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「ーーーーーー」


男子大学生の里村 啓太(さとむら けいた)は

戸惑いの表情を浮かべていたー。


その視線の先にいるのは、

同じ大学に通う、宮淵 希海(みやぶち のぞみ)ー。


「ーーーおいおい、”不審者”モード全開だぞー?」

ふと、背後からそんな声がして啓太が振り返ると、

そこには啓太の高校時代からの

親友・村田 正博(むらた まさひろ)の姿があったー


「ーーーーあー村田ー」

啓太がそう言うと、「最近、希海ちゃんと何かあったのか?」と、

少しだけ心配そうに呟くー。


啓太は、”不審者”ではないー。

視線の先にいる女子大生・希海は啓太の幼馴染でもあり

今は”彼女”でもある大切な存在だー。


だがー

その彼女の希海の様子が変なのだー。

数日前から、急にそっけない態度になりー、

周囲の男子に色気を使う様になって、

服装も、男を誘うようなー

そんな雰囲気の格好をするようになったー。


元々の希海も、おしゃれな感じではあったものの

”穏やかなおしゃれ”という感じで、

今の希海は、服装の趣味も、何もかも全く変わってしまったかのようなー

そんな、感じだー。


しかもー

男子だけではなく、同じ女子相手に対する振る舞いにも

”違和感”が生まれたー。

何だか、妙に他の女子にベタベタとくっついているようなー

そんな感じがするのだー。


とにかく、何か違和感があるー。

そんな状態だー。


”俺ー、何か怒らせるようなこと、しちゃったかなー…?

 もし、そうならー、ごめんー…”


希海の様子がおかしくなってから3日目の昨日ー、

啓太は希海に声をかけて、そう謝ったー。


どんなに思い返してみても、

”希海を怒らせるようなことをしたつもりはない”ー。


けど、もしかすると、自分では気づいていないだけかもしれないし、

もしそうなら、申し訳ないと思い、希海に謝ったー。


けれどー

希海はニヤッと笑みを浮かべながら

「ー別に」と、言うだけでー、

何も答えてはくれなかったー。



「ーーまぁ、女の子ってのは難しいもんだからなー」

正博がそう言うと、

啓太は「確かに、お前が言うと説得力があるなー…」と、

少しだけ苦笑いしたー。


親友の村田正博は、既に3回、彼女と別れているー。

正博の性格が悪いのではなくー

たまたま正博が選ぶ相手が癖の強い子ばかりでー

いずれも、相手の気まぐれで振られているー。


正博に悪いところがあるとすれば

”見る目のなさ”と、でも言うべきだろうかー。


「ーーーまぁ…でも、希海から別れを告げられたわけじゃないしー…

 まだ、頑張ってみるよー」


啓太は少しだけ悲しそうにそう言い放つー。


”まだ”別れを告げられたわけじゃないー

このまま行くと、”そうなってしまいそうな”気がしてならないけれどー


でもーー

それでもーーー


”まだ”終わってはいないー。

諦めたくは、なかったー


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


翌日ー

希海の様子が急に変わってから”5日目”ー。


大学での1日を終えて、家でのんびりしている啓太のスマホに

連絡が入ったー。


”ーー啓太ー?”


電話相手は、知らない男の声ー。


いきなり知らない男の声に”啓太?”と下の名前で呼ばれたことに

啓太は少し違和感を覚えながら

「えっと、どちら様ですか?」と、反応するー。


”ーーーー”

相手は、言葉を詰まらせるー


一瞬、間違い電話か悪戯電話の類だと思ったー。


けれどー

スマホを耳に当てているうちに

”相手の男が泣いている”ことに気付いたー


”ーーーー……わたし”


「ーー…え?」

啓太は首を傾げるー


”わたしー…希海ー…”


その言葉に、

啓太は「は…はい?」と、変な声を出してしまうー


希海なわけがないー。

どう考えても男ー

それもおじさんの声だー


「ーーえっと… え~~~…

 その、何か御用ですか?」

啓太は困惑した様子でそう返事を返すー。


悪趣味すぎるー。

彼女の名前を名乗って、何がしたいのかー

全く、意味が分からないー。


そんな風に思っていると、

電話相手の男は弱弱しい声で続けたー。


”ーーわたし…希海なのー…”

そんな言葉に、啓太は、さらに表情を歪めるー。


「ーは…ははははー

 ーちょっと、冗談きついですよー?

