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病室の窓の外では

粉雪が舞っているー。


冬ー。


佐々井 梨乃(ささい りの)は、

とある病気で余命あとわずかと言われていたー。


まだ、大学生なのにー

まだ、たくさんやりたいことはあるのにー…


梨乃は、これまでの人生、一生懸命頑張ってきた。

病弱な親のために、

親孝行もいっぱいしたいと思っていたー


なのに…

その親よりも先に逝くことになってしまうなんて…


梨乃の病気は、現代の医学では治療は不可能ー。

梨乃に出来ることは、

このままゆっくりと最後の瞬間を待つこと

だけだった。


「----俺が代わりになってあげられれば

 良かったのにな…」


同じ大学に通う彼氏の近本 海人(ちかもと かいと)が呟くー


「----…」

梨乃は、目から涙をこぼしながら

窓の外を見つめるー。


「---ごめんね…」

梨乃が呟く。


「--海人にも、辛い思いをさせちゃって…」

梨乃が涙目で海人の方を見つめる。


海人は梨乃の手を握りながら呟く。


「ごめん…

 何もできなくて…

 治してあげることも…

 代わってあげることもできなくて…」

海人は梨乃の手を握りながら

ごめん…と何度もつぶやくー。


彼女の梨乃が余命あとわずかで

苦しんでいるのに、

海人には、何もしてあげることができない。

これ以上、辛いことは海人にはなかったー。


「--……」

梨乃は、そんな海人の想いに

涙を流すことしかできなかったー。


・・・・・・・・・・


その日の夜ー


梨乃は、

”自分はあと何日生きられるんだろう…”と

考えながら、病室のベットの上で

過ごしていたー。


身体が蝕まれ

次第に体力が無くなっているのを感じる。


次の春まで、自分は持つのだろうか。


桜咲く季節まで、持つのだろうか…。


春にー

海人と桜を見に行ったときのことを思い出す。


もう、自分は二度と、桜を見ることもできないのだろうかー。


梨乃の頬を涙が伝うー。


「わたし…もっと…もっと生きていたのに…」


もがいても…

どんなにもがいても

逃れられない”死”


世の中は無情だ。

梨乃はそう思った。


こんなに生きたいのに…

まだやりたいことがたくさんあるのにー。

それなのに、神様はそれを許してくれないー。

…神様なんて、やっぱりこの世界にはいないのかもしれない。


「---生きたいか」


ふいに、声がした


「--!?」

梨乃が驚いて振り返ると、

病室の中にいつの間にか、

ドクターの格好をした骸骨がいたー


「ひっ!?!?」

梨乃は思わず声を上げる。


「ーーーもう一度聞く。生きたいか?」

ドクターの格好をした骸骨はもう一度呟いた。


梨乃は、”お迎えなのかな…”と思いながら

自虐的に笑う。


「--もちろん。生きたいに決まってるじゃん…」

とー。


「……お前の彼氏…

 ”代われるものなら代わってやりたい”

 そう言ってたな」

骸骨のドクターはそう呟く。


梨乃は「気持ちは嬉しいけど…

そんなことできないもん」と悲しそうに呟く。


その言葉を聞くと、骸骨のドクターは

不気味に微笑んだー


”人間は、愚かだ”


「---なら、”そのチャンス”をやろうー」

骸骨のドクターが、謎の水晶玉のようなものを手渡す。


「--これは?」

梨乃が驚いて尋ねると、

骸骨のドクターは、呟いた。


「この水晶玉にお互いが手をかざせば、

 ”身体を入れ替えることができる”」


骸骨のドクターの言葉に

梨乃は驚くー


「お前の彼氏が、お前と本当に

 代わってあげたい、と思っているなら

 お前は助かるはずだ」


骸骨のドクターはそう言った。


「え…ど、、どういうこと!?」

梨乃が叫ぶー。


「お前の望み通り、お前は生きることができるー

 お前の彼氏の望み通り、お前と病気を代わってやることができる」


それだけ言うと、

骸骨のドクターは病室から立ち去って行くー


「ま、待って!」

梨乃の手には”謎の水晶玉”


骸骨のドクターは

振り返らずに病室の外へと出たー


”人間は愚かだー

 代われるものなら代わってやりたい、などという言葉は

 ”代わることなどできない”ことが分かっていて

 言っているだけの、憐みの言葉だー

 もしも、もしも本当に”代わってあげることができる”

 場面に直面したらー

 人は、自分を選ぶー”


