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「ーーーな、なんでだよー…」

彼は、絶望していたー。


男子大学生の川村 優司(かわむら ゆうじ)は、

震えながら目の前にいる”彼女”のほうを見つめているー。


しかし、彼氏である哲夫が絶望の表情を浮かべているのとは裏腹に、

彼女・辻森 梨絵(つじもり りえ)は、笑っていたー。


「ーごめんねーユウくんー…

 ユウくんは、やっぱりわたしにとって幼馴染なのー」


梨絵の言葉に、優司は目に涙を浮かべながら言葉を振り絞るー


「ーー…だから…だから、浮気したっていうのかよー…」

とー。


「ーーーーー」

梨絵は少しだけ表情を曇らせるー。


優司と梨絵は幼馴染で、

小さい頃、よく二人で遊んだ間柄だったー。

しかし、梨絵が家庭の事情で中学卒業時に別の地方に引っ越し、

高校時代は離れ離れになっていたー。


がー、大学生になり、梨絵はこちらの地方に帰ってきて

一人暮らしを開始、大学も偶然同じ大学で、

仲良しだった幼馴染二人は、再会を果たしたのだったー。


”わたし、ユウくんに会いたくてこっちに戻って来たんだよー?”

そんなことを嬉しそうに話していた梨絵。


そして、再会から半年ー、優司は梨絵に告白して、

梨絵もそれを喜んでくれて、

幼馴染から恋人同士になったー…

さらには、付き合い始めて半年、同棲もするようになって、

何もかもが上手く行っているー…


少なくとも、優司の方はそう思っていたー。


それなのにー。


梨絵は、”浮気”したー。


大学の先輩である田島(たじま)先輩と関係を持ち、

それに気づいた優司が、帰宅した梨絵を問い詰めているのが、今、この瞬間だー。


「ーーー…ユウくんのこと、”男”としては見れないー」

表情を曇らせていた梨絵が、そんな言葉を口にするー。


「ーーー…なんだよ…それー」

悔しそうに歯ぎしりをする優司ー。


「ーーーーだって、ユウくんといても刺激的じゃないしー…

 田島先輩はーー ふふ… わたしにいっぱい色々なことを

 教えてくれるのー」


田島先輩のことを思い出しているのか、梨絵は

嬉しそうに顔を赤らめるー。


「ーーー…でも、ユウくんは違うー。

 ユウくんと一緒にいても、子供の頃の延長線上なだけー」

梨絵はそこまで言うと、

「ーわたしはもう、大人なのー。子供の頃とは違うー」と、

開き直ったかのような口ぶりで言い放ったー。


昔のように、優しい雰囲気、優しい喋り方ー、

可愛らしい雰囲気は何一つ変わっていないのにー、

梨絵は、こんな風に人に嘘をついて、傷つけるような人間だっただろうかー。


「ーーー……梨絵は…変わっちゃったなー…

 浮気しておいてー…開き直るような人だとは思わなかったー…


 俺を恋愛対象として見れないんだったら、告白した時に

 断って欲しかったしー、

 俺に冷めて、新しい恋人を作るんなら、ちゃんと先に振って欲しかったー」


優司は、悲しそうにそう言い放つー。


「ーーーーそれは…」

梨絵は戸惑いながら、優司のほうを見つめるー。


そして、口を開くー。


「ーーーー…人は、変わるよー。

 誰だってー。 

 ユウくんが”子供のまま”なだけー」


浮気を問い詰めた優司は、せめて”ごめんなさい”という

言葉ぐらい聞けると思っていたー。


もし、梨絵が反省してくれるなら、

このまま恋人関係も続けようと、そう思っていたー。


もちろん、”浮気した女なんてやめとけ”と、

友達には言われたし、

自分がお人好しのバカなのは理解しているー。


でも、それでもー梨絵が反省するなら、

優司はまだ、梨絵と一緒にいたい、そう思っていたー。


それなのに、

