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「はぁ…」

”冴えないおじさん”ー

そう表現するのが一番しっくりと来るだろうかー。


ため息をつきながら、髪がほとんどなくなった頭を掻きむしりー、

ぽっちゃりとしたお腹を揺らしながら、

家路につく男ー。


彼は40代独身のサラリーマン・竹本 勝彦(たけもと かつひこ)ー。

会社でも居場所はなく、家に帰ってからも、趣味もないー。


いつもいつも、”自分が必要とされているのかどうか”も、怪しい

会社に行きー、八つ当たりされて疲れ果てて家に帰るー…

そんな、日々の繰り返しだー。


”趣味”があれば、それでも頑張ることができるー。

そう、思ってたー。


だが、趣味の旅行も”金”が無ければ楽しめないしー、

そもそも休日は、”平日”で失われた体力を回復することだけに

費やされて、最近はほとんど何もできていないー。


平日という名の体力を消耗する日が、5日間ー

週によっては6日間もあるのに、

何故、体力を回復する日は1日か2日しかないのかー。

圧倒的に、回復する時間が足りないー。


彼は、そんな風に思っていたー。


が、会社の同期の男にそんな愚痴を口にしたところー

”車だって、短い時間のガソリン補給で、たっぷり走るだろ?

 それと同じだよー”などと返されてしまったー。


納得がいかないー。


今日もスーパーで、割引のシールが貼られた

からあげ弁当を購入しようとしたが、

先に弁当売り場にいたおばさんに最後の1個を取られてしまったため、

勝彦は、ため息をつきながら

お店のプライベートブランドの100円もしないカップラーメンを手に、

レジに向かうー。


飲み物は、買わないー。

水道水を飲めば、それで喉は潤すことができるし、

カップラーメンなら、スープも一緒に楽しむことができるから、

こんなところでムダ金を使うわけにはいかないのだー。


そんな感じでー

”いつも通り”の1日を終えて、ボロいアパートの前にやってきた

勝彦は、いつものようにアパートの階段を上ろうと、

階段の方に向かって歩き始めたー。


だがーー

その時だったー。


「すみません」

背後から声がするー。


振り返ると、そこには茶色がかった髪を揺らした

女性が立っていたー


「えっ…あ、はいー、僕ですか?」

勝彦が不安そうに返事をすると、

「ーはい」と、女性は頷いたー。


”何の用だろうかー”

女性との関りもほとんどなく、

学生時代も、社会人になってからも、どちらかと言うと

”女性”に敵意を向けられることが多かった勝彦は

警戒心を剥き出しにして、そんな女性のほうを見つめるー。


「ー驚かせてすみませんー。

 わたしは、”おじさん女体化事業”というものをやっているー、

 水嶋(みずしま)と、申しますー」


その女は、そんな風に丁寧にあいさつをすると、

名刺を勝彦に渡して来たー。


”水嶋 由香里(みずしま ゆかり)”

おじさん女体化事業推進委員会 主任 と書かれているー。


勝彦は礼儀正しくそれを受け取るとー、

”自分も名刺をー”と、鞄からいつも持ち歩いている

名刺を取り出そうとしたー。


「ーあ、いえ、結構ですー」

由香里はそう言いながら手を上げると、

勝彦は”お前に興味なんてない”と言われた気がして

少しだけ気分を害したー。


「ーー竹本 勝彦さんー。

 45歳 独身ー

 東地区の総合商社に勤務ー。

 ただし出世とは無縁で、窓際族。

 いつリストラされてもおかしくないー。

 実家の両親とは、結婚するしないを巡って10年前に疎遠にー、

 実の妹からは一方的に絶縁を突き付けられているー。

 趣味は、ナシ。

 ネットでツイッターを眺めては攻撃的なコメントを

 つけて、スカッとすることが唯一の癒しー」


由香里がペラペラとそう喋り終えると、

勝彦は唖然とした様子で口をぱくぱくとさせたー


「え…??え…?な、何で知ってるんですかー?

 っていうか、何か失礼だなおい!」


腹立たしくなって勝彦がそう言い放つと、

由香里は「でも、事実でしょうー?」と、笑うー。


さらにムカッとするー。


「ー何なんだあんたはー。僕を馬鹿にしに来たのか?」

勝彦がそう言うと、

由香里は「いえいえいえー違いますー」と、笑うー。


「むしろ、救いに来たんですー」

由香里はそう言うと、

「ーなんだって?」と、勝彦が首を傾げるー。


「ーーーわたしたち”おじさん女体化事業推進部”は、

 あなたのような”冴えないおじさん”を女体化させてー、

 幸せを手にしてもらうことを目的として活動している団体ですー。


 可愛いを手にすることは、救済ー

 わたしたちは、あなたのようなおじさんを救いたいのです」


由香里がそんな言葉を口にすると、

勝彦は思わず笑ってしまったー。


「ーはぁ、そうかそうかー。何かの勧誘かー、詐欺かー?

