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放課後ー。


見晴らしの良い景色が楽しめるスポットにー

帆乃香は呼び出されていたー


「ここは…」

帆乃香が表情を歪めるー。


ここはー

帆乃香と、拓真の”始まりの場所”


ふたりの、思い出の場所ー


”これから、よろしくね!”

帆乃香の優しい笑顔を思い出す。


けれどー

その笑顔は、もう、見られないー


彼氏の拓真が、軽い気持ちで

帆乃香を皮にしてしまったからー。


そして、今、拓真は帆乃香の皮を身に着けて

帆乃香としてここにいるー。

帆乃香が急に消えてしまって、

周囲を悲しませないためー

帆乃香が元に戻った時に、

そのまま日常生活を続けられるようにするためー


そのぐらいしか、

拓真にできることはなかったからー。


そして、

帆乃香を元に戻す方法を何としても

聞きだして、帆乃香を助け出すー。


帆乃香を元に戻すことができたらー

そしたらー


帆乃香は、

幼馴染のクラスメイト・優姫に呼び出されて、

ここに来たー。


「---ちゃんと来てくれたのね」

優姫が姿を現すー。


冷たい雨が降り出したー。

優姫は、傘を差しながら帆乃香のほうを見つめているー


傘を持ってきていない帆乃香は、濡れていたー。


「--帆乃香ちゃん…

 いいえ…拓真…」


優姫が言う。


「--拓真…?

 な、何のことかな…」

帆乃香は苦笑いしながら言うー。


廃工場の一角の、隠れたデートスポット。

ここから見ることのできる夜景は、

とてもきれいだー。

今日みたいな、雨の降っている日でもー。


「---……いるんでしょ?拓真」

優姫が言う。


拓真に”人を皮にするスプレー”を手渡したのは優姫だ。

優姫が、名坂という男を皮にして、

遊園地の係員に扮して、拓真にスプレーを手渡した。

拓真が、軽い気持ちで彼女の帆乃香にそれを使うと

計算してー。

そしてー、帆乃香を失った拓真に近づき、

拓真の彼女になるつもりだったー。


だが、優姫の計画は失敗した。

拓真が、帆乃香の皮を被り

帆乃香に成りすますという道を選んだからだ。


「---わ、、私は帆乃香よ!」

帆乃香の皮を被った拓真が叫ぶ。

目の前にいる優姫こそが元凶であると知らずに。


「--お芝居はいいの。

 わたしが、仕組んだことなんだからー

 全部、知ってるの」

優姫は冷たい声で言い放ったー


「え…」

帆乃香は唖然とするー


雨の音が、廃工場の鉄パイプに打ち付けられる。


「--ど、、どういう…」

唖然としながら言葉を振り絞る帆乃香。


優姫は傘を持ちながらほほ笑む。


「--わたし、ずっとずっと、拓真のことが

 大好きだったの。


 いつか拓真に告白しようって、そうおもってた。


 知ってる?

 高校も大学も一緒だったのは偶然なんかじゃない。

 わたしが、拓真の進路に合わせたの」


優姫の突然の告白に

帆乃香は驚く。


「--……」

だが、あくまでも”帆乃香”として振舞う拓真は

どう反応していいか分からず、困惑する。


「--あなたのことずっとずっとずっとずっと

 想って来たのに…


 それなのに…

 あの、泥棒猫は…!

 その女は!わたしから拓真を奪った!」


いつもニコニコしている優姫が

泣き叫ぶようにして言う。


「でもね、そんなわたしにチャンスが訪れた。

 裏サイトで、人を皮にする道具を手に入れたの。


 それを使って、見ず知らずの男を皮にして

 わたしがそれを着て、遊園地にやってきた

 あんたに”人を皮にするスプレー”を手渡したー」


淡々と語る優姫ー


「--まさか!」

帆乃香の皮を被った拓真は叫ぶー


「--そうよ」

優姫が笑う。


遊園地で出会った、名坂という係員は…

男の皮を被った優姫…?


「---それで、あんたはわたしの狙い通り

 その泥棒猫を皮にしてくれた。

 泥棒猫が消えたら、わたしがあんたに告白して

 彼女になろうって、

 そう思ってたの」


優姫の言葉に、帆乃香は叫んだ。


「優姫!お前が…お前が仕組んだのか!」

帆乃香として振舞うのをやめて

帆乃香の姿のまま、拓真は叫ぶ。


「---その泥棒猫が悪いのよ!

