、ぁう……」
馬銜の口から涎をこぼし、股間プレートの排泄孔から、今日は汗だけではなく女の子のお汁を垂らす。
熱い、熱い。肉が熱い。
融ける。蕩ける。熱に浮かされたように、頭がぼうっとしてくる。
とはいえ、それ以上高まることはなかった。
三原班長の卓越した指技で肛門性感を覚えさせられた肉体が、金属塊に肛門の肉を擦りつけられるだけの刺激で、高まりきれるわけがないのだ。
「ぁう、あっ、あぅ……」
ますます強くなる肉の火照りと疼きを抱えながら、馬奴隷として歩く。
(あぅ、あふ、うぁ……」
それでも高まりきれず、遥かなる性の高みを渇望しながら止まり、また歩く。
肉の火照りと疼きのせいで、思考能力が落ちてきた。
(イキたい……ご褒美がほしい……)
落ちてしまった思考能力の大半を使い、それしか考えられなくなってきた。
しかし、身についたポニーの基本姿勢は崩れない。歩法は乱れない。
実のところ、それこそが馬奴隷調教の目標でもある。
いついかなるときも、肉体と精神がどんな状態でも、馬奴隷として正しく馬車を引く究極の家畜奴隷こそが、理想のポニーガールなのだ。
その状態に夏海は、馬奴隷188番は、日々近づいている。
彼女の今の状態を見れば、第1矯正収容所――実態は矯正牧場――の者は、誰しもそう判断するだろう。
ただひとり、夏海の調教を担当する三原班長を除いては。
(このままでは、188番を理想のポニーガールに堕としきることはできない)
三原班長は、第8看守班長という肩書の希代の調教師は、優れた嗅覚で見抜いていた。
(今188番が思考を経ずに基本姿勢と正しい歩法を保って馬車を引けているのは、抜群の運動神経と身体能力ゆえ。けっして、調教の成果じゃない。そして、身体能力が優れていることに加え、188番は精神力もきわめて強靭。このままでは、精神の調教を終える前に、肉体の調教を終えてしまう。それは、あまりよろしくない……)
夏海の手綱を取りながら思案を巡らせ、ひとつの決意を固めた。
初めての馬車を引く調教を終えたあと、三原班長は本部棟最上階の所長室を訪れていた。
「188番の調教は順調か?」
巨大な執務机に着席したまま、初老の所長が尊大な態度で訊ねる。
「はっ、順調ではあります……が」
気おつけの姿勢で直立不動のまま、三原班長がかしこまって答える。
「が、とはいかなることか?」
「はい、188番の懐柔はうまくいっております。調教そのものも、一見きわめて順調であります。しかしこのままでは、第一矯正収容所が目標とする、調教の最終段階までは到達しないでしょう」
「それは、際限なく刑期延長をくりかえしてもか?」
「おそらく、それは逆効果であると思われます。強靭な精神を持つ188番の反発心を強めてしまうだけです」
「では、逆に調教のペースを上げ、より厳しい責めを課せば?」
「いえ、それも効果は薄いでしょう。きわめて高い身体能力を持つ188番は、厳しい調教も難なくこなします。結果、精神が完成される前に肉体のみが完成してしまい、矯正収容所の最終目標には至りません」
「では、なにか考えはあるのか?」
「はっ、188番については、徹底的に心を折り、絶望させる必要があります。とはいえ、持ち前の精神力ゆえ、それもまた至難の業。そこで……」
そこまで告げてから、三原班長が所長に歩み寄り、なにごとか耳打ちした。
「ふむ、前代未聞の処置ではあるが……最悪級の粗暴凶悪犯に指定された188番を調教しきることができれば、第1矯正収容所の評価は上がる。第2第3矯正収容所に対する優位性も認められる……よかろう、今回に限り特別に許可する」
その答えを聞いて薄く嗤い、すぐに表情を引き締めて敬礼。
「はっ、それでは急ぎ準備を整え、最適の時期を見きわめ実行いたします」
そう答えて、三原班長は所長室をあとにした。