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「ーーー辛くないかー?」

夫の健吾(けんご)が、心配そうに言葉を口にしながら、

妻である純恋(すみれ)のほうを見つめるー。


「ーうんー。大丈夫。ありがとうー」

純恋が優しく微笑みながらそう言葉を口にすると、

健吾は「ーはは、なら良かったー」と、安堵した表情を浮かべつつ、

「でも、こっちのことはやっておくからー、純恋は無理しないで」と、

そんな言葉を口にしながら、晩御飯の片づけを始めたー。


「ーいつもごめんねー」


「ーーはは、謝ることじゃないさー。

 純恋は今、とっても大事な時期なんだし、

 俺は”それ”は代わってあげたくても、代わってあげられないから

 だったらせめて、できることぐらいは、なー」

そう呟くと、健吾はテキパキと家の仕事をこなしていくー。


「ーー本当に、ありがとうー」

純恋はお礼の言葉を口にすると、重たい身体を動かしながら、

イスに座るー。


彼女は今ー、”妊娠”していたー。

20代中盤の純恋と健吾は大学生の頃に出会い、

大学卒業後に結婚ー

そして、ついに子供を授かり、今に至っているー。


純恋の妊娠が発覚してからは、健吾はイヤな顔一つせず、

仕事以外のほとんどの時間、純恋のために尽くしていて、

逆に純恋の方が申し訳なくなってしまうような、そんな日々が続いていたー。


しかし、健吾自身はそのことを全く苦に思っていないー。


と、いうのも、彼の両親は小さい頃から不仲で、

特に父親が、よく母親を困らせていたー。

そんな家庭で育った故に、彼は”俺は親父みたいにはならない”と、

とにかく、父親の”真逆”の道を目指しー、

その結果、とても穏やかで優しい性格の人間に成長したー。


両親の不仲が悪い方向に作用して育つ子供もいれば、

健吾のように、両親の不仲が良い方向に作用して育つ子も、

世の中にはいるー。

健吾はとにかく、”純恋”が笑っていられるような家庭をー、

そして、もうすぐ生まれる子供も一緒に笑っていられるような家庭を

作りたいー、と、そう願っていたー。


そのためなら、多少の苦労など彼にとっては全く苦にならないのだー。


「ーーーーおやすみ」


夜遅くなりー、

純恋がそう言葉を口にすると、

健吾は「俺はもう少し明日の準備をしたら寝るよー」と笑うー。


純恋が改めてお礼を口にして、部屋に戻ると、

「ふぅ」と、大きくため息をついたー。


「ーまさか”俺”が妊娠して出産することになるなんてなー…」


松嶋 純恋ー…

彼女は”身体”は正真正銘の女性だがー、

中身は”男”ー


彼女は高校生活最後の1年の秋ー…

憑依薬を使った男に、乗っ取られてしまったのだー。


純恋は、目を閉じてその時のことを思い出すー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


寺田 竜伸(てらだ たつのぶ)ー。


彼は、無難に働く30代後半のサラリーマンだったー。

”無難”すぎて、つまらない人生、と言われればそうかも知れないー。


結婚願望のあった彼は

婚活にも失敗し、35歳の時点で婚活を諦めたー。

婚活の際の苦い経験からか、”女性”を嫌うようになり、

その関わりを避ける日々を送っていたー。


欲を満たすのは、専ら動画や、そういうお店ー、

あるいはネット上に流れるHなイラストー…

そういったものたちだったー。


が、40を目前にしてそんな欲もなくなりつつあったある日ー、

彼はネットサーフィンをしている最中に見つけてしまったのだー。


”憑依薬”をー。


最初は偽物だと思ったー。

が、”独身貴族”であった彼には、お金に余裕があったー。


”これがただの栄養水か何かだったとしても、まぁネタとして

 楽しめればいいか”と、

そんな気持ちでそれを購入ー、

到着した憑依薬を飲み干すと、彼の身体はその場で幽霊のようになったー。


憑依薬が本物であったことを確信した竜伸は、

その力を使い、近くの高校に行き、高校卒業間近の子ー…