梨絵の口から出て来た言葉は、謝罪どころかー、

開き直りの言葉ー。


「ーーー浮気して、開き直るなんて最低だよー…」

優司が悔しそうに、振り絞るようにして言うー。


「ーーー…あ~~~…」

梨絵は少しだけイラついた様子で髪を掻きむしると、

「はいはいー。わかりました。ごめんね。ユウくんー。」

謝罪の言葉をようやく口にしたー。


がー、謝り方としては”最低”な謝り方だー。


「ーこれでいい? ホントにごめんねー。」


こんな謝り方をされるぐらいなら、

まだ謝罪の言葉すらないほうが、マシだったかもしれないー。


そんな風に思っていると、梨絵は荷物をまとめ始めたー


「ど…どこへー?」

優司が言うと、梨絵は「田島先輩の家にしばらく泊めてもらってー、

それから考える」と、”いつものような調子で”言葉を口にしたー。


そしてー

梨絵は、何も悪びれる様子もなく、

「ーーこれからはまた、幼馴染としてよろしくね」と、

静かに言葉を口にしたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ーーーーーーーーーーーー」


「ーーーーーーーーーーーー」


優司は、呆然としながら帰宅したー。


「ーーあぁぁっ!くそっ!」

机の上に飾っていた梨絵との写真を怒りに任せてなぎ倒すと、

「くそっ!くそっ!」と、悲しそうに言葉を繰り返すー。


昨日まで、梨絵と一緒に暮らしていたこの家に、今は一人ー。

カラフルだった日常が、急にセピア色になってしまったかのような、

そんな感覚さえ覚えるー。


幼馴染の梨絵の裏切りー。

小さい頃から相手のことを知っているからこそー、

余計にショックだったー…


「ーーー」

何もする気が起きないー。

呆然とした表情で座り込んで、天井を見つめる優司ー。


何度も、何度もため息をつくー。


「ーーーーーはぁ…」

ため息が止まらない。何も手につかないー。


そんな状況の中ー、インターホンが鳴ったー。

一瞬ー、梨絵が戻って来たのではないかと期待してしまうー。


がー、その相手は梨絵ではなかったー。


インターホンの向こうから聞こえて来たのは、

”ー優司!わしじゃー”と、いう声ー。


その声の相手をすぐに理解し、

「あ…じいちゃんー。今開けるよー」

優司はそう言うと、そのまま家の玄関の扉を開けたー。


「ーははは、優司ー元気にしてるかー?」

扉を開けると、元気そうな雰囲気のおじいちゃんが家の中に

入って来たー。


彼は、優司の祖父・川村 祐五郎(かわむら ゆうごろう)ー。

祖母の節子(せつこ)が数年前に亡くなっており、

現在はこの近くで一人暮らしをしている。


優司は、小さい頃からこの祐五郎のことを”じいちゃん”と呼んで

懐いていて、夏休みには1か月近くじいちゃんの家に泊まることも

あったほどだー。


そんな、現在は一人暮らしの祐五郎は、度々こうして優司の家に

遊びに来ている。

優司自身も、”じいちゃん、いつでも俺の家に遊びに来ていいからな”と、

常日頃から伝えているため、こうして週に何度か、必ず優司の家に

遊びに来ているのだー。


元々、優司が大学入学後に一人暮らしを始めたのも、

”じいちゃん、一人で寂しいだろうから”と、

大学と祖父の家に近い場所にー…という理由もあった。


「ーーそれで、近所のばあさんのゴミが、カラスに

 散らかされ放題でなー…

 何度も何度もカラス避けネットとか使うように言ってるんじゃが

 あのばあさん頑固者で、

 ”カラス対策のためにお金を使うなんて、カラスに負けた気がするじゃない”

 とか逆ギレしててなぁ~…」


祖父・祐五郎が世間話を続けるー。


がーーー…

祐五郎は優司のほうを見て、言葉を止めたー


「ーー優司ー…?