 わたしから、あんたを…拓真を奪うから!」


怒鳴り声をあげる優姫ー。


雨が、さらに強くなるー

廃棄された廃工場のファンはー

主がいないのに、回り続けているー。

ふたりを、あざ笑うかのようにー。


「-…優姫……

 お前の気持ちは分かった…


 でも、こんなことはやめよう…

 帆乃香を元に戻す方法を教えてくれ」


帆乃香の姿をした拓真が言う。


「-----」

優姫は黙って拓真を睨んでいる。


「---優姫のことは何も言わないー

 そもそも、帆乃香を皮にしちゃったのは

 俺の責任だ。

 俺が帆乃香を皮にしたんだー。

 悪いのは俺だけだー。


 でも、…俺はどうなってもいいから

 帆乃香を助けたい。


帆乃香の皮を被ったまま、拓真はその場に土下座をする。


「---頼む…優姫…」

雨で濡れたコンクリートの上に両手をつき、

頭をつけるー。


「----」

傘を差したまま優姫は、土下座している帆乃香を見つめる。


「---…ほのか…」

優姫がボソッと呟いた。


「ほのかほのかほのかほのかほのかほのかほのかほのかぁ!!!」


「あんた、どんだけその泥棒猫が好きなの???

 いつもいつもいつも、その女ばっかり!!

 わたしのことなんて、一度もそんな風に心配してくれたこと

 ないよね?

 わたしが、わたしがどれだけ…!」


優姫が泣き叫びながら言うー。


だがー

帆乃香は「頼む…」と呟きながら土下座を続けていた。


「-----」

優姫が笑みを浮かべる。


怒りの形相で傘を折りたたむと、

その傘で帆乃香の手を突き刺した。


「---うぁぁあ…!?」

帆乃香が苦痛の表情を浮かべる。


「ーーーくっふふふ、、、その女の苦しむ顔…

 見てるだけでゾクゾクしちゃう…


 拓真…あんたがその泥棒猫の皮を

 着続けるなら、びりっびりに破いてあげるー」


優姫は、傘で帆乃香の手を

ぐりぐりと踏みにじる。


「やめろ…優姫…頼む…やめてくれ…!」

泣き叫ぶようにしていう帆乃香。


「--その泥棒猫のツラでわたしを見るな!」

優姫が大声で怒鳴った。


そしてー帆乃香の顔面を傘で殴りつけるー


大雨が降りしきる中ー

帆乃香が吹き飛ばされる。


濡れた2人の女子大生はー互いをにらみ合う。


「---はぁ…はぁ… 頼む…」

帆乃香はそれでも土下座を続けるー


「---わたし…」

帆乃香は目から涙をこぼしている。


「--!?」

優姫は表情を歪めた。


”わたし?”


そして、はっとした表情を浮かべる。


「--拓真…!その泥棒猫の皮を早く脱いで!」

叫ぶ優姫。


「ーーーその手には…乗らない」

帆乃香が土下座を続けながら言うー


「わたしが、皮を脱いだら、わたしの皮を、

 優姫は、破こうとするでしょ…?」


”わたしの皮”


優姫は焦り始めたー


皮を着用し続けている

副次的な作用かー?


拓真の意識が、帆乃香の皮に

飲み込まれ始めているー


「元に戻す方法を…教えて」

帆乃香が涙ながらに言う。


優姫はずぶ濡れになりながら言う。


「---…そんな方法は、ない」


早く現実を拓真に伝えて

拓真に皮を脱いでほしかったー


だがー


それは、逆効果になった。


「-!!」

帆乃香が絶望の表情で顔を上げるー


「1度皮になった人間は、

 もう、元には戻らない」

優姫の言葉に、拓真の自我が壊れた。


「うああああああああああああああ!」

土下座をしていた帆乃香が泣き叫びながら

近づいてくるー


そして、優姫の顔面を殴りつける。

驚く優姫ー。

倒れた優姫を何度も何度もビンタする帆乃香ー


「--わたしを…!

 わたしを、元に戻して!