 何のつもりですか?」


啓太が呆れ笑いを浮かべながらそう言い放つと、

相手の男は再び泣くような音をスマホの向こうで立てたー


「ーーすみませんー

 ちょっと忙しいのでー、これで失礼します」


啓太は”イタズラ電話”だと思ってー

電話を切ったー。


基本的に知らない電話番号からの電話でも、

電話に出る啓太は、いつもこうしているー。


出た電話が、営業電話だったり、

迷惑電話だった場合は

”忙しいのですみません”と伝えて電話を切っているのだー。


「ーまったく…なんなんだよもうー」

啓太はそんなことを呟きながら、

念のため”希海”に、”こんな連絡あったけどー悪戯だよな?”という

趣旨の連絡を入れてみたー。


LINEの返事も5日前からそっけなくなっていたもののー

”ー悪戯でしょ”と、だけ返事があったー。


「ーーはは、そうだよなー…

 それにしても、気持ち悪い悪戯だなぁ…」

啓太は少し呆れ顔でそんな風に呟くと、気味の悪い男のことは

忘れて、そのままいつも通りの日常を過ごし始めたー。


・・・・・・・・・・・・・・・


週明けー。


土日の間も、希海からの連絡はほとんどないままー、

”やっぱり、嫌われちゃったのかなー…俺ー”と、

思いつつも、やはり、違和感を拭うことができないー


希海とは、大学で出会ったわけではないー。

”小さい頃から”互いによく知る幼馴染だー。


小さい頃から、希海のことをよく知っているからこそー

先週からの希海の様子は、何かが変だー。


今日で、希海の様子がおかしくなってから8日目ー。


だがー

この日ー、啓太は恐ろしいことを聞かされたー


「ーー里村くんってー…君だよね?」


「ーーーえ?あ、はいー俺ですけど」

呼び止められた啓太が少し不安そうに呟くー。


相手は同じ大学に通う先輩の女子ー。

確か、希海と同じサークルに所属している先輩だったはずだー。

”面倒見の良いお姉さん”という雰囲気が漂っているー。


その先輩である、月野(つきの)先輩が、

”どうしても伝えておきたいことがある”と、

啓太に信じられない話をし始めたのだー。


「ーーー”この身体を奪った”ってー、そう言ってたのー」


月野先輩が、不安そうな表情で言うー。


「そ、それはどういうー…?」

啓太が戸惑うー


聞けば、月野先輩はおととい、希海から

突然食事に誘われて、特に用事もなかったから、と

一緒に食事に行ったのだと言うー。


しかしー、希海はその最中に酷く悪酔いしたらしく、

月野先輩の胸を触ったり、突然キスをしたりした挙句ー。

”俺はこの女の身体を奪ってやったんだー!”と、

言い出したのだと言うー。


「ーの、希海は飲めないって言ってましたけどー」


希海も啓太も今年、20にはなったー。

だから、飲むこと自体は法律的には問題ないのだが、

希海は”飲めない”と確かにそう言っていたー。


それが、突然悪酔いするほど飲むなんてー


「ー宮淵さん、嬉しそうに”俺とこの女は入れ替わったんだ”

 って、そう言っててー」


不安そうな月野先輩ー。


「ーもちろん、ただ酔ってただけだと思うけどー

 あまりにも変だったからー

 一応ーー、宮淵さんの彼氏の君に、伝えておこうと思ってー」


月野先輩のその言葉に、

啓太は表情を歪めたー


”俺とこの女は入れ替わったんだー”

と、酔った希海が言ったのだと言うー。


入れ替わりー…?


もちろんー

啓太も”希海が酔っておかしなことを言っただけ”と、

最初は思ったー


しかしーーー


”ーーわたし…希海なのー…”


既に忘れかけていた”希海を名乗る男”からの電話を

このとき、突然思い出したー…。


「ーーー!!!!!!!!!!!!!」

啓太は、青ざめた様子で表情を歪めるー


「ーーど、どうしたの?」

月野先輩が不安そうに啓太を見つめるー。


「ーーい…いえー」

啓太はソワソワした様子で、”希海”が豹変してから

今に至るまでのことを思い返すー。


先週からー

希海の様子が急に変わったー

服の感じも変わってー、男を誘うような振る舞いも目につくようになったー

そして、女子とも妙にベタベタしている場面も見たー。


それに加えてー、先週末の”希海を名乗る男の電話”