 何かあったのかー?」

とー。


いつものように、祖父の世間話を聞いて相槌を打っていたー…

つもりだった優司ー。


しかし、梨絵に浮気された挙句、振られたことがショックで

自然と目から涙があふれ出していたー。


「ーま、まさか今のカラスの話でー?」

祐五郎がそう言うと、優司は少しだけ笑いながら

「いや、違うよー」と、言葉を口にするー。


優司は慌てて涙を拭くー。


しかし、涙がまた目からあふれ出してしまい、

「ご、ごめんじいちゃんー…ちょっと顔洗ってくるー」と、

洗面台の方に逃げ込むー。


ようやく落ち着いて、部屋に戻った優司ー。

だがー、またもやため息が自然と口から洩れてしまうー。


「ーーー…どうしたんじゃー…優司ー…

 わしで良ければ、話を聞くぞー?」


祐五郎は心配そうにそう言葉を口にするー。


そんな祖父のほうを見て、優司は少しだけ考えてからー

「ーじゃあ、つまんない話だと思うけどー…」と、

”じいちゃん”に対して、幼馴染の梨絵のことを伝えたー。



「ーな、なんてやつじゃー…」

全ての話を聞き終えた祐五郎は、呆然とした状態で

そう呟いたー。


優司は「ー俺ーーー…ただの幼馴染だってさー」と、

自虐的に笑うー。

その目にはまた涙が浮かんでいるー。


「ーー優司ー…」

悲しそうな表情で、優司を見つめる祐五郎ー。


「ーーま、まぁ、結婚する前に気付けて良かったと

 前向きに、なー。


 優司なら、またいい相手も見つかるだろうしー、

 焦ることはないはずじゃからなー」


祐五郎はそんな言葉を掛けるー。

がー、”ありがとう”と、言いつつも死んだ目をしている

孫の優司の姿を見て、祐五郎は心底悲しそうな表情を浮かべたー。


今日はーーー

”大事な話”をしに来たのだがー、

”それどころでは”なくなってしまったー…。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ーーーー」


大学内で、暗い表情を浮かべながら生活を続ける優司ー。


親友の健一(けんいち)も、”そんなに落ち込むなよ”と、

心配してくれたものの、

それでもやはり、優司はそう簡単に立ち直ることは

できなかったー。


恋人ー…そして、信じていた幼馴染の裏切りー…

だからこそ、二重にショックだったのかもしれないー。


あれ以降、梨絵とは連絡も取っていないし、

大学でも遭遇していないー。


今日も、ため息をつきながら家に帰り、

そして、必要最低限のことをし終えると、

何もする気力がない、という様子でため息をついたー。


ーーが…その時だったー。


♪~~~


インターホンが鳴るー。


またもや、彼女の梨絵が帰って来たのではないかと

一瞬期待してしまう優司ー。


しかし、心のどこかでは分かっているー。

梨絵はもう帰ってこないー。

この来客も、祖父の祐五郎か、あるいはお届け物か、

そんなところだろうー。


そう思いながら、先に”はい”と答えてから、

インターホンに映し出された”来客”の顔を見つめるー。


「ーーーーって… ぶっ…!?」

優司は、思わずそんな変な声を出してしまったー。


何故ならー、インターホンのモニターに映し出されているのは

彼女の梨絵の顔だったからだー。


”ー優zー…あ、ユウくん、わたし……

 その、ご、ごめんねー…”