骸骨のドクターは、そのまま姿を消したー


・・・・・・・・・・・・・・・


翌日ー


梨乃は、昨日のことを考えながら

病室の外を見つめているー。


「-----…」

昨日よりも身体の調子が悪い。

自分がもう長くないのが、分かるー。


また、友達といっしょにスイーツを食べたり、

また、友達といっしょにおしゃれをしたりー

色々したかったー


梨乃は、昨日、骸骨のドクターから貰った

水晶玉を見つめるー


「これを、使えば私は…」


ーーガラッ


病室に、彼氏の海人が入ってくる。


「--梨乃」

彼氏の海人は、大学が終わると

毎日のように顔を出してくれる。


梨乃の命はもう短いー。

さっさと次の彼女でもなんでも探せばいいのに、と

最初は不貞腐れていた梨乃を

優しく抱きしめてくれた。


”俺には、梨乃しかいないからー”


とー。


海人なら…

ホントに代わってくれる…?


梨乃は、そんな風に思ったー。


「--ごめんな…

 代わってやれなくて…」


海人が”代わってやれなくてごめん”と

口にするー。


梨乃は、その言葉に迷いを抱きながらー

昨日、骸骨のドクターから貰った

水晶玉を机の上に置いたー


”海人と代わるということは、海人が

 わたしになって死ぬということ”


”わたし、死にたくないー”


色々な想いが交錯する中ー

梨乃は口を開いた。


「--海人…

 わたしと、本当に代わってくれるの?」

梨乃が弱弱しい表情で呟くー


「え…?」

海人が唖然として梨乃の方を見つめる。


「--この水晶玉…

 人と人の身体を入れ替えることができるの…


 海人…

 本当に、わたしと代わってくれるの?」


梨乃は、罪悪感を感じながらも

”死ぬことへの恐怖”から、

海人に向かって、昨日貰った水晶玉の話をしたー。


そしてー


「海人…わたしと……入れ替わって!」


そう叫んだー


「------」

さっきまで優しい笑みを浮かべていた海人の

表情が歪む。


「---海人?」

梨乃の表情も歪むー


そんな二人のやりとりを

骸骨のドクターは、二人に見えない状態で、

見守っていたー


”そうー。

 代わってやりたいは口だけー”


骸骨のドクターは手を震わすー


”口だけ…”


「---……」

海人と梨乃の間で沈黙が続くー


「--…わたしを、助けてくれるんでしょ?」

梨乃が目から涙をこぼしながら言う。


「-----」

海人は答えないー


やっぱりー

”口だけだったんだ”

梨乃はそう思うー


分かっていたー

どうせ、代わることなんてできないー

だから、人は口にするー

”代われるものなら代わってあげたい”とー。


「----……ねぇ、わたしを助けてよ!

 そう言ってたじゃん!?」

梨乃は死への恐怖から、

本来の優しい口調ではなく、

声を荒げて言い放ったー。


「-----ごめん」

海人はそれだけ言うと、頭を下げて、

梨乃の病室から足早に立ち去ったー


その日を最後にー


海人は、お見舞いに来なくなったー。

毎日のように来ていた海人がー

来なくなったー


梨乃の身体は次第に弱って行くー


梨乃は、病室の外を見つめながら

自虐的に笑うー


「--だれも、、、いなくなっちゃった」


とー。


もう、自分には何も残っていない。


そんな梨乃の背後から

骸骨のドクターが声をかける。


「---それが、人間というものだー」

とー。


「--……」

梨乃は、悲しそうに目を瞑るー。



それから数日ー

梨乃は、身体に今までになかった

違和感を感じたー

”死”が近づいているー

梨乃は目から涙をこぼす。


もうすぐー

自分は、死ぬー


窓の外はー

大雪ー。


あの舞い落ちる雪のようにー

もうすぐ、自分もー

消えて、無くなるー。

誰にも気づかれることなくー


病弱な親は、お見舞いに来るどころじゃないー


”死にたくない”

”死にたくないよ”