今思えば、あの男は妙に深刻な様子だったしー、

泣いていたー


「ーーーーーごめんなさいー…

 ちょっと、希海と話をしてきますー」


それだけ言うと、啓太は焦った様子で、

走り出したーーー


大学内で、希海の姿を探すー


”いたーーー”


啓太は、希海に声をかけると、

いつものように軽くあしらおうとした希海に対して

”大事な話なんだ!”と叫んだー。


嫌々応じる希海ー。


啓太は、希海に対して強い不安を感じながらーーー

言葉を吐き出したー


「ーー入れ替わりー」

とー。


「ーーー」

希海が、啓太のほうを見つめるー


啓太は、月野先輩から聞いた話をー

希海に対してぶつけたー。


するとー、希海は少しだけ間を置いてからーーー


”ニヤリ”と笑ったー


「ーもう、遅いよー」

とー。


「ーえ…」

啓太は呆然とするー。


「ーーもう、手遅れー

 今更騒いだところで、誰も信じないしー

 どうすることもできないー」


低い声で呟きながらニヤリと笑う希海ー


「ーーーま…まさか…の、希海ーーー

 い、いやー…お前はーーー」


啓太が呆然としながら、声を振り絞るー。


すると、希海はクスクスと笑いながらー

スマホをいじり始めてー

”ニュースの記事”を、啓太に見せつけたー


”40代男性 自殺”


そんな、ニュース記事ー


「ーーーーーー!!!!」

啓太は、目を見開いて、その記事の文章を見つめるー。


”自殺した40代男性”

”現場付近には”けいたごめんね”と、遺書のようなもの”

”男性の職場や関係者に「けいた」という人物はおらず、詳細は不明”


そんなことが、書かれていたー。


「ーーーーーーーー」

目から涙がーーー

額から汗があふれ出すー


背筋が凍るような思いをしながら、

啓太は「ーーお…お前ーーー!」と、怒りの形相を浮かべるー


「ーー残念ーー

 もう、手遅れーーー

 

 ーー邪魔者が死んでくれてよかったー


 これで、希海は、”わ・た・しー”」


挑発的に笑うと、希海(男)は、笑みを浮かべながら

そのまま立ち去っていくー


「ーーーそ…そんなーーーー」

その場に膝を折る啓太ー。


あの時、電話をかけてきた男は

”入れ替わってしまった希海”だったのだー


恐らくー、最後の願いを込めて

啓太に助けを求めたのだろうー


それなのにーー


「ーー俺は…バカだー」

啓太はーーー

彼女のSOSに気付くことすらできずー

気づいた時には、

もう…手遅れだったー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


”ばいばい”


翌日ー。


希海(男)から別れを告げられたー


”気づかれたなら、もう用はないー”

そういうことなのだろうー。


「ーーーーーーー」

呆然と、虚ろな目で大学からの帰り道を歩く啓太ー


希海(男)の言う通りー、

啓太が仮に騒いでも、誰も信じはしないだろうー


それにー、

もし誰かが”入れ替わり”を信じてくれてもー

もう、”希海”はこの世にいないー。


もうー、元の希海には、戻らないー。


入れ替わった希海は”死んでしまった”のだからー


「ーー希海ーー…」

目から涙を溢れさせながら道を歩くー。


どうして、自分は気づくことができなかったのかー

どうして、希海のSOSに手を差し伸べてあげることができなかったのかー。


希海の異変に気付いたのは先週の月曜日ー。

そして、あの入れ替わった希海から電話があったのが先週の金曜日ー。

その後ー男(希海)は自殺してしまったー。


決してー

”何かしてあげられる”時間がなかったわけじゃないのにー


「ーーくそっ… くそっー…」


もしもー…

もしもーーーー

やり直すことができるのならーー…


叶わぬはずのそんなことを思いながら

啓太は歯ぎしりをするー。


しかしー、

その時だったー


車のエンジン音が聞こえて、

ハッとして顔を上げて、横を見るー。


そこにはー

”目の前まで迫った車”ー。


ライトを浴びーー

啓太は”死”を咄嗟に覚悟したーーー


希海が死んでしまったショックで、

放心状態で歩いていた啓太は、

安全の確認もせずに、道に飛び出してしまったのだー


「希海ーーーーーー!」

啓太は目をつぶってーー

最後に、そう叫んだー


ーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーーーー



「ーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」

啓太が、ガバッと起き上がるー


「えっ…!?!?」

啓太の視界に入ってきたのは、”自分の部屋”ー


一人暮らしの狭いアパートの一室ーーー。


「ゆ、夢ー?