 わたしを…元に!!」


優姫をビンタし終えると、

泣きながら帆乃香はその場に蹲ってしまったー


「-ーーた、、拓真…」

優姫が震えるー


”このままじゃ、拓真が泥棒猫になっちゃう”


慌てて帆乃香の皮を剥がそうとするー


しかしー

「触らないで!」

帆乃香が叫んだ。


「---!」

優姫は帆乃香の目を見るー


「た、、、たくま…」

絶望する優姫ー


帆乃香の目を見て、

優姫は確信したー


”もう、拓真はーーー”


優姫は自虐的に笑いながら立ち上がる。


そして、雨の降り注ぐ空を見つめるー

「---」


しばらくすると、優姫は何かを取り出した。


取り出したのはー

拓真に遊園地で手渡したのと同じー

”人を皮にするスプレー”


「---……拓真…

 わたし…本当に拓真のことが好きだったー」


涙を流す優姫ー。


「---ど、、、どういうこと…?」

帆乃香が言う。


拓真であったことを、自覚できなくなりつつある帆乃香には

言葉の意味が分からないー。


「----もう、、疲れちゃった…

 もう、いいや…


 この…泥棒猫…」


優姫は涙を流しながら、

スプレーを自分に噴射したーーー


そしてーーー

皮になった優姫はーー

風に流されてーー

回転し続ける廃工場のファンの中に

落ちていくーー


「---!!


 ゆ、、、優姫!!!!!!」


優姫の姿を見て、拓真は自我を取り戻したー


「ゆ、、優姫!!!」


だがー

もう遅かったー

皮になった優姫はー

高速回転するファンの中に姿を消したー


もう、彼女はこの世にいないー


「---う…」

一人残された帆乃香は、

大雨の中、その場に蹲ったー


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


自分が、拓真であったことを完全に忘れてしまった帆乃香はー

帆乃香として大学に通っていたー


死んだ彼氏の拓真のことを思いながらー


そして、拓真の悪友であった磯野の

熱烈なアプローチを受けてー

ついに、帆乃香は磯野と付き合い始めたー


それからー

何十年も経過したー


「-------」


おばあちゃんになった帆乃香は

病院のベットで静かに眠っていたー


夢を、見ていた。


なんだか、とっても、懐かしい夢をー。


「---……ほの…か」

帆乃香が呟くー


「----………」


ふと気づくと、

帆乃香ーー

いや、拓真はある場所に立っていたー


懐かしい光景ー

それは、思い出の場所ー


「---長い間…

 ありがとう」


大学時代の帆乃香が目の前に現れる。


「あ、、あれ!?帆乃香…俺…?」

拓真が周囲を見渡す。


そしてー

自虐的な笑みを浮かべた。


「そっか…俺、、帆乃香を皮にしちゃって

 ずっと帆乃香の姿で…」


全てを思い出した拓真は

周囲を見渡して続けた。


「---…じゃあ、俺、死ぬんだな」

悲しそうに呟く拓真。


死の間際に見る光景って

こういうものなのか、と拓真は苦笑いする。


「--帆乃香…ごめん…

 あの時、俺が、帆乃香を皮にしちゃったから…

 本当に…ごめん」


拓真が言うと、

帆乃香は静かにほほ笑んだ。


「もう、いいよー。

 拓真は、わたしのために

 何十年もわたしとして、生きてくれたもんね…」


帆乃香にも思うところはたくさんあったー


けれども、帆乃香は優しく拓真を出迎えた。


「----」

帆乃香が手を差し伸べる。


「---あの世に連れていくのか?」

拓真が悲しそうに言う。


「---…こっちも、悪くない世界だよ。

 先にいい場所、見つけておいたから」

帆乃香がほほ笑む。


「--そっか」

拓真は悲しそうに頷く。


「-----…」

帆乃香の横には、幼馴染の優姫の姿もあった。


「優姫…」

拓真が優姫のほうを見てその名前を呼ぶ。


「-----……」

優姫は悔しそうに歯ぎしりをすると、

そのまま、顔を背けて呟いた。


「--もう、邪魔しないから…好きにしなさい」

とー。


帆乃香が苦笑いしながら、

拓真のほうを見つめる。


「長い間、おつかれさまー…

 わたしといっしょに…ゆっくり、休も?」


帆乃香を見つめながら

拓真は涙を流すと

「あぁ、……そうだな」と呟くー。


そしてー

帆乃香の手を静かに掴んだー


・・・


病室では、一人のおばあちゃんが

息を引き取っていたー


彼女が最後に見た光景は、

夢だったのか、現だったのかー

それは、彼女にしか、分からないー。


けれども、帆乃香のー

その内側に潜んでいた拓真の表情はー

とても、穏やかだったー



おわり


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


皮モノを4話書くのは(たしか)初めてでした~!


まだ、皮モノの執筆経験がそれほどないので

難しい部分もありますが

今後もチャレンジしてきたいと思います~!


お読み下さりありがとうございました!!

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