 僕を騙そうって言ったってそうはいかないからなー!


 だいたい、僕みたいな貧乏人狙ったって何も出ないぞ?

 払える金すらないんだからー。

 今だってスマホ、止められてるんだ! みるか?」


勝彦がそう言いながら鞄からスマホを取り出そうとすると、

「だからですよ」と、由香里は微笑むー。


「ーあなたみたいに、”人生”という名の崖から転落寸前のおじさんに

 わたしたちは声をかけているんですー。

 それを、救うためにー」


由香里がそう言うと、勝彦は「いい加減にしろ!」と、声を荒げるー。


だがーー

由香里は悲しそうな表情を浮かべながら言葉を口にしたー。


「ーーーーーあなたの気持ちは、よく分かりますー」


とー。


いきなり、目から涙をこぼす由香里ー。

美人の涙にドキッとしながら、勝彦は「な…何で急に泣くー!?」と、

言葉を口にするー。


「ーーー…”昔”を思い出して、ついー。

 わたしも、あなたと同じだったからー」


由香里のそんな言葉に、勝彦は首を傾げるー。


ますます何を言っているのか分からないー。


だが、そうこうしているうちに、由香里が言葉を続けたー。


「ーこれがー…

 ”3年前”のわたしです」


由香里はそう言うと、

やせ細った不健康そうで、生気のない”おじさん”の写真を

見せて来たー。

顔立ちもかなり特徴的で、これこそまさに”冴えないおじさん”と

言うにふさわしいような雰囲気ー。


「ーーーー…」

”3年前のわたし”と言われて、勝彦は”由香里”と”写真の男”を

何度も何度も見比べるー。


「ーーえ?」

勝彦が変な声を出すと、

由香里は笑ったー。


「わたしは元々、男なんですー

 まぁ、最も、”女装”しているわけではなくー

 特殊な技術によって、生物学的に正真正銘”女”になっていますー。

 何なら、出産もできますー」


由香里がそう言いながらお腹のあたりを触るー。


「え…えぇっ!?」

勝彦が困惑しながら言うと、由香里は勝彦に近付いてきて、

顔を近づけながら囁いたー。


「ーー”美人”になると、人生変わりますよー。

 わたしー、

 いいえ、僕たちみたいな冴えないおっさんからすると、特に、ねー。

 世界が変わって見えるー」


由香里がそう言いながらクスクスと笑うー。


思わずドキッとしてしまう勝彦ー。


「ほら!、今、ドキッとしましたよねー?

 美人になるだけで、人の反応はこんなにも変わるんです」

由香里はそこまで言うと、

「ーわたしは、あなたを救いたいー。

 だからー、話だけでも聞いてもらえませんかー?」

と、今一度”おじさん女体化事業”について、説明をし始めたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


後日ー。


”おじさん女体化事業”の本部がある場所へとやってきた

勝彦は、緊張した様子でソワソワしていたー。


それもそのはずー。

”おじさん女体化事業推進委員会”の本部には、

美少女や美人しかいなかったからだー。


「ーはじめまして~!こんにちは~♡」

ツインテールの妙に騒がしい美少女が姿を現すと、

勝彦はビクッとした様子で、その子のほうを見つめるー。


「あはは、そんなに緊張しなくても、大丈夫ですよ~♡

 ここには、竹本さんのことを笑う子なんて

 だれ~もいませんからね~!」


ツインテールの美少女はそう言うと、

「あ、わたしは舞(まい)です!もう分かってると思いますけど、

 わたしも、主任と同じように

 元々はおっさんだったんですよぉ?」

と、笑いながら言うー。


「は、はぁー…」

勝彦は戸惑うー。


目の前にいる子はとても可愛いー。

学校のクラスにいたら”アイドル”レベルだろうー。


しかし、この子もそうだがー

先日会った由香里という子も、本当に”元・男”なのだろうかー。


なんだか”オジサン狩り”のようなそんなものに

はめられそうになっているようなー、

そんな不安も感じるー。


「ーうんうん!不安ですよね!その気持ちもわかる!わかりますよ~!

 わたしも最初、ここに来た時、ビビッて吐いちゃいましたもん!


 で・も、

 そんなわたしも、今じゃツインテール美少女ですからね~!

 あはははっ」


騒がしい舞の言葉を聞いていると、


「ーって、わたしの話になんか興味ありませんよね~!