梨絵のそんな言葉に、優司はこのまま”ふん!お前なんて知るか!”と

言ってやりたい気持ちにもなったものの、

どうしてもそれは出来ず、玄関の扉を開くー。


すると、荷物を持った梨絵が、

家の中に入って来たー


「ーな…なんだよー…田島先輩と、もう別れたのかよー?」

皮肉っぽく、少し拗ねた様子で言う優司ー。


がー、梨絵はあっさりと「うんー。別れた」と、

そう言葉を口にしたー。


「ーえっ…!?えっ…!?えっ…!?」

戸惑う優司ー。

まさか、梨絵がこんなに早く戻って来るとは思わなかったのだー。


しかもーーー

梨絵は、突然「ユウくん、ごめんなさいー」と、

その場に土下座をして、謝り始めたー。


「ーーえっ…!?!?えぇ…?」

謝ってほしいー、確かにそうは思っていたけれど、

この前とはまるで真逆の態度に驚きを隠せないー。


「ーーわたしが間違ってたー

 ユウくんをあんなに傷つけちゃってー… 

 わたしー…

 わたし、何でもするから、許してー」


梨絵がそう言葉を口にするとー、

優司は少しだけ不貞腐れた様子で、

「ーーどうせ、口だけなんだろ」と、言葉を口にするー。


「ーく、口だけじゃないんじゃ!信じて!」

梨絵がそう叫ぶー。


「ーーえ」


「ーーーあ」


優司が、首を傾げるー。

梨絵は、青ざめた表情を浮かべながら、


「く、口だけじゃないのーー!!」と、

大声で叫ぶー。


「ーーー?」

なんだか一瞬、言葉遣いがおかしい気がしたけれど、

優司は”聞き間違いかな?”と思い、それ以上は

追求はしなかったー。


そうこうしているうちに、梨絵は

「そ、そうだー…さ、触ってもいいから!」

と、自分の胸を片手で揉みながら、優司に近付けてくるー。


「い、い、いや、いいよー」

優司が戸惑うー。


「ーじ、じゃあ、キスしよ?」

梨絵の言葉に、優司はさらに戸惑うー。


「ーな、な、なに???えっ?ど、どうしたんだよー?」

戸惑いの優司ー。


が、梨絵は「ーーだ、だったらズボン脱いでー…

わたしが、口で気持ちよくしてあげるからー」と、

顔を赤らめながら言うー。


「いやいやいや、ちょ、ちょっと待てって!

 ど、どうしたんだよ?!」

優司は、完全に困惑した状態でそう言うと、

梨絵は「と、とにかく優司ー…ゆ、ユウくんに元気になってもらいたくて」と、

そんな言葉を口にしたー。


あまりにも必死な梨絵を見て、

優司は「わかったよー…」と、言葉を口にするとー、

「ーーー…俺だって寂しかったしーー でも、今回だけだぞ。次はないからー」と、

そんな言葉を口にしたー。


すると、梨絵は急に「よっしゃあ~~~!」と、訳の分からない

言葉を口にしてから「あ…」と、優司のほうを見て、

誤魔化すように目を逸らしたー


♪~~~


鼻歌で誤魔化す梨絵ー。


しかも、鼻歌で歌っている歌が、滅茶苦茶古い演歌な気がするー。

確か、じいちゃんがよく聞いていたようなー…。


そんなことを思いながらも、優司は複雑な感情を抱きながら

梨絵のほうを見つめるのだったー。


”ーーわ、わしだってバレてないよなー?”

梨絵はー”乗っ取られて”いたー。


優司の祖父・祐五郎にー。


先日、優司が落ち込んでいるのを見た祐五郎は、

”孫のために”と、人を皮にする力を手に入れて、

”自分”を犠牲にしー…梨絵を皮にして、乗っ取ったのだったー。


全ては、孫のためーーー



「ーうへへへ…若いっていいのお…」


優司がトイレに行った隙に、鏡の前で一人、

笑みを浮かべる梨絵ー。



ちょっとだけ自分の欲望も満たしながらー

梨絵になった祖父・祐五郎は一人、満足そうに

今一度笑みを浮かべたー。



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


まだ”おじいちゃん”とは気づいていない優司くん…★!

次回は、それに気付いちゃったり、

どんな風に乗っ取ったのかを描いたりしていきます~!☆


今日もお読み下さりありがとうございました~!☆

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