小説 矯正牧場の馬奴隷 4章 (Pixiv Fanbox)
Published:
2020-08-13 09:10:56
Edited:
2023-01-04 23:29:34
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4.ポニーガールの調教
それから、馴致期間の日々が続いた。
朝、起きるとすぐに干し草の上で排泄。
環境の激変で便秘ぎみなのと、さすがに恥ずかしさもあり、大きいほうはなかなか出せなかった。
だが、3日めに夏海の便秘に気づいた三原班長に浣腸されてからは、小と一緒に大も済ませることができるようになった。
それから、牧童が運んできた朝食を食べると、朝の散歩。
三原班長に手綱を引かれ、小屋を出て周辺を歩く。はじめは馬小屋の周りを、少しずつ遠くまで。
その過程で、矯正牧場の全体像が把握できた。
初日に入所前処置を受けたコンクリート造の建物は本部棟。治療や医学的な処置を受けたりするとき以外、基本的に出所間近の手続きまで、囚人が立ち入ることはない。
『模範囚のようだし、そろそろ出所も近いのかしらね』
167番とすれ違ったとき三原班長がそう言ったのは、そのためだろう。
仮に囚人が勝手に立ち入ろうとしても、敷地側から本部棟に入るための扉には電子錠がかけられており、看守以上の者が持つカード式の鍵がなければ出入りできない。
職務を終えた牧童ですら、決められた時間に建物内から開けてもらって退出するのだ。
そんな本部棟を壁の一部として利用するように張り巡らせられたフェンス最上部の電気柵は、常に通電されている。
ふつうのゴムと違いスーツの特殊ラバーには通電性があるから、触れると確実に感電する。よくて失神。運が悪いとそのまま転落して頭を地面に打ちつけ、もっと悲惨な運命を辿ることになる。
物資搬入の車両を入れるためだろうか。フェンスの途中に1箇所ゲートが設えられているが、常にリモコン式の電子錠がかけられているうえ、警備の看守が配置されている。
そこまで知って、脱走は絶対に不可能だとわかった。もっとも、そもそも夏海には脱走するつもりはなかったが。
そしてフェンスに沿って、アスファルト敷の外周通路。馬奴隷化した囚人の調教に使われるほか、特に従順な囚人に引かせた馬車に載せた物資を、馬小屋等を回って配るためにも使われる。
看守班長を乗せた馬車や、牧童に付き添われて物資を積んだ荷馬車を引く囚人を実際に見たときは、驚いて目を剥いたものだ。
その外周通路に沿って、看守班ごとの馬小屋が点在している。
1班につき馬小屋は4~5棟。今のところは囚人の数が少なく、半分ほどしか埋まっていないようだ。
ちなみに三原班長の第8看守班の囚人は、現在夏海しかいない。
外周通路の内側は、夏海の腰あたりまでの植え込みや、一定の距離を置いて植えられた樹木で隔てられて調教用のグラウンド。
グラウンド中央に高さ10メートルほどの監視棟と、その周りに点在するT形の回転式ポール。
はじめその装置がなんなのかわからなかったが、毎日散歩するうちに使い方を知った。
T形ポールの横棒の先端に囚人をつなぎ、円を描いて延々と歩かせたり走らせたりするためのものだ。
「ウォーキングマシンよ。ある程度歩法を身につけた囚人用の調教装置。ときには懲罰装置としても使われることもあるけれど……そうならないよう気をつけなさい」
そう言われ、機械の力で延々と歩かされ、力尽きたら地面を引きずられることを想像して震えあがってしまう。
ともあれ、午前中ときおり水分補給をしながら散歩をして、昼前には馬小屋に戻る。
床に這いつくばり、馬奴隷として餌を食べ、水を飲み、しばしの休憩。
午後からも散歩する日もあれば、そのまま馬小屋ですごすときもある。
そして夕方。日が落ちる前に餌を食べ、日が落ちれば自動的に就寝。
そんな暮らしが淡々と続くなかで、夏海は次第に馬奴隷の身分に馴らされていく。
後手に拘束されている状態が平常になり、肩の痛みを感じなくなった。それどころか、腕ははじめからコ形に組んで背中に縫いつけられているものだと思ってしまうこともあった。
肩に痛みを感じなくなったように、精神にも痛みを感じなくなった。家畜のように餌をむさぼり食べることも、干し草の上への排泄も、手綱を取られての引き回しも、いつしかただの日常になっていった。
そうして1週間が経過した日の夕方。
「明日から、本格的な調教を始めるわ」