 早速ですけど、ここに来たってことは、竹本さんも

 ”可愛い”をゲットしちゃいたいー

 そういうことでいいですよね?」


と、舞が言葉を続けるー。


「ーー……」

勝彦は、少しだけ表情を歪めるー。


由香里や、舞のように”本当に”女体化できるのであればー、

自分もしてみたいー。


だがー…


「ーー気分を害したら申し訳ないー

 ただー…ほ、本当にー、本当に僕も、

 女になれるんですかー?


 そんなこと、現実で出来るなんて思えなくてー

 そのー…」


勝彦が言うと、舞は「うんうんうん!その気持ちも分かる~」と、

言いながらー、

「でもほら、こういうことがあるなんて世の中に広まっちゃったら

 大変じゃん?

 社会が根底からひっくり返っちゃうよ!

 だから、内緒なの!内緒ー! しーっ!」

と、リアクションを交えながら舞が説明するー。


確かにそれはそうだー。

もしも、この”おじさん女体化事業”とやらが本物で、

本当に簡単に女になれるのだとすればー、

それは”社会”を根底から揺るがす大発明ー…と言える。


それが広がってしまったら法律面から何まで、色々問題が

生じるようになるだろうー。


「ーそれと~!ちゃんと”映像”も用意してあるのでー

 安心してくださいね!」

笑いながらそう呟く舞ー。


「映像ー?」

勝彦が困惑しながら言うと、舞は”こちらにどうぞ!”と、

勝彦を別の部屋に手招きしたー。


そこには、小さなスクリーンがあったー。


舞が「わたしたちが”元男”って口で言ってもなかなか信じられないと

思うので~!主任が女になった瞬間の映像をー見せちゃいます!」と、

笑いながら、映像を再生し始めたー。


この前、”主任”の由香里から見せられた

”3年前のわたし”ー

やせ細った不健康そうなおじさんが、謎の透明のケースの中に入っていくー。


「ーーーー」

勝彦は、その映像を食い入るようにして見つめるー。


「ー合成だと思われるとアレだから、周りを撮っておいて」

そんなおじさんの声が映像の中から聞こえて来るー。


周囲の部屋の様子などが映し出されてー、

確かに合成には見えないー。


そして、やせ細ったおじさんは言ったー。


「ーじゃあ、装置を起動して」

とー。


カメラを撮影していると思われる部下が、

”はい”と返事をすると、

そのまま透明のケースの横に備え付けられた

ボタンを操作し始めるー


そしてーー


尖った何かがケースの中に大量に出現しー、

そこから、やせ細ったおじさんに、

レーザーのようなものが一斉に放たれ始めたー


「ぎっぎあああああああああああああああああ!!!!」

おじさんの恐ろしいほどの悲鳴が響き渡るーーー


勝彦は思わず目を逸らしそうになるー。


だがーーー


その悲鳴が、次第に男の声から、女の声に変わっていくー


よく見るとー

やせ細ったおじさんの身体がみるみる変化していきー、

そしてーーー

おじさんは、数分後ー、完全に”美人”になったーーー


そう、この前会った”由香里”の姿にー。


「ーーはぁ…はぁ…はぁ… 成功だー」

由香里が苦しそうにしながら、

ぶかぶかのシャツ姿で呟くー。


女体化したことにより、サイズが合わなくなったのだろうー。



「ーーどうでしたか?」

現実に引き戻すかのように、ツインテールの舞が言うー。


「ーす、すごいー…すごい!」

勝彦は興奮した様子で叫んだー。


どう見ても合成やフェイクの類には見えないー。

信じられない光景だが、確かに現実の映像に見えるー。


「ーーわたしたちは”冴えないおじさん”を救いたいー。

 それ一心で活動しているんですー。

 

 ーえへへへ…じゃあ、早速ー、女になっちゃいますか?」


舞が軽い調子で言葉を口にするー


「ーーえ、あ、は、はいーな、なっちゃいます!」

勝彦が嬉しそうに笑うとー、

舞は、嬉しそうに拍手をしながら、

「じゃあ、手続きをした後に、レッツ女体化です!」と、

勝彦を案内し始めたー。


「ーーあ…でも、アレ、滅茶苦茶痛そうじゃないですか?」

移動している間に、舞に声をかけると、

舞は笑いながら言ったー。


「大丈夫大丈夫ー。虫歯を治療するときの痛みが全身に来る感じですからー」

とー。


”いや、それ、滅茶苦茶痛いじゃん…”

勝彦は内心で、そんな風にビクビクしながらも、

それでもー、”俺は女になる”と、決意して、

映像で見た”女体化装置”のある部屋へと向かうのだったー。



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


冴えないおじさんを女体化させている謎の団体…★!

単なる善意か、それとも…?


それは、この先で判明するのデス~!☆


今日もありがとうございました~~!

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