梨乃は心の中でそう叫ぶー。


ガラッ


病室の扉が開いた。


梨乃が振り返ると、

そこにはーーー

海人がいたー


「海人…?」

梨乃が目から涙をこぼしながら言うと、

海人は呟いた。


「梨乃…ごめん」

海人は頭を下げる。


「何が…?」

弱弱しく梨乃が言うと、

海人は微笑んだ。


「この前は、ごめん…

 急に言われちゃったから動揺しちゃってさ…」


海人はそう言って微笑むと、

続けて、優しく呟いた。


「いいよ。俺、梨乃と代わるよ」


「---え…?」

梨乃の目から涙がこぼれる。


「代わってあげたいって気持ちは本当だよ。

 梨乃が生きられるなら、

 俺は、梨乃と喜んで入れ替わるよ」


海人が、水晶玉を指さす。


「--え…か、、海人…?」

梨乃が目からボロボロと涙をこぼす。


「ーーー全部、済ませてきたから」

海人がそう言いながら水晶玉に手を触れる。


「家族との別れも、友達との別れも

 やり残したことも、全部ー。

 俺として生きていくのに必要なことも

 全部ノートに書いておいたから」


そう言い終えると、優しく海人は笑う。


「さ、梨乃…

 入れ替わろう。

 梨乃は、もう十分頑張っただろ?


 今度は俺の番だー」


そんな海人に対して梨乃は叫ぶ。


「だ、、だめだよ…!

 謝るのはわたしのほうだよ…!


 入れ替わって…なんて、急に言ってごめん…


 でも、、海人には海人の人生があるから…


 わたしは、、その気持ちでだけで十分だから…」


梨乃はそう言いながら

「助けてって言ったり、やっぱりいいやって言ったり…

 面倒くさい女でごめんね」

と、微笑んだー


その言葉に、海人は微笑んだー


「--俺は、梨乃の心の中に生きてるー」


そう言うと、無理やり、梨乃の手を掴んで

海人はー梨乃の手を水晶玉に触れさせたー


「え!?ちょっと!?海人!?」

水晶玉が光りを放つー


「--生まれ変わったら、

 また会えるかなー?」


海人が笑うー。


そしてー

二人は光に包まれたー


気付くと、梨乃は海人の身体になっていたー


「え!?ちょっと!?ねぇ!ダメだよそんなの!」

海人(梨乃)が梨乃(海人)に向かって叫ぶー


水晶玉が砕け散るー


「--俺の彼女になってくれて、ありがとう…」

梨乃(海人)はそう言うと、

静かに目を閉じー

心停止を告げる音が部屋に響き渡ったー


ーーーーー。


その様子を見ていた骸骨のドクターは

静かに呟いた。


「ーーーこういうバカもいるのだな…」


とー。


今まで数々の人間を見てきたー

今まで数々の人間に同じ力を与えてきたー


みんな、逃げたー


”代われるものなら代わってあげたい”


そんなの言葉だけー


自分も、そうだったー


骸骨のドクターは、

かつて、人間だった。


若くして病に倒れたー


あの時、自分の彼女は、

”代われるものなら代わってあげたい”と言ったー


だが、自分が死んで、

葬儀の会場で、

彼女は笑っていたー


”病気になったのが自分じゃなくてよかったー”


と。


人間なんて、そんなものだー


絶望した彼は、亡霊となって

自分と同じ立場にある人間に

”入れ替わりの力”を

授けてー

”人間の醜い本性”を見つめていたー


けれどー

梨乃と海人は違ったー


「---人間にも…希望はあるのだなー」


骸骨のドクターはそう呟くと、

そっと、心停止した梨乃(海人)に

手をかざした…


・・・・・・・・・・・・・


春―


病院の庭先では

桜を見つめながら微笑む

梨乃と海人の姿があったー


あの日ー

心停止した梨乃は、

奇跡的に回復を遂げー

治療不可能と言われていた病気は

ゆっくりと回復に向かいー

そしてー

元気を取り戻していたー


梨乃と海人は、微笑むー


「また、桜…見れてよかったな」


「--うん…


 でも…まさか、

 海人として、桜を見るなんてなぁ…」


海人(梨乃)は微笑んだー。


「はは…俺も…

 まさか、梨乃として桜を見るなんて思わなかったよ」


梨乃(海人)が笑うー


二人は、入れ替わったままー。


けれどー。

それでもいい。

大切なモノを失わずに済んだのだからー


「---本当にありがとう」

海人(梨乃)が呟くと、

梨乃(海人)は「どういたしまして」と微笑んだー


海人(梨乃)は空を見つめながら少しだけ微笑み、

そして、静かに呟いたー


やっぱり…

神様っているのかも…


とー。



おわり


・・・・・・・・・・・・・


コメント


「代われるものなら、代わってあげたいー」

そんな言葉を元に思いついた作品でした!


入れ替わってあれこれするお話じゃないですし

特殊なお話ですが

少しでもお楽しみ頂けていれば嬉しいデス!

お読み下さりありがとうございました~!


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