三原班長が宣告した。
いつものように――といっても、この1週間のことだが――這いつくばって馬奴隷として餌を食べ、ほんとうの馬のように干し草の上で排泄を済ませる。
するといつものように、三原班長がやってきた。
いつものように馬銜を口中に押し込まれ、ストラップで固定され、手綱を取られて馬小屋を出る。
そこからが、昨日までと違った。
「馬奴隷、ポニーガールには、定められた基本姿勢と歩法がある。これから行われる調教は、いついかなるときも……どんな重い馬車を引くときも、たとえ全力疾走しているときでも、基本姿勢と歩法を崩さず動けるようにするためのもの」
いつもならそのまま散歩に出るが、今日は馬小屋を出て外周通路までの接続部分に夏海を立たせ、三原班長が口を開いた。
「とはいえ188番は、基本姿勢はすでに身につけているわね」
それは背すじを伸ばして胸を張り、上半身を若干前に傾け、少しだけ顎を突き出すように顔を上げた姿勢。
それはもともと、夏海がそうしようして、していることではなかった。
背すじを伸ばし胸を張っているのは、両腕を後手で窮屈に拘束されて、そうせざるをえないから。
上半身をわずかに前に傾けるのは、靴底の角度が前傾姿勢を強制しているから。
そして顔を上げているのは、口に噛まされた馬銜の隙間から、口中に溜まった唾液を溢れさせないため。
この頃になると、涎をダラダラ垂らすことに馴らされていたが、1度身についた姿勢はそのままだった。
「たとえそれが装具に矯正されたものであっても、与えられた状況で最適の姿勢が取れるのは、卓越した身体能力を持つ証。それは優れた馬奴隷の条件でもあるから、真面目に調教に取り組めば、出所の日は早くなるわよ」
従順なふりをして模範囚を装い、1日でも出所を早めるという夏海の思惑を知ってか知らずか――実のところ知っているどころか、そう考えるよう仕向けられているのだが、夏海はそのことを知らない――三原班長が告げる。
「そのためにも、次はポニーの歩法を身につけること。まずは、その場で足踏みしてみなさい」
そしてそう言うと三原班長が、手にした乗馬鞭型電気鞭を、夏海の前にかざした。
「足を高く上げ、そのまま下に下ろす。太ももが地面と水平になる程度まで、具体的には、膝がこの鞭に軽く触れる高さ。始めなさい」
さらに命じられ、まず右脚を上げる。
言われたとおり鞭に膝を軽く当て、地面に下ろす。続いて左足も同じように。
カッ、カッ。
「そう、その調子よ」
ポニーブーツの蹄が2回アスファルトを叩いたところで三原班長に言われ、もう1度。
カッ、カッ。
「基本姿勢はけっして崩さないように」
カッ、カッ。
姿勢に注意しながら、さらにもう1度。
「一定のリズムで、ペースを変えずに」
その言葉も守って、右左。何度も、繰り返し右左。
「この足踏みのことを、ピアッフェというの。馬術では高度な技とされるけど、馬奴隷にとっては、歩法の基本を固めるための訓練よ」
その基本動作を5分ほど続けたところで、三原班長が停止を命じた。
「いいでしょう。それでは実際に、ポニーの歩法で歩いてみましょう。うまくできたら、ご褒美をあげるわよ」
そしてそう言うと、手綱を手にしたまま、夏海の背後に回り込んだ。
「手綱の合図は、憶えているわね?」
「ぁう(はい)」
うめき声で答えてうなずくと、手綱を扱かれた。
発進の合図。
先ほどの足踏みの膝の高さを意識して脚を上げ、地面につけた足にも力を込めて1歩。
カッ。
蹄がアスファルトを叩いたところで、背後から三原班長が声をかけた。
「歩幅が広いわ。歩くと言うより、前傾した身体が倒れないよう、少し前に足を出す動作をイメージしなさい」
言われたとおりに、次の1歩。
カッ。
「そう、その歩幅で続けて歩きなさい」
そう言われて、足踏みのときと同じペースで歩く。
カッ、カッ、カッ……。
ポニーブーツの蹄で、アスファルトを叩きながら。
カッ、カッ、カッ……。
その音のリズムが一定になるように。
「このペースがウォーク。日本語だと常足《なみあし》というように、ポニー歩法の基本のペースよ。トロット、速足《はやあし》。キャンター 、駈歩《かけあし》と歩くペースが速くなっても、基本姿勢だけはけっして崩さないこと」
三原班長の言葉を聞きながら、取りつけ通路から外周通路へ。
左右どちらに曲がればいいかわからず、立ち止まったところで、肩に電気鞭が押し当てられた。
バチッ!