”純恋”に憑依したー。

高校卒業間近の子を選んだ理由は単純だったー。


”女子高生ライフ”を少し楽しみ、

さらにはすぐに”実家を出る”ためー。


いきなり女子大生に憑依すればJK時代を楽しむことはできないしー、

かと言って、あまり女子高生時代が長いと

”実家暮らし”が長くなって面倒だー。


そう思い、あと数か月で高校を卒業する純恋に憑依したのだー。


「ーーくくくくー

 散々俺のことを馬鹿にしてたような”女”に、俺がなってるー」

憑依されたばかりの純恋はそんなことを口にしながら、

やりたい放題を楽しんでいたー。


帰宅すれば、部屋で自分の胸を揉みー、キスをして、

コスプレ衣装を買い込んでコスプレを楽しみー、

自分への告白をさせたり、欲望の限りを尽くしたー。


そしてー、高校を卒業、すぐに実家を出て、

一人暮らしを始めると、みるみる派手になっていき、

大学では男遊びを繰り返したり、

メイドカフェでのバイトを楽しんだりしたー。


がー…

そんな生活を送っているある日のことだったー。


”恋愛経験が無さそうで大人しそうな男子”を誘惑して、

”恋愛ごっこ”を楽しんでいた純恋は、

ある日、その相手に言われたのだー。


「ーーそういうこと、やめた方がいいと思うー」

とー。


今までの男たちは、”純恋”と遊べていれば何でもよかったー、

そんな感じだったー。

純恋に憑依した竜伸自身も、

”女として男を手玉にとっているわたし”に快感を感じていたし、

それを繰り返すつもりだったー。


がー、その男は、嫌われることを覚悟の上で

純恋に「自分をもっと大事にしてほしい」と、言って来たのだー。


その相手こそ、今の夫である健吾だったー。


最初は大学生活を堪能したら”身体を捨てて”、

また別の人間に憑依でもしようかと思っていたものの、

そのことをきっかけに、純恋は

”女”として、健吾に惹かれてしまいー、その後、

健吾から改めて告白され、付き合うことを承諾ー、

一切の男遊びをやめて改心したー。


その頃には既に”女”になってある程度の時間も経過していたためか、

自分の身体を”男”として弄ぶこともほとんどなくなりー、

純粋な女子大生ライフを過ごしたー。


いつしか、純恋から抜け出す、なんてことは考えられなくなり、

やがて、憑依から抜け出す方法も忘れー、

今に至っているー。


もちろん、今では健吾との子供を埋めることに心の底から

幸せを感じているし、

もう、身も心も自分は”女”だと、そう思っているー。


「ーーこの子には悪いけどー…」

純恋は、自分が映る鏡を見つめながら思うー。


もしも、この子が竜伸に憑依されず、自分の人生を生きていたら

どうなっていただろうかー。

大学の進路は既に決まっていたから、もちろん健吾と出会う

可能性はあったものの、

少なくとも、竜伸が憑依しなければ、大学に入学してから

男遊びを繰り返すようなことはしなかっただろうー。


憑依した後に、色々と”過去”の純恋の話も聞いたり、

調べたりしたけれどー、

そういうタイプの子ではなかったー。


恐らくは、健吾と付き合うようなことにはならかっただろうし、

全く別の人生を送っていただろうー。


でもー…

自分は”略奪者”だとは分かってはいながらもー、

もう”わたしの幸せ”を返すつもりはなかったー。


「ーーわたしは純恋ー…」

純恋は、自分に言い聞かせるかのようにそう呟くと、

「ーーもうすぐ、母親になるのー」と、静かにそう囁いたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


そのすぐ後にー、

純恋はついにその時を迎えー、

夫の健吾の付き添いの元、病院へと向かいー

無事に子供を出産したー。


元気な赤ちゃんが生まれ、互いに安堵する純恋と健吾ー。


”ーーまさか、俺が出産まで経験するなんてー”

純恋は、改めてそんな風に思いながらも、

自分の中に母性のような、そんな今まで感じたことのない

感覚が湧き上がるのを感じたー。


”ーーすっかり、心もお母さんだなー”