 いやー…でもー」


啓太はそう呟きながら、自分の身体を見つめるー。


大けがして、家に運び込まれたのだろうかー。

いや、それにしても身体は元気そうだー。


「ここが、あの世だったりするのかー?」

啓太はそう呟くー。


”夢”とは思えないー。

確かに、感触があったー。


けどーー


「ーーー!」

時間を確認しようと、スマホを見た啓太は、表情を歪めるー。


”5月28日(日)”と表示されているー。


「ーー!?!?!?!?!?!?」

啓太は、困惑したー。


なぜならーー

さっきまで、6月6日の火曜日だったからだー…。


入れ替わった希海の自殺を知ったのが6月5日の月曜日ー

そして、さっきー、車に轢かれたのが、6月6日の火曜日ー


なのにー

スマホには5月28日の日曜日だと表示されているー。


希海の様子がおかしいと気付いたのが、

5月29日の月曜日で、希海を名乗る男からの電話が6月2日の金曜日ー…


「ーーーー…」

啓太は、自虐的に笑うー。


「ーー俺は、死んだのかー」

そうでなければ、日付が戻るはずがないー。


だがーー

しかしー


♪~~~


スマホが鳴るー。


その相手はーーー

大学の親友・正博だったー。


電話に出る啓太ー


”よぅ、里村!ちょっといいか?”

正博のその言葉に、啓太は少しだけ表情を歪めるー


思い出したー


”同じ”だー。


「ーーー」

そう思った啓太は、口を開くー


「ーー”今度、久しぶりに山内(やまうち)が帰ってくるー”だろ?」

とー。


そうー

この日ー、親友の正博から電話がありー、

夏休みの時期に、地方の大学に進学した高校時代の友人・山内が

帰ってくることになったから、予定が合えば、久しぶりに集まらないか?と、

正博から電話で言われるのだー。


”はーー?何だーもう知ってたのか”

正博が驚いた様子で言うー。


だがー、驚いたのは啓太も同様だったー


”なんだこれはー…?

 5月28日に戻っているー?”


啓太はそう思いながら、正博に確認するー


「今日は、5月28日だよな?」

とー。


”あぁ、そりゃそうだろー”

正博が当然と言わんばかりに言うー


「ー俺、死んでないよな?」

啓太がそう言うと、

正博は笑いながら”はははー!昼寝でもしてたのか?”と笑うー。


「ーまぁ、そんなところだ」

啓太が誤魔化すためにそう言うと、正博との会話を終えて、

すぐにもう一度カレンダーを見たー。


”時間が戻ってるー”


そう確信した啓太ー。


何故ー?

いやー…今はそれよりもー…


啓太は思い出すー。

”この日”のお昼過ぎに希海とLINEでやり取りした時は、

希海は普通だったー。


希海の様子が変わったことに気付くのはー

”明日”ー5月29日の月曜日ー。


つまり、”身体を入れ替えられた”とすればー

今日なのだー


「ーーーー」

啓太は”自分が過去に戻った”かもしれないことに驚きつつもー

すぐにスマホを手に、希海に電話をかけたー


”あー、啓太?どうしたの?”

希海がいつものように優しい口調で電話に出るー


「の…希海ー よかったー」

啓太は、希海の声を聞くだけで泣きそうになりながら、

言葉を吐き出すー


「希海ー 落ち着いて聞いてくれー」

啓太はそう言うと、

”信じて貰えないかもしれないけどー”と、前置きした上で

希海に”入れ替わり”のことを伝えたー



もしもー

もう1度やり直せるのならーー


俺は、希海を救ってみせるー。


そう、心の中で決意をしながら、

啓太は、希海に全てを伝えたー。



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


5月最初のお話は、

入れ替わりXタイムスリップのお話デス~!


彼女が見知らぬ男に身体を奪われた挙句、

命を絶ってしまう…


そんな悪夢の未来を変えることができるのかどうか、

次回以降もぜひ楽しんでくださいネ~!

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