一瞬の電撃。
「あうッ!?」
馬銜を噛まされた口で悲鳴をあげ、ビクンと身体を跳ねさせてしまう。
「私、停止の合図をしたかしら?」
していない。停止の合図だけでなく、右折の合図も左折の合図も。
「だとしたら、まっすぐ進み続けなきゃいけないわね?」
「うぉえあ(それは)……」
無茶だ。目の前は外周通路なのに、止まるか曲がるかしないと、その向こうの植え込みに突っ込んでしまう。
しかし、三原班長の考えは違った。
「188番は馬奴隷。馬奴隷は調教師、騎手の指示に絶対服従。たとえそこが行き止まりの壁であっても、まっすぐ前進の指示があれば、迷わず突っ込めるようでなくてはならないわ。仮に目隠しされ、視界を完全に奪われていても指示どおりに進めることが、馬奴隷の理想なのよ」
「うぉんあ(そんな)……」
「目の前の敵兵が危険だからと、騎士を乗せた馬が、自分勝手に止まったりする?」
言われて、ハッとした。
もちろん、納得したわけではない。1週間の馴致期間で少しずつ馬奴隷暮らしに馴らされてきたが、夏海はまだ堕ちきったわけではない。
そういう馬奴隷――指示があれば迷わず壁に突っ込めるほど従順な馬奴隷――に調教することが、矯正牧場の目的なのだとわかっただけ。
とはいえ、裏を返せば、そこまでにならないと従順であると認められないということ。
そうならないと刑期短縮が望めないばかりか、反抗的であるとして刑期延長される恐れもあるということ。
自分が心の底から、そこまで従順になれる自信はない。
というより、なるつもりもないし、なってはいけないと思う。
(でも……)
三原班長は、矯正牧場のやり方に疑念を抱いている。人目のあるところでは矯正牧場の方針を守って夏海に接しているが、なんとか早く出所させてやりたいと思っている。
そう信じ込んで、いや信じ込まされている夏海は考えた。
(だから……きっと三原班長は、ほんとうに壁に突っ込ませるような指示はしない。目隠しをして馬車を引かせたりしない)
考え、そう判断し、従順なふりを続けると決める。
「わかった?」
三原班長に問われ、馬銜まされた口から涎が溢れるのもかまわず。
「ぁう(はい)……」
うなずいて答える。
そこで、あらためて手綱を扱かれた。
間髪入れず、迷わず発進。続いて手綱を右に引かれ、外周通路を右折。
背すじを伸ばして胸を張り、上半身を若干前に傾け、少しだけ顎を突き出すように顔を上げたポニーの基本姿勢を崩さずに。
太ももが地面と水平になる程度まで右足を高く上げ、前傾姿勢の身体が倒れないよう、支える足を出すイメージで地面に下ろす。
カッ。
と蹄がアスファルトを叩いたところで、左足を上げ、下ろす。
カッ。
足踏みで憶えたリズムを忘れずに。
カッ、カッ。
なにも考えないようにし、姿勢と歩法とリズムだけを意識しながら。
カッ、カッ、カッ。
まっすぐ前だけを見て歩く。
カッ、カッ、カッ。
蹄の音を響かせながらしばらく歩くと、前方から別の囚人。
馬の毛色を表現する言葉で、たしか青毛だったか。ほぼ黒に近い色のスーツに、夏海と同じポニー装備。
その顔はすでに真っ赤で、汗だくだ。
特殊ラバースーツの通気性は最低限のもの。まだ陽が高くない午前中とはいえ、色が黒でははかなり暑いのだろう。
偶然とはいえ白、芦毛を選んでよかった。
夏海はそう考えたが、実のところ、スーツの色選びにも矯正牧場側の辛抱遠慮があった。
そもそも、ポニー調教はかなり負荷の高いハードな運動だ。並の女子の体力では、踵のない超ハイヒールのポニーブーツを履き、太ももを地面と水平になるまで高く上げ、長時間歩くことはできない。
だから、一般の女子は黒いスーツによる暑さの限界とほぼ同時に、体力的な限界が訪れる。逆に夏海のような卓越した体力を持つ女子は、熱を吸収しにくい白いスーツがちょうどいい。
そして基本、馬の毛色は地味な暗色が多い。毛色のなかから選択肢を与えれば、たいていの女子は白、芦毛を選ぶ。つまり夏海のような体力のある者には選択肢を与え、そうではない者には与えず牧場側で暗色に決める。