そう思いつつ、純恋は生まれた娘・梓(あずさ)のほうを

見つめると、嬉しそうに微笑んだー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


やがてー

無事に病院を退院ー、

娘の”梓”は、病院の外に出たー。


純恋も、健吾も、

これから家族三人でー

大変だけれども、幸せな生活が始まっていくのだろう、と、

そんな風に思っていたー。


がーーー…

”梓”が帰宅した次の日のことだったー。


「ーいってらっしゃいー」

純恋が、そう言葉を口にすると、

健吾は「残業はしばらくナシにできたから、可能な限り早めに帰るよ」と、

少し申し訳なさそうに笑うー。


「ーうん。ありがとうー 頑張って」

純恋がそう言いながら手を振ると、健吾も「純恋も、無理するなよ」と、

穏やかな口調で告げると、そのまま職場へと向かったー。


「ーーー♪~」

”母親”としての子育てー。

純恋に憑依している竜伸も、もはや自分が”男”であったことも

忘れて、純粋に女として、妻として、母としての生活を満喫しているー。


これから、どんな風に三人でー…


「ーーー!?」

色々なことを考えながら、梓がいる部屋に戻ると、

純恋は思わず目を疑ったー。


「ーーーえ…」


部屋に戻った純恋が見た光景ー

それは、赤ん坊である梓が”立っている”という、奇妙な光景ー。


まだ、退院したばかりー。

まだ、0歳ー。


純恋に憑依している竜伸はー、

元々独身だったし、子育ての経験があるわけではないー。


とは言えー、

生まれてすぐに赤ん坊が立てるわけがないことぐらいは

分かっているー。


「ーーーーあ、梓ー…?」

純恋が不安そうにそう言うと、

「ーークククククー…」と、梓から不釣り合いな

声が響き渡ったー。


「ーーーやぁ…”ママ”ー」

梓はそう言いながら振り返るー。


「ーー…え………」

純恋は思わず呆然とするー。

どう見ても赤ちゃんな梓が自分で立ち、

しかも今、喋ったのだー。


「ーーー……あ…あずさ…?」

どう答えていいのか分からず、もう一度その名前を呼ぶと、

梓はその顔に笑みを浮かべたー。


「ーーふふふー…

 ”僕”ママのこと知ってるよー?

 ママは、ママだけどママじゃないってー」


梓のそんな言葉に、純恋は表情を歪めるー。


「ーーママは、”その身体”を憑依で乗っ取ったってー」

目の前の赤ちゃんから吐き出される言葉に、

純恋は心底驚き、声を上げるー。


「ーーーふふ…”僕”は、

 ママの身体に残る、欲望を受け継いだ存在ー…

 ふふふー…選ばれた子なんだー」


梓の言葉に、純恋は「あ…梓ー…何を言ってるのー?どういうことー?」と、

困惑しながら言葉を口にするー。


しかしーー、

梓はそんな”お母さん”を無視して、

赤ん坊には不釣り合いな笑みを浮かべると、

「ー”僕”を産んでくれてありがとうーママー」と、

そう言葉を口にしたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


梓が部屋の中を普通に歩き回っているー。


あり得ないー。

一体、どうなっているのかー。


純恋はそう思いながらも、

”わたしが、”こう”だからー?”と、表情を歪めたー。


さっきの梓の言葉は、

まるで”純恋”…いや、母親が”憑依された女”だからー、

というようなことを意味していたように聞こえたー。


まさかー、

”憑依された母体”から生まれた子供だからー…

何か”普通とは違う”力でも身に着けているのだろうかー。


そんな風に思っていると、

梓が純恋の部屋に、よちよちと歩きながらやってきたー。


「ーママは、ママじゃないー。

 そう言われたくなかったらー、

 ”僕”と仲良くしよ?」


ニヤリと笑う梓ー。


「ーーーーー…な、何のことー…い、いったい、何のことー?」

純恋は激しく動揺しながらも、そう言葉を口にするー。


「ーーーふふふ…隠しても無駄だよー。

 僕は、ママの”中”の欲望を受け継いで生まれたんだー。

 僕は全部、知ってるよー」


目の前にいる赤ん坊が”化け物”にさえ見えたー。


純恋はガクガク震えながら、梓のほうを見つめると、

「ーーえへへへへへー…ママのそういう顔、いいなぁ♡」と、

下心さえ感じさせられるような、そんな言葉を口にしたー。


「ーーーひっ…」

その表情はー

”かつての憑依薬を使った自分”と、まるで同じような、

そんな表情に見えたー。


”憑依で奪った身体から生まれた子供”ー


その子供にはー、

”邪悪なる欲望”が受け継がれてしまったー…


”普通に”純恋として生きることは許されなかったー。


いいやー、これは当然の罪なのかもしれないー。

身体を奪ったあとに改心したとは言え、

一人の人生と身体を奪っているのだからー。


”これは、きっとわたしへの罰ー…”

そう思った純恋は、目から涙をこぼしながら梓のほうを見つめたー。


「ーーーーどんな子でも、あなたはわたしの子供だもんー…

 大切にするって約束するー」


梓に対してそう言い放つと、

梓は「ふふー…ありがとうー」と、笑みを浮かべるー。


”竜伸の邪悪な欲望”を全て受け継いだ邪悪なる我が子ー


そんな子を前に、純恋は”これはわたしへの罰”なのだとー、

それを受け入れ、静かに梓を抱きしめたー。


どうかー…

どうか、この生活が壊れるようなことだけは

ありませんようにー、と、

そう心の底から願いながらー…。



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


憑依された状態での出産が

もしも悪影響を及ぼすとしたら…?

と、いうところから思いついた作品デス~!


邪悪な欲望を受け継いだ子を前に、

両親はどう接していくのか、また次回以降も楽しみにしていて下さいネ~!


お読み下さりありがとうございました~!

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