選択肢を与えられた夏海は、囚人全員そうだと思っていたが、実は周到にそれぞれ対応を変えていたのだ。
ともあれ、夏海はそのことを知らないまま、青毛の囚人――148号とすれ違う。
お互い、汗と涎で汚れた顔を見合わせることもなく。それぞれ、手綱を取る看守班長の指示に集中して。
「はふ、はふ、はぶっ……」
吐息とともに涎を噴き出しながら。
カッ、カッ、カッ……。
リズムよく、蹄の音を響かせて。
夏海が歩いたあと、アスファルトに点々と残る水跡は、馬銜の口から溢れた涎か。着せられたスーツとポニー歩行の運動により噴き出した汗が垂れているのか、それとも――。
「188番、あなた意外と才能あるのね。ポニー調教でエッチな気分になるなんて」
そこで、三原班長が思いもよらぬ言葉を口にした。
「うぇ(えっ)……?」
最初、意味がわからず訊き返し。
「うぉんあぉうあぃ(そんなことない)!」
声をあげて否定したとき、歩みのリズムがわずかに乱れた。
直後、鞭の一撃。
ビシッ!
「ぁうぅうッ!」
電気を使わず、ただの鞭としての打擲に悲鳴をあげ、さらに歩行を乱してしまった。
当然、さらにもう一撃。
ビシッ!
「んぅううッ!」
痛みに悶絶しつつも、必死で体勢を立て直す。
そこで三原班長が、可笑しそうに口を開いた。
「あらあら、鞭でも気持ちよくなっちゃったのかしら?」
「うぃあう(違う)ッ!」
「うふふ……違うと言いたいのかしら? じゃあ、お股の排泄孔から垂れているお汁はなぁに?」
「うぇ(えっ)……?」
「もし、おしっこを漏らしていないのなら、そこからポタポタ落ちている液体はなにかしら?」
実ところ、それは汗である。
特殊ラバースーツには、最低限の通気性しかない。
平静にしているときならともかく、激しく運動して上半身にかいた大量の汗は、スーツの内部を流れて股間に溜まる。
溜まった汗は、小水用の排泄孔から垂れ落ちる。
そのことを、これまで何人もの囚人を調教し、馬奴隷に堕としてきた三原班長は知っていた。
知っていながら夏海には告げず、排泄孔から垂れる液体が、女の子のお汁であるかのように語った。
そして性体験のない夏海でも、そこから液体を垂らすという現象の意味は、知識として知っている。
多くの女子を調教してきた経験から、そのことまでも読みきった三原班長が、さらに夏海を追い詰める。
「ねえ、188番……身体が熱くなり、呼吸が荒くなっていない?」
なっている。だがそれは、特殊ラバースーツを着て、ポニー調教を受けているからだ。
「熱に浮かされたように、頭がぼうっとしない?」
している。でもそれは、スーツと同素材のフードまで被されて、熱が籠っているせいだ。
ふだんの夏海なら、その事実に気づいていただろう。
気づいて、そうと言い返していただろう。
しかし、排泄孔から垂れる液体の件で、夏海の精神は揺さぶられていた。
自分は性的な意味で昂ぶっているのではないかと、かすかな疑念を抱いてしまっていた。
「それって、女の子がエッチな気分になったときの、肉体の変化よ?」
その疑念ゆえ、三原班長の言葉を否定できなかった。
否定できず、ただ馬奴隷として歩き続けることしかできなかった。
カッ、カッ、カッ……。
蹄の音を響かせて。
「あふ、あふ、あふ……」
熱の籠もった吐息を、涎とともに漏らしながら。
自分はポニー調教で昂ぶっているのかもしれないという疑念を拭えないまま。
ときおり停止を命じられ、馬銜の隙間から水を流し込まれて水分補給されながら、ウォークのペースで外周通路を1周。
馬小屋に戻ってからもう1度夏海に水分補給し、壁の金属リングに手綱を結んでから、三原班長が口を開いた。
「調教初日としては上出来よ。午後は休憩して、夜には約束どおりご褒美をあげるわ」
そして妖しくほほ笑むと、つけ足すように告げた。
「ポニー調教でエッチな気分になるような、188番に最適なやり方でね」